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2026年のドイツを展望する

今年は、ドイツのメルツ政権にとって正念場となる。国内政治では、社会保障改革が最大のテーマだ。連立政権は昨年12月に、公的年金制度を抜本的に改革するために「年金委員会」を発足させた。議員や経済学者ら13人から成るこの委員会は、今年6月までに具体的な改革案を打ち出す。

昨年12月18日、欧州首脳会議に参加したメルツ首相昨年12月18日、欧州首脳会議に参加したメルツ首相

焦点は年金制度の改革

年金受給者が増加する一方、保険料を払う就業者が減っていく。このためドイツ政府は連邦予算から、昨年1230億ユーロ(22兆1400億円・1ユーロ=180円換算)を公的年金制度に投じた。この金額は2029年には25%増えて1540億ユーロ(27兆7200億円)になる見通し。税収の約3分の1が公的年金制度維持のために使われることを意味する。

フリードリヒ・メルツ首相は、昨年8月の演説で「社会保障制度を現在のまま維持することは不可能だ。痛みを伴っても、私は改革を断行する」と語った。政府は、年金制度に変更を加えて、年金支給年齢に達する前に退職する市民の数を減らしたり、60代後半になっても職場に残る市民の数を増やすためのインセンティブを導入したりする必要がある。さらにドイツでは、スカンジナビア諸国に比べると、特に中小企業で企業年金が十分ではないという問題点がある。政府の企業年金支援によって、市民の老後のための備えを手厚くする努力が必要だ。

医療支出の増加によって、公的健康保険の保険料も高くなる一方だ。政府は健康保険制度についても抜本的な改革を迫られる。

2%成長を達成できるか?

景気回復も重要な課題だ。ドイツは2022年のロシアのウクライナ侵攻以来、深刻な不況に苦しんでいる。昨年1~9月には約1万8000社の企業が倒産したが、これは過去11年間で最も多い。製造業界の生産額は、4年連続で減少した。

実質GDP(国内総生産)成長率は2023年、2024年にマイナス成長を記録した。政府は2025年には0.2%の成長率を予想していたが、昨年12月ifo経済研究所は、2025年の予測成長率を0.1%に下方修正。メルツ氏は、ドイツの成長率を2%に回復させることを目指している。

前述の社会保障制度の改革は、成長率回復のためにも不可欠だ。その理由は、社会保険料の増加が企業にとって重荷となり、人件費の高さのために企業の競争力・収益力が鈍化しているからだ。ドイツ企業経営者連合会(BDA)によると、2025年に社会保険料が平均賃金に占める比率は41.9%だった。現在のままでは2035年に46%に達する恐れがある。企業は社会保険料の半分を負担しているので、この比率の増加は、企業の競争力を阻害する。

メルツ政権の5000億ユーロ(90兆円)に上るインフラ特別予算や、電気自動車とプラグイン・ハイブリッド車のための購入補助金復活などの措置は、一時的に患者を元気づけるカンフル注射にはなるが、持続的な経済成長につながらない。

経済専門家評議会のヴェロニカ・グリム教授は、「減税や国債発行だけでは、成長率は高まらない。最も重要なのは、社会保障費用の削減などの構造改革だ」と述べた。BDAのライナー・ドゥルガー会長も、「企業の競争力を回復させるには、多額の借金だけでは不十分であり、構造改革が不可欠だ。ゲアハルト・シュレーダー氏(1998~2005年まで首相を務めた)が2003年に始めたアゲンダ2010のような、抜本的な社会保障改革が進んでいない」と述べ、メルツ氏を批判した。2026年は、大連立政権がドイツ経済を成長路線に引き戻せるかどうかを占う、試金石となるだろう。

2026年は、国内政治にとっても重要な年だ。バーデン=ヴュルテンベルク州、ラインラント=プファルツ州など四つの州で州議会選挙が行われる。旧東ドイツのザクセン=アンハルト州では、極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)の支持率が約40%に達している。9月6日の州議会選挙でAfDが圧勝し、政権に参加する可能性も指摘されている。

メルツ政権の経済政策が直ちに効果を表さない場合、有権者が不満を募らせ、AfDの得票率がさらに高まる可能性もある。過激勢力の拡大を防ぐためにも、経済成長率の回復は重要である。

ドイツが久々に外交の舞台でイニシアチブ

外交面でも課題が山積している。ウクライナ戦争は今年2月に4年目に突入するが、ロシアはキーウなど主要都市へのミサイル攻撃を続けており、死傷者が絶えない。

昨年米国のトランプ政権は停戦のための28項目提案を作成したが、その内容はロシアの要望に基づくもので、ウクライナと欧州連合(EU)が受け入れられるものではなかった。例えばロシアは、武力攻撃によって占領した土地の割譲を求めているが、ウクライナはこの要求を拒否している。トランプ政権は戦争の早期終結を重視し、領土割譲を認めるようウクライナ政府に圧力をかけている。米国がロシア寄りの姿勢を強めているのだ。

このためメルツ首相は、ゼレンスキー大統領や米国のウィトコフ特使、北大西洋条約機構(NATO)のルッテ事務総長、欧州委員会のフォンデアライエン委員長、英仏伊などの首脳らを12月14日にベルリンに招いて緊急会議を開催。ウクライナの要望に配慮した、20項目の対案をまとめ上げた。欧州諸国は停戦発効後に、平和維持軍をウクライナに駐留させる方針を打ち出した。ただしロシアは欧州側の提案を拒否しており、早期に停戦が実現する可能性は低い。

具体的な成果はなかったが、ドイツが欧州の安全保障をめぐる外交の舞台で主導権を取ったのは、久しぶりだ。メルツ氏は「外務首相」とあだ名を付けられるほど、外交のひのき舞台では生き生きと活動している。だが国内で難しい課題が山積している今年、メルツ氏は、国内政治に重点を置くことを求められるに違いない。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。神戸放送局、報道局国際部、ワシントン特派員を経て、1990年からフリージャーナリストとしてドイツ在住。主な著書に『なぜメルケルは「転向」したのか―ドイツ原子力四〇年戦争』ほか多数。
www.facebook.com/toru.kumagai.92
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