健康診断を受けたら、貧血があると言われました。最近変に疲れやすく立ちくらみも時々あります。また、2年ほど前より生理の経血量が増えてきたような気がします。鉄欠乏性貧血とはどんな病気なのでしょうか?
Point
- 鉄欠乏による血色素量の低下
- 偏食、失血がリスク因子
- 過多月経では子宮筋腫のチェックも
- 立ちくらみ、動悸、息切れ
- 舌のしみり感、爪の変化、氷食症
- 鉄分の補給で改善
鉄欠乏性貧血の知識
貧血とは(Anämie)
血液中の赤血球に含まれる血色素(酸素を運ぶタンパク、ヘモグロビン、Hämoglobin)が減少し、全身への酸素供給が不足している状態です。20~40代の日本女性の10~20%が貧血、40~50%が鉄欠乏状態(後述)にあると推測されています(厚生労働省の平成21年国民健康・栄養調査)。男性、女性ともに70歳以上で増えてきます。
貧血は血色素量の低下
世界保健機構(WHO)では年齢を問わずに、ヘモグロビン値(血色素量)が成人女性で12.0g/dl未満、成人男性では13.0g/dl未満の場合を貧血と定義しています(2006年のBlood誌)。日本の高齢者では11.0g/dl 以下が目安とされています(2011年の日老医誌)。
鉄欠乏性貧血とは(Eisenmangelanämie)
酸素を運ぶ血色素の主要成分である鉄(Eisen)が不足して生じる貧血で、貧血全体の約70%を占めています。全世界で鉄欠乏性貧血にある数は12億人と推測されています(2025年のJAMA誌)。赤血球の大きさ(容積)が小さくなり、赤血球内の血色素が少ないので「小球性低色素性貧血」を呈します。
「かくれ貧血」
(潜在性鉄欠乏症、latenter Eisenmangel)ヘモグロビン値低下はないものの、体内の鉄貯蔵量が低下した状態です(2025年のJAMA誌)。体内貯蔵鉄の不足を判断するには、血清フェリチン(Ferritin)値が良い指標とされ、12ng/ml未満を潜在性鉄欠乏症と呼んでいます(日本鉄バイオサイエンス学会「鉄欠乏性貧血の診療指針」フジメディカル出版、 2024年)。疲労感や肩こりをはじめ、さまざまな症状を引き起こすことがあります(2021年のLancet誌)。
鉄欠乏性貧血のリスク因子
①鉄分の摂取不足(極端なダイエット、偏食)、②失血(月経過多[Menorrhagie、starke Menstruation]、消化管出血)、③鉄需要の増加(成長期、妊娠・授乳)、④消化管からの鉄分吸収が悪い(胃酸分泌阻害薬の長期服用、胃の摘出後)などです。
鉄欠乏に至る主な原因
出血、子宮筋腫
最も多い原因は月経(Menstruation)です。月経による出血量が増えてきた場合には子宮筋腫(Myom、Gebärmuttermyom)が見つかることもありますので、婦人科(Gynäkologie、Frauenarzt/-ärztin)で一度診てもらいましょう。男性や閉経後の女性で出血がある場合は、まず消化管を疑います。
鉄分の摂取が不十分
鉄分の摂取量が足りないことも鉄分不足に関係します。日本人女性の鉄の平均摂取量は必要量を満たしておらず、しかも年々摂取量が減少傾向にあることが指摘されています(国民健康点栄養調査結果報告、前記の「鉄欠乏性貧血の診療指針」)。また偏ったダイエットも関係します(本誌1247号参照)。特に妊娠中や授乳中の女性、成長期にある青少年では鉄の需要が増しているためより多くの鉄摂取が必要です。
鉄欠乏性貧血の症状
気付きにくいことも
鉄欠乏の多くは自覚のないままにゆっくりと生じており、その間に身体が鉄欠乏にある程度慣れてくるため、すぐには気付かなかったり、検査で指摘されて初めて知ったりする場合も少なくありません。
全身のさまざまな症状
①全身症状:慢性的な疲労感(Müdigkeit)、ふらつき、立ちくらみ(Schwindel)、頭痛、集中力の低下、身体活動による動悸、息切れ、②局所の異常:顔の青白さ(blasses Gesicht)、抜け毛、舌のしみり感、手足の冷感(kalte Hände und Füße)、爪の変形、④そのほかとして氷食症(後述)、レストレスレッグ症候群(後述)などがあります。
爪がスプーン状に変化(löffelförmige Nägel)
爪の中央がへこみスプーンのように反り返るほか、爪が割れやすくなったり縦筋が入ったりします。鉄分不足で爪の強度や厚さが低下するために変形すると考えられており、鉄欠乏性貧血が進んだ状態です。
氷を無性に食べたい(Pagophagie)
氷(かき氷を含め)を食べたくなる氷食症や異食症(Pica-Syndrom)は、鉄欠乏性貧血の約16%(2016年の臨床血液誌)〜34%(2019年のBlood CellsModl Dis誌)にみられます。貧血の改善で氷食症、異食症はなくなります(2011年の小児保健研究誌)。
レストレスレッグ症候群(むずむず脚症候群、Restless-Legs-Syndrom、RLS)
鉄欠乏性貧血では、24〜40%(健常者の数倍)にレストレスレッグ症候群がみられるとの報告があります(2007年のSleep Med誌、2013年のAm JHematol誌、2021年のJ Clin Sleep Med誌)。脳内の鉄欠乏とそれに伴うドーパミン作用の変化が関与すると考えられています(2018年のSleep Med誌、2019年のCochrane Database Syst Rev誌)。
鉄分の補給
食事からの摂取
鉄は体内で合成できない栄養素です。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準 2020年版」では、1日当たり成人男性では7.0〜7.5mg、月経のある成人女性では10.5mg(月経のない女性は6.5mg)の鉄を摂取することを薦めています。豚レバー(Leber)などの動物性のヘム鉄(Häm-Eisen)の方が、植物性の非ヘム鉄(Nicht-Häm-Eisen)よりも腸管から吸収されやすくなっています。
経口鉄剤(Eisentabletten)
鉄欠乏性貧血の治療における第一選択です。鉄剤は胃を刺激して悪心(吐き気)などの消化器症状を生じることがあるため、通常量100mgではなく、半量の50mgを十二指腸で溶ける製剤(Ferro SanolDuodenal mite®など)が用いられることがあります。
鉄剤服用での留意点
ビタミンC(Vitamin C、Askorbinsäure)は鉄剤の吸収を助けます。一方、逆流性食道炎の治療に用いる胃酸分泌抑制薬(プロトンポンプ阻害剤など)、日本茶や紅茶に含まれるタンニン酸(Gerbsäure、Tanninsäure)、清涼飲料水に含まれるリン酸塩(Phosphat)は鉄吸収を妨げます。また鉄剤を服用していると便が黒くなることがありますが、心配はありません。
静脈からの鉄剤投与
①ヘモグロビン値が8.0g/dl未満の貧血の場合、②悪心や嘔吐のため鉄剤の内服が困難な場合、③炎症性腸疾患で鉄剤の病態への悪影響が考えられる場合には、静注鉄剤により鉄を補充することもあります(前記の「鉄欠乏性貧血の診療指針」)。



インベスト・イン・ババリア
スケッチブック







