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ロンドンのゲストハウス
Sa. 24. Aug. 2019

露からのガスパイプライン - ノルドストリーム2をめぐる激論

ロシアからドイツに直接天然ガスを送るパイプライン「ノルドストリーム2」をめぐり、欧州連合(EU)加盟国の間の対立が表面化した。

ドイツや西欧諸国はプーチン大統領とクリミア併合やウクライナ内戦をめぐって対立する一方で、エネルギーについてはロシアに大きく依存するという矛盾に苦しんでいる。

ドイツ北部、メクレンブルクにて工事作業を行なっている、ノルドストリーム2の様子
ドイツ北部、メクレンブルクにて工事作業を行なっている、ノルドストリーム2の様子

フランス政府の突然の「転向」

対立のきっかけは、2月8日にブリュッセルで開かれたEU加盟国のエネルギー担当大臣評議会だった。ポーランドなど一部の加盟国は、EUガス指令を改正してノルドストリーム2のように第三国からEUにガスを送るパイプラインを、EU法の下に管理することを求めていた。エネルギー担当大臣たちは、この会議でガス指令改正案について採決を行う予定だった。

この改正案が可決されると、EUの法律が適用されるので、ガスを採掘・販売する企業とパイプラインを運営する企業を分離することが必要になるほか、パイプラインを他社にも使用させることを求められる。つまりロシアからのノルドストリーム2も、EUの厳しい管理下に置かれる。

ロシアとともにノルドストリーム2計画を進めているドイツ政府はこの改正案に反対しており、フランス、オランダ、ベルギー、オーストリアとともに反対票を投じてブロックする予定だった。ところが採決の2日前になって、フランス政府が突然態度を豹変させ、改正案に賛成する意向を打ち出した。

この決定はメルケル政権にとって、寝耳に水だった。フランスが賛成派に寝返ったためにブリュッセルの会議で改正案が採択されて、ノルドストリーム2建設計画が暗礁に乗り上げる可能性が浮上した。

そこでメルケル政権は各国と交渉し、「ノルドストリーム2のような域外の国からのガスパイプラインは、EU法による管理下に置く。ただし実際の管理業務を担当するのは、パイプラインが最初に到達するEU加盟国とする」という妥協案を受け入れた。したがって、ノルドストリーム2についてはドイツが管理を担当する。ノルドストリーム2計画がほかのEU加盟国の反対で頓挫する事態は避けられた。

東欧諸国はパイプラインに強い懸念

東欧諸国は、なぜノルドストリーム2に反対するのだろうか。現在ロシアはウクライナやポーランドを通過するパイプラインを使い、ガスを西欧諸国に送っている。しかし、ウクライナやポーランドがこのパイプラインをブロックすれば、ロシアのガスビジネスを妨害することが可能である。実際、2005~2006年にはロシアとウクライナの間でガス料金をめぐるトラブルが起きたために、西欧へのガス輸送が一時滞ったことがあった。

ロシアのプーチン大統領とドイツのシュレーダー首相(当時)は2005年4月にノルドストリームの建設について合意し、1本目は2011年に稼働した。ノルドストリーム2はこれに並行するパイプラインだ。

ノルドストリーム2は毎年550億㎥のガスを直接ドイツへ送り込む。約1200kmのうちすでに370kmが完成しており、2019年末に稼働する予定だ。総工費は95億ユーロ(1兆2350億円・1ユーロ=130円換算)にのぼる。だがノルドストリーム2が完成すると、ロシアはウクライナやポーランドを迂回して、大消費国ドイツに直接ガスを送り込むことができる。

東欧諸国は、「ロシアから直接ドイツにガスを輸送するパイプラインが増えることは、EUのロシアへの依存度を高めるほか、ロシアが東欧へのガス供給を減らすと脅迫するための材料を与える。さらに、現在パイプラインが通過しているウクライナもノルドストリーム2建設によって不利になる」と主張していた。ポーランドやウクライナにとっては、ノルドストリーム2の建設は、自国を通過するガスパイプラインからの料金収入が減ることも意味する。ウクライナは毎年、ロシアからパイプラインの使用料として数十億ユーロの収入を得ている。ドイツ政府は、「ノルドストリーム2建設の条件は、ロシアが将来もウクライナとポーランドを通過するパイプラインを使用し続けること」と約束していた。

攻撃的な性格を強めるロシア

つまりフランスのマクロン大統領は、盟友ドイツよりも東欧諸国の意見に耳を傾けたのだ。実は欧州委員会や欧州議会でも、ノルドストリーム2については批判的な意見が強い。また米国のトランプ政権もこの計画に強く反対している。

その理由は、近年ロシアの対外政策が攻撃的かつ強権的な性格を強めているからだ。ロシアは2014年にクリミア半島を併合し、ウクライナ内戦に介入している。ロシア軍は、バルト三国周辺で大規模な軍事演習を繰り返し、圧力を強めている。ロシアはINF条約(中距離核戦力廃棄条約)に違反して、西欧の主要都市を攻撃できる巡航ミサイルを昨年配備した。英国で発生した、ロシアの元二重スパイに対する神経剤による暗殺未遂事件の解明にも、ロシア政府は協力を拒んでいる。

連邦系統庁によると、2017年にドイツが輸入したガスの65%はロシアからだった。西側に対して敵対的な態度を見せる国から、暖房や調理、工業生産に欠かせないガスを大量に輸入する。この矛盾した態度は、今後もEUの中で不協和音を生むに違いない。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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