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Sa. 19. Jan. 2019

メルケル首相の後継者は誰か?注目のCDU党首選挙

13年間続いたメルケル時代に幕が下りようとしている。アンゲラ・メルケル首相は10月29日にキリスト教民主同盟(CDU)の次期党首選への立候補を断念することを明らかにした。

傷だらけのメルケル政権

メルケル氏は保守政党後退の最大の原因が自分にあることを認めた。10月14日にバイエルン州議会選挙で姉妹政党キリスト教社会同盟(CSU)が歴史的な敗北を喫して単独政権の樹立に失敗したのに続き、CDUも10月28日にヘッセン州議会選挙で得票率を11ポイント減らし、有権者から厳しい判定を受けた。

4期目のメルケル政権は満身創痍だ。大連立政権を構成するCDU・CSUと社会民主党(SPD)は、去年の連邦議会選挙で大幅に得票率を減らした。当初SPDが政権不参加を表明しCDU・CSUと緑の党、自由民主党(FDP)のジャマイカ連立政権の交渉も不発に終わったため、政府誕生までに約6カ月かかった。

その後も難民受け入れをめぐって、メルケル首相とゼーホーファー内務大臣(CSU党首)の対立が激化。さらに旧東独ケムニッツでの暴動をめぐり、首相を間接的に批判したマーセン連邦憲法擁護庁長官(当時)の更迭についても、メルケル氏、ゼーホーファー内務大臣、ナーレスSPD党首の間で意見が衝突。この二つの論争では、大連立政権は崩壊寸前の所まで追い詰められていた。経済界からは「メルケル政権は内部のトラブル処理に追われるばかりで、具体的な政治運営を行っていない」という批判が上がっていた。

来年再び総選挙?

去年9月以来、CDU・CSUとSPDの支持率が激減しているのに対し、右翼政党ドイツのための選択肢(AfD)は1年間で支持率を12.6%から18%に増やしている。AfDはメルケル首相の難民政策に対する国民の強い不満を追い風として、去年初の連邦議会入りを果たしたほか、ドイツ全州の議会への進出に成功。第二次世界大戦後、右翼政党が有権者からこれほど強力に支持されたのは初めてだ。メルケル氏が事実上の「引退宣言」を行うのは時間の問題と見られていた。

ただし、メルケル氏は「首相職については、現在の任期が終わる2021年まで担当する準備がある」と述べている。元々彼女は「首相と党首は同じ人物でなくては、指導力を発揮できない」という信念の持ち主である。将来CDUの党員たちが、党首と首相を別々の人物が務めるという変則的な状態を長期間にわたって受け入れるとは思えない。また大連立政権に対する有権者の反感は頂点に達しており、継続は困難だろう。したがって、CDUが今年12月7、8日の党大会で新党首を選んだ後、ドイツで来年再び連邦議会選挙が行われて、CDUが新党首を首相の座に据えようとする可能性が高い。

最有力候補はメルツ氏か

さてCDUでは、本稿を執筆している11月7日の時点で12人が党首候補として名乗りを上げている。その中で最も有力な3人は、メルケルと親しいクランプ=カレンバウアーCDU幹事長(56歳)、メルケル氏の難民政策に批判的なシュパーン連邦健康大臣(38歳)、そして2000年から2年間CDUの連邦議会会派でのリーダー(院内総務)だったメルツ氏(63歳)だ。

このうち最有力候補と見られているのがCDUの保守本流に属するメルツ氏だ。CDUの草の根の党員の間では、「メルツ氏が党首になればAfDに奪われた保守派の有権者を取り戻すことができる」という期待が強まっている。彼は2002年にCDU党首だったメルケル氏と意見が対立して院内総務から駆逐され、2009年には議員も辞めた。いわばメルケル首相の不倶戴天の敵である。

メルケル首相の後継者として有力視されているメルツ氏
メルケル首相の後継者として有力視されているメルツ氏

これに対しザールラント州首相だったクランプ=カレンバウアー幹事長は、メルケル首相によって抜擢された人物。保守層から「メルケル氏の難民政策を続けるのでは」と思われている点が不利だ。またシュパーン氏は、メルケル首相がCDU右派勢力の批判を緩和するため閣僚にした保守派の政治家だが、2人に比べると「軽量級」であり党首・首相には尚早という印象を与える。

経済界は「メルツ首相」を切望

経済界は財務・経済政策に強いメルツ氏がCDU党首に当選し、首相の座を継ぐことを切望している。彼は議員だったとき「複雑な税務申告を、居酒屋でビールジョッキの下に敷くコースターに納まるくらいに簡素化できる」と豪語したことがある。さらに、社会保障サービス縮小や規制緩和を主張するネオリベラル的な姿勢で知られる。メルツ氏は議員辞職後も国際法律事務所で働くなど、経済界と太いパイプを持っている。彼は2016年から米国の大手資産運用会社ブラックロックの子会社の監査役会長を務めているほか、多くの企業の監査役を務めてきた。メルケル氏とは全く毛色が異なる、財界寄りの政治家だ。

CDUは得票率を挽回してAfDの快進撃に歯止めをかけるために、リベラル色の濃かったメルケル氏の路線を大幅に修正し、政策を徐々に右傾化させていくだろう。そう考えると、党大会でメルツ氏が同党のリーダーに選ばれる可能性が強い。一方バイエルン、ヘッセンで躍進した緑の党の動きも見逃せない。「メルケル後」のドイツは、2015年以来深まりつつある社会の分断を克服することができるだろうか?

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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