Hanacell
独断時評


違憲判決でエネ転換予算が600億ユーロ減額

ドイツ連邦憲法裁判所(BVerfG)が11月15日に下した違憲判決は、ショルツ政権だけでなく経済界、市民を驚かせた。再エネ拡大、電気自動車(EV)補助金などの経済グリーン化に大きな影響を与えそうだ。

11月15日、違憲判決を受けて記者会見で話すショルツ首相(中央)、ハーベック経済・気候保護相(左)、リントナー財務相(右)11月15日、違憲判決を受けて記者会見で話すショルツ首相(中央)、ハーベック経済・気候保護相(左)、リントナー財務相(右)

コロナ向け国債発行権の他目的への流用は違憲

この判決の中でBVerfG第二法廷のドリス・ケーニヒ裁判長は、「ショルツ政権がコロナ・パンデミック対策予算のうち余った600億ユーロ(9兆6000億円・1ユーロ=160円換算)の国債発行権を、無関係の特別予算『気候保護・エネルギー転換基金』(KTF)に流用したのは憲法違反。このため、ショルツ政権が2022年初めに成立させた2021年度の2回目の補正予算は無効だ」と述べた。

判決の背景にあるのは、憲法(基本法)第109条の財政規律ルール「債務ブレーキ」(Schuldenbremse)だ。2009年に連邦議会で可決されたこの制度によって、連邦政府は2016年以来、国内総生産(GDP)の0.35%を超える財政赤字を禁止されている。国の借金が将来の世代に過重な利払いなどの負担を残すことを禁じるためだ。この債務ブレーキが一因となって、ドイツは2014年以来6年間財政黒字を記録した。

だが2020年にはコロナ・パンデミック、2022年にはロシアのウクライナ侵攻という未曽有の事態が発生。憲法によると、自然災害や深刻な不況など政府がコントロールできない異常事態には、債務ブレーキの適用を一時的に停止することができる。このため連邦議会は、2020~2022年の3年間については、債務ブレーキを停止した。ドイツ政府は2020年3月、コロナ対策費用として、経済安定化基金(WSF)を創設し、2000億ユーロ(32兆円)の資金を借金(国債発行)によって追加的に調達できることになった。WSFは、過去にも使われた「特別予算」(Sondervermögen)で、通常の連邦予算の枠外に設定された。

2018~2021年までメルケル政権の財務大臣だったオーラフ・ショルツ氏は、21年12月に首相に就任した。同氏は、21年にコロナ対策に充てられる予定だったWSFの予算のうち、600億ユーロの国債発行権が使われずに残っていたことに気付いた。三党連立政権は、再エネ発電設備の増設や、産業界のエネルギー源の脱炭素化など、多額の資金を必要とするプロジェクトを実行する予定だった。そこでショルツ首相は22年前半に、21年度向けの2回目の補正予算を組み、余った600億ユーロの国債発行権を、経済グリーン化を主目的とするKTFに流用させた。さらに債務ブレーキの適用を免除した年度が終わった後にも、政府が追加的に国債を発行できるように規則を変更した。

BVerfGは、ショルツ政権がコロナ対策に充てるはずだった国債発行権を、経済のグリーン化という全く違う用途に流用する際に、その理由を十分に開示しなかったことや、債務ブレーキが免除された会計年度が終わっても、特別予算を理由にして新たな借金をできるようにした点を違憲と認定した。

600億ユーロの補ほてん填方法は不明

政府はKTFの600億ユーロでさまざまな助成措置を予定していた。判決が言い渡された直後、クリスティアン・リントナー財務大臣は原則としてKTFからの支払いを禁止した。KTFからの助成が予定されていたプロジェクトは、産業界の脱炭素化(230億ユーロ)、鉄道インフラの整備(125億ユーロ)、外国の半導体工場の誘致のための補助金(72億ユーロ)など多岐にわたる。11月21日には2023会計年度の全ての支払いも禁止した。現在政府と議会は2024年の予算を作成中だが、その作業も難航が予想される。

本稿を執筆している11月22日の時点では、事実上「消滅」した600億ユーロをどのように穴埋めするのか、どのプロジェクトが変更または中止になるのかは明らかにされていない。社会民主党(SPD)や緑の党からは増税を求める声があるが、自由民主党(FDP)は反対している。一方FDPは、長期失業者らへの援助金(生活保護)の削減などを要求しているが、緑の党は反対の立場だ。リントナー財務大臣は同23日午後、「23年についても緊急事態と見なし、債務ブレーキの適用を解除するよう、連邦議会に提案する」と発表した。

電力・天然ガス価格ブレーキにも飛び火?

CDU・CSUは、もう一つ違憲訴訟を準備している。ロシアのウクライナ侵攻が引き金となって電力価格・天然ガス価格が高騰したために、ショルツ政権は2023年1月1日から来年3月31日まで、市民や企業の負担に上限を設定した。この電力・天然ガス価格ブレーキにはこれまで310億ユーロ(4兆9600億円)が支出されたが、そのための予算もWSFの枠内で調達されている。CDU・CSUは「ショルツ政権がコロナ対策の国債発行権を、エネ価格抑制に流用したのも憲法違反」として訴訟を提起する予定だ。ハイデルベルク大学のクーベ教授は、「今回の判決により、WSFの国債発行権のうち1650億ユーロ(26兆4000億円)が使えなくなる可能性がある」と指摘している。

最悪の場合、電力・天然ガス価格ブレーキへの財源が足りなくなり、市民や企業の負担が増える可能性もある。ショルツ政権が重視するエネルギー転換が、予算不足のためにブレーキをかけられる危険もある。「欧州の病人」ドイツの肩には、インフレによる国内消費の冷え込み、GDPのマイナス成長に加えて、財政政策の未曽有の混乱というもう一つの重荷が加わった。

最終更新 Donnerstag, 30 November 2023 12:25
 

イスラエル対ハマスの戦争とドイツ

10月7日にガザ地区のイスラム過激組織ハマスのテロリストがイスラエルを急襲し、子どもを含む約1400人を殺害した。ハマスはイスラエルに約2200発のロケット弾を撃ち込んだほか、イスラエル人・外国人222人を誘拐してガザに監禁(これまでに4人の人質が解放された)。人質には、ドイツ国籍を持つ8人のイスラエル人も含まれている。これに対しイスラエル軍はガザに連日砲爆撃を加え、パレスチナ側に多数の死傷者が出ている。イスラエルは、ガザに地上軍を送ってハマスを壊滅させる方針を明らかにしており、中東の緊張が一気に高まっている。ドイツは米国・欧州連合(EU)と歩調を合わせて、イスラエルを支持する姿勢を打ち出した。

7日、テルアビブで記者会見するショルツ首相とイスラエルのネタニヤフ首相7日、テルアビブで記者会見するショルツ首相とイスラエルのネタニヤフ首相

「ホロコースト以来最大の被害」

オーラフ・ショルツ首相は10月17日にイスラエルを訪れ、「われわれはイスラエル側に立つ。イスラエルの安全を守ることは、ドイツの国是だ」という声明を発表した。ショルツ首相は「ハマスのテロリストたちは、イスラエル人の家に押し入り、市民を無差別に殺害し、ガザに連行して人質にした。この野蛮な行為は、われわれを憤激させる。このような所業を正当化するものは、何もない」と、ハマスを厳しく非難した。

イスラエルは1948年の建国以来、多くの戦争を経験してきたが、ハマスの大規模テロを察知できず、同国の「不敗神話」が打ち砕かれた。イスラエルのヘルツォーク大統領は、「ホロコースト(ナチス・ドイツによるユダヤ人虐殺)以来、これほど多くのユダヤ人が殺されたのは初めてだ」と衝撃をあらわにした。

ハマスのテロリストたちはガザ地区を囲むフェンスを約20カ所で破ったり、小型エンジン付きのパラシュートでフェンスを越えたりして、イスラエル南部の市町村、共同農場(キブツ)を襲った。

ガザとの境界線から約5キロのクファー・アザというキブツに住んでいたクッツ一家5人は、全員がテロリストに射殺された。父親は、家族を守ろうとするかのように、2人の子どもと妻の上に覆いかぶさって死んでいた。一家は4年前に米国ボストンからイスラエルへ移住したばかりだった。

レイムというキブツの近くでは野外音楽祭が開かれていた。そこにAK47型自動小銃を持ったテロリストたちが襲いかかり、逃げ惑う若者たちを次々に射殺した。イスラエル軍が到着したとき、現場には約260人の射殺体が残されていた。

パレスチナ側に約5000人の死者

一方、イスラエル軍は「地上戦を開始する前に、ハマスの軍事インフラを弱体化させる」という名目でロケット弾の発射機が隠されているトンネルや、幹部の住宅がある建物などを空爆や砲撃で破壊している。だがハマスの施設は、住宅や商業施設、学校、病院などが密集した地域にあるので、市民にも甚大な被害が出ている。10月24日現在で、パレスチナ側には子どもを含む約5000人の死者、約1万5000人の重軽傷者が出た。

イスラエルは地上戦を前に、ガザ市の住民に対し、南部への避難を勧告。約100万人が住居を離れて、国内避難民となった。イスラエルはガザ市の電力と水の供給を止めたほか、食料、衣料品、燃料の搬入も禁止。国連の仲介で、イスラエルはエジプト側の検問所からの水や食料の搬入を許可したものの、約220万人のガザ市民にとっては、焼け石に水にすぎない。ドイツ、フランス、英国など欧州諸国、ヨルダンなどアラブ諸国では、多数の市民がイスラエルのガザ爆撃を非難し、パレスチナ支持を表明するデモを行った。

ナチスのユダヤ人虐殺が負い目

これに対し、ドイツはイスラエル支持の姿勢を崩さない。10月22日にはフランク=ヴァルター・シュタインマイヤー大統領が、ベルリンで演説し、「イスラエルには自衛する権利がある。ハマスのテロはユダヤ人だけではなく、間接的にガザに住むパレスチナ人も苦しませている。世界中がこの犯罪を見ている。ハマスは野蛮な行為をやめ、人質を即刻解放するべきだ」と訴えた。さらに同大統領は、ベルリンでシナゴーグがある建物に向けて火炎瓶が投げられた事件に触れて、「わが国でユダヤ人たちが不安を抱いているのは、耐えがたい。ユダヤ人に対する攻撃、中傷はドイツの恥だ」と述べ、この国での反ユダヤ主義的傾向を強い言葉で糾弾した。

ドイツがイスラエルを支持する背景には、ナチスが約600万人のユダヤ人を殺害したことに対する負い目がある。アンゲラ・メルケル前首相は2017年の国連総会、2018年のイスラエル議会での演説で、「ナチスの犯罪に関する歴史的責任に基づき、イスラエルの安全を守ることは、ドイツの国是だ」と断定した。ショルツ首相も今回同じ言葉を使った。ただし、ショルツ首相やアンナレーナ・ベアボック外務大臣は、「イスラエルは自国の安全を守る際には、(敵側の市民への被害を最小限にするなどの)人道に関する国際法も守らなくてはならない」と述べている。

今回の戦争では、ガザ市の病院が被害にあったり、国連職員やジャーナリストも次々に犠牲になったりしている。イスラエル軍がガザ市に侵攻した場合、さらに死傷者数が増えることは確実だ。

ドイツからイスラエルへは飛行機で5時間。目と鼻の先である。ウクライナ戦争と中東紛争のダブルパンチは、欧州の政治・経済に大きな影を落とすだろう。

最終更新 Donnerstag, 02 November 2023 10:04
 

亡命申請者数の急増にドイツはどう対応するか

ドイツで再び亡命申請者問題が、政局の焦点になっている。バイエルン州のマルクス・ゼーダ―首相(キリスト教社会同盟・CSU)は9月17日にドイツの日刊紙に公表されたインタビューの中で、「ドイツが1年間に受け入れる亡命申請者の数を、20万人に制限するべきだ。地方自治体では、これ以上の受け入れは難しい。政府が亡命申請者受け入れのコントロールを失うと、民主主義が危険に曝さらされる」と語った。

2015年にミュンヘン中央駅に到着したシリア難民たちと、迎えるミュンヘン市民(筆者撮影)2015年にミュンヘン中央駅に到着したシリア難民たちと、迎えるミュンヘン市民(筆者撮影)

保守陣営が受け入れ制限を求めているのに対し、緑の党や左翼党(リンケ)の政治家たちは、「亡命申請権は、憲法(基本法)や国際法で保障されている。戦争や政治的迫害から逃れてくる人々を、国境で追い返してはならない」と主張している。

ドイツはEUで亡命申請者を最も多く受け入れている

この問題についての議論が激しさを増している理由は、今年に入ってドイツで亡命を申請する外国人の数が急増しているからだ。

連邦移民難民局(BAMF)によると、今年1月から8月にドイツで亡命を申請した外国人の数は22万116人。これは昨年同時期の申請者数(13万2618人)に比べて66%も多い。最も多いのがシリア人(約6万3000人)、2番目に多いのがアフガニスタン人(約3万7000人)、3番目はトルコ人(約3万人)だ。これらの国々では、多くの市民が内戦の後遺症や、政府による迫害、抑圧に苦しんでいる。一見、トルコが3番目というのは意外に思える。だが同国ではクルド人、野党政治家など、エルドアン政権に批判的な市民が治安当局によって厳しく追及されているため、ドイツで政治的亡命を申請する者が急増している。

問題は、欧州連合(EU)に入った多くの亡命申請者がドイツを目指す点だ。EU統計局によると、今年上半期にEU域内で初めて亡命を申請した外国人の数は、51万9000人(前年同期比で28%の増加)だった。このうち約30%がドイツで亡命を申請している。2022年にはEU全体で約88万人が亡命を申請したが、そのうち約22万人がドイツだった。EU加盟国の中で最も多い数だ。EUでの亡命申請者数のほぼ4人に1人がドイツにやって来ることになる。

なぜドイツに亡命申請者が集中するのか。この国の亡命申請規定はほかの国に比べて寛容であり、到着後の受け入れ態勢も比較的手厚い。このためEU域内に入った外国人は、ドイツへ移動して亡命を申請する傾向が強い。EUではダブリン協定によって、最初に到着した国で亡命を申請しなくてはならないのだが、欧州の多くの国がシェンゲン協定に基づいて国境検査を廃止しているので、亡命申請者の動きを把握するのが困難なのだ。

ドイツは寛容な難民政策を軌道修正するか

われわれはおそらく、ショルツ政権はメルケル前首相が行った人道的な難民政策について、軌道修正を行うのを目撃することになるだろう。ナンシー・フェーザー内務大臣(社会民主党・SPD)は、9月25日、保守陣営の圧力に屈して、ポーランドとチェコとの国境に一時的に検問所を設置することを発表した。目的は、難民から金を取ってトラックなどに載せ、違法にドイツに送り込む「人間運搬業者」を摘発することだ。

亡命申請者のために宿泊先や食事などを用意するのは、地方自治体である。市町村からは、「もうこれ以上亡命申請者を受け入れるのは、不可能だ」という声が強まっている。冬が近づくなか、テントで寝起きする亡命申請者も少なくない。ドイツは、戦火を避けてウクライナから逃げてきた人々約100万人も受け入れている。ポーランドに次いで2番目に多い数だ。

現在の状況は、2015年の難民危機を思い出させる。当時メルケル前首相は、「Wir schaffen das」(われわれは、やり遂げることができる)というスローガンの下に、ハンガリーなどで立ち往生していた約100万人のシリア難民たちにドイツで亡命申請することを許した。ダブリン協定を一時的に無効化したこの「超法規措置」は、国内外で強く批判された。

難民危機はAfDに追い風

メルケル前首相の難民政策は、右翼政党「ドイツのための選択肢」(AfD)の支持率を大幅に増やし、2017年の連邦議会選挙で同党は初めて議席を獲得した。難民問題は、AfDにとって追い風になる。ショルツ政権が実効性のある対策を取らない場合、有権者のAfDに対する支持がさらに強まる可能性がある。

ショルツ政権への不満は、旧東ドイツを中心にすでに高まりつつある。アレンスバッハ人口動態研究所の世論調査によると、AfDの支持率は、昨年9月前半には13%だったが、今年9月前半には6ポイント増えて19%になった。幹部がネオナチまがいの発言をためらわない過激政党が、SPD(18%)、緑の党(14%)、自由民主党(7%)を追い抜き、支持率で第2位になったのだ。AfDの旧東ドイツでの支持率は首位。テューリンゲン州では、今年初めてAfD党員が郡長に当選した。旧東ドイツでは来年9月にザクセン州、テューリンゲン州、ブランデンブルク州で州議会選挙が行われる。

亡命申請者問題をめぐりショルツ政権への圧力は高まる一方だ。ロベルト・ハーベック経済・気候保護大臣(緑の党)は、「われわれは倫理的に難しい決断を下さなければならないかもしれない。民主主義政党は、協力してこの難題について解決策を見つけなくてはならない」と発言している。リベラル陣営がこれまでの人道的路線を貫くことは、困難かもしれない。

最終更新 Donnerstag, 05 Oktober 2023 09:05
 

ドイツ、2030年のCO2削減目標の達成失敗か

欧州で気候変動への不安が高まるなか、ドイツ政府の諮問機関・気候問題専門家評議会(ERK)は8月22日、「政府の気候保護プログラム(KSP)施策は不十分であり、ドイツは2030年の二酸化炭素(CO2)削減目標を達成できない」という厳しい見解を発表した。

交通によるCO排出量の多さが目標達成の足かせの一つになっている交通によるCO2排出量の多さが目標達成の足かせの一つになっている

2030年までにCO2排出量を65%減に

2019年に施行され、2021年に改訂された気候保護法は、2030年までにCO2などの温室効果ガス(GHG)の排出量を、1990年比で65%減らすことを政府に義務付けている。ドイツでは2022年に7億4600万トンのGHGが排出されたが、2030年までに4億4000万トンに減らさなければならない。

さらに政府は、2040年までにGHGの排出量を88%減らし、2045年までにカーボンニュートラルを達成しなくてはならない。カーボンニュートラルとは、CO2排出量が事実上ゼロの状態だ。排出が避けられないCO2と同じ量のCO2を植林や大気中からの回収することで、プラスマイナスゼロの状態にする。KSPは、気候保護法の基礎となるもので、再エネ拡大、水素を生産するための水電解設備の建設など130の施策が盛り込まれている。

交通と暖房からの排出量に大きなギャップ

ERKのハンス・マルティン・ヘンニヒ座長は、ベルリンでの記者会見で「KSPの方向性は正しいが、具体的な施策が不十分だ。今のままでは、2030年にドイツで排出される温室効果ガスの量は、目標値を約2億トン上回ってしまう」と批判した。

気候保護法は、エネルギー、製造業、交通、建物、農業の五つの部門について、2030年までに排出を許される温室効果ガスの上限を定めている。それぞれの大臣が排出量の削減を監督しなくてはならない。ERKの報告書によると、エネルギーと農業の各部門は2030年の目標を達成できるが、それ以外の3部門は達成に失敗する。特にギャップが大きいのが自動車や船舶など交通部門で、2030年の排出量は目標値を1億1700万トン~1億9100万トン上回る見通しだ。

気候保護法の改正案は今年6月21日にショルツ政権によって公表され、現在連邦議会で審議されている。ヘンニヒ座長は、「政府は、2030年の排出量と目標値のギャップをどう埋めるのかは明らかにしていない。政府はKSPを見直すべきだ」と述べた。

気候変動による影響が顕在化

今年の夏には、世界各地で地球温暖化や気候変動と関連があると思われる現象が多発した。気候学者たちによると、欧州は地球温暖化の兆候が世界で最も明確に表われている地域の一つだ。

例えば、イタリアのサルデーニャ島では、7月25日に気温が48.2度に達した。これは2021年にシチリア島で観測された欧州での最高気温(48.8度)に次ぐ。南欧ではギリシャのロードス島、スペインのテネリファ島などで森林火災が多発し、多くの観光客が避難を強いられた。地中海では、一時水温が通常よりも1~5度高い25~30度に達した。水温の上昇は大気中の水蒸気を増やすので、いわゆるゲリラ豪雨の頻度を高める。今年5月にはイタリアのエミリア・ロマーニャ地方、6月にはスロベニアなどバルカン半島を洪水が襲い、深刻な被害をもたらした。

気候変動は、難民危機にも拍車をかける。アフリカの一部の地域では、数年前から一度も雨が降らず、深刻な食料難が起きている。今後食糧や水不足が原因で、アフリカや中東から欧州を目指す市民が増える可能性があるという。難民数は、すでに増加傾向にある。欧州統計局によると、2020年に欧州連合(EU)加盟国で亡命申請した難民の数は約47万人だった。2022年には104%増えて約96万人になった。

温暖化は、生命と健康にも関わる問題だ。7月28日、ドイツのカール・ラウターバッハ健康大臣は、「昨年わが国では、暑さに関連した死者の数が約8000人に達したと推定される」と発表した。日本の2022年6~9月の熱中症による死者数1387人(厚生労働省調べ)を大幅に上回る。ドイツでは日本に比べてエアコンが普及していないことが一因かもしれない。ラウターバッハ大臣は、死者数を半分に減らす対策を実施すると約束した。

一部の市民は気候保護策に反発

ドイツではハーベック経済・気候保護大臣が、建物エネルギー法案によってヒートポンプを急速に普及させようとしたが、野党などの反対のために内容を大幅に緩和せざるを得なかった。この法案は緑の党への支持率を引き下げ、右翼政党ドイツのための選択肢(AfD)の支持率を押し上げる一因となった。一部の市民は、気候保護のための政策に強い反発を示している。

今年11月には、ドバイで地球温暖化に関する国連の会議COP28が開かれる。この会議では、CO2削減の加速を求めるEUと、産油国の間で意見が激しく対立することが予想される。

最終更新 Donnerstag, 31 August 2023 11:17
 

独政府の中国戦略をどう読むか

ショルツ政権は、6月14日に国家安全保障戦略、7月13日に中国戦略という二つの文書を公表した。特に注目されていた中国戦略で、ドイツは中国との「関係断絶は避けるが、重要原材料についての高い依存率を減らす」という硬軟二段構えの方向を打ち出した。

6月20日にベルリンで行われた独中政府間協議で握手する、ショルツ首相と中国の李首相6月20日にベルリンで行われた独中政府間協議で握手する、ショルツ首相と中国の李首相

「パートナーだが、ライバルでもある」

ショルツ政権はこれらの文書の中で、「中国はパートナー、競争相手、そしてシステムをめぐる競争でのライバルだ。しかしここ数年間には、競争相手・ライバルとしての性格を強めている」と指摘した。ドイツが中国の政策に批判的な態度を取っていることは、戦略文書の23ページにはっきり表れている。ショルツ政権は、「中国は攻撃的な形で、アジアでの地域的な優位性を確保しようとしているほか、われわれ欧州人の利益や価値と矛盾する行動を取っている。そのために、地域的な安定と国際的な安全保障が脅かされている。中国は、政治的目標を達成するために、経済力を利用している」と批判した。

ドイツ政府は、「中国共産党の影響力拡大とともに、市民権は後退し、言論や報道の自由は制限されている。少数民族や宗教共同体の文化的アイデンティティーも圧迫されている」とも指摘。その上で「中国は新疆 (しんきょう)ウイグル自治区とチベットで人権を侵害しているほか、香港では国際的合意に反して自治権や市民の自由を抑圧している」と批判した。ショルツ政権は、「われわれは今後も中国での人権に関する状況を改善し、言論や発言の自由を回復するために、努力する」と明記した。

さらに中国戦略文書は、「中国は、ルールに基づく国際秩序の変更を試みている。中国はその経済力を、政治的目標を達成するために利用している。他国への中国経済への依存度を高めることによって、他国に中国の意図を受け入れさせようとするのだ」と批判した。

また同文書は「台湾海峡の安全保障はアジアだけの問題ではなく、ドイツや欧州の安全保障にも影響を与える。現状を変更する場合には、全ての関係者の合意に基づき、平和的手段によってのみ行われるべきだ。軍事的なエスカレーションは、ドイツと欧州の権益にも影響を与える」と釘を刺した。またショルツ政権は、中国がプーチン政権のウクライナ侵攻を糾弾せず、逆にロシアとの関係を深めていることについても、懸念を表明した。

対中依存度の削減を目指す

ドイツは過去のロシア政策の失敗の経験から、将来レアアース(希土)など重要原材料に関する中国への高い依存度を減らしていく。その目的は、調達先の分散化により、サプライチェーンを強靭化することだ。

太陽光発電設備、風力発電設備、BEV(電池だけを使う電動車)のための原材料や半製品について、ドイツは中国に大きく依存している。中国戦略文書は、35ページで「中国との経済関係を維持するものの、リスクを避けるために、戦略的に重要な分野での対中依存を減らす」という方針を明記した。ドイツ政府によると、2020年に勃発したコロナ・パンデミックでは、ドイツがマスクや医療関係者用の防護衣をほぼ100%中国に依存していた実態が明らかになった。

さらにドイツ政府は「再生可能エネルギーの拡大やBEVの普及に不可欠なレアアースなどの重要原材料や半製品、部品について、中国への依存度が危険な高さになっている」と指摘している。

中国戦略文書は、「われわれはこれらの分野での対中依存リスクの引き下げを、優先的に行なう。レアメタル、レアアース、重要な医薬品などの対中依存度を継続的に監視し、調達先の多角化や、欧州連合(EU)域内での調達量の引き上げによって、対中依存度を減らす」と明記した。現在EUは、戦略的に重要な原材料のEU域内でのリサイクル比率を引き上げるための法的な枠組みを整えつつある。これも中国への依存度を引き下げるための試みの一環だ。

デカップリングではなくデリスキング

同時にドイツ政府は、中国戦略文書で、「中国に対して門戸を閉ざさない」という姿勢も明確にした。つまり中国を率直に批判しているが、人権問題などを理由に関係を断絶しようとしているわけではない。例えば、中国戦略文書は「気候変動抑制のためのCO2削減や、将来のパンデミックの再発防止など、グローバルな問題では中国との協力を欠かすことはできない」と主張する。「中国はパートナーでもある。中国抜きには解決できないグローバルな問題に取り組むには、中国とのパートナーシップを利用すべきだ」と述べている。

「われわれが目指すものは、関係を断絶するデカップリングではなく、依存リスクを減らすデリスキングだ」と述べている。ショルツ政権は、文書の中に硬軟二段構えの路線を織り込んだのである。ただしドイツ政府は対中戦略文書の中で、対中依存度をどの程度下げるのか、あるいはどのようにして依存度を下げるのかについては、詳細を記していない。ショルツ政権は、「現在多くの独企業が中国に直接投資を行い、現地で製造活動を行っている。しかし企業は(投資などに関する)決定を行う際には、地政学的リスクに十分配慮しなくてはならない」と述べるに留めた。このことは、政府が民間企業の中国事業のやり方について大幅な介入を避け、企業の判断に任せたことを示している。

将来ドイツ企業の経営者は、経営戦略において中国で事業を行うことの地政学的リスクを詳しく分析し、決定の中に反映させなくてはならない。彼らの責任は、より重くなったというべきだろう。

最終更新 Mittwoch, 02 August 2023 17:30
 

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