2カ月ほど前から時々脈が飛ぶように感じるため、検査をするべきか悩んでいます。また最近は忙しいために睡眠時間が十分に取れず、昼間はコーヒーを数杯飲んでいるのですが、不整脈と関係しているのでしょうか? 日常生活で何か気を付けることはあれば、教えてください。
Point
- 電気信号の発生・伝達システムの異常
- 最も多いのは期外収縮
- 心房細動は脳血栓のリスク
- 心房細動の治療はアブレーション
- 心室細動は突然死の原因
- 睡眠不足、ストレス、カフェイン、喫煙は増悪因子
不整脈とは何ですか?
心臓のリズムの異常
不整脈(Arrythmie)とは、①脈のリズムが不規則、②ゆっくりしている(徐脈、Bradykardie、おおよそ50拍/分以下)、③速く打つ(頻脈、Tachykardie、おおよそ50拍/分以上)のいずれかの状態で、心臓のリズム(調律)の異常のことをいいます。
心臓のリズムは電気信号の乱れ
私たちの心臓は、二つの心房(右心房、左心房)と二つの心室(右心室、左心室)からなっています。心臓のリズムは、その右心房内にある洞どうぼう房結節(Sinusknoten)から発生する電気刺激により、一定の動きのリズムを保っています。この電気の刺激伝導経路(Reizleitungssystem, Reizbildungssystem)の乱れが不整脈として現れます。
不整脈の症状
不整脈を生じても、特に期外収縮(次項)の場合は、全く自覚症状がない場合がほとんどです。しかし不整脈の種類や程度がひどい場合には、めまい、動悸、冷や汗、時には失神などの原因になることもあります。
検査はまず心電図から
不整脈の有無は心電図で確かめます。まれにしか現れない不整脈のチェックには、24時間心電図(Langzeit-EKG、24-Stunden-Holter-EKG)、あるいは7日間心電図(7-Tage-EKG)が用いられます。心疾患が疑われる場合は、さらに循環器内科(Kardiologie)にて心エコーなどの精査を受けます。
最も多い期外収縮
期外収縮の原因は?
不整脈の中で最も多く見られます。前述の「洞結節」や刺激伝導経路の別の場所から早いタイミングで心臓に電気が流れたり(上室性期外収縮)、心室から電気刺激が発生したりして(心室性期外収縮)、心臓が本来のリズムより早く収縮する現象です。また過労、過大なストレス、カフェイン飲料の摂り過ぎ、さらに甲状腺の病気、高血圧も心臓の機能に影響を与え、不整脈の誘引となります。
期外収縮の頻度と症状
期外収縮は、健康な人の60~95%に見つかり(1986年のBrit Heart J誌、2022年のFront Cardiovasc Med誌)、年齢と共に増加します(2023年のFront Cardiovasc Med誌)。ほとんどの場合は無自覚です。期外収縮の後の「代償性休止」(kompensatorische Pause)は、次に来るべき正常な拍動に遅れがみられる現象です。心室の拡張時間が少し延長してより多くの血液が心室に充満し強い拍動を生じるため、人によっては「脈が飛ぶ感じ」「胸がドクン」と感じることもあります。
期外収縮は病気ですか?
心臓に異常がない場合、1日に1000回(1日の心拍数を仮に10万回とすると100拍に1回程度)以下の期外収縮は病気としての意義は少ないと考えられています。1日に3000回(1分間に2回程度)以上の場合はやや「頻回」とされますが、症状がなければ経過観察となることが少なくありません。
2段脈、3段脈の期外収縮
脈の2拍に1回(2段脈)、または3拍に1回(3段脈)の割合で期外収縮を繰り返す場合、背景に病気や治療薬の影響がなく症状がなければ、経過観察を行うことが一般的です。出現頻度が多い場合や自覚症状が強い場合は、薬物療法も検討します。
2連発の心室性期外収縮
2回連続して心室性の期外収縮が起こる場合は、心臓の筋肉がきわめて緊張状態にあることを示します。背景に潜在的な心臓病がある可能性も考えられるため、精査が必要です。3連発以上続く状態は「心室頻拍」(VT)と呼ばれ、命にかかわる可能性のある危険な不整脈です。
心房細動
心房細動とは
心房のあらゆる場所から無秩序に電気信号が発生し、心房がけいれんしたように細かく震えている状態です。電気刺激が不規則に心室に伝わり心拍も不規則になるため、「絶対性不整脈」とも呼ばれます。男性の方が女性より2倍ほど多く、高齢になるほど心房細動の発症リスクが上がります。
心房細動と血栓症
細動している心房内では血栓(固まった血液塊)ができやすくなります。その血栓が血流に乗って脳や全身に飛び、脳梗塞などの血栓症の原因になることがあります。そのため、心房細動では血栓予防の治療(抗凝固薬の服用)が行われます。治療法の第一選択は、カテーテルによるアブレーション治療です。心房細動の原因となっている異常な電気信号の発生部位を、カテーテルを用いて内部から焼き切る取り除く治療法です。
命に関わる心室細動
心室細動、心室粗動とは
心臓突然死を引き起こします。心室筋の各部位が無秩序に電気的に興奮し、心臓のポンプとしての機能が失われてしまった心停止状態です。速やかに意識を失い、5分以上持続すると脳に不可逆的変化を生じるため、直ちに心肺蘇生(Herz-Lungen-Wiederbelebung)、電気的除細動(automatisierter externer Defibrillator、AED)を必要とします。
AEDのよる救命処置
ポンプ機能を失った心臓に対して電気ショックを与え、正常なリズムに戻すための医療機器です。ドイツでは交通の要所(空港、中央駅)やショッピングモールや劇場など規模の大きな建物に設置されています。
日常生活での注意点
生活習慣を見直す
ストレス、睡眠不足、疲労、カフェインの摂り過ぎ(コーヒー、緑茶、エナジードリンクなど)、アルコール多飲は不整脈を増悪させる可能性があります。喫煙は紙タバコ、電子タバコに限らず不整脈を増やす要因となります(2012年のEur J Prev Cardiol誌、2022年のNature誌、2023年のCardiovasc Res誌)。
脈拍を自分で測る
右手(左でも可)の手の平が手前に見えるようにし、手首内側の親指側を左手の人差し指と中指で少し強く触れてみると脈拍を感じます。15秒間の脈拍数を数えて4倍すれば、1分間の大凡の脈拍数を知ることができますし、不整脈を疑う人は1分間指を添えて何回不整がみられるか数えてみてください。
経過観察でよい不整脈
自覚症状を伴わない期外収縮、軽度の洞頻脈、軽度の洞徐脈などの治療は特に必要なく、経過観察だけでよいと考えられています。