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ロンドンのゲストハウス
So. 17. Nov. 2019

バイエルン州議会選でCSU惨敗、メルケル政権は弱体化

「歴史的大敗」という言葉がぴったりの選挙結果だった。10月14日に保守王国バイエルン州で行われた州議会選挙で、与党キリスト教社会同盟(CSU)が得票率を10ポイント以上減らし、過去64年間で最低の水準に落ち込んだのだ。CSUが1957年以来バイエルン州で続けてきた単独支配に終止符が打たれ、同党は他党と連立しなくては政権の座に就くことができなくなった。支持率が急降下しているメルケル首相にとっても、大連立政権の一翼を担うCSUの弱体化は、大きな打撃である。

CSUの凋落

CSUの得票率は前回の選挙(2013年)に比べ、10.5ポイント減って37.2%に。2003年に同党が60.7%もの得票率を記録したことを考えると、すさまじい凋落ぶりだ。CSUは、11.6%の票を集めた地域政党「自由な有権者(Freie Wähler=FW)」との連立政権をつくる方針だ。FWには保守的な支持者が多く、比較的CSUと似た路線を持っているからだ。

CSUのゼーダー・バイエルン州首相とFWのアイヴァンガー代表
10月23日に連立政権に関する記者会見を開いた、
CSUのゼーダー・バイエルン州首相(左)とFWのアイヴァンガー代表(右)

また社会民主党(SPD)も得票率を10.9ポイント減らして9.7%に落ち込んだ。10%も取れなくなったSPDは、国民政党(Volkspartei)としての地位を急激に失いつつある。逆に右翼政党「ドイツのための選択肢(AfD)」は10.9%の得票率を記録して、バイエルン州議会に初めて議席を持つことになった。

SPDに比べて善戦が目立ったのが緑の党だ。同党は前回に比べて得票率を約2倍に増やして17.5%の得票率を記録し、CSUに次ぐ第2党の座に躍り出た。

難民政策に対する不満が爆発

CSUの大敗と単独支配の終焉は予想されていた出来事だ。10月4日に公共放送局ARDが発表した支持率調査で、CSUの支持率は33%という低水準に落ち込んでいた。また2017年9月に行われた連邦議会選挙でも、CSUのバイエルン州での得票率は前回に比べて約11ポイントも下がって38.8%になっていた。

CSU大敗の原因は、メルケル政権に対する市民の抗議である。責任の大半はバイエルン州政府のマルクス・ゼーダ―首相ではなく、メルケル政権で連邦内務大臣を務めるホルスト・ゼーホーファーCSU党首にある。つまり連邦レベルの政治への有権者の不満が、CSUを直撃した。

2013年の選挙では約252万人がCSUに票を投じた。しかし、今回の選挙ではメルケル政権の難民政策などに強い不満を抱く保守層約16万人が、CSUからAfDに鞍替えした。CSUに背を向けてFWに票を投じた有権者も、約16万人にのぼる。これらの有権者たちは、今回の投票行動によって、「メルケル首相の政策はあまりにも左傾化しており、保守本流にはふさわしくない」という強い不満を表明したのだ。

バイエルン州では、2015年9月にメルケル政権が約100万人のシリア難民を受け入れたことについて、市民の不満が強かった。バイエルン州はドイツで最も南に位置し、ハンガリーやオーストリア経由の難民が最初に到着する地域だ。メルケル首相がブダペストで立ち往生していたシリア難民にドイツでの亡命申請を許すという超法規的措置を発表すると、ミュンヘン中央駅には毎日2万人もの難民が列車で到着した。

不満の捌け口としてのAfD

メルケル氏の難民政策はAfDにとって追い風となった。2013年に経済学者らが反ユーロ政党として創設したAfDでは、年々ネオナチに近い人種差別主義者たちが主導権を握るようになった。2015年9月のメルケル氏のシリア難民受け入れは、この党に共感する市民の数を爆発的に増やした。AfDはツイッターやフェイスブックで「メルケル氏の政策が治安を悪化させ、ドイツ固有の文化を侵食している」というメッセージを流し、有権者の不安を煽った。多くのAfD支持者はメルケル政権に加わるCSUも同罪と見たのだ。

彼らはAfDがドイツの直面する問題をCDU・CSU以上に効率的に解決できる政党だとは必ずしも思っていない。AfDにネオナチに似た思想を持つ党員がいることも知っている。だが彼らは「メルケル体制」を転覆させるための一手段として、あえてAfDを選んでいるのだ。彼らの要求は「メルケルは退陣すべきだ(Merkel muss weg)」という言葉に凝縮できる。米国でグローバル化で「負け組」とされた有権者が伝統的な政治システムに対して反旗を翻すために、トランプ氏という不動産業者を大統領にしたのと同じ現象である。

穏健なCSU支持者が緑の党に流れた

だがCSUにはAfDのシンパだけではなく、キリスト教精神を重視する人々も多い。彼らは戦火に追われてドイツに逃げざるを得なかった難民については、助けるべきだと考えている。これらの穏健勢力は、CSUのゼーホーファー党首が反イスラム色の濃い発言をするなど、AfDの路線を真似たことに嫌悪感を抱いていた。

このため前回はCSUを選んだ穏健派など約17万人が、今回の選挙では緑の党に鞍替えした。緑の党が得票率を倍増できたのは、そのためである。緑の党は、特に大都市部での人気が高く、ミュンヘン中部選挙区での緑の党の得票率は42.5%に達している。

CSUが必要とするのは指導部の刷新である。ゼーホーファー氏は歴史的大敗の責任を取って、若い世代に党首の座を譲るべきだ。一方、CDUでもメルケル首相の責任を問う声が高まりそうだ。今年12月のCDU党大会での役員改選の行方が注目される。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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