独断時評


ドイツにEV時代は到来するか?

最近ドイツでは、電気自動車が歩道の充電スタンドにコードで繋がれて充電されているのをよく見かける。そうしたなか、今年1月にドイツ連邦自動車庁(KBA)が発表した統計は、政界・経済界を驚かせた。

街中に設置された充電スタンドを利用する電気自動車(撮影:熊谷徹)街中に設置された充電スタンドを利用する電気自動車(撮影:熊谷徹)

•EVとPHVの販売台数が急増

2020年に電気自動車(EV)とプラグインハイブリッド(PHV)の新車の販売台数が、前年比で3倍ないし4倍に増えたからだ。同国でEVとPHVの販売が始まって以来、これほど急激に販売台数が伸びたことは、一度もなかった。

KBAによると、EVの新車販売台数は、2019年には6万3281台だったが、2020年には約207%増えて、19万4163台となった。またPHVの新車は、2019年には4万5348台売れたが、昨年は342%増えて20万469台売れた。

2019年に売れた新車のうち、EVとPHVの比率は3.1%だったが、2020年にはその比率は13.6%に増えた。逆にガソリンエンジンかディーゼルエンジンを使う車の比率は、91.2%から74.8%に著しく減った。

•政府が購入補助金を倍額に

昨年EVとPHVがドイツで爆発的に売れた最大の原因は、政府がこの2種類の車について、新車購入補助金を増やしたからだ。

メルケル政権は、昨年6月にコロナ不況に対抗するために、さまざまな景気刺激策を発表した。そのなかで政府は、「2020年7月8日から2021年末まで、EV(燃料電池車を含む)かPHVを買う市民への購入補助金(環境ボーナス)のうち、政府負担額を2倍に増やす」という方針を打ち出した。政府はこの政府補助金を技術革新ボーナスと呼んでいる。補助金の残りの部分は、自動車メーカーが負担する。

これにより価格が4万ユーロ(504万円・1ユーロ=126円換算)までのEVを購入する際に、市民が受け取れる補助金の総額は、最高9000ユーロ(113万4000円)になった。新車を買う際に、政府とメーカーの支援措置によって価格が113万円も安くなるというのは、大きな魅力である。価格が4万ユーロを超える車の場合、政府とメーカーからの購入補助金の総額は7500ユーロ(94万5000円)になる。

政府はこれらの支援措置のために、22億ユーロ(2772億円)の予算を投じた。ただしPHVではないハイブリッド車と内燃機関の車には、購入補助金は出ない。これには、EVとPHVをモビリティーの中心に据えることで、運輸部門からの二酸化炭素(CO2)の排出量を大幅に減らそうというメルケル政権の意図が含まれている。

•ユーザーの間で大反響

この政策は、市民の間でメルケル政権の予想を上回る反響を生んだ。2020年7月の補助金申請件数は1万9993件だったが、同年8月には2万7436件に増えた。2016年に新車購入補助金制度が導入されて以来、これほど申請件数が多かったことは一度もない。

メルケル政権は、コロナ禍の対策を発表した昨年6月には、技術革新ボーナスによる補助金倍額措置を、2021年末までに限っていた。しかしこの政策が市民の間で非常に好評だったために、連邦経済エネルギー省は2020年11月に、この措置を2025年末まで延長することを発表した。

ただし2022年以降に補助金倍額措置の適用を受けられるPHVは、バッテリー機構による最低走行距離が60キロメートルの車に限られる。2025年には、補助金の対象は最低走行距離が80キロメートルのPHVに限られる。

•充電インフラの拡大が必須

メルケル政権は、2030年までに運輸部門からのCO2排出量を、1990年比で40~42%減らすことを目指している。このため政府は、2030年までに700万~1000万台のEVを普及させることを目標にしている。ドイツの自動車税は、もともと排出する有害物質が少ないほど税率が低くなる。連邦財務省はEV普及目標を達成するために、2020〜2025年までに新車登録されたBEVは、自動車税を免除している。

だが最大のネックは、充電スタンドの不足だ。今年1月現在のドイツの公共充電端末数は、3万4056個にすぎない。モビリティーの電化を実現するには、連邦政府は民間企業や地方自治体を支援して、充電インフラを迅速に整備する必要がある。

「将来コロナパンデミックが終息した時にイタリアやクロアチアに車で旅行したいが、ドイツで電力会社などと契約すれば、外国でも充電できるのか」という疑問を持っている人も多いだろう。昨年のPHVの販売台数がEVよりもやや多い背景には、そうした懸念もある。PHVならば、万一充電スタンドが見つからなくても、しばらく内燃機関を使って走ることができる。充電インフラの拡充は欧州全体で行う必要がある。

ただし、ドイツの自動車業界のEVシフトの流れは加速するだろう。ドイツ自動車工業会(VDA)は昨年秋に「2050年までにモビリティーのカーボンニュートラルを達成する」と宣言している。フォルクスワーゲンをはじめ、各メーカーも今後はEV・PHVの車種を大幅に増やす。米国テスラはブランデンブルク州に大規模なEV製造工場を建設している。

10年後のドイツの街角では、今よりもEVやPHVを見かける頻度が増えているに違いない。

最終更新 Donnerstag, 18 Februar 2021 09:53
 

CDU党首にラシェット氏 連邦首相候補決定は春に

キリスト教民主同盟(CDU)は、1月16日のオンライン党大会で、ノルトライン=ヴェストファーレン(NRW)州のアルミン・ラシェット首相(59歳)を新党首に選んだ。

1月16日のオンライン党大会で演説するラシェット氏1月16日のオンライン党大会で演説するラシェット氏

党首選では辛勝

CDUはメルケル路線の継承者として知られるラシェット氏を中心に、コロナ・パンデミックや景気後退などの難題に取り組む。だが最も注目される連邦議会選挙の首相候補は決まっておらず、キリスト教社会同盟(CSU)のマルクス・ゼーダ―党首とラシェット氏が協議して、4月の復活祭後に決定される予定だ。

ただしラシェット氏は、圧勝したわけではない。第1回目の投票では、ラシェット氏だけでなく、中道右派のフリードリヒ・メルツ元院内総務、連邦議会のノルベルト・レットゲン外務委員長も過半数を取れなかった。メルツ氏が385票を獲得したのに対し、ラシェット氏の得票数はそれよりも5票少なかった。この開票結果は、CDU内部の路線が必ずしも統一されていないことを物語っている。ラシェット氏は決選投票で521票を獲得し、メルツ氏(466票)を下した。

メルケル路線の強力な支持者

ラシェット氏はドイツ語で「Merkelianer(メルケリアーナー)」、つまり熱烈なメルケル支持者の1人。メルケル氏が2015年に多数のシリア難民にドイツでの亡命申請を許したために、党内外から厳しく批判された時にも、頑として首相の難民政策を支持し続けた。

ラシェット氏は党大会での演説で、「われわれは、社会の真ん中で強くなることによってのみ勝利することができる。この国には、まずメルケル首相が好きで、次にCDUが好きだという人がたくさんいる。メルケル首相の優れた点は、『信頼感』という言葉に集約することができる。今CDUが党として必要としているのは、まさに信頼感だ」と語っている。

同氏は、フリージャーナリストとしてラジオ放送局やアーヘンの教会新聞などのために働いた経験を持つ。1989年にCDUに入党して5年後には連邦議会議員となった。1999年から6年間は欧州議会の議員も務めている。2017年のNRW州議会選挙ではCDUが第1党となり、州首相の座を射止めた。

復活祭後に首相候補を決定か

最大の焦点は、今年9月26日の連邦議会選挙へ向けて、誰が首相候補になるかである。実はCDU・CSUには、ラシェット氏よりも有力視されている政治家がいる。バイエルン州のゼーダ―首相だ。ドイツ第2テレビ(ZDF)が昨年11月13日に公表した世論調査によると、「CSUのゼーダ―党首が首相候補に適している」と答えた人の比率は58%で、ラシェット氏と答えた人の比率(27%)を大きく上回っている。

ゼーダ―氏は、「誰が連邦議会選挙で首相候補として出馬するかは、私とラシェット氏の話し合いで決める」と語っている。両氏ともに、緑の党との連立については前向きの姿勢を取っている。ゼーダ―氏は、昨年3月以来厳しいコロナ対策を行ってきたことで人気が急上昇した。しかしCSUでは、彼がバイエルン州の首相のポストに留まることを希望する声が強い。

ロックダウン強化の背景に、変異株への不安

現在の政局の焦点は、コロナ対策だ。ドイツではコロナ対策の巧拙が敏感に政治家の支持率に反映される。12月16日に施行されたロックダウンによって、直近1週間の人口10万人あたりの新規感染者数は、減る傾向を見せている。イェンツ・シュパーン連邦保健大臣は、「市民が接触や旅行を自粛してくれたからだ」と述べている。

だが、油断は禁物だ。ドイツでは今も毎日約1000人の市民が、新型コロナウイルスの犠牲となっている。メルケル政権は、新規感染者数が減る兆候を見せているにもかかわらず、ロックダウンを2月14日まで延長した。さらに企業に対してテレワークを強化させる政令を発布したほか、商店や公共交通機関を利用する際にFFP2マスクなど高性能のマスクの着用を義務付けるなど、ロックダウンを強化した。

この背景には、英国で見つかった新型コロナウイルスの変異株B.1.1.7について、メルケル政権が警戒心を強めているという事実がある。オックスフォード大学の研究によると、B.1.1.7の感染率は、これまでの新型コロナウイルスよりも20~35%高い(70%という説もある)。しかも英国のボリス・ジョンソン首相は1月22日の記者会見で、「B.1.1.7は感染率だけではなく、死亡率も従来のウイルスよりも高いことを示すデータがある」と発言している。

ベルリン・シャリテー医科大学病院のクリスティアン・ドロステン教授も、「現在は1日あたりの新規感染者数が2万~3万人だが、B.1.1.7の抑え込みに失敗したら、毎日10万人ずつ感染者が増えるかもしれない」と警告している。B.1.1.7によって新規感染者数が急増した場合、医療資源が枯渇して死者数がさらに増える危険がある。頼みの綱である予防接種も、昨年夏の欧州連合(EU)の注文数が少なすぎたことや、認証の遅れ、メーカーの生産が間に合わないことなどにより、遅々として進まない。

ラシェット氏、ゼーダ―氏のどちらがメルケル首相の後継ぎになるにせよ、パンデミックおよび不況との闘いという険しい道程を歩まざるを得ないことだけは確実である。

最終更新 Donnerstag, 04 Februar 2021 09:30
 

コロナ予防接種をめぐり激論

ドイツではロックダウンにもかかわらず、新型コロナウイルスの新規感染者や死亡者の数が高止まりの状態にあるが、昨年12月27日(一部の地域では26日)にワクチンの予防接種が始まった。

昨年12月26日、ドイツで初めて新型コロナワクチンを接種した101歳の女性昨年12月26日、ドイツで初めて新型コロナワクチンを接種した101歳の女性

他国に比べて低い接種数

接種は介護施設に住む80歳を超える市民やコロナ病棟で働く医療従事者らから始まり、1月13日までに約69万人が第1回の投与を受けた(このワクチンは、約3週間の間隔を置いて2回注射する必要がある)。各州政府は全国に合計で約400カ所の予防接種センターを開設しており、今後接種の対象を70歳を超える市民、60歳を超える市民へと広げていく。

予防接種の滑り出しは、他国に比べてスムーズではなかった。このため一部の州首相から「欧州連合(EU)とドイツは、ワクチンの購入量が少なすぎたのではないか」という批判が出た。確かに13日時点では、EUでの投与数は米国やイスラエルに比べて少ない。

イスラエルではすでに国民の22.2%、英国では4.2%が1回目の投与を受けているが、ドイツでは0.82%にすぎない。ドイツではマインツのビオンテック社が米国ファイザー社と共に、早期にワクチンを開発したことを考えると、滑り出しの悪さは意外だ。

EUは約23億本を注文

連邦保健省のイェンツ・シュパーン大臣は、「EUやドイツの購入本数が少なすぎたわけではない。現在各国でワクチンの需要が急増しているのに対し、メーカーの製造が追いつかないのが最大の理由だ」と説明している。このためビオンテック社はマールブルクでもワクチンの製造を始めて、供給量を増やす方針だ。

ちなみにEUは、1月13日までに6社に対し合計22億6500万本のワクチンを注文している。調達先を1社に集中しなかったのは、事前に注文してもメーカーが開発に失敗する可能性もあるため、リスクを分散することが狙い。このうち欧州医薬品局が審査を終えて、欧州委員会に承認を勧告したのは、ビオンテック・ファイザーの製品と、米国モデルナの製品の2種類。ワクチンが1年に満たない短期間に開発されたことを考えると、欧州医薬品局が副作用の有無などについて時間をかけて審査を行うのは止むを得ないだろう。EUは「調達不足」という批判を受けて、1月8日にビオンテック・ファイザーの製品を3億本買い足して、合計6億本を注文し終えた。

投与されたワクチンの本数

ゼーダ―首相「介護職に予防接種の義務化を」

さて、新型コロナウイルスによって重症化したり死亡したりする危険が最も高いのは、高齢者である。お年寄りの中には、糖尿病や心臓病などの基礎疾患を持っている人が少なくない。ロベルト・コッホ研究所によると、昨年12月23日までの累積死者数のうち、感染場所が判明している死者9692人の感染場所を調べてみると、82.9%が介護施設だった。

このためドイツ政府は介護施設で働く職員たちもワクチン投与キャンペーンの「第1グループ」に指定し、優先的に予防接種を行おうとしたが、ふたを開けてみると「副作用が心配なので予防接種を受けたくない」という職員の比率が予想以上に高かった。メディアは、「一部の介護施設では、職員の約70%が接種を拒否した」と報じている。ドイツ集中治療学会のアンケートによると、同国で介護業務を行っている人のうち、「予防接種を受ける」と答えた人の割合は約50%だった。

1月13日の時点では、ドイツではこのワクチンによる重篤な副作用は報告されていない。しかしソーシャルメディアの世界では、メルケル政権のコロナ対策に反対する勢力などが、予防接種についても否定的な情報を流している。このため一部の介護職員は、不安を感じているのだろう。

バイエルン州政府のマルクス・ゼーダ―首相は1月上旬に「介護施設の職員など一部の職業について、新型コロナウイルスの予防接種を義務化するべきだ」と発言して物議をかもした。しかし介護業界は、義務化に批判的だ。ドイツ介護従事者連盟(DBfK)のクリステル・ビーンシュタイン理事長は、「介護従事者の何%が予防接種を拒否しているかについての、信頼できる統計はない。3年間の研修を終えた介護従事者は、予防接種の重要性を十分に理解しているはずだ」と主張し、義務化に反対の意思を示した。

今のところ連邦政府は、全ての国民に対する予防接種の義務化については反対している。しかしドイツでは、ほかの病気についてはすでに予防接種で義務化されているものもある。昨年3月1日以降、学校や幼稚園に入るには、はしか(麻しん)の予防接種を受けたことを示す証明書を見せることが義務付けられている。こう考えると、一部の職種で予防接種義務が導入される可能性は否定できない。この国では当分の間、予防接種をめぐって激しい議論が行われるだろう。

最終更新 Donnerstag, 21 Januar 2021 11:15
 

2021年のドイツを展望する政治が大きく変わる年に

厳しいコロナ・ロックダウンのなか、2021年が始まった。わずか1年間で世界がこれほど大きく変わるとは、2020年の元日には想像もできなかった。

毎年恒例の新年演説を行ったメルケル首相(12月30日撮影)毎年恒例の新年演説を行ったメルケル首相(12月30日撮影)

コロナ第2波で苦戦する優等生ドイツ

今年も最大のテーマは、人類のパンデミックとの闘いである。昨年秋以降、新型コロナウイルスの拡大に拍車がかかっている。世界保健機関(WHO)によると全世界で7500万人を超える市民が感染し、約170万人が犠牲となっている。最も被害が深刻なのは米国で、12月21日までの24時間で新規感染者数が約40万人増え、約2700人が死亡した。

ドイツは2020年3~5月の第1波では、感染者数や死者数をほかの欧州諸国よりも低く抑えることに成功し、「コロナ対策の優等生」と呼ばれた。他国の重症者を受け入れて治療するほどの余裕があった。

だが昨年10月以降はドイツでも新規感染者数が毎日うなぎ上りとなり、12月には1日の新規感染者数が2万~3万人に達した。1000人を超える死者が出た日もある。昨年春にイタリア北部やフランス東部で起きた惨状が、約9カ月遅れてドイツにも到達したのだ。ザクセン州やブランデンブルク州の一部の病院では、人工呼吸器付きの集中治療室(ICU)が不足し、ヘリコプターなどでほかの病院に重症者を移送してい る。

メルケル政権は「11月2日から行っていた部分的ロックダウンは不十分だった」として、12月16日に大半の商店の営業禁止、学校の閉鎖を含む厳しいロックダウンに切り替えた。私は1990年から30年以上ドイツに住んでいるが、街角にクリスマス市場がなく、家族や友人との会食、旅行までが制限される年の瀬は初めてだ。

12月下旬には、英国でこれまでよりも感染力が70%強いといわれるコロナ変異種が発見され、ドイツを含む数カ国が英国からの航空機の乗り入れを禁止した。これも気を重くするようなニュースである。

ワクチンはパンデミックにブレーキをかけるか?

唯一の希望の光は、昨年12月に投与が始まったワクチンである。欧州諸国は、重症化の危険が最も大きい80歳以上の高齢者や、重い基礎疾患を持つ市民、介護施設の勤務者、コロナ病棟で働く医療従事者への予防接種を開始した。通常のワクチンよりも迅速に開発、承認されたこのワクチンが、重症者や死亡者の増加速度にどの程度ブレーキをかけることができるか、重篤な副作用のリスクはどの程度あるのかなど、多くの課題が残されている。2021年は、人類が科学の力によってウイルスとの闘いに転機をもたらすことができるかどうかを左右する、重要な年である。

メルケル首相の後継者は誰に?

2021年はドイツの政局にとって大きな変化の年だ。2005年以来首相を務めてきたアンゲラ・メルケル氏がいよいよ政界を引退する。つまりわれわれは、16年ぶりに新しい首相を持つことになる。来年9月26日の連邦議会選挙は、この国の行方を左右する重要な選挙となるだろ う。

昨年11月時点でのキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と緑の党の支持率を合わせると、50%を優に超える。市民の間で地球温暖化・気候変動についての関心が極めて高いことを考えると、これらの党が連邦レベルで初めて連立政権を樹立する公算が大きい。その場合、誰がメルケル首相の後継者になるのかは、未知数である。

その試金石となるのが、CDUが1月15~16日に実施する党大会だ。同党はこの党大会で、新党首を選ぶ。立候補しているのは、ノルトライン=ヴェストファーレン州のアルミン・ラシェット首相、フリードリヒ・メルツ前連邦議会院内総務、ノルベルト・レットゲン連邦議会外務委員長の3人。だが伏兵として、バイエルン州のマルクス・ゼーダ―首相(CSU)や、イェンツ・シュパーン連邦健康大臣の名前も見え隠れする。

一方、緑の党の2人の共同党首(アンナレーナ・ベアボック氏とロベルト・ハベック氏)のうち、どちらが首相候補(Spitzenkandidat=筆頭候補)として選挙で戦うのかも決まっていない。いずれにせよ、緑の党が政権入りした場合、政府が経済の非炭素化を加速することは確実だ。経済界にとっても極めて重要な選挙となる。

さらに2021年は選挙が目白押しの年。連邦議会選挙のほかに、次の六つの州で州議会選挙が行われる。

投票日
3月14日 バーデン=ヴュルテンベルク
3月14日 ラインラント=プファルツ
4月25日 テューリンゲン
6月6日 ザクセン=アンハルト
9月26日 ベルリン
9月26日 メクレンブルク=フォアポンメルン

今年は、コロナ不況を受けて倒産する企業数が増加すると予想されており、パンデミックの経済的打撃が昨年以上に顕在化する。ドイツではコロナ対策に成功するか、失敗するかが政党の支持率に大きな影響を与える。欧州経済の機関車役ドイツが、誰をメルケル首相の後継者に選ぶか。欧州だけではなく、世界中が今年秋の連邦議会選挙に注目することは確実だ。

筆者より読者の皆様へ

いつも独断時評を読んでくださり、誠にありがとうございます。今年もよろしくお願い申し上げます。

最終更新 Donnerstag, 07 Januar 2021 11:13
 

2021年の連邦議会選挙で緑の党が政権入りか?

今ドイツだけでなく欧州全体が、環境政党・緑の党の一挙手一投足に注目している。その理由は、来年9月26日の連邦議会選挙で、緑の党が連立政権に参加する可能性が強まっているからだ。政権参加が実現すると、同党は1998年の赤緑連立政権以来、23年ぶりに政権の一翼を担うことになる。

11月21日、緑の党のオンライン党大会で話すハベック氏(左)とベアボック氏(右)11月21日、緑の党のオンライン党大会で話すハベック氏(左)とベアボック氏(右)

緑の党の支持率は第2位

緑の党は11月20日から3日間にわたり、初のオンライン党大会を開いた。共同党首の1人であるアンナレーナ・ベアボック氏は、「われわれは2021年に新たな時代をスタートさせる」と党員たちに呼びかけた。もう1人の共同党首であるロベルト・ハベック氏も、「長年にわたり、緑の党の政権入りについては、拒否反応が示されることが多かった。しかし、今ではそういう時代は過去のものだ」と述べ、権力の座に就くという願望を強く前面に押し出した。

彼らの自信は、世論調査の結果によって裏打ちされている。世論調査機関インフラテスト・ディマップが12月3日に行った政党支持率調査によると、緑の党の支持率は21%。キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)の36%に次いで第2位だった。このため、メディア関係者らの間では来年の連邦議会選挙以降、CDU・CSUと緑の党が全国レベルでは初の黒緑連立政権を樹立するという見方が強まっているのだ。緑の党は、16の州政府のうち11カ所ですでに連立政権に参加しており、地方レベルでは政権担当の経験を十分に持っている。

政党支持率調査(2020年12月3日実施)

資料=インフラテスト・ディマップ
政党支持率調査(2020年12月3日実施)

気候変動への懸念が背景に

緑の党の人気の背景は、市民、とりわけ若年層の間で地球温暖化問題に関する懸念が強まっており、二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの本格的な削減を加速するべきだと考える人が増えていることだ。

この動きは、昨年欧州を中心に多くの若者が環境保護運動「Fridays for Future(未来のための金曜日)」の呼びかけに応じ、授業のボイコットや抗議デモに参加したことと密接に関係している。ドイツは欧州で最も環境意識が高い国の一つだが、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンべリ氏のメッセージを最も真剣に受け止めたのは、ドイツの若者たちだった。

ドイツでは気候変動政策を重視する政党の支持率が高まり、軽視する政党は票を減らす。この傾向が最もはっきり現れたのは、昨年5月26日に行われた欧州議会選挙だ。ドイツの欧州議会選挙で、緑の党は20.5%の票を獲得した。同党は、前回(2014年=10.7%)に比べて得票率を約2倍に増やしたのだ。緑の党が全国規模の選挙で第2党になったのは初めてである。この選挙で、CDU・CSUと社会民主党(SPD)は、地球温暖化問題を重視した選挙戦を行わなかったため、両党の得票率は前回に比べて減ってしまった。

経済の非炭素化を加速へ

CDU・CSUなどの伝統政党も政策を急激にグリーン化させ、気候変動政策を重視するという方針を打ち出している。緑の党によって、これ以上支持者を奪われることを防ぐためだ。またドイツの経済団体も、緑の党の政策担当者と定期的に勉強会を開くなどして、相互理解を深めようとしている。

さて、今年11月の党大会で緑の党が採択した政策綱領を読むと、同党が経済の非炭素化を急激に進めようとしていることが分かる。例えば、同党は「2030年までに電力需要を100%再生可能エネルギーによってカバーする」という目標を打ち出した。メルケル政権は、2038年までに褐炭・石炭火力発電所を廃止する方針だが、緑の党は脱石炭をそれよりも8年早めることを要求。さらに、2030年以降はCO2を排出する新車の販売を禁止することを目指している。

緑の党の執行部は穏健派

こうした政策については、将来CDU・CSUや産業界から不満の声も出るだろう。しかしベアボックおよびハベック両共同党首は、緑の党で実務派・穏健派とみられており、異なる意見を調整する能力に長けている。党内の左派勢力から「環境保護政策が甘すぎる。CO2削減をもっと加速するべきだ」と批判されているほどだ。緑の党が政権入りすることになった場合、党執行部は政策の穏健化を図るに違いない。

1998年の連邦議会選挙で緑の党がSPDと組んで初めて政権に就けたのも、ヨシュカ・フィッシャー氏ら穏健派が党内の急進派を抑え込んで、現実的な政策を実行したからだ。緑の党が来年の連邦議会選挙でどの程度の得票率を示すかは、政局の最大の焦点の一つである。2021年は、ドイツの将来を大きく左右する年になるだろう。

最終更新 Donnerstag, 17 Dezember 2020 09:32
 

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