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バイデン政権誕生へ! 深く安堵するドイツ・欧州

ドナルド・トランプ大統領の下で孤立傾向を強めていた米国が、世界に帰って来る。トランプ大統領は大統領選挙で敗北宣言を拒否し続けていたが、11月23日に民主党のジョー・バイデン陣営への政権移譲に同意した。これにより、来年1月にバイデン政権が誕生することが確実になった。

バイデン次期大統領は11月24日に次期政権の閣僚の指名を開始した。国務長官にはアントニー・ブリンケン氏が就任する予定。ブリンケン氏はオバマ政権下で副国務長官を務めたほか、バイデン氏の安全保障問題に関する補佐官でもあった。財務長官には、連邦準備制度理事会の議長だったジャネット・エレン氏が就任するとみられる。

11月9日、バイデン氏への祝辞を述べるメルケル首相11月9日、バイデン氏への祝辞を述べるメルケル首相

米独関係の修復に強い期待

ドイツの政界・経済界では多くの人々がバイデン勝利について、安堵している。メルケル首相は11月10日にバイデン氏の当確が伝えられると、同氏に電話で祝福の言葉を送った。メルケル首相はこの日に声明を発表し、「米国とドイツは力を合わせて、コロナ・パンデミックや地球温暖化、テロと闘わなくてはならない。両国は歩調をそろえて、市場開放と自由貿易の強化に努めなくてはならない」と米独関係の強化を目指すという姿勢を明らかにした。

メルケル首相の言葉は、トランプ氏が大統領選挙で勝った時とは対照的だ。メルケル首相は2017年11月4日に送った祝辞の中で「トランプ氏が、民主主義や市民権の尊重、差別禁止など、米独が重視する価値を尊重するならば、私はトランプ氏と共に働く準備がある」と語った。トランプ大統領は、この「条件付きの祝辞」に激怒し、メルケル首相が初めてホワイトハウスにトランプ大統領を訪ねた時、居並ぶ報道陣の前で握手を拒否して侮辱した。

また連邦議会外務委員会のノルベルト・レットゲン委員長(キリスト教民主同盟・CDU)は、「バイデン氏が大統領に就任すれば、米国の対外政策は理性的になり、他国との協調関係を重視するようになるだろう。トランプ政権が繰り返してきた『ドイツ叩き』は過去のものになるだろう」と述べている。

「米国ファースト」主義の傷痕

2017年にトランプ氏が大統領に就任して以来、ドイツの世論は一貫して彼の政策について批判的だった。ドイツは欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)などの国際機関を通じた多国間関係を重視してきた。このため、「米国ファースト」を旗頭に掲げるトランプ大統領の態度は、ドイツの路線と真っ向から対立するものだった。

彼の下で米国は独り歩きの傾向を強めた。例えば米国は地球温暖化に歯止めをかけるためのパリ協定や、国連の教育科学文化機関(ユネスコ)から脱退。また2015年にオバマ大統領(当時)がイランの核開発にブレーキをかけるために、英独仏、ロシア、中国と共にイランと合意した「包括的共同作業計画(JCPOA)」からも脱退した。

安全保障の分野でも、トランプ大統領は過去の常識を次々に覆した。彼は今年7月に、ドイツ政府と事前協議しないまま、同国に駐留させている米軍の兵力を約3分の1削減することを一方的に決定した。

米国のシンクタンク大西洋協議会によると、2018年に行われたNATO首脳会議でトランプ大統領は、ドイツなどほかの加盟国が「国内総生産(GDP)の少なくとも2%を防衛予算に回す」という約束を履行していないことに強い不満を表明し、「請求された金額を払わないのならば、米国がNATOから脱退することもあり得る」と発言した。西側軍事同盟の盟主・米国が、NATOからの脱退をほのめかしたのは、前代未聞の事態だ。トランプ大統領は「ドイツは防衛に関して米国に依存する一方で、ロシアから天然ガスを輸入し、プーチン大統領に金を支払っている。さらに大量の自動車を米国に輸出して貿易黒字を生んでいる。これは不公平だ」として、ドイツをしばしば槍玉に上げた。

米国も経済のグリーン化を重視へ

バイデン政権で大きく変わるのが、地球温暖化問題への態度だ。バイデン氏は選挙戦の中で、「2050年までに米国の温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする」という目標を打ち出した。これはEUや日本政府など90カ国を超える国々がすでに掲げている目標だ。さらにバイデン氏は「政権発足後、地球温暖化に関するパリ協定にも復帰する」と宣言。彼が「気候問題担当官」という新しい閣僚ポストをつくり、ジョン・ケリー元国務長官を指名したことは、新政権が気候変動問題を重視することの表れだ。

バイデン氏はコロナ危機によって大きな打撃を受けた米国経済を救うために、経済インフラの非炭素化への巨額の投資を行って、景気を浮揚させることを目指している。これはEUのウルズラ・フォンデアライエン欧州委員長が今年春に打ち出した「グリーン・リカバリー」と共通する発想だ。

しかしながら、トランプ時代の経験から、ドイツ政府内では「米国への依存を減らす必要がある。欧州は自助努力を強めなくてはならない」という見解が強まっている。4年後の米国大統領選挙では、右派ポピュリスト勢力が再び勝利する可能性もある。その意味でドイツ人たちは、バイデン氏の勝利を喜ぶだけではなく、自己責任に基づく安全保障体制を構築する作業を本格化させなくてはならない。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。神戸放送局、報道局国際部、ワシントン特派員を経て、1990年からフリージャーナリストとしてドイツ在住。主な著書に『なぜメルケルは「転向」したのか―ドイツ原子力四〇年戦争』ほか多数。
www.facebook.com/toru.kumagai.92
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