独断時評


大躍進!緑の党

「来年、我々はバーデン=ヴュルテンベルク州とベルリンでの選挙で勝利する。そして結党以来初めて、ドイツのすべての州議会に議席を確保する」。緑の党のクラウディア・ロート党首は、11月21日にフライブルクで開かれた党大会でこう宣言し、党員たちの拍手を浴びた。

ドイツの政界で今年最も注目すべき出来事の1つは、緑の党が支持率を急激に伸ばしたことである。同党の昨年の連邦議会選挙での得票率は10%前後だったが、今年9月の時点では支持率が倍増して20%を突破した。キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と自由民主党(FDP)が支持率を減らしているのとは対照的である。特にFDPに対する有権者の風当たりは強く、その支持率は5%前後と、緑の党の足元にも及ばない。

とにかく緑の党の幹部は、最近元気が良い。たとえば現在緑の党の連邦議会での会派代表であるレナーテ・キューナスト議員は、来年ベルリン市長選挙に出馬する意向を表明している。同議員はシュレーダー政権で消費者保護・ 食糧農業省の大臣を務めた経験がある。ベルリン市当局は州政府と同格であるため、キューナスト氏が市長に当選した場合、緑の党は初めて州政府首相の座を確保することになる。ベルリンで緑の党への支持率が高いことを考えると、決して夢物語ではない。2013年の連邦議会選挙で、緑の党が再び連立政権に加わる可能性も高まっている。

なぜ緑の党への支持率が高まっているのだろうか。第1の理由は、メルケル政権の経済政策や外交政策に対する国民の失望が高まっていること。たとえば原子炉の稼動年数の延長が、連邦参議院で審議されずに決められたことについても不透明感を抱く市民は少なくない。第2の理由は、緑の党の指導部の結束が比較的固く、SPDほど派閥抗争が表面化してこなかったこと。シュレーダー政権以来、SPDは右寄りになるのか左寄りになるのか、方向性がはっきりしなかった。それに比べると、緑の党は政策でも人事の面でも、ぶれが少なかった。SPD指導部内の路線闘争に失望して、緑の党に流れた有権者もいる。

そして緑の党がハンブルクでCDUと連立政権を樹立するなど、柔軟な政治姿勢を示していることも、多くの市民の間で共感を生んでいる。30年前に緑の党が結成された頃には、CDUと連立することなど想像もできなかったが、今日の緑の党は急速に現実路線を強めている。そして緑の党は、左派やリベラルな市民だけでなく、中間階層を引き付けることに成功しつつある。中間層は選挙のたびに投票する党を変える浮動票であり、各党の選挙参謀にとっては最も重要な票田である。浮動層に属する市民の多くはメルケル政権にもSPDにもがっかりして、緑の党の路線に魅力を感じているのだ。

だが緑の党の公約を読むと、富裕層や企業経営者には厳しい内容である。たとえば同党は、公的健康保険の財政難を解決するために、いわゆる「Bürgerversicherung(市民保険)」を創設して、自営業者や民間健康保険に入っている市民にまで保険料を払わせることを提案している。また、自営業者にも営業税を払わせることや、所得税の最高税率を引き上げることを求める。つまり緑の党は、現在以上に富裕層から低所得層に富を再分配することを狙っているのだ。このことについては、ドイツ経済で重要な位置を占める中規模企業(ミッテルシュタント)で働く人々から異論も出るだろう。

いずれにしても、緑の党の快進撃によって、ドイツの政界に大きなうねりが生まれたことは間違いない。来年の一連の州議会選挙、3年後の連邦議会選挙の結果が注目される。

3 Dezember 2010 Nr. 845

最終更新 Mittwoch, 24 August 2011 09:52
 

アイルランド問題とドイツ

ユーロ圏に住む市民の頭上に、再び黒雲が広がってきた。アイルランドは深刻な経済危機と過重な財政赤字に苦しんでいるが、11月に入って国債の価格が暴落している。同国政府は高いリスク・プレミアムを払わないと、国外の資本市場で国債を投資家に買ってもらうことができなくなっているのだ。国債が売れないということは、政府が借金をできなくなるということを意味する。これは今年前半にギリシャ政府が国債を売れなくなり、欧州連合(EU)の緊急援助を申請した時と同じ状況である。EU債務危機の第2幕が始まった。

アイルランドの財政赤字は、国内総生産(GDP)の30%を超えると予想されている。不良債権に苦しむ銀行を再建するために、多額の公的資金を注ぎ込んだことが最大の原因である。

同国政府はこの原稿を書いている11月17日の時点では、「来年中頃までは、十分な資金があるのでEUの援助は必要ない」と主張している。しかしEUと国際通貨基金(IMF)は、アイルランド政府が援助を申請した時に素早く対応できるよう、救済プランを着々と準備している。本稿が発表される時には、アイルランドはすでに援助を申請しているかもしれない。ギリシャの時と異なり、EUはすでに7500億ユーロ(約82兆5000億円)の資金を抱える援助システムを持っている。このためアイルランドが援助を申請すれば、直ちに救いの手が差し伸べられるので、市場の混乱は長続きしないものと見られる。

ところでアイルランド政府は、「わが国の国債価格が暴落したのは、メルケル首相のせいだ」と批判している。ドイツ政府は、10月に行われたEU首脳会議などで「ユーロ圏加盟国が債務危機に陥ったら、借金のリスケジューリング(借り換え)を行い、国債を買っていた銀行などの投資家にも負担を課すべきだ」と主張してきた。リスケジューリングとは、窮地に追い込まれた債務者が借金を返せるように、条件を緩和して新しい融資計画を作ることを意味する。政府に対するリスケジューリングでは、その国の国債を買っている銀行などの機関投資家が、債権の一部をあきらめさせられることがある。つまり、国債に投資したお金の一部が返って来なくなり、銀行に損失が生じるというわけだ。今年5月のギリシャの債務危機の時にも、一時リスケジューリングの噂が流れたが、銀行の間で不満の声が強まったため、EUは実施しなかった。

しかしメルケル首相は、「市民たちが税金で過重債務国を助けている時に、銀行だけが負担を免れるというのは不公平だ」として、将来はリスケジューリングによって金融機関にも負担を求めるという姿勢を打ち出している。もっとも現在のEUの援助システムは2013年まで続くので、仮にリスケジューリングが導入されるとしても、3年後のことである。

アイルランド政府は、「メルケル首相の発言で投資家の間で不安が広がり、国債を手放す者が増えたために価格が暴落した」と主張している。ドイツ政府はこうした見方を全面的に否定している。しかし、もしもリスケジューリングが導入されることになれば、これまでは「借り手が政府なので、比較的安全な投資手段」と考えられてきた国債に対する投資家の見方は大きく変わるだろう。

それにしても、わずか1年の間に2つの国が債務危機に陥るとは、ヨーロッパという患者の容態はまだまだ健康と言うには程遠い状態である。スペインやポルトガルなど、ほかの国にまで問題が飛び火しないことを祈る。

26 November 2010 Nr. 844

最終更新 Donnerstag, 20 April 2017 14:30
 

ドイツ経済のカムバック?

今年10月末、ドイツ経済にとって明るいニュースが舞い込んだ。フォン・デア・ライエン労働大臣は、10月の失業者数が18年ぶりに300万人台を割ったことを明らかにしたのだ。失業者の数は9月と比べ、実に8万6000人も減った。特殊技能を持つエンジニアなど一部の人材は不足しつつあり、企業の間で奪い合いが始まっている。

ドイツはリーマン・ショックに端を発するグローバルな金融危機、そして輸出の激減によって大きな打撃を受けたが、その後遺症から急速に立ち直りつつある。

その兆候は、経済成長率にもはっきりと表れている。連邦統計庁によると、今年4~6月にドイツの国内総生産(GDP)は第1四半期と比べて2.2%も増えた。3カ月間の成長率としては、1990年のドイツ統一以来最高の数字だ。第1四半期の成長率は、まだ0.5%にすぎなかった。

GDPを押し上げたのは、外国での急激な需要の伸びである。特に好調なのが、ドイツ経済の屋台骨である自動車業界。フォルクスワーゲン社は、「2010年の1~8月までに販売台数が13.4%増加した」と発表した。特に米国で販売台数が22.1%、中国で41%、インドで126%増えるなど、海外市場での伸びが目立った。

またダイムラーでは、今年第2四半期の売上高が前年同期に比べて28%増加した。高級車への需要が増えたために、同社の米国での売上高は21%、中国では182%も増加している。BMWでも第2四半期の売上高が18.3%増加し、利益は前年の同時期と比べ、約7倍に増えた。

現在、ユーロの他通貨に対する交換レートが比較的低いことが、ドイツの輸出産業にとって有利に働いていることは間違いない。しかしドイツ経済のカムバックは、ユーロ安だけでは説明できない。たとえばユーロ圏加盟国の4~6月の成長率は、ドイツよりもはるかに低いのだ。EU統計局によると、第2四半期のフランスのGDP成長率は0.6%、イタリアは0.4%と、ドイツに大きく水をあけられている。ユーロ安だけが経済成長の起爆剤だとすれば、ドイツ以外の国でも成長率はもっと高くなっているはずだ。経済関係者の間では、ドイツ工業界の受注が増えているのは、中国や米国などでドイツ製品の質が評価されているためだと言う声が強い。

また、ドイツの産業界が急激に生産を拡大できた背景には、各企業がクルツアルバイト(短時間労働)制度によって、正社員の解雇を最小限に抑えられたという事実もある。受注が大幅に減った場合、企業は連邦労働庁に短時間労働制度の適用を申請し、労働時間を短縮する。労働時間の削減によって給料は減るが、連邦労働庁が給料の差額の60~67%を社員に支払う。さらに公的年金保険や健康保険、介護保険などの保険料も政府が負担。つまり社員は、給料が減った分を国に補てんしてもらえるので、直ちに経済的な困難に陥らずにすむ。

短時間労働の支援を受けられる期間は原則として最高半年間だったが、政府は2009年1月に支援期間を1年半まで延ばした。社員はこの制度によって解雇を免れられるし、経営者も経験豊富な社員を失わずにすむ。

もっとも、アイルランドやギリシャなど、ユーロ圏の公的債務危機の火種は今もくすぶっている。債務問題が再燃した場合、輸出大国ドイツは再び冷水を浴びせられる。EUには、欧州発のグローバル金融危機を防ぐために、最大限の努力をしてもらいたい。またドイツ政府は、経済の輸出依存度を減らすために、内需を拡大する努力も行うべきだろう。

19 November 2010 Nr. 843

最終更新 Donnerstag, 20 April 2017 14:30
 

ユーロ安定化への遠い道

昨年の総選挙に勝ち、ドイツの保守中道連立政権の首相として再選されたメルケル氏だが、今年は内外から批判の集中砲火を浴びている。これまでメルケル首相は外交政策に関して高い評価を受けてきたが、この秋には欧州連合(EU)との折衝で大きな挫折を経験した。焦点となったのは、ユーロの安定化をめぐる交渉である。

今年5月のギリシャの債務危機をきっかけとしてEUは、3年間にわたる緊急救済制度を発足させた。メルケル首相はEUのリスボン条約を改正して、財政赤字や公共債務に関する基準に違反した国に、自動的に制裁を加えることを提案していた。特にドイツは、違反国から理事会での議決権を剥奪することを求めていた。ユーロを安定化させるには罰則を厳しくしなければならないというのが、ドイツの主張だ。

さらに現在の緊急救済制度は、EUの事実上の「憲法」とも言うべきリスボン条約に盛り込まれていない。このためドイツでは2013年度以降、連邦憲法裁判所が緊急救済制度を「憲法違反」と判断する可能性がある。その場合、ドイツ政府の面目は丸つぶれになる。メルケル氏はこうした事態を防ぐために、リスボン条約を改正してこの制度について明記することを要求していた。 

しかし10月29日にブリュッセルで開かれたEU首脳会議で、メルケル氏は孤立した。自動的な制裁措置や議決権の剥奪は、ほかの加盟国の激しい反対によってリスボン条約に盛り込まれないことが決まった。そして将来、ギリシャのように基準に違反し続ける国が再び現われても、自動的に罰を受けるのではなく、各国の首脳が集まって様々な事情を勘案した上で、罰則を適用するかどうかを決めることになった。ドイツ人は日常生活でも万事について法律や規則を最優先しようとする傾向があるが、フランスや南欧の国々ではそうした態度は受け入れられない。今回の決定は、サルコジ仏大統領の勝利である。

EU諸国は、ドイツの国内事情にも配慮し、リスボン条約を改正して救済制度に法的な裏付けを与えることには同意したが、規則の強化というドイツにとって最も重要な提案は認められなかった。

メルケル政権の副首相であるヴェスターヴェレ外相は、「ユーロを安定化させるには、政治家がケースバイケースで判断するのではなく、厳しい規則が必要だ」と述べ、メルケル首相が自動的な制裁措置の導入に失敗したことを間接的に批判した。ヴェスターヴェレ氏は外相という立場にありながら、ユーロ安定化をめぐるEU諸国との交渉でメルケル首相から蚊帳の外に置かれていたので、腹を立てている。副首相が首相を公然と批判するとは、メルケル政権にとって末期的な症状である。

ドイツは、ユーロが誕生する前の1990年代後半にも、基準に違反した国に対する自動的な制裁メカニズムを導入しようとして失敗した。当時のコール政権のヴァイゲル財務相も、フランスなどの強硬な反対にあって要求を引っ込めざるを得なかった。

規則や法律よりも、国家としての決定権を重視するフランスと、規則最優先のドイツ。EUの屋台骨である2つの国の意見が、火と水のように異なっているのだ。さらにEUの小国は、独仏が中心となってユーロに関する政策を取り仕切ることを不愉快に思っている。これらの事実は、ユーロを安定化させ、信用性を長期的に維持するという課題が、いかに難しいものであるかを浮き彫りにしている。

12 November 2010 Nr. 842

最終更新 Donnerstag, 20 April 2017 14:30
 

ドイツ外務省の過去

世界には、自国の歴史の暗い部分を隠そうとする国と、積極的に公表して犯罪の再発を防ごうとする国の2種類がある。ドイツは世界で最も積極的に、過去の犯罪を自ら暴いてきた国である。この秋、歴史と批判的に対決する試みに、新たな1ページが加えられた。

シュレーダー政権の外相だったヨーゼフ・フィッシャー氏は、在任中に4人の歴史学者に外務省の内部文書を公開して、ナチス時代の外務省の役割について研究を依頼していた。そして今年10月末、ついに歴史家たちが最終報告書を発表した。その結果、ドイツ外務省がこれまで知られていた以上に、ナチスの犯罪に積極的に加担していたことが明らかになったのだ。

当時の外務省の職員の中には、ユダヤ人虐殺に積極的に加担していた者もいた。たとえば「ユダヤ人問題担当課」に属していた外交官フランツ・ラーデマッハーが、ベオグラードとブダペストに出張した際の旅費の精算書類には、出張目的として「ベオグラードのユダヤ人殲滅(Liquidation)」とはっきり記されている。この1枚の紙片には、外交官たちの間で犯罪の感覚が麻痺していたことが浮き彫りにされている。旅費の精算を担当した事務職員も、ユダヤ人虐殺を知っていたことになる。

リヒャルト・フォン・ヴァイツゼッカー元連邦大統領は、ドイツの政治家の中でも過去との対決を最も重視した人物だが、彼の父親エルンスト・フォン・ヴァイツゼッカー氏は、ナチス政権のリッベントロップ外相の下で外務次官を務めていた。今回公表された文書から、エルンスト・フォン・ヴァイツゼッカー氏が、ナチスに批判的だったために迫害された作家トーマス・マンの市民権の剥奪に賛成していたことが、初めて明らかになった。この事実は、息子であるヴァイツゼッカー元連邦大統領も知らなかったという。報告書を執筆した歴史家の1人、エッカート・コンツェ氏は、「ナチス時代の外務省は、犯罪的な組織だった」と断言している。

さらに報告書は、戦後ドイツ外務省がナチスに協力した外交官の大半を追放せず、多くの協力者が外交官として勤務し続けたことも指摘。特に注目されるのは、戦後外務省に設置された「中央権利保護局」である。この機関は、外国に逃亡したナチスの戦犯に対して、どの国で逮捕状が出ているかを教える一種の情報サービスを行っていた。役所が犯罪者を助けるとは、今日のドイツの価値観では考えられないことである。フィッシャー元外相はこの組織の存在を、「最大のスキャンダルの1つ」として厳しく批判している。1950年代の西ドイツでは、ホロコーストの全容すら、まだ市民には明らかになっていなかった。このため、ナチスを批判的に見る社会の空気は、現在に比べてはるかに薄かったのである。

最終報告書は「役所と過去・第三帝国とドイツ連邦共和国の外交官たち」という本として書店で販売される。半世紀以上前のこととはいえ、ドイツ人にとって歴史の恥部を全世界に公表することは、つらい作業である。それでもドイツ政府は、周辺諸国の信頼を維持するには、自らの過去と批判的に対峙する以外、道はないと考えて、1960年代からこうした作業を地道に行ってきたのである。過去との対決は、被害者への補償、教育、犯罪捜査、マスメディアによる報道、若者のボランティア活動など様々な形で行われており、国民の大半が支持している。一部の大企業も社史の中で暗部を公表している。もしもドイツが戦後こうした努力を怠っていたら、この国が現在ほど周辺諸国、そして被害者が最も多く住んでいるイスラエルから信頼されることはなかったに違いない。

5 November 2010 Nr. 841

最終更新 Mittwoch, 24 August 2011 09:53
 

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