Hanacell

Nr. 10 小学校での落第と飛び級

これまでに読者の皆様から多数のご意見やご質問を頂きました。子育てを楽しんでいる方も、不安や心配事を抱えている方もおられました。私自身は異国で子どもを育てるというのは、まるで次に何が起こるのか分からない冒険のようだと長い間感じていました。特に子どもがドイツの小学校へ通い始めると、運動会は? 保護者会は? 授業参観は? テストや成績表は? と分からないことだらけ。ドイツの教育制度についての解説を読んでもピンとこないし、授業の様子は想像すらできずにいました。子どもへの心配事は尽きることがありません。もし、お子さんの学校生活のことで何か心配なことがあるならば、まずはクラス担任や校長先生に相談してみてください。親身になって話を聞いてくれると思います。私も友人のドイツ人ママたちも、この方法で何度も問題を解決してきました。

さて、今回のテーマは落第と飛び級について。驚いたことにドイツでは小学生でも落第するのです。ドイツにいわゆる“受験”はありませんが、成績が悪くなるたびに先生から“落第警告”が出されるので、学力に関してはかなりシビアです。娘のクラスでは、小1で1人、小3で4人の子どもが進級せずに同じ学年を繰り返しました。しかし、進級できない理由は「勉強についていけない」というネガティブな表現ではなく、「無理せずにその子に合う学習レベルや環境で生活することが大切で、その子の幸せにつながる」とも言われます。娘のクラスにいた落ち着きのない男子生徒は、学年を下げてからは成績が良くなり、態度が穏やかになりました。子どもにとって落第はイヤな経験ではあるけれども、マイナスの烙印が押されるようなことでは決してありません。私は落第をポジティブに捉える考え方があるということを、この国に来て初めて知りました。


イラスト: © Maki Shimizu

そしてドイツには飛び級もあります。これも一例ですが、小3の新学期に校長先生から「君はもう3年生の授業を受けなくてもいいよ」と言われた男子生徒は、1日だけ4年生のクラスに加わりました。けれども淋しくなってしまい、また3年の教室に逆戻り。「進級しなさい」ではなく、「進級してもいいよ」という子どもの気持ちを尊重する学校側の柔軟な対応です。日本のように同じ年齢の子どもに同じ学習内容を与える横割り的環境とは違い、「子どもの意思を尊重して個性を守る」様子を目のあたりにすると、こういう環境の中で子どもは自分らしさを肯定する姿勢を身に付けるのだろうと思いました。

ところで、落第と飛び級は教師の態度にも影響を及ぼします。勉強が遅れ気味の生徒に対してあまりフォローをせずに、「成績が下がったら落第してゆっくり学びなさい」といった姿勢で授業が進んでいくからです。ちなみにドイツの教師は学校をよく休みます。娘の担任が2週間ほど病欠したとき、子どもは学校でドッチボールだけをして帰宅する日々が続きました。臨時教師も休みがちで、ドイツではときどき教師の質の低下がニュースになります。読者の皆様からも似たような不満が見受けられました。日本の教員には学習面でも生活態度の面でも“子どもを育てる”というある種の責任感が感じられますが、対するドイツの先生は“教科を教えるスペシャリスト”という自覚が強く、日本で言う塾の講師に近い存在かもしれません。とはいえ、ドイツの先生たちも子どものことで困ったときにはアドバイスをくれる強い味方です。日頃から面識を持っておくことをお薦めします。


イラスト: © Maki Shimizu

最終更新 Dienstag, 30 August 2011 11:38  
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