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鼻から投与するインフルエンザ予防ワクチン

ドイツには、鼻から投与するタイプのインフルエンザ予防ワクチンがあると聞きました。投与法や予防効果など、注射型の予防ワクチンと、どのような違いがあるのか教えてください。

Point

  • 経鼻投与型ワクチンは生ワクチンです。
  • 2~17歳児に用いることができ、特に2~6歳児に推奨されています。
  • ぜんそくのある小児には接種できません。
  • 乳児と成人には注射型ワクチンを用います。

ドイツのインフルエンザ

●昨季の流行をおさらい
2015年のロベルト・コッホ研究所の報告によると、2013/14年にインフルエンザ(Influenza)にかかって医療機関を訪れた患者の数は、ドイツ国内だけで約620万人に上ります。医療機関を訪れなかった人もいるはずなので、実際にはドイツに住む人の10分の1以上が感染したと推測されます。

●インフルエンザの症状
ウイルスに感染してから発症するまでの潜伏期(Inkubationszeit)は1~2日(長くて4日)、発症すると普通の風邪よりも重症化することが多く、突然の高熱と筋肉や関節の痛み、頭痛、軽いのどの痛みや鼻水などの症状が3~5日間(長くて7日間)続きます。ウイルスの感染力は強く、患者に接することにより感染が広がります。

●予防接種の効果
インフルエンザに対する最も有効な予防法は、予防接種(Schutzimpfung)です。しかし、予防効果は健康な人でも60~70%程度と、100%ではありません。ただし、予防接種は重症化防止の方法としても有効であるため、インフルエンザにかかった場合に重症化する可能性の高い人(妊婦や高齢者、慢性疾患患者)は、特に接種することが勧められています。世界保健機関(WHO)は、インフルエンザ重症化の高リスク群である患者への予防接種率を75%以上に上げることを目標としていますが、ドイツの60歳以上の年配者で49%、慢性疾患を患っている18~59歳の年代層でも約25%程度と、接種率は低いのが現状です。

2014 / 2015年のドイツでの流行状況

経鼻型のインフルエンザ予防ワクチン

●4種類のウイルス株に有効な生ワクチン
Fluenz® Tetraという生ワクチンで、ドイツではアストラゼネカ社(AstraZeneca)が製剤提供しています。ワクチン作製には、1)低温状態でのみ活動し、2)温かい人体内では活動が制限され、3)インフルエンザを発症させない、弱体化したウイルスが用いられています。「Tetra(4の意)」の名が示すように、4種類のウイルス株に対して予防効果が期待できます。これら4株は、WHOと欧州連合(EU)が2015/2016年の北半球における流行を予測して選んだものです。

投与方法は、薬剤が詰められた鼻腔内注入器を用い、両方の鼻腔に片側0.1mlずつワクチンを注入します。痛みは特にありません。

●接種の対象年令
ドイツでは2~17歳が投与の適応年齢となっていますが、米国では、FluMist® Quadrivalentという径鼻型生ワクチンの対象年齢を2~49歳としています。

小児に対しては、特にインフルエンザ発症の予防効果が高いことが示されています。ウイルス株の一致した米国の5歳未満の子どもについては、90%近い予防効果が得られ(臨床試験番号 AV006の結果)、6~17歳を対象とした欧州の研究でも注射製剤の不活化ワクチンと比較した際、予防効果が30%上がるという高い効果がみられています(臨床試験番号 D153-P515の結果)。

●ぜんそくがある場合は使用不可
鼻腔内投与が引き金となって、ぜんそくの発作や悪化がみられることがあるので、ぜんそくのある5歳未満の小児、1年以内にぜんそくの発作がみられた患者には使えません。また、血液疾患や悪性腫瘍により、免疫が低下している患者にも接種できません。

●妊娠中・授乳中は使用不可
妊婦、または妊娠の可能性がある場合、この経鼻型の生ワクチンは使えません。また、母乳への移行と乳児への影響が否定できないため、授乳中の女性も接種できません。

●接種後はアスピリンの使用不可
アスピリンとの関連が指摘されるライ症候群を引き起こさないよう、ワクチン接種後4週間は、アスピリンの使用を絶対に避けてください。接種後4週間は、ほかの予防接種も控えましょう。

●副作用
最も頻度の多い副作用は、鼻づまりの症状です。接種後1週間は、軽い風邪症状(微熱、頭痛、のどの痛み)を認めることもあります。

注射型ワクチンと経鼻型ワクチンの相違

注射型のインフルエンザ予防ワクチン

●3種類のウイルス株に有効な不活化ワクチン
注射によるインフルエンザ予防ワクチンは、ウイルスの免疫を作るのに必要な成分だけを取り出して毒性をなくして作った、不活化ワクチンです。WHOとEUが、2015/16年に北半球での流行する可能性が高いと判断した3種類のウイルス株に対して有効です。

大人に対しては、ワクチンのウイルス株と流行株が一致した場合、経鼻型のインフルエンザ予防ワクチンより注射型の方が、予防効果は高くなるともいわれています。

インフルエンザが重症化した際のリスクが高い、妊婦や高齢者、慢性疾患患者には、注射型の不活化ワクチンの予防接種が強く勧められています。

今季のドイツでの予防接種

●ドイツで使えるワクチン製剤
今年9月2日の時点で注射用の不活化ワクチン(Totimpfstoff)が15製剤、経鼻投与型の生ワクチン(Lebendimpfstoff)が1製剤、計16製剤が、2015/16年用として認可されています。

●生後6カ月~1歳
注射型のインフルエンザ予防ワクチン(大人の半量)を接種します。副作用のリスクから、経鼻型の予防ワクチンは用いられません。

●2~6歳まで
ロベルト・コッホ研究所の予防接種委員会(STIKO)は、今季から、小児に対する効果を認めた経鼻型の生ワクチンによる予防接種を、2~6歳の子どもに推奨しています。注射型の予防接種も受けられます。

今までインフルエンザにかかったことがなく、今回初めて予防接種を受けるという小児には、初回の接種から4週間後に、同じタイプのワクチンの2回目接種(Folgedosis)が勧められています。

●7~17歳まで
経鼻型のワクチンも注射型のワクチンも、どちらも受けることができます。

●18歳以上
注射型のインフルエンザ予防接種が行われます。

お年齢別インフルエンザ予防接種

経鼻投与型のインフルエンザ予防接種について分からない点がありましたら、かかりつけの医師、もしくは予防接種を受けられる医療機関に尋ねてみましょう。

インフルエンザの予防法

 
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馬場恒春 内科医師、医学博士、元福島医大助教授。 ザビーネ夫人がノイゲバウア馬場内科クリニックを開設 (Oststraße 51, Tel. 0211-383756)、著者は同分院 (Prinzenallee 19) で診療。

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