スポーツの試合やコンサートが中止され、多くの店も閉まり、ドイツ国内外への旅行も控えるようになりました。この先どうなるのか心配です。医学的な理由を理解したいのですが、テレビのドイツ語の説明が難しくよく分かりません。
Point
- 社会生活の制限により感染拡大を防ぐ
- ドイツでの感染者が6万人を超す※
- ウイルスは数時間は空気中に浮遊の可能性
- 物体に付着して数時間〜数日生存
- 風邪での欠勤は電話で診断書を依頼可
- メンタルのケアにも十分留意して ※2020年3月30日時点
社会生活の制限の目的は?
● 感染機会を減らす
新型コロナウイルス感染者(ウイルス保有者)が日常生活の中で感染を拡げる機会、すなわち未感染者が感染する機会を減らします。
● 感染拡大のスピードを抑える
重症患者を受け入れられる病床数は限られています。中国の武漢地域、北イタリアでは重症患者が一挙に増えたため、医療上の対応が追いつかず不都合が生じました。感染拡大のスピードを緩やかにすることにより、限られた病床を有効に活用できます。
感染者の急増と医療対応
具体的な対策は?
● 学校・幼稚園の休校・休園
中国の患者解析で20歳未満の若年者の発症が少なかった(2月28日の米国医学誌NEJMの論文)のは、若年層では軽症や無症候性感染が多いためと解釈されています。そのため若年者を介しての感染拡大が危惧されてきました(3月13日の米医師会雑誌JAMAの論文)。
● ドイツ国内の旅行の自粛
旅の移動中は多くの物に触り、不特定多数の人と接触する機会も多く、交通機関内(例えば、搭乗機までの空港バス内)では他人との距離を保つのも困難です。人の移動により感染がさらに遠くまで拡がるのを防ぎます。
手洗いはなぜ重要?
● 接触感染を減らす有効手段
感染者が触れたドアの取っ手、電車やバスの停車ボタン、手すりなどを介し、ウイルスが伝搬することを防ぐのに手洗いは最も効果的です。
● 手から口や鼻へウイルスが付着
私たちは無意識に手で顔、口の周り、髪を何度となく触っています(2015年の米国感染管理誌AJICより)。蛍光塗料を付けた手で握手すると、蛍光塗料が短時間で相手の顔や髪の毛にまで拡がる様子が、3月3日のWDRの番組「Quarks extra」で紹介されました。
● まずは手洗いを。握手は控えても
帰宅後には何はさておき手を洗いましょう(できれば消毒用アルコールで消毒も)。パンデミックが落ち着くまで、ドイツでは日常の握手を控えても失礼にはなりません。
手洗い以外に感染を防ぐ方法は?
● 人が大勢集まるところは避ける
換気ができず、人が密に集まって過ごす空間で感染が拡大しています。人混みを避けるとともに、人と人との間は最低1.5メートル、できれば2メートル以上空けることが推奨されています。
● 密室は避け、部屋の換気を
窓を開け、外の新鮮な空気を取り込むことが大切です。最近、新型コロナウイルスは空気中で数時間漂って生存することが報告されています(3月17日のNEJM誌)。
● 掃除もきめ細かく
感染者のいた部屋からは換気口、洗面台、ドアの取っ手、椅子、床、窓ガラスからもウイルスが検出されました(3月4日のJAMAの論文)。物体表面に付着したウイルスは1日以上生存する可能性も報告されました(前記のNEJM誌)。掃除と要所の消毒が大切といえます。
検査はどのように行われるの?
● 検査の対象
①感染者と接して14日以内に呼吸器症状がみられる場合、②肺炎患者が増えている介護施設や病院でウイルス性肺炎が考えられる場合、は感染が強く疑われます。感染者との接点がなくとも、(a)ウイルス性肺炎が最も疑われる場合、呼吸器症状を伴い(b)高齢者施設、医療施設で仕事に従事している場合、(c)重症化の危険因子(高齢、糖尿病などの合併症)がある場合、(d)前記の(b・c)以外の場合も検査にゆとりがあれば対象となります(3月24日発表のロベルト・コッホ研究所の指針)。
● 実際の検査の流れ
綿棒を使用して口蓋(のどの奥)、口内、鼻腔からの液を拭い取り、PCRという遺伝子学的検査に送ります。PCR検査は4〜5時間を要し、検体採取から検査結果が出るまで24〜48時間ほどかかっています(WDRの「Quark」より)。
検査のコストは?
● 検査の必要性がある場合
前記の感染が強く疑われる場合は、検査費用は疾病保険(Krankenversicherung)で支払われます。医師が医療上必要と判断した場合も、疾病保健がカバーします。
● 自分で検査を希望した場合
医師の判断ではなく自分で検査を希望するという場合は自己負担が生じます。
今、風邪をひいたらどうすれば良いか?
● 仕事を休んで自宅療養
ほとんどの風邪(感冒)は十分な睡眠と安静で自然に治ります。この期間に限り、電話によるハウスアルツト(Hausarzt/-ärztin)との問診で最長7日間の診断書(Krankmeldung、Arbeitsunfähigkeitsbescheinigung)が診察なしでもらえます。
● 解熱剤の安全性
アセトアミノフェン(Paracetamol、Ben-u-ron)が副作用や薬物相互作用の観点から安全です。イブプロフェンの新型コロナウイルスでの安全性は議論が残っています(WHO、スイス保健省)。
● 花粉症や風邪の時期でも
朝・夜の気温変化も大きい季節の変わり目で風邪(Erkältung)もひきやすく、春の花粉症(Heuschnupfen)のシーズンも始まりました。咳をすれば周囲から「まさか?」と心配されてしまいます。
風邪や花粉症との症状の違い
日常生活での留意点
● 子どものメンタルケア
不安に感じているのは、大人も子どもも一緒。自宅に長時間いて、体力を持て余したり、親との葛藤が生じることもあるかもしれません。親の不安や不満から子どもを叱りつけたりするのは控えましょう。
● 家庭内暴力(Häusliche Gewalt)への懸念
行く所が少ない、自宅で今まで通り自由にならない、息抜きの時間がない、などから家庭内暴力(DV)が助長される危険も。身の危険を感じたら家を出て警察署、知人宅や、街角の薬局(Apotheke)で助けを求めましょう。
● 祖母・祖父に子どもの世話を頼まない
症状の乏しい若年感染者がいること、高齢者ほど重症化しやすいことにより、祖母(Oma)、祖父(Opa)に孫の世話を頼むのは控えるように(ノルトライン=ヴェストファーレン州のラシェット首相、3月17日)。