ドクターの診察室


副鼻腔炎(蓄膿症)の多様な症状

最近、鼻が詰まることが多く、同時に顔の頬が痛く感じることがあります。自分は花粉症と思っていましたが、友人から蓄膿症ではないかと言われました。蓄膿症とはどんな病気でしょうか。

Point

  • 副鼻腔の炎症により膿(うみ)が溜まった状態。
  • 風邪、アレルギー性鼻炎、虫歯などが原因。
  • 鼻汁、鼻づまり、顔や頭の痛みが出現。
  • 疲労感、集中力低下の原因にも。
  • 風邪や鼻炎を悪化させないことが大切。
  • 治療は薬剤、鼻腔の洗浄、手術療法など。

副鼻腔炎はどんな病気?

●急性の副鼻腔炎とは
黄色の鼻汁・鼻づまり・顔の痛み、頭痛がみられる副鼻腔の粘膜の炎症のうち、1~2週間程度で治る一時的なものが「急性副鼻腔炎」です。多くは風邪のウイルスや細菌感染の後に続いて起こります。副鼻腔炎はドイツ語で「Sinusitis」、もしくは「Nasennebenhöhlenentzündung」という長い呼び名もあり、日本語の「副鼻腔炎」はこれを直訳したものです。

●慢性の副鼻腔炎と「蓄膿症」
急性の副鼻腔炎を繰り返し、副鼻腔の炎症が3カ月以上続くものが「慢性副鼻腔炎」です。そして、副鼻腔に膿(Eiter)が溜まった状態を「蓄膿症(Empyem)」といいます。

●副鼻腔炎の引き金は?
ウイルスや細菌の感染、アレルギー性鼻炎などが、副鼻腔炎の引き金となります。また、虫歯(特に副鼻腔と接する上の奥歯)が原因になることもあります。

副鼻腔炎をきたす要因

●アレルギー性鼻炎との関係
副鼻腔炎とアレルギー性鼻炎とは異なる病気です。しかし、鼻(鼻腔)と副鼻腔は、非常に細い自然孔(しぜんこう)でつながっており、この部分に炎症が波及すると、粘膜が腫れて、通り道がすぐにふさがってしまいます。そのため、アレルギー性鼻炎のある人は風邪から副鼻腔炎を起こしやすいとされています。

●顔面に8カ所ある副鼻腔
顔の下の広い範囲にまたがって位置する、左右4カ所、計8カ所の空洞が副鼻腔です。各々、上顎洞(じょうがくどう)、篩骨洞(しこつどう)、蝶形骨洞(ちょうけいこつどう)、前頭洞(ぜんとうどう)と呼ばれます。副鼻腔の働きには、顔への外力を弱める、吸気の加湿、ろ過、声の共鳴作用、免疫と関係するというような諸説がありますが、あまりよく分かっていません。

副鼻腔炎の症状

●顔の痛み、頭痛、頭重
炎症のある副鼻腔によって異なる場所の痛みが生じます。例えば、頬や歯の痛み、目の周囲の痛み、額のあたりの痛み、頭重感です。

副鼻腔炎の位置と症状

●鼻汁と後鼻漏
ドロッとした粘調性の黄緑色の鼻汁(Nasensekret)が出ます。鼻腔の後ろから喉に流れる鼻汁(後鼻漏 こうびろう)は、しばしば痰(たん)として自覚されます。長引く咳の原因が後鼻漏であることもあります。

また、炎症による鼻腔の粘膜の腫れと鼻汁により、鼻づまり(verstopfte Nase)を生じます。口で呼吸するため、口内の乾燥や扁桃腺や咽頭の炎症を来たし、副鼻腔炎の治りを遅らせることもあります。これらはいびきの原因にもなり、長引くと睡眠時無呼吸(ドイツニュースダイジェスト1月22日発行1018号掲載)と関わってくることもあります。

●花粉症との違い
花粉症(Heuschnupfen)の場合はサラサラした鼻汁で、目のかゆみやくしゃみを伴うことが多いのに対し、副鼻腔炎では目のかゆみはなく、黄色の粘度の高い鼻汁が出るのが特徴的です。花粉症が副鼻腔炎の引き金になることもあります。

花粉症との相違点

●味覚と臭いの変化、口臭
鼻腔の粘膜の炎症と鼻づまりから、食べ物の味が変化したり、臭いが分からなくなることも。悪臭をともなった鼻汁のため、口内に広がる嫌な臭いや、生臭い口臭(Mundgeruch)を自覚することもあります。

●鼻ポリープ(Nasenpolyp)
慢性副鼻腔炎の5〜10人に一人にみられます。鼻腔粘膜の一部がポリープ状に腫大した良性のできもので、鼻茸(はなたけ)ともいいます。いくら鼻をかんでも改善しない鼻づまりの原因になります。

●疲労感や集中力の低下
慢性副鼻腔炎を放置すると、慢性の頭重感、疲労、集中力の低下をともない、日常の生活の質に影響が出る こともあります。

●中耳炎と髄膜炎
さらに炎症が周囲に波及した場合、中耳炎や目の炎症を来たしたり、髄膜炎の原因になることもあります。

副鼻腔炎の診断

●耳鼻科による検査
副鼻腔炎の専門科は耳鼻咽喉科です。鼻鏡などで鼻腔粘膜の変化を調べたり、鼻からの分泌物から原因となっている細菌の種類を調べます。アレルギー性鼻炎が疑われる場合には、原因となるアレルゲン物質の検査もします。

●放射線科での検査
レントゲン写真(副鼻腔単純X線検査)では、骨で囲まれた部位の病変の診断をするのに限界があるため、重症例や合併症が疑われる場合には、より多くの情報が得られるCTやMRI(ドイツではMRT)検査による画像診断が行われます。

年齢層0~5歳の副鼻腔炎患者の鼻汁からの検出菌

副鼻腔炎の治療

●薬による治療
軽症の急性副鼻腔炎の場合は、ウイルス感染が主であるため抗菌薬は用いられませんが、中等症以上ではウイルス感染の後につづく細菌感染が原因であることが多く、副鼻腔の粘膜を正常化する薬とともに抗菌薬が用いられます(「急性鼻副鼻腔炎診療ガイドライン」より)。頭や顔の痛みに対しては、鎮痛解熱薬が用いられます。アレルギー性鼻炎の人はその治療も必要です。

●鼻の吸引・洗浄
鼻腔内に溜まった鼻汁を吸引。または、鼻から管を入れて鼻腔や上顎洞も洗浄します。

●手術による治療
薬で良くならない場合には、内視鏡を使った副鼻腔の手術(ESS)が行われ、副鼻腔内の肥厚した粘膜や溜まった膿を取り除きます。カビの一種である真菌(Pilz)が副鼻腔炎の原因である場合にも手術が勧められています。

●日常で気をつけること
風邪や鼻炎を症状が軽いからといって放置しないことが大切です。睡眠不足、疲労、過度のストレスは、感染に対しての免疫力を低下させますので、規則正しい生活を心がけてください。鼻汁はズルズルとすすらずに、小まめにかむよう心がけましょう。ただし、子供の場合は、あまり勢いよく鼻をかみ過ぎると、耳管に鼻腔内の細菌が入って中耳炎の原因にもなりますのでご注意ください。副鼻腔炎を繰り返す人には、「鼻うがい」も効果的です。

日常生活上の留意点

最終更新 Dienstag, 22 März 2016 15:45
 

ジカ熱ってどんな病気?

テレビのニュースで盛んにジカ熱について報道されています。ジカ熱という病名は、初めて耳にしました。ドイツでも感染が広がる可能性はあるのでしょうか。

Point

  • ジカ・ウイルスによる感染症。
  • ヤブカ属の蚊によって媒介。
  • 症状は軽く、自然に治る。
  • 妊婦の感染と胎児の小頭症の関係が危惧されている。
  • 予防接種はなく、治療は対症療法のみ。
  • 妊娠の可能性のある女性は、感染地域への渡航を控える(2月時点)。

ジカ・ウイルスについて

●名前の由来
ジカウイルス(Zika-Virus)はウガンダ(アフリカ中央部のやや東側)のジカ森に住むアカゲザルから見つかったウイルスによる感染症のため、ジカ・ウイルスと名付けられ、感染症は「ジカ熱」(Zikafieber)と呼ばれます。日本脳炎やデング熱(Denguefieber)、黄熱ウイルスと同じ、フラビウイルス科に属するウイルスです。

●蚊(Stechmücken)が媒介
ジカ熱を発症するジカ・ウイルスはヤブカ属のネッタイシマカや、日本国内にも生息するヒトスジシマカによって媒介されます。人から人への感染はないとされてきましたが、最近になって輸血や性交渉での感染が報告されています。

ジカ・ウイルス感染が拡がるしくみ

●流行地の拡大
もともとはアフリカからアジアにかけての赤道付近の地域に限定されていた流行地域が、2014年には太平洋を超え、2015年には中南米のほぼ全域に広がってきました。感染者数は、最大400万人に達すると危惧されています(WHOの1月28日のコメント)。WHOが2月6日に発表した感染地域を下記に示します。

中南米にてジカ熱の発症のみられた地域

ジカ熱の症状

●潜伏期
感染してから症状が現れるまでの期間(潜伏期)は3~12日間です。 感染しても全く症状の現れない不顕性感染の人もいます。

●軽い症状
発熱や頭痛、関節・筋肉痛、皮疹、目の充血の症状をもって発症します。症状は軽く、気づかれないこともあります。2014年夏に代々木公園を中心に発生したデング熱よりも軽症であると言われています。予後は良好です。2~7日経過した後、特に後遺症も残さずに自然に治ります。

ジカ熱とデング熱

ジカ熱との関連が疑われる疾患

●妊婦に感染すると?
妊娠中の女性がジカ熱に感染すると、胎児は、脳が未発達で頭の大きさが小さくなる「小頭症」(klein Kopf、Mikrozephalus)を発症する可能性が疑われています(米国のNEJM誌、2月10日号)。ブラジルでは昨年10月以来、ジカ・ウイルスとの関連も疑われる小頭症の新生児の出産件数が4000件に上っていますが、その因果関係の詳細は分かっていません。WHOは今年2月1日に緊急事態を宣言し、それを受けて厚生労働省と日本産婦人科学会は、妊婦または妊娠を計画している人の感染地域への渡航を控えるよる注意喚起しています(2月5日の声明)

ブラジルの小頭症の患者数

●ギランバレー症候群
先行する感染の4週間後以内に左右対称性の手足の筋力低下が現れるギラン・バレー症候群の原因疾患の一つとしての関連が疑われています。

ジカ熱の予防・治療・診断

●予防接種はなし
ジカ熱に有効な予防ワクチンはまだ開発されていません。

●蚊に刺されない工夫が大切
出張や旅行で流行地域に滞在する際は、長袖・長ズボンを着用し、虫よけスプレー(Insekten Schutzspray)なども利用して、できるだけ蚊にさされないようにします。

感染リスクのある地域への渡航

●有効な治療法は?
ジカ熱に対する特別な治療法はなく、症状に応じた対症療法のみが行われます。ただし、症状は通常軽く、特別な治療は必要ありません。

●ジカ熱の診断
ウイルスを直接分離するか、ウイルスの遺伝子を検出することにより診断されます。ただし、ウイルスを検出できる病期間が短いため、それも容易ではありません。また、特異的な症状に乏しいため、臨床症状からの診断も困難です。

日本やドイツでの感染の可能性は?

●日本への輸入例は3名
タイのサムイ島からの帰国後にジカ熱と診断された1名と、フランス領ポリネシアのボラボラ島に渡航した後にジカ熱と診断された2名の報告例があります(国立国際医療研究センター病院・国際感染症センターより)。

●日本国内での感染の可能性は?
これまでに日本国内での発症例はありません。しかし、流行地で感染したジカ熱患者が、日本でヒトスジシマカに吸血され、同じ蚊が別の人を刺した場合に、ジカ熱が広がる可能性も否定できないとされています。

●ドイツでは媒介する蚊の生息なし
ドイツでは2月初旬現在、流行地を訪れた5名の患者が確認されています。ドイツにはジカ・ウイルスを媒介するネッタイシマカは生息していないため、感染が広がる可能性はないと考えられています。

●南欧での可能性は?
地中海諸国にはジカ熱を媒介する可能性のある「Aedes Albopictus」という別種の蚊が生息しています。そのため、WHOは今後これらの地域での感染の広がりについて警告しています。

●リオ・オリンピックでの渡航は
WHOは今年の8月にオリンピックとパラリンピックが開かれるブラジルだけで150万人が感染する恐れがあると予測しています。一方、オリピックが開催される時期は年間で最も蚊が少なくなる時期とされ、今のところブラジル政府は予定通りのオリンピック開催を表明し、水たまりなど蚊の発生源を絶つべく衛生検査に全力を挙げています。妊婦はもとより、オリンピック観戦を予定していて妊娠する可能性のある女性の方は、今後も注意して情報収集する必要があります。

最終更新 Dienstag, 23 Februar 2016 16:35
 

実は身近な睡眠時無呼吸症候群

いびきがうるさく、飲酒後は特に呼吸が一時止まっていることがあるようで、「安心して眠れない」と家族から言われます。どうしたらよいのでしょうか?

Point

  • 就寝中のいびき、呼吸異常が原因です。
  • 日中の眠気や居眠り、集中力低下を来します。
  • 太り過ぎ、アルコール摂取が症状を助長します。
  • 生活習慣病の合併が高い確率でみられます。
  • ライフスタイルの改善が治療の基本です。
  • マウスピース、CPAPなどの治療法もあります。

睡眠時無呼吸症候群とは?

●どんな病気ですか?
睡眠中に呼吸が弱まったり(低呼吸)、一時的に止まったり(無呼吸)するため、体内への酸素の取り込みが不十分となり、満足な睡眠が得られずに日中の仕事や生活にも影響してくるような状態を、睡眠時無呼吸症候群(Schlafapnoe-Syndrom=SAS)といいます。

睡眠中のいびき(Schnarchen)、呼吸の乱れ、断続的な呼吸停止、息が詰まって突然目覚めるなどの「睡眠中の症状」と、熟睡感の欠如、日中の集中力の低下、疲れた感じ、会議中やテレビ視聴中の居眠り(Einnicken、Einschlafen)といった「昼間の症状」がみられます。

●無呼吸の原因は?
鼻や喉の空気の通り道(上気道)が眠っている間に狭くなったり、ふさがったりすることが原因で起こる「閉塞性睡眠時無呼吸」が大半です。まれに、脳の部位に問題があって呼吸運動が停止してしまう「中枢性睡眠時無呼吸」があります。

睡眠時無呼吸の原因

●リスクのある人
普段からいびきが大きい、首が短い、肥満のため首の周りに脂肪がついている、就寝前の飲酒、扁桃腺(Mandel、Tonsille)の肥大、舌が大きい、鼻中隔の変形による鼻詰まりなどが影響します。睡眠薬(Schlafmittel)は顎部の筋肉を弛緩させるため、リスクのある人が服用すると睡眠時の無呼吸を助長することがあります。

●診断は?
1:7時間の睡眠中に10秒間以上の無呼吸が30回以上、2:無呼吸や低呼吸が1時間に5回以上繰り返され日中の眠気など自覚症状を伴う場合、3:自覚症状がなくとも1時間に15回以上の無呼吸や低呼吸がみらる場合、睡眠時無呼吸症候群と診断されます。重症度は、睡眠中の10秒間以上の無呼吸や低呼吸の回数(無呼吸・低呼吸指数)が、5〜15未満を軽症、15〜30未満を中等症、30以上を重症と判定します。

●頻度は?
30〜60歳を対象とした米国の調査によると、睡眠時無呼吸症候群の割合は男性全体の4%、女性全体の2%。昼間の症状がなくとも睡眠時に何らかの呼吸障害がみられる人は男性の24%、女性の9%でした(米医学専門誌Expert Rev Respir Med、2008年)。日本には、200〜300万人ほどの患者がいると推測されています。

●いびきの音はどこから?
呼吸により、空気が上気道を通過するときに、粘膜の部分が振動して鳴る抵抗音がいびきの正体です。睡眠時は、喉の筋肉が緩むため音が出やすくなります。仰向けの体位、過労や就寝前の飲酒がいびきを増悪させます。

●家族も不眠に
就寝中の大きないびきや激しい呼吸の乱れ、繰り返される無呼吸は、横で寝ているパートナーにも不安感を与え、本人ばかりか家族の睡眠の質を低下させることも少なくありません。

まずセルフチェックしてみましょう

●日中の眠気が指標
睡眠時無呼吸症候群は、日中の眠気と関係があります。まず日中の眠気の程度を、下記の眠気スコアで評価してみましょう。

眠気スコア(エプワース眠気尺度表)

●睡眠時無呼吸症候群の検査
本人は症状を自覚していないことも多いため、検査を行って症状を正確に把握する必要があります。口と鼻に呼吸センサーを付け、指先には酸素濃度測定器を付けて、自宅で計測できる簡易睡眠検査や、1泊の入院中に睡眠時の換気運動、心電図、脳波、眼球運動など測定するポリソムノグラフィー(PSG)が行われる精密検査があります。

●睡眠時無呼吸症候群に関係する病気や事故

●メタボリック症候群
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の患者は、高血圧のリスクが健康な人の約2倍、糖尿病は2〜3倍です(循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2008-2009)。SASとメタボリック症候群の合併は、男性で約5割、女性で約3割とかなり高頻度にみられます(米医学専門誌Hypertens Res、2006年)。

●心臓や脳血管の病気
心臓血管障害や脳血管障害を来しやすくなります。狭心症や心筋梗塞のリスクは健康な人の約2〜3倍、不整脈は2〜4倍、脳梗塞・脳出血などの脳血管障害のリスクは約4倍にもなります。

●居眠り運転
SAS患者は、居眠り運転の危険が約5倍も増すと言われています。「睡眠と安全運転に関する調査」によると、SAS患者の約10%が過去5年間に居眠り事故を経験しているという報告があります。(平成18年度警察庁委託調査研究報告書)。

睡眠時無呼吸症候群の居眠り運転の事故率(過去5年間)

睡眠時無呼吸症候群の治療

●日常生活で改善できること
喉周囲の脂肪は上気道を圧迫し、気道を狭くしますので、肥満を解消することが重要です。また、就寝前の飲酒はできるだけ控えましょう。就寝中、仰向けの姿勢をとると舌が後ろ側に沈んで気道を狭くしやすくするため、横向きで寝ることが勧められます。鼻に原因がある人は耳鼻科の治療を受けてください。

●マウスピースの利用
歯科で作ってもらったマウスピース(Mundstück)を装着し、睡眠時の上あごを下あごの前方に固定することによって気道を確保します。軽症の場合に向いています。

●持続気道陽圧呼吸療法(CPAP-Beatmung)
鼻に装着したマスクを通して、ポンプから圧力をかけた空気を送り、気道が狭くなるのを防ぐ治療法です(帝人のスリープメイト ®など)。中等症・重症の場合に向いている治療法です。

●手術による治療
いびきや睡眠時無呼吸の原因が、扁桃腺肥大やアデノイドにある場合は摘出手術を行います。狭くなっている上気道の部分を広げる口蓋垂(こうがいすい)・軟口蓋 (なんこうがい)・咽頭形成術が検討されることもあります。

●怪しいと思ったら医療機関へ
セルフチェックで睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合は、一度かかりつけ医に相談するか、睡眠時無呼吸を専門とする医療機関を受診しましょう。

最終更新 Mittwoch, 19 Oktober 2016 17:51
 

わかりやすい乳がんの治療法

ドイツで乳がんが見つかった場合には、どのような治療を受けますか? 日本とドイツで、治療法に違いはあるのでしょうか?

Point

  • 治療法の選択において重要なのは、乳がんの病期。
  • 早期の乳がんは、乳房温存療法が基本。
  • ホルモン療法か化学療法かは、がん細胞の性質をみて決める。
  • 放射線療法は、乳がんの再発を減らす。
  • 日本とドイツで基本的に治療法は同じです。

乳がん治療の方針を決めるために

●乳がんのステージ分類
しこり(がん)の大きさ、周囲への広がり、リンパ節への転移の有無、別の臓器への転移の有無などにより、乳がんのステージ(病期)分類がなされます。ステージ分類は、治療法の選択と予後を予測する上でとても大切な診断です。

乳がんのステージ分類

●血管やリンパ管のがん細胞
しこりの周囲にある血管やリンパ管の中にもがん細胞が存在(脈管侵襲)する場合、転移や再発のリスクが高まります。乳がんの転移先として多いのは、肺や肝臓、骨です。乳房から離れた臓器への転移が明らかに認められるような乳がんでは、手術による治療は難しくなります。

●がん細胞の性質
手術により得られた組織から、病理学的にがんの組織型、悪性の度合い、女性ホルモンに対する受容体の有無、細胞の増殖能(増殖関連遺伝子のKi67陽性の割合)、がん細胞増殖の制御と関係する蛋白の状態(HER2蛋白が多いほど制御できない)などを調べることも、その後の治療方針を決めるのに必要な検査です。

乳がんの手術

●乳房温存手術(Brusterhaltende Chirurgie、Lumpektomie)
ステージ0期、I期、II期の乳がんの標準的な術法です。乳房の一部を円形、もしくは扇型に切除することによって腫瘍を取り除きます。

乳がんの治療法

●乳房温存療法
上述の「乳房温存手術」と、乳房内での再発(局所再発)予防のための放射線療法を組み合わせた治療法です。さらに、乳房の外に転移しているかもしれない小さな転移巣を根絶するため、ホルモン療法や化学療法を組み合わせることもあります。

●乳房切除術(Einfache Mastektomie)
ステージIII期の乳がん、および腫瘍が大きい場合(3cm以上)は、片側の乳房全体を取り除く「乳房切除術」が行われます。(乳房切除術は下記の表に示されるような場合が適応です)。

乳がん手術の選択

●乳房再建術(Brustrekonstruktion)
腹部や背中の組織を移植したり、エキスパンダーと呼ばれる人工乳房を用いたりすることで、手術によって失われた乳房を形成外科的に再建する方法があります。乳房を再建することで、乳がんが再発しやすくなったり、再発の診断の妨げになるということはありません(日本乳癌学会のコメントより)。

乳がんのホルモン療法

●ホルモン療法(Antihormonalle Therapie)とは
乳がんの内、6〜7割は女性ホルモンのエストロゲンの作用によってがん細胞が増殖する「ホルモン感受性乳がん」と呼ばれるタイプです。この場合は、エストロゲンの作用を抑えることにより、再発と転移を約半分に抑えることができます。

●LH-RHアゴニスト(Gn-RH Analoga)
 閉経前の女性のエストロゲンを減らす薬です。卵巣で、エストロゲンの分泌を調節しているのが脳下垂体から分泌されるLH(黄体形成ホルモン)とFSH(卵胞刺激ホルモン)、さらにこのLHとFSHの分泌を制御しているのがLH-RH(LH放出ホルモン)です。複雑ですね。LH-RHアゴニストを投与することで、下垂体からLH分泌を抑え、卵巣で作られるエストロゲンを減らします。

ホルモン療法の薬

●抗エストロゲン薬
血中のエストロゲンと、がん細胞表面にあるエストロゲン受容体が結びつくのを抑える薬です。閉経前と閉経後の女性に用いられます。タモキシフェン(商品名はノルバデックス®、タスミオン®)が有名です。

●アロマターゼ阻害剤
閉経後の女性のエストロゲンを減らす薬です。閉経後の女性は、アロマターゼという酵素の働きにより、何と男性ホルモンから女性ホルモンを作っています。このアロマターゼの役割をブロックすることで、女性ホルモンが作られるのを抑えます。

乳がんの化学療法(Chemotherapie)

●なぜ抗がん剤を使うの?
乳管内にとどまっている乳がん(非浸潤がん)の場合、ほとんどが手術や放射線療法な どの局所治療で治療されます。しかし、乳管の外にまで広がった「浸潤がん」になると、体のどこかに転移している可能性のある、目には見えない「微小転移がん」をたたくために、化学療法(全身治療)が用いられます。

●抗がん剤の選択と組合せ
組織検査から得られた乳がん細胞の性質を参考に、何種類かの抗がん剤を組み合わせて用います(CMF療法、AC療法など)。これは作用の異なる薬剤を組み合わせることによって、より高い治療効果を得るためです。同時に副作用を分散させることもできます。

●抗がん剤の副作用
抗がん剤によって、吐き気や脱毛、白血球減少などの副作用が現れることが知られています。がん細胞のDNAや増殖過程に作用する抗がん剤は、一部の正常な細胞に対しても少なからぬ影響を及ぼします。治療を開始する前に、使用する抗がん剤の種類と効果、予想される副作用について、担当医から十分な説明を受けるようにしましょう。

ホルモン製剤・抗がん剤の主な副作用

乳がんの放射線療法

●放射線療法(Strahlentherapie、Bestrahlung)
乳房温存手術の後、乳房の放射線療法を行うことで、乳がん再発のリスクを減らすことができます。仮に腫瘍をすべて取り除いたとしても、目に見えないがん細胞が乳房内に残っている場合もあり、これが再発の原因になり得るからです。手術で取り除いた組織を調べて、がんが完全に取り除かれたことを確認できた場合には放射線治療が行われないこともあります。乳がん細胞は、正常細胞より放射線の感受性が高く、ダメージを受けやすいので、放射線照射によってがん細胞の増殖が抑えられます。

●副作用はありますか?
照射後3〜4週間後に、皮ふが赤くなってヒリヒリする急性期の副作用と、放射線の照射後しばらくしてみられる晩期の副作用があります。晩期の副作用には放射線肺炎があり、予後は一般的には良好ですが、肺炎の範囲が広いときには重篤な状態になることもあります(日本呼吸器学会の「市民のみなさま向け」の情報より)。

最終更新 Montag, 04 Januar 2016 13:12
 

乳がん診断のためのABC

左の乳房にしこりのようなものがあります。母が乳がんの手術を受けていることもあり、乳がんではないかと心配です。どのような検査を受けたら良いでしょうか?

Point

  • 日本人女性の12人に1人が乳がんに罹患。
  • 日本人女性の乳がん罹患率のピークは欧米人より若い。
  • 早期に見つかった乳がんほど、生命予後が良い。
  • 乳がん検診: 触診、マンモグラフィー、乳房超音波。
  • 精密検査: 乳房の造影MRI、細胞診、組織診。

乳がんの基礎知識

●女性の12人に1人
乳がん(Brustkrebs、Mammakarzinom)は、乳腺(Milchdrüse)にできる悪性腫瘍です。日本人女性が一生のうちに乳がんに罹患する確率は9%(がん研究振興財団「がんの統計 2014」より)と高く、女性のがん全体の20%を占めています。乳がんで亡くなる女性は、2013年には年間1万3000人を超え、40代女性ががんで死亡する場合の最大の原因となっています。

女性のがん全体に占める乳がんの割合, 40〜 44歳女性の部位別がん死亡の割合

●30代から要注意
乳がんは、ほかのがんよりも若い世代に多くみられる病気です。日本の集計によると、30代から増えはじめ、罹患率は40代と60代がピークです。欧米の女性と比べると、日本人女性の乳がん罹患率のピークは、かなり若いことが特徴です。

日本人女性の乳がんの年齢階級別罹患率

●早期発見が大切
腫瘍がまだ小さく、リンパ節転移のない段階で見つかった乳がんを、「早期乳がん」と呼びます。早期乳がんの5年生存率をみると、0期でほぼ100%、1期で約90%と、周囲への浸潤やがんの転移がみられる「進行乳がん」と比べてはるかに良好です。早期発見ができれば命にかかわる病気ではなく、乳がん検診が大切なのはこのためです。

早期乳がんの予後

●5~10mm大のしこりでも検査を
良性でも悪性でも、乳房の腫瘍が5~10mm大になると、しこり(Knoten、Steif)として触れるようになります。「しこり= 乳がん」ではありませんが、しこりの存在に気づいたら、早めに検査を受けるようにしましょう。

●血液の腫瘍マーカーでは不十分
乳がんの腫瘍マーカーとしては、CA15-3、CEA、NCC-ST-439などがあり、再発乳がんの経過観察に用いられています。ただし、これらの腫瘍マーカーは、早期の乳がんの診断に対しては陽性率が低いため、早期発見に役立つものではありません(日本乳癌学会のQ&Aより)。

乳がん発見のための検査

●セルフチェックの勧め
乳房のしこり、乳房の皮膚にえくぼのような引きつれ、脇の下のリンパ節に腫れがないか、月に1度のセルフチェックを習慣にすることで、乳房の変化に気づきやすくなります。乳房の部位でみると、左右とも外側上部が最もがんのできやすい場所とされています。セルフチェックは、生理が終わり、乳房に張りのない時期に行うと良いでしょう。

乳がんのセルフチェック

●マンモグラフィー
マンモグラフィー(Mammographie)は、レントゲンを使った乳房検査で、石灰化や腫瘤の診断に力を発揮します。特に、約半数の乳がん患者にみられる「微小な砂状の石灰化の集積群(微小石灰化群、gruppierte Mikrokalzifikationen)」という特徴的な病変は、マンモグラフィーにて検出されます。

●乳房超音波
超音波による乳房検査は、マンモグラフィーよりも簡便です。のう胞(Zyst)性の病変や、腫瘤を見つけるのに役立ちます。乳腺の発達した若い女性や妊婦の検査にも有用です。

●マンモグラフィーと乳房超音波検査の違い
マンモグラフィーと乳房超音波は、検査の対象とする病変が多少異なります。一般に、中高年の女性はマンモグラフィー、乳腺の発達している若い女性は乳房超音波が勧めらます。40代の日本人女性、約7万6000人を対象とした大規模臨床試験では、マンモグラフィーと乳房超音波検査を組み合わることで、乳がんの発見率が1.5倍に上昇することが示されました(英国の医学雑誌「Lancet」、2015年11月5日号の論文より)。

●乳房のMRI(核磁気共鳴画像法)
マンモグラフィーや乳房超音波の結果、疑わしい症状や部位が見つかり、さらなる精密検査が必要な場合、乳房のMRI(MRT)が行われます。MRIは磁石を用いて行う検査で、X線の照射はありません。通常は造影剤を用いての検査となります。

●組織診断
乳房に悪性を否定できない病変が見つかった場合は、病理学的な組織診断(細胞診や組織診)をします。これは、乳房の病変部位に針を刺して組織の一部を採取し、それを詳しく検査します。

●重要なBI-RADS分類
ドイツでマンモグラフィーや乳房超音波検査を受けると、報告書の評価にBI-RADS(ビラーズ)分類の「1~6の数字」が記載されます。このBI-RADS分類は世界共通の評価方法で、カテゴリー「3」の場合は短期的な経過観察、カテゴリー「4」の場合は悪性が疑われるため、組織診断が必要とされます。

BI-RADS(ビラーズ)の分類

●乳がん検査の費用負担は?
日本における女性の乳がん罹患率は30代から増え、第一のピークは40代です。しかしドイツでは、マンモグラフィーによる乳がん検診プログラムは放射線被ばく(日本までの飛行機の片道分に相当)の課題もあり、50歳以降からの適応となっています。ドイツにお住まいの日本人女性、特に40代の皆さんは、留意が必要です。

●日本では
厚生労働省は2006年に、「40歳以上の女性に対し、2年に1度、視診・触診およびマンモグラフィーの併用検診を行う」という指針を出しています。そのため、40歳以上の女性は、市区町村健診の一環として2年に1度、もしくは企業健診の規定に従って受診ができます。40歳未満の女性では自己負担、もしくは勤務する職場の規定による検診を受けることができます(企業により費用負担が異なります)。

●ドイツでは
30歳以上の女性は、年1回の触診による乳がんチェック、50~69歳では乳がん検診プログラム(Mammographie-Screening-Programm)に則って2年に1回のマンモグラフィーによる検診が勧められています。公的健康保険加入者の場合、このプログラムの枠内の検査においては、原則的に自己負担はありません。50歳未満のプライベート健康保険加入者では、検査の理由や契約内容などによって異なります。

最終更新 Dienstag, 24 November 2015 12:59
 

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