Hanacell
独断時評


極右政党AfD躍進の背景に ショルツ政権への強い不満

旧東ドイツ・テューリンゲン州のゾンネベルク郡は、人口約5万7000人。ドイツで最も小さな郡の一つだ。6月25日にここで行われた郡長(ラントラート)選挙の決選投票は、ドイツ全体に強い衝撃を与えた。

6月25日、ゾンネベルク郡の選挙で勝利したAfDのゼッセルマン氏(中央)6月25日、ゾンネベルク郡の選挙で勝利したAfDのゼッセルマン氏(中央)

初めてAfDに属する郡長が誕生へ

この決選投票で、右翼政党ドイツのための選択肢(AfD)のロベルト・ゼッセルマン候補が、現職のユルゲン・ケッパー(キリスト教民主同盟・CDU)氏に勝った。ゼッセルマン氏の勝利を防ぐために、CDUから左翼党(リンケ)までが一丸となって現職の郡長を推したが、AfDに勝てなかった。ドイツの自治体としては初めて、AfDに属する首長が誕生することになった。移民数の削減やユーロ圏からの脱退を求めるAfDは、連邦憲法擁護庁から「極右勢力の疑いのある政党」と位置付けられ監視されている。

AfDテューリンゲン州支部長のビェルン・ヘッケ氏は、「市民は、ドイツの政治の改革を望んでいる。この勝利を、ほかの郡での選挙にもつなげていく。来年テューリンゲン州、ザクセン州、ブランデンブルク州で行われる州議会選挙で、政治的な大地震を引き起こす」と発言した。ヘッケ氏は、ベルリンの中心部にあるホロコーストの犠牲者に対する追悼モニュメントについて「あのような恥ずかしい物を首都の真ん中に設置する国は、ドイツだけだ」と公言するなど、AfDで最も過激な政治家として知られる。ゼッセルマン氏もドイツ政府のコロナ感染防止策に反対するデモに参加するなど、ヘッケ氏の路線を信奉している。

ドイツ・ユダヤ人中央評議会のヨゼフ・シュスター会長は、AfDの勝利を、「ダムの決壊だ」と呼んだ。シュスター氏は、「AfDの全ての党員が極右思想を持っているわけではない。しかしAfDテューリンゲン州支部は、同州の憲法擁護庁から極右勢力と位置付けられている。それにもかかわらず、多くの有権者がこの党の候補者に票を投じたことは、私に強い不安を与える。ドイツの民主勢力は、AfDのゾンネベルク郡での勝利を、傍観していてはならない」と警告した。

背景にショルツ政権への強い不満

AfDが勝った理由の一つは、同党がショルツ政権のさまざまな政策に対する市民たちの不満を煽ったからだ。その象徴が、CO2削減をめぐる議論だ。緑の党のロベルト・ハーベック経済・気候保護大臣は「来年1月1日から、ガスや灯油を使った暖房設備の新設を禁止する」という内容を含んだ建物エネルギー法案を連邦議会で可決させようとしたが、AfDなど野党は「緑の党はあらゆることを禁止し、市民の生活に口を挟もうとしている」と猛烈に反対。この結果、ショルツ政権は法案の内容を大幅に緩和せざるを得なかった。

社会民主党(SPD)のサスキア・エスケン党首は6月26日、「連立与党の政策に関するコミュニケーションだけではなく、政策の遂行の仕方も悪かった」と述べ、AfDの勝利の一因は、ショルツ政権の政策の混乱にあると認めた。

このほかにもAfDは欧州連合(EU)と連邦政府のさまざまな政策を強く批判している。例えば同党はEU域外からの難民の各国への配分や、労働力不足を緩和するための、技能を持つ移民の奨励、2035年以降は原則として内燃機関を使う新車の販売を禁止することに反対している。さらにウクライナへの武器供与や、ロシアに対する経済制裁措置も批判している。緑の党が「家畜が出すメタンガスなど温室効果ガスを減らすために、肉食を減らすべきだ」と主張していることについても、AfDは反発している。

リンケのマルティン・シルデヴァン党首は「ドイツでショルツ政権の政策について、市民の不満が沸騰していることが、AfDの勝因だ。市民の間には、暖房、食生活、車の運転などの領域に政府が必要以上に介入すべきではないという感情が強まっている。同時に、CDUやキリスト教社会同盟(CSU)がAfDと似た言葉を使ってショルツ政権を批判していることも、大きな問題だ」と述べ、保守政党の態度も強く批判した。

旧東独では3人に1人がAfDを支持

市民の不満を背景に、AfDへの支持率は急上昇している。インフラテスト・ディマップが6月23日に公表した世論調査結果によると、AfDへの支持率は19%で、CDU・CSU(29%)に次いで第2位。SPD(17%)、緑の党(15%)に水を開けた。昨年6月には12%だったので、1年で7ポイントも増えている。

AfDの人気は、旧東ドイツで特に高い。フォルサが6月13日に公表した世論調査によると、旧東ドイツでのAfDへの支持率は32%で、ほかの全ての政党を上回った。一方、旧西ドイツでのAfDへの支持率は13%。この数字には、ドイツ統一から33年たっても、東西間に残る「心の中の壁」が表われている。

AfDに票を投じる有権者の半分以上が、「私は連邦政府に抗議するために、AfDに投票している」と答えている。つまりAfDがSPDやCDUよりも良い政策を遂行すると思って選んでいるわけではない。だがナチス時代について学校で教育を受けた市民が、ネオナチまがいの発言を行う政治家が率いる政党に票を投じるのは、ドイツの対外的なイメージを傷つける。ショルツ政権が近年アピールしている「ドイツは外国からの勤勉な移民に開かれた国」という路線に逆行する。

民主勢力はAfDの躍進にどのようにして歯止めをかけるか。伝統的な政党もメディアも、明確な答えを示せないでいることが、非常に気になる。

最終更新 Donnerstag, 06 Juli 2023 10:56
 

G7が広島サミットでウクライナ支援強化を確認

日独米などG7(主要7カ国)首脳は、5月19日から21日まで広島で開催したサミットで、ウクライナ支援を「必要な限り継続する」という姿勢を打ち出した。

5月19日、G7首脳がそろって原爆死没者慰霊碑に献花した5月19日、G7首脳がそろって原爆死没者慰霊碑に献花した

対ロシア制裁措置を強化

今回のサミットの中心は、ウクライナ危機だった。G7諸国は共同声明の中で、「ロシアのウクライナ侵攻は国際社会のルールや規範を破るものであり、世界全体への脅威だ」とロシアのプーチン政権を非難。その上で、「ウクライナへの外交、財政、人道、軍事面での支援を今後さらに強化する」と強調した。

G7諸国は、ロシアに対するテクノロジーや機械輸出に関する経済制裁措置をさらに強化する。ウクライナの復興も重要な課題だ。欧州連合(EU)や国際通貨基金(IMF)をはじめとして、世界各国は戦争でインフラが破壊されつつあるウクライナに対して、総額1150億ドル(16兆1000億円・1ドル=140円換算)の復興支援を行う。日本政府は法律により、ウクライナに兵器を送ることを禁止されているので、復興支援で大きな役割を演じることが期待されている。

今回のサミットで注目されたのは、ウクライナのゼレンスキー大統領が協議に参加するために初めて日本を訪れたことだ。彼は中東での会議後、フランス政府の飛行機で広島に到着した。同氏は、世界で最も暗殺の危険が高い人物であるため、米軍の空中警戒機などが常時監視し、彼の乗った飛行機の安全を確保した。

米国がウクライナへの戦闘機供与に青信号

ウクライナの大統領があえて日本に来たのは、西側の戦闘機供与の重要性を訴えるためだった。ロシアのウクライナ侵攻開始から1年以上たったが、戦争終結の見通しは立っていない。ゼレンスキー政権は、ロシア軍が領土から完全に撤退するまで、和平交渉に応じない。ウクライナ軍は春から夏に反転攻勢を実施するとみられているが、ゼレンスキー政権はウクライナに展開するロシア軍を攻撃するために、米国のF16戦闘機などの供与を要求してきた。

ゼレンスキー大統領の訴えは実を結び、米国政府は5月22日、同盟国がウクライナにF16などの戦闘機を供与することを承認すると発表した。米軍は今後ウクライナのパイロットがF16の操縦に習熟できるように、訓練を実施する。バイデン政権は今年2月の時点では、同盟国がウクライナに米国製の戦闘機を供与することに反対していた。しかしバイデン大統領は、ウクライナが「ロシア国内の目標を攻撃しない」という条件で、戦闘機の供与にゴーサインを出した。

ロシア政府は「F16などの供与により、欧米諸国は事態をエスカレートさせる。われわれは対抗措置を取るだろう」と警告している。

ゼレンスキー大統領は5月14日に初めてドイツを訪問したが、ショルツ政権はウクライナへの軍事支援額をこれまでの2倍に増やすと発表した。同国はレオパルド1型戦車30両、マルダー装甲歩兵戦闘車20両、IRIS-T対空ミサイル4基など総額27億ユーロ(3780億円・1ユーロ=140円換算)相当の兵器をウクライナに供与する。ドイツは米国に次いで、ウクライナに対する軍事支援額が世界で2番目に多い国になった。欧米諸国が「最後のタブーの一つ」と見られていた西側戦闘機まで供与するのは、ウクライナ戦争の長期化の危険が高まっていることを示している。

G7首脳が原爆資料館を訪問

日本は世界で唯一、核兵器による攻撃を受けた国だ。ロシアがウクライナ戦争で核兵器使用の可能性をちらつかせるなか、1945年に原爆で廃墟と化した広島にG7諸国が集ったことには、大きな意義がある。5月19日に、G7首脳は広島の平和記念資料館を訪問した。ここには犠牲者が着ていた服や原爆の熱線で溶けたガラス瓶、真っ赤に焼けただれた被害者の背中の写真などが展示されている。ショルツ首相は記帳の際に、「この場所は、想像を絶する苦しみを思い起こさせる。私たちは今日ここでパートナーたちと共に、この上なく強い決意で平和と自由を守っていくとの約束を新たにする。核戦争は決して再び繰り返されてはならない」と書いた。首脳たちは、これらの展示物を見て、核兵器の恐ろしさを肌身に感じたかもしれない。

実際サミットの共同声明には、「核兵器のない世界を作るために努力する」という一文が盛り込まれた。だがこれとは別のG7サミット外相声明には、核兵器を「戦争や脅迫を防ぐための抑止手段」として保有を容認する文章が含まれている。この一文によって、G7は「わが国の核兵器は抑止力だ」と正当化できる。「核兵器のない世界」に矛盾する、一種の抜け穴だ。

ロシア、中国、北朝鮮が核兵器を自主的に放棄することはない。したがって、米英仏も核兵器を放棄することはあり得ない。このようにして、核兵器をめぐる議論は平行線をたどる。「核兵器のない世界」は崇高だが、残念ながら実現が極めて困難な努力目標だ。

今回ウクライナ問題が重視されるあまり、地球温暖化対策では大きな進展がなかった。対中戦略についても、前進はなかった。共同声明は、「世界のいかなる地域でも、領土を武力によって変更してはならない」と述べるにとどめた。中国の封じ込めを目指す米国と、中国との経済関係を重視する日独仏の意図が対立したために、G7は強硬なメッセージの発信を避けた。宮島の美しい風景を背に、結束を強調する首脳たちのにこやかな表情も、国際政治・経済の上に垂れ込める暗雲を完全に覆い隠すことはできなかった。

最終更新 Freitag, 26 Mai 2023 17:15
 

ドイツ脱原子力達成と市民の懸念

4月15日深夜、RWEなどドイツの大手電力会社3社は、ニーダーザクセン州のエムスランド原子炉など、最後の原子炉3基のスイッチを切った。ドイツは2011年に日本の福島第一原発で起きた西側最悪の原子炉事故をきっかけに、脱原子力政策を加速し、約62年間続いた原子炉の商業運転の幕を閉じた。

ベルリンやミュンヘンでは、環境保護団体などが脱原子力の完遂を祝った。ロベルト・ハーベック経済・気候保護大臣(緑の党)は、「原子炉が廃止されても、ドイツのエネルギー安定供給は確保される。わが国はロシアの天然ガス供給停止にもかかわらず、冬を乗り切った。脱原子力が後戻りすることはない」と語った。社会民主党(SPD)のサスキア・エスケン党首も「脱原子力を果たしたことを、うれしく思う」と述べた。

4月15日、ミュンヘンのオデオン広場では反原発グループの集会が開かれ、数百人が参加した4月15日、ミュンヘンのオデオン広場では反原発グループの集会が開かれ、数百人が参加した

世論調査で過半数が脱原子力を批判

だが市民の間では、脱原子力について批判的な意見が強まっている。例えばドイツ公共放送連盟(ARD)のニュース番組ターゲスシャウが4月14日に公表した世論調査結果によると、「脱原子力政策は間違っている」と答えた市民の比率は59%で、「正しい」(34%)を25ポイント上回った。ARDによると、18~34歳の市民の50%が脱原子力に賛成したのに対し、35歳以上の60%以上が脱原子力に反対した。

また脱原子力についての意見は、支持政党によっても異なる。緑の党支持者の82%、SPD支持者の56%が脱原子力に賛成した。一方、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)支持者の83%、ドイツのための選択肢(AfD)支持者の81%、自由民主党(FDP)支持者の65%が脱原子力への反対を表明した。

2011年の福島原発事故から3カ月後に行われた世論調査では、54%が脱原子力に賛成し、反対する市民の比率(43%)を上回っていた。これらの数字は、ドイツ市民の間で福島原発事故の記憶が薄れ、原子力を容認する市民が増えていることを示している。

背景にウクライナ戦争によるエネルギー危機

世論の変化を加速したのは、ロシアのウクライナ侵攻後の電力・ガス価格の高騰だ。ARDの世論調査では、回答者の66%が「エネルギー価格の高騰が心配だ」と答え、「心配していない」と答えた人の比率(32%)を大きく上回った。ウクライナ戦争勃発後、ガスと電力の卸売価格が高騰したために、エネルギー供給会社も、一時大幅な値上げを発表。昨年10~11月には、ミュンヘンの地域エネルギー会社SWMが電力・ガス料金の約2倍の引き上げを顧客に通告するなど、「異次元の料金改定」が市民や企業経営者に衝撃を与えた。

もちろん、実際に料金が2倍になったわけではない。独政府が1月1日以降、電力、ガス、地域暖房の価格に部分的な上限を設定する激変緩和措置を実施したため、エネルギー価格の上昇率は抑えられた。さらに昨年8月下旬以降はガスの卸売価格が下落し、これに連動して電力の卸売価格も下がったために、電力・ガス料金が倍増する事態は避けられた。SWMも今年4月1日以降は電力価格を引き下げると発表している。

だが市民の心の中には、昨年のエネルギー価格値上げ通告の際のショックが刻み込まれている。ARDの世論調査結果は、「エネルギー情勢が不安定になっている時期に、使える電源を廃止するのは正しいのか」という市民の不安感を表している。

野党は原子力カムバックを要求

3基の原子炉の廃止後も、原子力エネルギーをめぐる議論は続く。ドイツ商工会議所(DIHK)のアドリアン会頭は「私は、脱原子力後に電力の安定供給が確保されるかどうかについて、疑問を持っている。本来は、エネルギー不足や価格高騰を防ぐために、使用可能な全ての電源を使うべきだ」と述べた。

連立与党内の意見も分かれている。緑の党とSPDは脱原子力に賛成しているが、財界寄りのFDPは、原子力エネルギーという選択肢を放棄するべきではないと主張してきた。FDPのヴォルフガング・クビツキ副党首は「脱原子力は、大きな誤りだ。外国ではドイツのエネルギー政策は世界で最も愚かだと批判されており、われわれはこの汚名を返上しなくてはならない」と語った。

野党CDU・CSUも原子力推進派だ。CDUのカーステン・リンネマン副党首は「エネルギー供給に不安が残っている時期に、使える発電設備を廃止して解体するのはナンセンス」と発言。バイエルン州のマルクス・ゼーダー州首相(CSU)は4月16日、「われわれは原子力についての議論を将来も続ける。エネルギー供給の不安が続く限り、あらゆる電源を使うべきだ。将来は核融合の研究も進めたい」と語っている。

欧州では、脱原子力国は少数派だ。ドイツ、イタリア、オーストリアなどを除くと、大半の国が脱炭素化のために再エネとともに原子力を拡大する政策を取っている。ベルギーは2025年までに脱原子力を予定していたが、ロシアのウクライナ侵攻後、路線を変更し2035年まで運転を続けることを決めた。英仏、東欧諸国、スカンジナビア諸国は、原子力が電源構成に占める比率を拡大する方針だ。ポーランドは現在原子炉を持っていないが、2030年代に最初の原子炉を稼働させる。欧州委員会も、再エネだけではなく原子力を重視している。こういった流れを考えると、将来CDU・CSUとFDPが連立政権を構成した場合、脱原子力政策に変更を加える可能性はゼロではない。原子力をめぐる議論が、ドイツの脱原子力完遂後も続くことは確実だ。

最終更新 Mittwoch, 03 Mai 2023 16:43
 

インフレのためドイツでストライキ激化

今年のドイツでは例年以上に激しいストライキの嵐が吹き荒れており、多くの市民が影響を受けている。

3月27日、ストライキ決行とともに各地でデモが行われた。写真はブレーメンの様子3月27日、ストライキ決行とともに各地でデモが行われた。写真はブレーメンの様子

二つの産業別労働組合が同時スト

3月27日には、サービス業労働組合(ver.di)と鉄道交通労働組合(EVG)が共同で24時間にわたって警告ストライキを断行。ほぼ全国で鉄道、バス、飛行機などの運行が止まり、交通はまひ状態に陥った。空港業務が停止したため、日本からドイツに到着する旅客機も、1日到着を延期した。全国で交通機関の利用者数百万人の足が乱れたと推定されている。

二つの産業別労組が同時にストライキを打つのは、極めて異例だ。3月27日が選ばれたのは、この日から3日間にわたり、ポツダムで労使が賃上げをめぐる3回目の交渉を行ったからだ。経営側は組合側の要求に難色を示していた。このため組合側は大規模ストによって、経営側に対する圧力を高めようとしたのだ。

ver.diは、連邦政府と地方自治体の公共サービス部門で働く職員約250万人のために、平均10.5%(最低月額500ユーロ)の賃上げを要求している。一方EVGは、鉄道労働者のために平均12%(月額650ユーロ)の賃上げや、地域ごとの賃金格差の是正などを求めている。

ver.diは、2桁を超える賃上げ要求の理由について、「ロシアのウクライナ侵攻によって、エネルギー価格が過去になかったほどの勢いで上昇した。2022年通年のインフレ率は6.9%という、第二次世界大戦後最も高い上昇率を記録した。公共サービス部門で雇用されている多くの労働者が、家賃や暖房費、電気代をどのように払えば良いのか、途方に暮れている」と説明した。つまり労働組合は、「経営側は、未曽有のインフレによって実質賃金が減った分を、補填 (ほてん)するべきだ」と訴えているのだ。

これに対して地方自治体経営者連合会(VKA)のカリン・ヴェルゲ会長は、「今年10月1日と来年6月1日に、合計5%の賃上げを行うほか、今年と来年に合計2500ユーロ(35万円・1ユーロ=140円換算)の一時金などを支給する。2024年にはボーナスの額も引き上げる」と回答した。ヴェルゲ会長は、「一時金も加算すると、平均賃上げ幅は12%に達する。使用者側の人件費支出は117億ユーロ(1兆6380億円)も増えることになる。これは気前のいい回答だ」と指摘した。だがver.diは「全く不十分だ」と強く反発し、交渉は決裂した。

ドイチェ・ポストは平均11.5%賃上げへ

だがすでに交渉が妥結した業界もある。3月12日には、郵便会社ドイチェ・ポストの賃上げについて、ver.diと経営側が合意に達した。経営側は交渉の結果、ドイチェ・ポストで働く16万人の労働者について、数カ月間にわたって非課税のインフレ手当3000ユーロ(42万円)を支給するほか、今年4月には1020ユーロ(14万2800円)の一時金を払う。さらに今年5月から来年3月まで、毎月180ユーロ(2万5200円)が支給される。

この結果、ドイチェ・ポストの労働者の平均賃上げ幅は11.5%となる(郵便物集荷人の初任給は約20%、郵便物配達人の初任給は約18%に達する)。ver.diは、平均15%もの賃上げを要求して、今年1月から各地の郵便局でストライキを行ってきた。経営側が2桁の賃上げ要求を受け入れた理由は、3月上旬にドイチェ・ポストの従業員の約85%が「無期限ストを実施するべきだ」という意思表示を行い、経営側に強い圧力をかけたためだ。ドイチェ・ポストが前回無期限ストを行った2015年には、大量の手紙や小包の配達が遅れ、大きな社会的影響が出た。

ちなみにドイツは、ストライキが欧州で最も少ない国の一つだ。ドイツ経済研究所によると、2007年からの10年間に、ドイツでのストで失われた労働日は労働者1000人当たり7日。フランスの123日、デンマークの118日の足元にも及ばない。政治学者の間では、今年ドイツの「春闘」が激化しているのは、インフレによる例外的な事態であり、この国がスト多発国になる可能性は低いという意見が有力だ。

市民の間で強まる不満

興味深いのは、ドイツでも市民の間でストライキに対する理解が減りつつあることだ。世論調査機関DIMAPなどの調査によると、2011年にはドイツの鉄道運転士労働組合(GDL)のストライキについて、「理解する」と答えた回答者の比率は73%だったが、2021年にはこの比率が47%に低下した。これはストライキによって不便をこうむる市民、特にIT業界や金融サービス業界など、自分はストライキを行わない市民の間で不満が強まっていることを示している。ドイツでもストライキを頻繁に行う職種は、交通、郵便などに限られている。

極端なのは、日本だ。ドイツでは毎年のようにストライキが行われるが、日本では近年大規模なストライキが行われることはめったにない。日本の憲法は、ドイツと同じく、公務員以外の労働者にストライキ権を認めている。しかしドイツに比べると、日本では労働組合の影響力が弱い。「お客様に迷惑をかけてはならない」という圧力も強い。

交通機関の利用者にとって、ストライキがないのは何よりだ。ただしお客様に忖度 (そんたく)するあまり、労働者がストライキという実力行使の手段を全く使わないというのも、健全な状態ではないと思う。

最終更新 Dienstag, 04 April 2023 11:07
 

ノルドストリーム爆破で新しい展開

昨年9月にロシアとドイツを結ぶ海底パイプライン、ノルドストリーム(NS)1と2が何者かに爆破された事件で、米独のメディアは「捜査当局は爆破に関与したと見られる船舶を特定した。親ウクライナ勢力が関与している可能性がある」と報じた。

昨年9月27日、デンマークの排他的経済水域内で撮影されたガス漏れの様子昨年9月27日、デンマークの排他的経済水域内で撮影されたガス漏れの様子

「船内から爆薬の痕跡を検出」

3月7日、ドイツ第1テレビ(ARD)、南西ドイツ放送(SWR)、週刊新聞ツァイトの取材チームは、「ドイツ連邦検察庁は、昨年9月6日にロストック港から出港した船が事件に関与している疑いを強めている」と報じた。この船は、ポーランドのウクライナ系企業がチャーターしたもので、男性5人と女性1人が乗船。このチームは船長のほか、2人のダイバーと助手、医師から成り、船長が船を借りるためにドイツの船会社に見せたパスポートは、精巧に偽造されたものだった。

ドイツの捜査当局が昨年9月に船の中で採証活動を行ったところ、船室のテーブルの表面から爆薬の痕跡が検出された。このため捜査当局は、この船が犯行に使われた爆薬を現場海域まで運んだという疑いを強めている。船をチャーターしたポーランドの会社の所有者が2人のウクライナ人であることから、捜査当局は「ウクライナを支援しているグループなどが犯行に関与している可能性がある」とみている。

ドイツ連邦検察庁は3月8日、ARDなどの問い合わせに対し、この船で採証活動を行ったことを認めた。ただし連邦検察庁は、船をチャーターしたグループのメンバーの国籍や、誰が犯行を命じたかなどについては、一切明らかにしていない。この犯行がウクライナもしくは親ウクライナ勢力によるものであるとは、まだ断定できない。捜査当局者の間では、「ロシアの諜報(ちょうほう)機関などが、ウクライナ側が関与しているかのように見せかける『偽旗作戦』を行った可能性も排除できない」という慎重な見方も出ている。諜報機関にとっては、自国が関与した痕跡を抹消し、ほかの国が実行したように見せかけるのはお手の物だからである。

米国のニューヨークタイムズ紙も3月7日、「米国政府はNS1・2の爆破事件が親ウクライナ勢力によって行われたことを示唆する情報を持っている」と報じた。ただし同紙も、犯行グループの国籍や具体的に誰が爆破を命じたかなどについては言及していない。

これに対しウクライナ政府のミハイル・ポドリャク大統領補佐官は3月7日、「わが国はこの爆破事件に全く関与していない」というコメントを発表している。

4本の導管のうち3本が破損

この事件は昨年9月26日午前2時3分、デンマークのボルンホルム島の南東12海里の海底で起きた。その後も同日に2回、29日に1回爆発が観測された。4回の爆発はいずれもNS1とNS2に沿った、水深約70メートルの海底で起きており、当時は海面にガスが漏出しているのが確認された。爆発のうち2回はデンマークの排他的経済水域内、2回はスウェーデンの排他的経済水域内で発生した。

爆発が起きたとき、2本のパイプラインは稼働していなかった。NS1については、ロシアの国営企業ガスプロムが昨年8月31日以来、「技術的トラブル」を理由に西欧へのガス輸送を停止していた。NS2は、昨年2月22日にドイツ政府が稼働許可申請の審査作業を凍結していた。ロシアがウクライナ東部のドネツク・ルガンスク人民共和国の独立を承認したことへの抗議である。しかし2本のパイプラインにはすでにガスが充填(じゅうてん)されていたため、海面にガスが漏れたのだ。

爆破事件の捜査には、スウェーデン、デンマーク、ドイツの軍、検察当局や警察が参加した。ドイツが捜査に加わっているのは、NS1・2のパイプラインが陸地に上がる場所がドイツの領土だからだ。NS1・2は2本ずつ導管を持っている。ドイツ連邦軍と警察が昨年10月中旬に、水中ドローンで撮影した写真によると、4本の導管のうち、3本が損傷を受けており、ある箇所では導管に長さ8メートルの亀裂があった。

海底インフラに高まる脅威

北大西洋条約機構(NATO)のイェンツ・ストルテンベルク事務総長は昨年10月11日、「NATO加盟国の重要なインフラストラクチャーに対する攻撃が行われた場合、われわれは強力に反撃する」という声明を発表した。名指しはしていないものの、ストルテンベルク氏がロシアに警告を発したことは明らかだ。さらに彼は、「NATOは重要なインフラストラクチャーに対する警戒活動を強化するとともに、これらの施設の安全を確保するための情報収集に努めている」と語った。

彼が言う重要なインフラストラクチャーとは、電力、ガス、原油などのエネルギー源を送るパイプラインや送電線、発電所、変電所、さらに通信回線のための海底ケーブルなどを指す。スペインの保険会社マプフレの報告書によると、世界中には378本の海底通信ケーブルが敷設されており、全長は120万キロに及ぶ。

NS1・2については、米国の調査報道ジャーナリスト、セイモア・ハーシュが今年2月、「米国海軍のダイバーが、バイデン政権の命令で、ノルウェー軍の協力を得て昨年6月にパイプラインに爆薬を取り付け、9月にリモートコントロールで爆破した」という内容の記事を公表していた。米国政府は、「根も葉もないでっち上げだ」と反論している。

今回の報道によって、NS1・2爆破事件が完全に解明されたわけではない。しかし物的証拠が確認されたことは、事件の闇に光を当てる上で役立つだろう。

最終更新 Donnerstag, 16 März 2023 19:04
 

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