ドクターの診察室


「新型うつ病」 その正体とは?

質問:最近、日本では「新型うつ病」が話題になっていると聞きました。普通のうつ病とはどう違うのでしょうか? 冬に気分が落ち込むのも、新型うつ病の一種なのでしょうか?

Point

  • 20〜30代の若い世代の「うつ」として注目。
  • 「新型うつ病」という医学用語はない。
  • 「非定型うつ病」とほぼ同じ兆候を示す。
  • 職場では「うつ」状態、仕事を離れると元気になる。
  • 挫折体験に乏しく、プライドが高い人に多い。
  • 治療には、心理療法が有効。

新型うつ病について

● 「新型うつ病」は正式な病名ではありません
「新型うつ病(新型うつ)」は医学用語ではなく、メディアなどが作った言葉です。そのため、厳密な定義があるわけではありません。従来のうつ病の分類で言うと、「非定型うつ病」と似ています。「新型うつ病」が流行している昨今、企業におけるメンタルヘルスケアが課題として浮き彫りになっています。「現代型うつ病」と呼ばれることもあります。

「新型うつ」の特徴

● 「新型うつ」は増加している
実際の患者数は不明ですが、この5年ほどの間に、日本企業では対応に苦慮するほど増加しています。ほぼ同義とされる「非定型うつ病」は、うつ病全体の3割から半数を占めると推定されています。男女比では女性に多く、若い世代のうつ状態の多くを占めていると考えられています。

新型うつ病に特徴的な症状

● 職場で落ち込み、外では元気
20~30代の若い人にみられます。「うつ病(Depression, Melancholie)」は終始気分が落ち込み、何をやっても楽しくないのに対し、「新型うつ」の場合、うつ症状がみられるのは職場でのみ、仕事以外の趣味活動では活発で、病欠中に旅行に出掛けるケースもあります。そのため、仮病や気まぐれと誤解されることも少なくありません。

「新型うつ病」と「うつ病」の比較

● 失敗を他人のせいにする
 「うつ病」の場合は、「悪いのは自分」「自分は駄目だ」と自責の念や罪悪感を抱くのに対し、「新型うつ」は、仕事上の困難を会社や上司のせいと考えます。イライラ感が強くなり、周囲に攻撃的な態度を取ることもあります。

新型うつの特長

● 自分は「うつ」だと自覚する
職場での気分の落ち込みから、「うつ」ではないかと考え、自ら専門医を受診して「うつ」の診断書を会社に提出するなど、自分の症状に自覚的であることも少なくありません。一方で、会社を休んでレクリエーションに参加することには、疑問を抱かないことが多いようです。

● 食欲はあるし、よく眠れる
食欲が低下し、心配事で夜も眠れなくなる通常の「うつ病」に対し、「新型うつ」は食欲もあり、睡眠障害もありません。

● 拒絶過敏症の兆候
職場での嫌な体験がトラウマのように心に残り、例えば自分を叱責した上司の顔を見ただけで気が滅入ったりします。さらに、「パニック症状」「対人恐怖」といった不安症を伴うこともあります(「パニック障害」2012年6月23日発行、924号掲載)

新型うつ病になりやすい個人の資質

● 成績優秀で、挫折経験がない
幼い頃から褒められて育ち、学業も優秀、周囲の評判も良いが、他人から強い批判や叱責を受けた経験が少なく、挫折をあまり知らない人が多いようです。幼少時に母親から十分な愛情を得られなかったことと、心の病を発症することとの関連を示唆する意見もあります。

● プライドが高い
「自分は特別だ」「他人とは違う」という高いプライドと自信があります。そのため、職場の上司からの注意や叱責を、自分のプライドや社会的地位が傷付けられたと悲観的に捉えてしまいます。

● 他人からの評価を常に気にする
他人が自分をどう思っているかを絶えず気にして、人から批判されることを極度に嫌うような「対人緊張(他人に対する強い緊張感)」の状態にあると考えられています。

● 規則や期日もストレスと感じる
組織の規則や仕事の期日についても、ストレスと受け取る傾向があります。

新型うつへの対応と注意点

● 単にさぼっているのではない
 「新型うつ」は、未熟さが原因とか、さぼっているだけと思われがちですが、専門的には「非定型うつ病」と呼ばれる病気です。職場にいる時間、本人は本当に苦しい状態に置かれているのだという理解が大切です。プライドが傷付けられたことが嫌悪刺激になったとすれば、少し褒めてあげることも効果的です。

「新型うつ」に対する先入観と誤解

● 専門医を訪れる
言葉の問題もあり、ドイツのメンタルヘルス専門医(Psychiater/-in)への受診は、ハードルの高いものがあります。ドイツ語に自信がない場合は、近くの日本語のできる医師に相談してみてはいかがでしょうか。必要に応じて、ドイツ国内の専門医や日本語で相談できる臨床心理士(Klinischer Psychologe)、もしくは一時帰国の際に受診できる、日本国内の医療機関を紹介してもらえるでしょう。

● 心理療法が有効
治療はまず、抱えている問題とその背景を時間を掛けて聞くことから始まります。臨床心理士は心の病のカウンセリングと助言の専門家です。「新型うつ」の治療には、心理療法(Psychotherapie)が有効と考えられています。「うつ病」には良い治療薬がありますが、「新型うつ」には1回服薬して治るという特効薬があるわけではありません。誘因となった嫌悪刺激を消去するには時間が掛かります。本人、医師、臨床心理士、さらに職場の上司が連携しながら治療を行うことが大切です。

「新型うつ」の対応と治療

季節うつ(冬季うつ)とは異なります

日照時間が短くなり、外は寒くて暗く、家に閉じこもりがちなドイツの冬は、どうしても気分が落ち込みがちです。そういった季節的要因からくる「冬期うつ」の場合、甘いものを好み、過眠もみられます。「新型うつ」とは別の病態です。(「冬季うつ」2008年11月21日発行741号掲載)

最終更新 Montag, 05 Januar 2015 14:13
 

子宮頸がん予防ワクチン接種は、どうしたら良い?

日本では、子宮頸がん予防ワクチン(以下、子宮頸がんワクチン)は積極的に行われていないと聞きました。実際、どのような問題があるのでしょうか? また、ドイツの接種状況についても教えてください。

Point

  • 子宮頸がんの発症はHPVの持続感染が関与。
  • 子宮頸がんワクチンはHPVに対するワクチン。
  • 世界的に定期予防接種として推奨されています。
  • 日本では、痛みや運動障害、失神などの副反応を問題視。
  • 現在、厚生労働省は積極的な推奨を一時停止。
  • 副反応の原因は未解明。

子宮頸がん

● ヒトパピローマ(HPV)ウイルスが関与
子宮がんには、子宮の入り口に発生する子宮頸がん(Zervixkarzinom)と、胎児を育てる子宮体部に発生する子宮体がん(Endometriumkarzinom)があり、子宮頸がんの発生に関わっているのがヒトパピローマウイルス(Humane Papillomviren = HPV)です。

子宮頸部の位置

● HPVとは
ヒトパピローマウイルス(HPV)は、皮ふや粘膜に乳頭腫(Papilloma)と呼ばれるイボを作るウイルスで、主に性交渉で感染します。子宮頸がんにはHPV16型と18型が関与します。

● 子宮頸がんの頻度
女性では、乳がんに次いで2番目に多い悪性腫瘍です。日本の子宮頸がん患者については、年間約9800人が発症し、毎年、約2700人が子宮頸がんで亡くなっています(厚生労働省「2011年人口動態統計」)。

● 子宮頸がんの予防ワクチン
子宮頸がん患者の90%以上からHPVが検出されています。HPV感染の多くは無症状のままで、長期化したHPV感染の一部から子宮頸がんが発生すると考えられています。子宮頸がんと関係するHPV16型と18型のHPV感染を予防するワクチンが、子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)です。

● ワクチンは2種類
子宮頸がんワクチンには、グラクソ・スミスクライン(GSK)社のサーバリックス(Cervarix®)とMSD社のガーダシル(GARDACIL®)の2種があり、いずれも3回の接種が必要です(1回接種で十分に予防できるという報告もあります)。現時点では120カ国以上で承認され、すでに約1億7000万回分を上回るワクチンが使用されています。

子宮頸がんワクチンの種類

子宮頸がんワクチンの効果

● HPVの持続感染を予防
HPV16型と18型の持続感染を予防し、ほかのHPV型子宮頸がんは予防しないため、子宮頸がん検診は引き続き重要です。

● 細胞の異型性を予防
がんに移行する可能性の高い、正常時には見られない異型性の細胞(Dysplasie)を90%以上予防したと報告されています。

● 子宮頸がんに対する予防効果
実際、子宮頸がんの発症がどの程度抑えられるかについては、まだ明らかになっていません。理由は、ワクチンの効果の検証には10年以上の期間を要するためです。

安全性について

● 日本で相次いだ副反応の報告
日本では、子宮頸がんワクチンの接種が開始されてから2014年3月までに、約890万人が接種を受けています。そのうち2475件の副反応(副作用)の報告が厚生労働省に届けられ、627件は医師により重篤と判断されました。

● ワクチン接種後、半年以上の発症も
副反応と考えられている症状は、ワクチン接種直後だけではなく、半年以上や1〜2年後の報告もあり、以下の症状や病気との関連性が疑われています。

子宮頸がんワクチンの種類

日本における現状

● 厚生労働省の立場
子宮頸がんワクチンは日本では定期接種となっていますが、副反応に関する議論があるため、定期接種にもかかわらず、一時的に積極的な接種勧奨を控えている状態です。

● 日本線維筋痛症学会からの提唱
中枢神経症状も考慮に入れた形で、子宮頸がんワクチンの副反応を「HPVワクチン関連神経免疫異常症候群(Hans症候群)」と提唱し、その診断予備基準を発表しました(東京医科大学、西岡久寿樹医師)。

膀胱炎の主な症状と所見

● 日本産婦人科学会からの声明
日本産婦人科学会は、子宮頸がんワクチンは子宮頸がんの発症を抑えるという立場から、接種勧奨の再開を希望しています。

国際的にみる子宮頸がんワクチンの現状

● ドイツのSTIKOの推奨と欧州の現状
ドイツのロベルト・コッホ研究所のワクチン接種委員会(STIKO)では、現在、9〜14歳の女子への接種を推奨しています。また、欧州連合(EU)諸国29カ国のうち21カ国で、子宮頸がんワクチンの接種が推奨されています。

● 世界保健機関(WHO)の推奨と見解
WHOでは、特に子宮頸がん患者が多い発展途上国でのワクチン接種を積極的に勧めています。副反応に関しては、子宮頸がんワクチンとの関連を示す証拠はないという立場をとっています。

● 米国疾病予防管理センター(CDC)の推奨
11~12歳の女子と男子への子宮頸がんワクチン接種を勧めています(2014年)。この年齢に接種を受けなかった26歳までの女性と21歳までの男性への接種も推奨されています。男子への接種は、尖圭コンジローマの予防のためです。

● アメリカがん協会(ACS)の推奨
11~12歳の女子への子宮頸がんワクチンの接種が勧められています(2014年)。この年齢に接種を受けなかった19歳までの女性にも接種も推奨し、ワクチン接種は9歳から可能としています。男子についての推奨は、特にありません。

副作用の原因について

● 定説はなし
ワクチン接種による神経系統の副反応や、それが日本で特に顕著である理由については分かっていません。

● アルミニウム製説
子宮頸がんワクチンのアジュバント(ワクチンの免疫補強剤)として用いられているアルミニウムが、「神経細胞の炎症を起こし毒性を発揮する」と考えている研究者もいます。

● 抗リン脂質抗体症候群説
アルミニウムなど強力なアジュバントが抗リン脂質抗体を上昇させて、抗リン脂質抗体症候群を起こし、痛みや神経症状を発症させているのではないかという説があります。

● 機能性心身症(心の病)説
本年の厚生労働省の検討部会では、子宮頸がんワクチン接種後の疼痛などに関して、「心の病」の観点からの検討も加えています。心理面に配慮した治療で約7割の患者で症状改善がみられたものの、残り3割の症状は不変だったと報告されています。

● 自然発症の紛れ込み説
問題とされている副反応には、子宮頸がんワクチン接種とは関係のない自然発症が紛れ込んでいる可能性があり、「ワクチン接種後の発生」=「ワクチン接種が原因」とは言えないという主張もあります。

最終更新 Dienstag, 25 November 2014 13:15
 

女性が罹りやすい膀胱炎

涼しくなるこの時季になると、膀胱炎を起こしてしまいます。また、トイレを我慢すると膀胱炎になりやすいと聞きますが、なぜでしょうか?

Point

  • 女性が罹りやすい病気。
  • 尻付近の細菌が尿道から入るのが1つの要因。
  • 主症状は、頻尿、排尿痛、残尿感。
  • 治療には抗菌薬が有効です。
  • 予防の基本は「清潔に保つ」「トイレを我慢しない」。

膀胱炎とは

● 細菌による膀胱の炎症
尿道から侵入した細菌(Bakteria)が、膀胱(Harnblase)の壁に付いて増殖することで起こる急性炎症です。

● 起因菌は大腸菌
女性の急性の膀胱炎のほとんど(約80%)は大腸菌(E. Coli)によるものです。大腸菌は私たちの腸内に住む、通常は無害な細菌(腸内細菌)ですが、尿路系に入ると病原体に変わります。

● 女性の4人に1人が膀胱炎を経験
急性の膀胱炎の多くは、性的活動期にある女性に多くみられます。性交渉がきっかけで膀胱炎を起こすことも少なくありません。女性の20~25%に膀胱炎の経験があり、女性は人生のうちで1度は膀胱炎を経験するとも言われています。20~50歳代の女性にみられる尿路感染症の頻度は、男性の約50倍にも上ります。

● 膀胱炎を起こす要因
日常生活で細菌が尿道に入り込む機会はそれほど多くありません。しかし、衛生面が不十分だったり、過労、寝不足、ストレスで免疫力が低下しているとき、長時間トイレを我慢したとき、上述のように性交渉がきっかけで膀胱炎(単純性膀胱炎と呼ばれます)になることがあります。尿路系の基礎疾患に伴う膀胱炎は「複雑性膀胱炎」と呼ばれ、慢性となることもあります。

膀胱炎を起こす要因

なぜ女性に多いのか

女性の身体は、男性より尿道内に細菌が入り込みやすい構造になっています。

● 尿道が短い
女性の尿道(Harnröhre)は男性に比べて長さが3~4㎝と短く、しかも太くなっています。男性の尿道は16~20㎝で、女性より細くできています。

膀胱と尿道の関係

● 尿道が肛門に近い
女性は尿道の位置が肛門や膣に近く、尻付近のデリケートゾーン(会陰部)に付着した細菌が簡単に尿道を通って膀胱に侵入してしまいます。

● 男性は膀胱炎より尿道炎が多い
男性の尿道は、開口部が肛門から離れているため、細菌が入りにくい構造となっています。男性のペニスの先端部から尿道に細菌が侵入した場合は、まず尿道炎を起こします。ただし、男性が尿道炎を発症する大半の原因は、性交渉によって起こる性行為感染症(STI)です。

トイレを我慢すると……

● 膀胱は理想の培養器
排泄物である尿も、細菌が住むには適温で、栄養分が豊かな培養液のようなものです。

● 短時間で増殖
尿内に入った細菌は、1つの菌が2つに、2つの菌が4つにというように、指数関数的に増殖するため、トイレを長時間我慢するだけで、細菌は増えていってしまいます。

膀胱炎の症状と治療

● 頻尿、排尿痛、残尿感
膀胱の粘膜に炎症が生ずると、「頻繁にトイレに行きたくなる」「排尿時の痛み」「排尿したのに尿がまだ残っている感覚」「下腹部の不快感」といった症状が出ます。

膀胱炎の主な症状と所見

● 血尿が見られることも
「尿に血が混じる」「尿が濁る」ことがあります。尿の潜血(肉眼では見えない血液混入)や血尿(Hämaturie、肉眼で分かる)は、膀胱の粘膜が炎症によりただれた状態になっていることが原因です。

● 高熱や腹痛は腎盂腎炎の可能性も
膀胱炎が悪化すると、膀胱内の細菌が尿管を伝わって腎臓にまで達し、腎盂腎炎(Pyelonephritis)を起こすこともあります。膀胱炎の症状に続いて38℃近い高熱や、上腹部痛が左右どちらかにみられたら、この病気も疑います。

● 治療には抗菌薬
尿検査で細菌感染による急性膀胱炎と診断された場合の治療方法は、抗菌薬の投与です。通常は起因菌として最も多い大腸菌による感染を想定して抗菌薬を選びます。急性の単純性膀胱炎の場合、3日間程度の抗菌薬の内服で治ります。

尿検査で分かる膀胱炎

女性の膀胱炎の予防法

● 日常生活における注意
デリケートゾーンを清潔に保ち、十分な睡眠と水分摂取を心掛けます。膀胱炎を繰り返す人は、通気性の悪いタイツの着用は避けましょう。

膀胱炎の予防

● 性交渉時の留意点
デリケートゾーンの衛生状態はもちろんのこと、事前に手を洗うことも大切です。また、性交後は早めに排尿するようにしましょう。ペッサーリー(子宮内避妊器具)は膣内の常在菌を抑え、大腸菌など、ほかの細菌の力を増す可能性が指摘されています。膀胱炎に罹ったら、完治するまで性交渉は控えましょう。

● 街のトイレを把握しておく
トイレは我慢せず、頻繁に排尿することが大切です。小まめに排尿すれば膀胱内に細菌がとどまりません。家に戻るまでとか、会議が終わるまでなどとトイレを我慢している間に細菌が増えていってしまいます。街中の駅やデパートのトイレの位置を事前に調べておき、外出中などでもトイレを我慢しないようにしましょう。

膀胱炎を頻繁に繰り返す

● 基礎疾患の有無
尿路系の基礎疾患がある場合は複雑性膀胱炎と言われ、膀胱炎症状を繰り返すことが少なくありません。また、糖尿病患者は膀胱炎を起こしやすくなります。

● 感染のない膀胱炎
間質性膀胱炎(Interstitielle Zystitis)は中高年の女性に多くみられ、感染の形跡を伴わない膀胱の炎症です。症状には頻尿・尿意切迫感・痛みなどがあり、膀胱粘膜に点状の出血(ハンナー潰瘍)がみられます。原因は不明です。

最終更新 Mittwoch, 22 Oktober 2014 10:55
 

エボラ出血熱に関するQ&A

西アフリカで流行中のエボラ出血熱が、欧州にも広まらないか心配です。エボラ出血熱について、詳しく教えてください。また、アフリカへの旅行は大丈夫でしょうか。

Point

  • エボラウイルスによる致死率の高い感染症。
  • 今後も西・中央アフリカで感染拡大の可能性あり。
  • 予防ワクチンはありません。
  • 治療薬は開発段階。
  • 粘危険地域や流行国への接近は控えましょう。

エボラ出血熱とは

● 致死率50%以上のウイルス感染症
エボラ出血熱(ドイツ語: Ebolafieber)は、エボラウイルス(Ebolavirus)による感染症です。1976年に初めて発生し、その罹患者の出身地が中部アフリカのコンゴ(民主共和国、旧ザイール)のエボラ川付近であったことから名付けられました。発症すると、致死率が50~90%という危険な病気です。

● 西アフリカを中心に拡大
今回(2014年)の感染拡大地域は主に西アフリカで、リベリア、シエラレオネ、ギニア、ナイジェリア、セネガルで感染が確認されています。また、コンゴ(民主共和国)でも、西アフリカとは別のウイルス株によるエボラ出血熱が発生しています(9月2日現在、世界保健機構(WHO)報告)。

2014年の感染拡大地域

● 致死率は50%
2014年9月12日時点での患者数は合計4784人、死亡数は2400人超(WHO報告)で、致死率は50%に達しています。1976年発症時の致死率は88%(318 人中280人)で、最も高い数値です。医療関係者の感染も多く、今年はすでに240人以上の医師や看護師が感染し、120人以上が亡くなっています。

● ドイツにおける罹患者
8月末に西アフリカから搬送された患者が、ハンブルク・エッペンドルフの大学病院(UKE)で隔離入院治療を受けています。患者はシエラレオネにあるWHO検査施設で、エボラに関する研究員として働いていました。

感染経路

● 血液や体液を介して感染
患者の血液や汗、分泌物といった体液に直接触れたり、体液が付着した物に触れて、ウイルスが傷のある皮ふや粘膜から体内に入ります。会葬者が遺体に触れるという葬儀の風習も、感染拡大を招いています。

● 動物を介する感染
エボラウイルスに感染したチンパンジーやゴリラ、さらに自然宿主(ウイルスと共生している)と考えられているオオコウモリなどの野生動物に触れて感染することもあります。

● 空気感染や潜伏期の感染はない
食べ物からの感染や空気感染はありません。蚊による媒介もありません。また、発症前の潜伏期(感染してから発症するまでの期間)の患者からの感染はないとされています(米国疾病予防管理センター(CDC)「エボラウイルスに関するQ& A」)。そのため、症状のない潜伏期の感染者が移動中にウイルスを拡散する可能性は低いと考えられています。

症状

● 風邪症状に続く出血
通常は2日~3週間の潜伏期(汚染注射針を介する感染では短く、接触感染では長くなる傾向)に続き、発熱・頭痛・筋肉痛などのインフルエンザと同様の症状で発病します。発症後5日目頃から腹痛・吐き気などの消化器症状が、7~10日目頃から目・耳・鼻・消化管からの出血が現れます。出血は、すべての発症患者にみられるわけではありません。ウイルス感染から死亡に至るまで、長くて約1カ月と言われています。

エボラ出血熱感染後の発症経過

● なぜ出血するのか?
エボラウイルスは、ヒトの細胞を壊す特殊なタンパク質を作ります。このタンパク質が血管のバリアを破壊し、血液成分が血管の外に漏れ出します。血液を固める止血機能も停止し、血が止まりにくくなります。

● 感染拡大の背景
流行地域の衛生状態、脆弱な医療設備、住民の知識不足、葬儀の風習、隔離されることへの不安、外国人医師の活動に対する不信感などが挙げられます。

流行地域への渡航は?

● 渡航の自制と退避
日本の外務省はエボラ出血熱の流行地域について、「出国できなくなる可能性及び現地で十分な医療が受けられなくなる可能性がある」との理由から、渡航の自制とともに、在留邦人に対しては、早めの退避の検討を促しています。

● 流行地域からの帰国
空港検疫所の指示に従ってください。流行地域からの帰国後3週間以内に発熱・頭痛などの症状で医療機関を受診する際は、流行地に滞在していた旨を伝えてください。

● アフリカ大陸全域が危険なわけではない
政情不安の可能性がある国を除くと、観光旅行者の多いアフリカ南部の南アフリカや東南部のケニア、タンザニア、北西部のモロッコなどは、今回の発生国とは離れているため、渡航制限は特にありません。

エボラ出血熱の治療

● 予防ワクチンや治療薬はなし
エボラ出血熱の予防ワクチンや治療薬は存在せず、治療は対症療法のみです。

開発中・検討中の治療薬やワクチン

予防についての基礎知識

● 危険地域には近付かない
感染拡大が確認されている地域(国)の近隣諸国への出張などを予定されている方は、直前の感染状況の情報に十分注意してください。

● 感染リスクの高い人
①エボラ出血熱患者を治療する医療従事者、②エボラ出血熱患者の家族や患者本人と接触する機会があった人、③エボラ出血熱患者の葬儀に参列し、遺体と接触した人、④危険地域の野生動物の死体に触れる可能性のある人。

● 正しい知識が大切
風評にとらわれることなく、正しい知識と情報を得ることが大切です。日本の外務省「海外安全ホームページ」、厚生労働省、英語ではWHO、CDC、ドイツ語ではロベルトコッホ研究所(RKI)などのウェブサイトから、信頼できる情報が得られます。

エボラ出血熱―状況把握に役立つウェブサイト

最終更新 Dienstag, 23 September 2014 11:03
 

気を付けよう! 夏の下痢

夏休みなので、子どもを連れて日本へ一時帰国します。夏の旅行ではときどきお腹を壊してしまうのですが、何か有効な対策はあるでしょうか。

Point

  • 冷たい飲み物やアルコールの多飲、食べ過ぎに注意。
  • 腹部を冷やさないようにし、十分な睡眠を取る。
  • 帰宅時や調理前後、食前は、必ず流水で手洗いを。
  • 多忙過ぎる旅行計画はストレスの要因に。
  • 粘血便を伴う下痢は、早急に医療機関を受診。

急性の下痢の原因

● 清涼飲料水やアルコールの飲み過ぎ・食べ過ぎ、寝冷えに注意
冷たい清涼飲料水・アルコールの飲み過ぎは、下痢(Durchfall)や腹痛(Bauchschmerzen)の原因となることが少なくありません。また、薄着や上半身裸のままエアコンのついた部屋で寝ていると、寝冷えから腹部症状を来すことがあります。皮ふは熱を持っているのにお腹が冷たいときは要注意です。食べ過ぎにも気を付けましょう。これらに起因する下痢に、発熱は伴いません。

● 細菌による胃腸炎(食中毒、Lebensmittelvergiftung)
夏は細菌による胃腸炎が起こりやすくなります。食中毒を起こす代表的な細菌は、病原性(下痢性)大腸菌、腸炎ビブリオ菌、サルモネラ菌、黄色ブドウ球菌、カンピロバクターなどがあります(後述)。通常、細菌による胃腸炎では、「発熱」と「しぶり腹」(腹痛はあるが便が出ない状態)がしばしばみられます。

月別にみた細菌性食中毒の発生件数

● 夏風邪
夏の暑さを好むウイルスによって引き起こされる病気です。のどの痛みや発熱などの風邪症状の後に、腹痛・下痢を来します。子どものプール熱、手足口病、ヘルパンギーナ(急性ウイルス性咽頭炎)が知られています。

● 旅行のストレスや疲れに伴う下痢
夏の日本への一時帰国は、高温多湿な気候に加え、短期間滞在の過密スケジュールや移動の疲れが肉体的なストレスとなって、腸運動をつかさどる自律神経系に影響し、下痢の原因となります。

● 薬剤による下痢
風邪症状に対して抗菌薬(抗生物質=Antibioticum)を漫然と用いると、腸内の正常な細菌叢(そう)が壊れて下痢になることがあります。解熱鎮痛剤(Analgetikum、Schmerzmittel)の使い過ぎも、胃腸障害の原因となります。

下痢を生じるメカニズム

夏は食中毒に注意!

● 感染型と毒素型の食中毒
食材に付着した細菌が腸内で増殖し、障害を起こす「感染型」食中毒と、食品内で細菌が作った毒素を口にして中毒症状を来す「毒素型」食中毒があります。

● サルモネラ菌(Salmonelle)
生卵が感染源となることが少なくありません。また、サルモネラ菌は家畜やペットの消化管に生息しているので、かわいいペットとはいえ、触ったら必ず手を洗いましょう。潜伏期間は12〜24時間です。

● カンピロバクター(Campylobacter)
子どもの下痢の原因として多いのが、カンピロバクターです。潜伏期間は2〜5日です。カンピロバクターは食肉などに含まれていることもあるため、バーベキューなどでは十分に加熱することが大切です。

● 黄色ブドウ球菌(Staphylokokkus)
潜伏期間は約3時間と短いのが特徴です。おにぎりや仕出し弁当などを食べた後に、吐き気やおう吐、腹痛、下痢がみられます。化膿(多くは黄色ブドウ球菌による)した傷のある手で食材に触れることにより感染します。黄色ブドウ球菌は増殖の際、加熱しても壊れないエンテロトキシン(腸毒素)を作ります。このため、加熱で殺菌することはできません。

● ボツリヌス菌(Botulinusbazille)
ボツリヌス菌は土の中や海・湖・川の底の泥砂に生息する嫌気性(酸素を嫌う)の細菌で、熱に対して非常に強い「芽胞(がほう)」を作ります。潜伏期間は8〜36時間で、吐き気やおう吐に加え、視力障害・嚥下(えんげ)障害・視力異常などの神経症状を伴う「ボツリヌス食中毒」を発症します。

● 腸炎ビブリオ菌(Vibrio)
潜伏期間は約12時間で、小腸に感染するため、上腹部に激しい痛みがみられます。腸炎ビブリオ菌は海水中に生息し、魚介類を介してヒトに感染します。20度以上で増殖が活発となるため、海水温度が上がる夏の生魚は要注意です。

主な夏の食中毒と症状

病原性大腸菌による下痢

● 病原性(下痢原性)大腸菌とは?
私たちの腸管に生息している大腸菌に病原性はありませんが、ヒトに対して強い病原性を持つ大腸菌を「病原性大腸菌」(または下痢原性大腸菌)と呼びます。日本ではO157が有名です。

● 強力な感染力
感染力が非常に強く、汚染された食品を口にしたり、菌で汚染されたものに触れた手で調理することで、感染が広がります。発病者の下痢が止まっても、しばらくは便中に排菌が続きます。感染はしたけれど発症しない 「無症状病原体保有者」からも便中への排菌はあるので、同様に2次感染への注意が必要です。

病原性大腸菌の種類と症状

下痢の治療と予防

● 下痢の治療
夏の下痢の原因は様々です。「下痢」は腸の中の悪いものを早く排泄してしまおうとする生体防御的な反応でもあり、すべての症状に止痢薬を用いて下痢を止めてしまえば良いというものではありません。原因によって対処法が異なりますので、症状がおかしいと感じたら、最寄りの医療機関を早めに受診しましょう。

● 夏の下痢の予防
食前・調理前の手洗いを徹底し、暴飲暴食を避け、十分な睡眠を取って免疫力を高めることが基本です。室内のエアコン温度は冷え過ぎないように調整します。就寝時はお腹にタオルケットなどを掛けるようにしましょう。生野菜はしっかりと洗い、食肉は中心部まで十分に加熱します。缶詰が膨張していたり、真空パックの中身から酸っぱい臭いがするようであれば、廃棄しましょう。発展途上国の観光地を訪れる際は、生水は口にしないようにしましょう。

最終更新 Montag, 18 August 2014 10:44
 

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