Hanacell
ドクターの診察室


子どもと大人の風疹・麻疹・水ぼうそう

日本では今、大人の風疹や麻疹が流行っていて、しかも子どもより症状が重いと聞きました。子どもの頃に予防接種をしたかどうか不確かですが、ワクチン接種をした方が良いのでしょうか?

風疹は近年まれにみる最悪の流行

日本の国立感染症研究所の集計によると、今年7月までに報告された風疹(Röteln)はすでに昨年1年間の1.6倍で、この5年で最悪の流行となっています。流行の中心は20~40歳代の男性。この層が全体の半数以上を占めています。麻疹(Masern)も、ここ3年間で20歳以上の患者が1500人と増加傾向にあります。

なぜ大人の風疹が流行しているの?

現在20~40代の日本人男性の中には、風疹のワクチン接種を受けていない人が少なくありません。平成23年度の感染症流行予測調査によると、30~50代の男性のなんと5人に1人、20代の男性でも10人に1人が風疹に対する免疫を持っていませんでした。

子どもの頃、予防ワクチン接種を受けたから大丈夫?

ワクチン接種後、時間とともに徐々に抗体価が減少することがあります。風疹も麻疹も、昔は周囲の人に感染がみられ、それによって自然に免疫力が維持されてきたものの、近年は流行も減り、子どもの頃に1回接種しただけだとウィルスに対する免疫が低くなっている場合があります。実際、風疹ワクチンを1回しか受けなかった20歳以上の女性の20人に1人は、抗体価が低いとも言われています。

風疹(三日はしか)について

風疹ウィルスによる感染症。英語では「ドイツはしか(German measles)」とも呼ばれます。

どうやって感染・潜伏期は?
患者の鼻水に含まれるウィルスに直接接触したり、くしゃみによる飛沫感染で伝染ります。他者への感染力がみられるのは、発疹が出てくる1週間前から発疹が出て約4日間程度。感染者の約70%に症状が出現します(顕性感染)。潜伏期は2~3週間。

発疹の特徴と症状は?
発疹は発熱と同時にみられ、耳の後ろにあるリンパ節が腫れます。軽い痒みを伴なう紅斑が顔から全身に拡がります。紅斑は麻疹のように融合せず、発疹が消えた後の色素沈着もみられません。大人が風疹に罹ると、発熱や発疹の期間が子どもより長く、しばしばひどい関節痛がみられます。1週間以上休まなければならないこともあり、重篤な合併症も希にみられます。

治療までの流れ、合併症の危険性は?
風疹ウィルスに対抗する薬はなく、対症療法が中心となります。また、脳炎、髄膜炎、血小板減少性紫斑病を合併することがあり、妊娠初期では先天性風疹症候群(後述)の原因となります。一度罹ると終生免疫を獲得しますが、ごくまれに再感染したとの報告もされています。

妊婦・妊娠希望の方は要注意!
妊娠早期の妊婦が風疹に罹ると胎児に先天異常をもたらす「先天性風疹症候群(Rötelnembryofetopathie)」の危険が生じます。妊娠する可能性のある女性は、過去に風疹に罹ったかどうか、予防接種を受けたかどうかが不確かな時は、予防ワクチンを接種するようにしましょう。ただし、風疹ワクチンは生ワクチンのため、妊婦は接種できず、ワクチン接種後2カ月間は避妊の必要があります。

麻疹(はしか)について

乳児後半から幼児にかけて好発するウィルス感染症です。特に2歳以下の患者が50%を占め、その95%以上が予防接種未接種の子どもです。春から夏にかけての感染が多く、数年間隔で流行がみられます。

どうやって感染・潜伏期は?
麻疹ウィルスは感染力が強く、咳やくしゃみによる飛沫感染で体の中に入ります。潜伏期は10~12日間。感染者の95%以上で症状がみられます。

症状は?
38℃前後の発熱や咳、鼻水など、風邪のような症状で発症します。他人への感染力はこの症状が出ている時期に最も強くみられます。38℃前後の発熱が2~4日間続き、いったん少し熱が下がった後、口の中に白い斑点がみられ(コプリック斑)ます。そして再び39℃近い高熱が出て、全身に小さな赤い斑状の発疹が出現します。発疹の特徴は、耳の後ろや頬から始まり、次第に体や四肢に拡がります。小さな赤い班は融合拡大して不正型となり網の目状となります。意外なことに、この皮疹の部分にはウィルスは存在しません。大人が麻疹に罹ると、基本的な症状は子どもと同じですが、重症化して1週間程度の入院が必要となることがあります。

治療までの流れ、合併症の危険性は?
麻疹ウィルスを直接やっつける薬はありません。症状を軽くする対症療法が中心となります。また、約30%に合併症がみられます。最近は、細菌の二次感染による中耳炎がもっと多く、時には肺炎や脳炎を併発します。脳炎は麻疹患者の1000人に約1人にみられ、そ の20〜40%に後遺症が残り、約15%の人が死亡します。麻疹に一度罹れば、強い終生免疫を獲得しますが、ごくまれに再感染もみられます。

水ぼうそう(水痘)について

水ぼうそう(Windpocken)は、水痘・帯状疱疹ウィルスの初感染によって起こる病気です。ほとんどが9歳以下の、乳幼児から学童前半期の小児に好発します。水ぼうそうが治った後も、ウィルスが神経節に潜み続け、後年になって帯状疱疹(Herpes Zoster)を引き起こします。

どうやって感染・潜伏期は?
水痘・帯状疱疹ウィルスは極めて伝染性が強く、接触感染や飛沫感染にて感染します。潜伏期は2~3週間です。

発疹と症状は?
発熱や体のだるさとともに、頭皮を含む全身に痒みを伴った小さな紅斑が出現、数日の間に虫さされにも似た小さな水疱(すいほう)からかさぶたへと変化します。次々に新しい発疹ができるため、紅斑・水疱・かさぶたが混在します。7~10日で治ります。最近は初感染の年齢が上昇傾向にあり、大人の水ぼうそうも増えてきています。大人では症状が重症化しやすく、肺炎や脳炎(特に小脳炎)を合併することがあります。

治療は?
痒み止めの外用薬など、対症療法が中心です。重症化を避けるために抗ウィルス薬を服用することもあります。感染してから72時間以内であれば、水痘ワクチンによって60~80%の発症を抑えることができます。ライ症候群という重篤な病態を引き起こすことがまれにあるので、発熱に対してアスピリン製剤を使ってはいけません。一度罹ると、終生免疫を獲得すると言われていますが、水痘・帯状疱疹ウィスルに対する抗体価が低下した状態では、再感染もみられます。

ワクチン接種しても発症?
水痘ワクチンの接種で免疫ができていても、10~20%の人が水痘を発症します。この場合、症状はとても軽く、発疹の数も少ないことがほとんどです。

麻疹・風疹・水ぼうそうの特徴
麻疹 風疹 水ぼうそう
潜伏期 2週間 2〜3週間 2〜3週間
発熱と
発疹
二峰性の発熱。
再発熱時に発疹
発熱と同時に発疹 発熱と同時に発疹
発疹の
特徴
耳の後、頬から体・
四肢へと拡がる。
発疹の融合あり
顔から全身に拡がる。
発疹の融合なし
水疱の形成。
新旧の発疹が混在。
頭皮にも水疱あり
発疹の後 色素沈着あり 色素沈着なし かさぶた化
その他の
特徴
口内のコプリック斑 耳の後のリンパ節 -
大人では 重症化あり 重症化あり 重症化あり

予防接種は1回、それとも2回?

日本でも2006年から風疹と麻疹ワクチンの2回接種法が導入されました。ドイツの場合、1回のワクチン接種での免疫獲得率は、麻疹で95~98%、風疹で約95%、水ぼうそうでは92~97%(1回の予防接種を受けた人でも免疫がついていない可能性がある)で、2回目のワクチン接種による免疫獲得率は、麻疹は100%、風疹はほぼ100%、水ぼうそうは98%以上となります。また、1回しかワクチンを接種していない人の場合、10年以上も経つとウィルスに対する抗体価が下がっていることがあります。麻疹ワクチンを2回受けていない妊婦のご家族の方は、風疹予防と麻疹予防の両方の観点から、麻疹・風疹混合ワクチン(MR)の接種が推奨されています(国立感染症研究所)。

※ドイツでの予防接種については、過去の連載もご覧ください。

最終更新 Dienstag, 23 Oktober 2012 13:08
 

果物アレルギー - 花粉症との不思議な関係

りんごを食べると唇やのどが痒くなります。
りんごのアレルギーってあるのでしょうか?

果物でアレルギー?

秋は果物の季節。でも美味しいはずの果物を食べると、口の中がピリピリとむず痒くなる人がいます。口腔アレルギー症候群(Orale Allergiesyndrom)と呼ばれ、りんごやサクランボ、モモ、メロン、キウイと原因となる果物は様々です(表1)。果物アレルギーは食物アレルギー(Nahrungsmittelallergie)の一種ですが、実は花粉症(Heuschnupfen)とも密接な関係があります。平成14年・17年度の厚生労働科学研究報告書によると、食品によるアレルギー全体の約6%を果物アレルギーが占めています。花粉症を患う人が増えるに従って増加傾向にあると推測されています。

表1 果物アレルギーのみられる果物の例
マタタビ科 キウイ
バラ科 モモ、りんご、ナシ、 サクランボ 、イチゴ
ウリ科 メロン、スイカ
バショウ科 バナナ
ミカン科 オレンジ、レモン
パイナップル科  パイナップル

果物アレルギーの症状は?

果物アレルギーの主な症状は、口腔アレルギー症状です。ある特定の果物を食べると、15分以内に唇や舌、のどの奥がイガイガと痒くなります。子どもなら、「不味い」「苦い」「辛い」「口が痛い」などと訴えることもあります(図1)。果物アレルギーの原因となるタンパク質は消化液で分解されることが多いため、口腔内のアレルギー症状に留まり、全身症状は伴わないケースが少なくありません。

 図1 骨髄は骨の中の血球の製造工場

果物を食べて救急車を呼ぶことも!

しかし、場合によっては皮膚や粘膜にじんま疹が出たり、目や鼻の痒み、さらには腹痛、吐き気、下痢などの消化器症状を生じることもあります。気管支喘息を誘発したり、アナフィラキシー反応(急性の全身性の即時型アレルギー反応)を起こしたり、救急車を必要とする重篤な症状をきたすこともあります。

花粉症との不思議な関係

果物アレルギーは、特定の花粉症と関連することも分かっています。例えば、 シラカバ(Birke)花粉症では約半数の人に何らかの口腔アレルギーがみられるとも言われており、バラ科のサクランボやりんご、モモ、ナシ、イチゴ、さらにマタタビ科のキウイに対してもアレルギー反応がみられます。ブタクサ(Beifuß)花粉症の人には、メロンやスイカなどウリ科の果物やバナナのアレルギーが生じやすく、カモガヤ花粉症は、オレンジのアレルギーと関係すると言われています(表2)。そのため、口腔アレルギー症状は花粉症の季節に悪化することがあります。

表2 花粉症との関係
シラカバ花粉症 マタタビ科 キウイ
バラ科 モモ、りんご、ナシ、サクランボ 、イチゴ
ブタクサ花粉症 ウリ科 メロン、スイカ
バショウ科 バナナ
カモガヤ花粉症 ミカン科 オレンジ、レモン

ゴム製品のアレルギーとの関係

ゴムの成分である天然ゴムの木の樹液(ラテックス)に対するアレルギーがあると、ゴム製品(ゴム手袋やコンドームなど)に触れることで、痒みやじんま疹を生じます。ラテックスアレルギーの約半数に果物アレルギーを合併すると報告されていて、キウイやバナナ、アボガド、栗、マンゴー、パパイヤ、メロン、モモ、パイナップルなどの果物アレルギーは、ラテックスアレルギーとの交差抗原性(後述)があることから「ラテックス・フルーツ症候群(Latex-Frucht Syndom)」とも呼ばれます。

果物アレルギーの原因は?

多くの果物アレルギーは、まず草木の花粉に対する花粉症になった後、その花粉と似た構造のタンパク質(交差抗原性と言います)が含まれる果物を食べることによって生じます。これらは「クラス2食物アレルギー」とも呼ばれます。それに対し、花粉症とは関係なく、食品中のタンパク質に対してできた抗体が原因で起こるアレルギー反応は「クラス1食物アレルギー」と呼ばれ、全身性のアレルギー反応を示す場合があります。その一方で、果物を煮たり、焼いたり、漬けたりするとタンパク質が変化して、同じ果物でも口腔アレルギーが起こらなくなったります。また、漬けたりすることによって新しくできたタンパク質が別なアレルギーの原因となることもあります。

植物科が共通だと起こりやすい?

植物学的に同じ科に属する果物では抗原が似ているため、アレルギーを起こしやすくなります。例えば、サクランボとりんご、モモ、ナシ、イチゴはバラ科に属するため、サクランボで口腔アレルギーを起こす人はりんごなど他のバラ科の果物のアレルギーが同時にみられることも少なくありません。

無農薬果物でアレルギーは減る? 増える?

無農薬栽培のりんごで行った近畿大学の研究(2006年)によると、無農薬栽培によって必ずしもりんごアレルギーが減るわけではなさそうです。むしろ、無農薬栽培のりんごは、感染特異性タンパク質(抗菌作用のあるタンパク質)というアレルギーの原因物質が増えたと報告されています。理由として、無農薬果物では病害虫の攻撃に対抗するために感染特異性タンパク質が多く作られている可能性が考えられています。

果物アレルギーいろいろ

● シラカバ花粉症と関係するもの

キウイアレルギー(Kiwi)
果物アレルギーとして最も多くみられます(神奈川県食物アレルギー実態調査)。キウイはマタタビ科に属しますが、バラ科果物と同様にシラカバ花粉症の人に起こりやすくなっています。同じキウイでも、緑色の果実を持つデリシオサ種の方が、黄色い果実のチネンシス種よりアレルギー成分であるアクチニジンという物質が多く含まれています。

りんごアレルギー(Apfel)
シラカバの花粉症と交差抗原性があります。りんごを生で食べたり、生果汁を飲んだりすることで生じます。りんごジャムや加熱処理済のりんごシュースではアレルギーを生じないこともあります。

モモアレルギー(Pfirsich)
「モモもスモモもモモのうち」と言われるように、同じバラ科に属するモモやスモモでみられます。

サクランボアレルギー(Kirsche)
バラ科の果物であるサクランボを食べて起こるアレルギーです。アメリカンチェリーでもみられます。

● ブタクサ花粉症と関係するもの

メロンアレルギー(Melone)
神奈川県の調査では、2番目に多く報告されたのがメロンアレルギーです。メロン以外にもスイカなどウリ科の果物でアレルギー症状がみられることがあります。

バナナアレルギー(Banane)
バナナを食べたり、生のバナナジュースを飲むことで起こるアレルギーです。

● カモガヤ花粉症と関係するもの

オレンジアレルギー(Orange)
オレンジは、イネ科のカモガヤの花粉症と交差抗原性があります。生のオレンジを食べたりすることで、口腔アレルギー症状が現れます。

果物アレルギーの診断方法は?

特定の果物を食べることにより繰り返される、特徴的な口腔アレルギー症状の経験により診断がなされます。さらに、原因と思われる果物に対する血液中のIgE抗体を測定したり、果汁成分を薄めた試験液を用いた皮膚テストでアレルギー反応を確認する場合もあります。

果物アレルギーの対処法は?

治療は、アレルギー症状を起こす果物を食べないようにすることが基本。症状が軽いからといって食べ続けると、次第にアレルギー症状が強くなることもあるので注意が必要です。皮膚のじんま疹に対しては、抗ヒスタミン薬が、さらに重篤なアナフィラキシーではステロイド製剤が用いられます。

最終更新 Montag, 24 September 2012 12:51
 

血液型が変わる? - 骨髄移植とさい帯血移植

新聞などで時々話題になる造血幹細胞移植(ぞうけつかんさいぼう)とは
どんな移植ですか。また、どんな病気に対して行われるのでしょうか。

造血幹細胞移植はどのような病気が対象ですか?

「血液のがん」とも呼ばれる白血病(Leukemie)と、骨髄の造血機能の低下によって生じる再生不良性貧血(Aplastische Anämie)が、造血幹細胞移植の対象となる主な病気です。

白血病とは?

白血病は、骨の中にある骨髄(Knochenmark)で白血病細胞が無制限に増殖する病気です。白血病細胞の増加によって正常な血液を作れなくなることで、様々な問題が生じます。日本では、年間6000〜7000人の方が罹患します。白血病のうち、急性リンパ性白血病は子どもに多く(80%)、急性骨髄性白血病は大人に多く(80%)みられます。

 図1 骨髄は骨の中の血球の製造工場

造血幹細胞とは?

赤血球(酸素を運ぶ)・白血球(感染防御や免疫に関係)・血小板(止血に関与)は、骨髄という血液の工場で造られます。これらの血球が造られる源となる細胞が、造血幹細胞(Blutstammzellen)です。

なぜ白血病の治療に移植が必要となるの?

白血病の治療には、大量の抗がん剤と放射線照射が必要です。白血病細胞を完全に取り除いてしまう強い治療は、同時に正常な血球を造る機能をも壊してしまいます。そのため、白血病患者には血球(赤血球、白血球、血小板)を造ることができる新しい造血幹細胞が必要となります。

造血幹細胞はどこから入手する?

造血幹細胞は、骨髄、末梢血、さい帯血(赤ちゃんのへその緒に含まれる血液)に存在します。各々の移植は、「骨髄移植」「末梢血幹細胞移植」「さい帯血移植」に分類され、総称して造血幹細胞移植(Stammzelltransplantation)と呼ばれます。

図2 造血幹細胞の種類

自家移植と同種移植

あらかじめ採取しておいた患者自身の造血幹細胞を用いるのが「自家移植」。移植による合併症が少なく、移植細胞の生着が早いという利点があります。一方、提供者(ドナー)由来の造血幹細胞を用いるのが、「同種移植」(ヒトという同種の意)です。 同種移植の場合は、白血病細胞の混入の心配がなく、造血幹細胞の生着後は新しい白血球の免疫反応によるがん細胞への攻撃(GVL効果)が期待できます。

フル移植とミニ移植

フル移植とは、まず前処置として骨髄の白血病細胞を完全に取り除くことを目的に、強力な抗がん剤投与と放射線照射を行い、その後に移植を行う方法です。フル移植は身体への負担があり、基本的に50歳代前半までが限度とされています。それに対して、ミニ移植は50歳代前半以降の白血病患者にも適用できます。前処置としてフル移植より弱い抗がん剤や放射線の量での照射を用います。根絶やしにできなかった白血病細胞が仮に残っている場合には、同種移植のGVL効果による白血病細胞への攻撃力を利用します。

HLA型の適合性が大切

造血幹細胞の移植には、白血球の血液型である HLA型が重要です。骨髄移植や末梢血幹細胞移植では、ドナーと患者のHLA型が適合していなければなりません。HLA型が適合する確率は兄弟姉妹間で25%、親子で数%以下、非血縁者ではさらに低くなります。

骨髄移植について

骨髄から採取された造血幹細胞が用いられます。血縁者に適合するHLA型が見付からない時は、骨髄バンク(Konchenmarkspenderdatei)が重要な働きをします。登録者からのドナーの選出や骨髄提供手術などのプロセスがあり、実際の移植までに時間が掛かることがあります。

末梢血幹細胞移植について

白血球を増やす作用のあるG-CSFという注射を数日間続けた後に、末梢血から造血幹細胞を得ます。移植後の造血機能の回復が早いという利点があります。骨髄移植に比べ、移植片対宿主病(GVHD、後述)が多いと言われています。自家移植の大多数、血縁者間移植の60~70%で行われている方法です。

さい帯血移植について

今までは廃棄されていた「さい帯」から、母親の同意のもとに「さい帯血(Nabelschnurblut)」を採取します。新生児から切り離されたさい帯を用いるので、赤ちゃんにも母親にも負担は掛かりません。移植後の合併症である移植片対宿主病(GVHD、後述)が骨髄移植よりも軽く、HLA型が完全に一致していなくても移植できるという利点があるため、比較的短期間に非血縁者からの移植を進めることができます。ミニ移植と合わせ、年齢がやや高い白血病患者の治療の可能性を広げるのに役立っています。

図3 日本でのさい帯血移植件数の推移

移植による合併症は?

● 前処置の副作用  
移植に先立って行われる抗がん剤や放射線照射による副作用(口内炎、吐き気、下痢、脱毛、肝機能障害など)があります。多くの症状は1カ月以内に改善します。

● 移植片対宿主病(GVHD)  
ドナーの造血幹細胞から造られた白血球が、患者の身体そのものを他所の細胞とみなして反応、攻撃することによって生じます(下痢、発疹、肝障害など)。移植後2週間当たりから現れる急性GVHDと、移植後100日以降に現れる慢性GVHDがあります。治療には免疫抑制剤が用いられます。

● 感染症は大敵  
平均3〜4カ月の入院を伴って行われる造血幹細胞移植ですが、この期間、患者の免疫機能は非常に低下しています。そのため、移植された造血幹細胞が生着し、白血球の数が十分に増えるまでは、特に厳重な管理がなされます。また、移植後1〜2年間は感染症にかかりやすい状態が続きます。

● 卵巣と精巣の機能  
強い抗がん剤と放射線照射により、卵巣や精巣の機能が低下します。また、女性ホルモンの低下により、更年期障害に似た症状が現れることもあります。

血液型が変わる

白血球だけの血液型(HLA型)に基づいて行われる造血幹細胞移植では、移植後に赤血球の血液型(ABO型)が変わることがあります。例えば血液型A型の患者が血液型B型のドナーから造血細胞の提供を得た場合、その患者の最終的な血液型はB型に変わります。血液細胞の遺伝子情報(DNA)も提供者由来のものになります。

さい帯血バンクと骨髄バンク

善意のもとに提供されたさい帯血からの造血幹細胞は、さい帯血バンク(日本では、日本さい帯バンクネットワーク)に冷凍保存されます。10年間の保存が可能です。骨髄バンク(日本骨髄バンク)には、HLA型の検査が済んでいる骨髄提供のドナー登録がなされています。日本の骨髄移植は1992年から、非血縁者間の臍帯血移植は1997年から始まり、今までに小さな子どもを含む多くの患者の命を救っています。

最終更新 Freitag, 17 August 2012 09:51
 

ドイツの植物療法 (フィトテラピー)

ドイツでは、植物からつくられた薬を多く見かけます。薬草からできた薬について教えてください。

植物療法とは?

薬用植物(薬草=Heilpflanzen)からつくられた「薬」を、病気の予防や治療に用いることを植物療法(フィトテラピー=Phytotherapie)と呼びます。大昔から病気の治療には、植物が「薬」として用いられ、紀元1世紀には薬草の本も現れます。中国の明時代にまとめられた「本草網目」には、1892種類もの薬草が記されおり、後の日本の「漢方」の発展に寄与しました。「植物療法」という言葉を最初に用いたのはフランスのLeclercという名の学者で、20世紀に入ってからのことです。

薬用植物の種類は?

薬用植物は、ニンニクからパイナップルまで約300種類に上ります。ドイツでは、1978年にコミッション Eと呼ばれる委員会が約250種類の薬用植物の効果、用法、副作用、さらに有効性が示唆されるか(ポジティブ)、有効性の根拠が乏しいか(ネガティブ)を評価して発表しました。

植物からつくられた薬すべてが植物療法ではない

ジキタリス、アトロピン、タキソール、モルヒネなどは、植物由来の薬です。しかし、化学合成による製薬が可能な現在、これらは一般の医薬品の1つとして扱われ、植物療法とは呼ばれません。例えばジギタリスは、ジギタリスの花の成分で、心不全の治療には欠かせない存在です。

植物療法はドイツ社会でどう受け入れられている?

16歳以上のドイツ人を対象に行った2000年の調査では、83%が植物療法を含む自然療法を好意的に捉えています(Deutsches Ärzteblatt 2001年調発表)。また別の調査でも、80%が化学合成の医薬品より植物療法などの自然療法を好むと答えています(Pascoe-Studie 2004年発表)。

植物療法についてのQ&A

どんな病気で用いられていますか?
風邪、消化器症状、不眠、うつ、不安症状、皮ふ病などの症状・病気で、植物療法などの自然療法が好まれていました(Pascoe-Studie 2004年調べ)。

薬草製剤の品質は?
ドイツの薬事法(Arzneimittelgesetz:AMG)で基準が設けられています。ただし植物であるため、生薬では気候や土壌によって発育状態にバラつきがみられます。製剤化された錠剤やカプセル剤には、含有量、抽出に用いた薬品名、添加物などが記載されています。

効能の特徴は?
一般に効果がマイルドで、薬用植物の効能は幅広く、例えばイチョウなど1つの薬用植物が、複数の有効成分を含蓄していることも少なくありません。

組み合せて用いるメリットは?
植物療法ではよく、複数の植物を組み合せて処方されます。漢方薬がいくつかの生薬を組み合わせた形で用いられるのに似ていますね。症状に合わせた配合で、より効果が上がると考えられています。

副作用はありますか?
薬用植物にも副作用がみられることがあります。 アレルギー反応以外にも、例えば甘草は、時に血圧上昇や血清カリウム値の低下を引き起こすことが知られています。

一般の医薬品との併用はできますか?
ほかの治療薬に影響を及ぼす(薬物相互作用)薬用植物もあります。例えば、イチョウの葉はパーキンソン病に使われるMAO阻害薬や血栓予防薬の効果を強めます。セントジョーンズワートは抗うつ剤、偏頭痛治療薬、抗不整脈薬、経口避妊薬などの薬剤の作用に影響します。

どんな形の薬がありますか?
お茶、顆粒、液体・シロップ、坐薬、軟膏、抽出液(エキス)を乾燥濃縮させたもの、油状塗布剤、さらに錠剤やカプセル剤があります。

薬用植物の例

イチョウ(Ginko)
葉にフラボノイド、テルペノイドなどが含まれます。ギンコール酸はアレルギー物質なので、基準値以下に除去したものが用いられます。抗酸化作用と血液凝固を抑える作用から、記憶障害や末梢循環障害などに用いられます。

甘草(Süßhölzer)
グリチルリチン、ブドウ糖、ショ糖が含まれ、胃十二指腸潰瘍、気管支炎に用いられます。グリチルリチンにはミネラルコルチコイド作用(電解質代謝)があります。

ペパーミント(Pfefferminze)
葉にメントールが含まれており、胃腸や胆のうの痙攣性の病態、筋緊張性頭痛、過敏性腸症候群に用いられます。

ユーカリ(Eukalyptus)
ユーカリの葉からとった油は、風邪の諸症状に用いられます。

センナ(Senna)
排便を促す作用のあるセンノシドが含まれます。センナ製剤は下剤として広く医薬品に用いられています。

アロエ(Aloe)
アロエに含まれるバルバロインには下剤効果があります。外用で痔疾、肛門裂肛に用いられるほか、火傷や傷の創傷回復を促進するとされています。

セントジョーンズワート(Johanniskraut)
日本ではセイヨウオトギリソウとも呼ばれます。抗うつ剤と似た作用を持つ成分が含まれており、うつ症状や不安障害に用いられます。肝臓の薬物代謝酵素に影響し、いくつかの薬剤との薬物相互作用があります。

カモミール(Echte Kamille)
花の部分が、胃腸の炎症や痙攣性の胃腸障害、歯肉や粘膜の炎症に対して用いられます。

市販の薬草製剤の例

風邪薬
総合感冒薬として用いられる「Contromutan D®」には、ムラサキバレンギク(Sonnenhut)、ベラドンナ(Tolkirsche)、ヒヨドリバナ(Wasserdost)、 青トリカブト(Blauer Eisenhut)が含まれています。

咳・気管支の炎症
「Bronchipret TP®」や「Bronchicum®」には、サクラソウ(Primeln)とタイムの葉(Thymiankraut)が含まれます。「Prospan®」「Bronchoforton®」には、キヅタ属のEfeuの葉の乾燥エキスが含まれています。

のどの痛み
のどの舐め薬(Halspastillen)には、サルビア属(Salbei)やニワトコ(Hollunderbeere)を含む製剤や、アニス(Anis)、フェンネル(Fenchel)、サクラソウなどを含むものがあります。

胃薬
胃炎や胃部膨満感などの症状に用いられるのは、9種類のエキスが含まれている「Iberogast®」です。

下痢止め
「Ginkobil®」や「Gingopret®」には、イチョウの葉の乾燥エキスが含まれています。物忘れ、めまい、耳鳴りのほか、下肢の血流障害にも用いられます。

うつ症状
抗うつ作用があるとされるセントジョーンズワートを含む製剤として、「Esbericum®」「Felis 425®」「Hyperforat®」など多くの製剤があります。同じく不安・うつ症状に対しての薬用植物、バルドリアン(Baldrian)を加えた「Psychotonin-sed®」や「Sedariston®」もあります。

更年期障害
サラシナショウマ(Trauben-Silberkertze)のエキスからつくられた「Remifemin®」や、セントジョーンズワートとの合剤である「Remifemin plus®」があります。

痛み止め軟膏
Beinwellwurzelと呼ばれる、関節痛に効くとされる薬用植物や、ローズマリー、ユーカリ、ペパーミントの入った軟膏が売られています。

痔疾
ハマメリス(Zaubernuss)が入った「FAKUTU lind®」は痔に用いられる軟膏です。

最終更新 Mittwoch, 29 August 2012 11:54
 

心と体の関係 - パニック発作とパニック障害

知合いに、夜中に急に不安感に襲われ、心臓はドキドキ、呼吸も苦しくなるという症状に時々見舞われている人がいます。病院の検査では異常がないようですが、心配です。

不安は危険を避ける注意信号

「これから何か嫌なことが起こるかもしれない」と、気掛かりで落ち着かない気分が「不安(Angst)」です。不安は将来の悪いできごとを避けるための注意信号。しかし、この不安感が余りにも強過ぎて、生活の質(QOL)を著しく低下させたり、長期にわたり日常生活に支障を来たす場合には、「不安障害(Angststörung)」として扱われます(表1)。

表1 不安障害に含まれる主な疾患
疾患名パニック発作
予期しない主に状況に依存
パニック障害
恐怖性障害(恐怖症)
強迫性障害
外傷後ストレス障害(PTSD)
全般性不安障害
身体疾患からの不安障害

パニックの意味

本来パニック(Panik)という言葉は、大きな危機に際して自己を守るため、人や動物が集団としての秩序を失って逃げ出す乱衆行動を指します。社会学的には、1873年の大恐慌での銀行殺到や、1973年のオイルショックでのトイレットペーパー買い占めのような集団の非論理的な行動も、一種のパニック現象とされます。

最近は、個人に突然襲い掛かる不安や恐怖感からの 心身の混乱もパニックと呼ばれます。

表2 キーワードの解説
用語意味
不安障害 不安を主症状とする一連の病気の総称
パニック発作 動悸・呼吸困難などを伴なう突然の不安・恐怖
パニック障害 不安障害の1つの病名。パニック発作が主症状
過換気症候群 過呼吸からもたらされる一連の症状

パニック発作とは?

突発する強い不安・恐怖感に続き、死ぬのではないかと感じるような動悸(どうき)、息苦しさが出現する現象を「パニック発作」と言います。パニック発作は、ある状況に置かれることで生じる「特定の状況下での発作」と、いつ起きるかわからない「理由のない発作」に分けられ、後者は「パニック障害」(後述)に特徴的です。通常、10分程度で自然に治り、心臓・呼吸器・脳の検査でも何の異常も見付かりません。生命の危険も、ありません。

特定の状況でのパニック発作

パニック発作はどんな不安障害でも起こりますが、ある特定の状況と結び付いて起きることが少なくありません。例えば、重低音の大音響の音楽や騒音、狭いエレベーターの中、自由にトイレに行けない状況、逃げ場のない場所、運転席に着いた時、飛行機が乱気流で大きく揺れた時……など、不安や恐怖感を生み出す状況は人によって様々です。を訪れ回ることも。極端な場合は、パソコン依存症、ネット中毒などとも呼ばれ ます。

パニック障害(理由のないパニック発作)

特に理由もなく、不意に襲うパニック発作が2回以上みられ、発作がまた起こるのではないかという不安が続く場合には、「パニック障害(Panikstörung)」を考えます(図1)。パニック障害には3つの側面があります。

予期せぬパニック発作
理由なく、いつどこで起こるか予測できない内因性のパニック発作です。

不安を予期する(予期不安)
パニック発作がない時にも、「また発作が起こるのではないか」「人前で具合が悪くなったらどうしよう」という心配が続きます。

行動の範囲が狭くなる(広場恐怖)
以前にパニックが起こった場所や状況を回避するようになります。また、パニック発作が起きた時に逃げられない、あるいは助けを求めにくい場所を避けるようになります。その結果、公共の乗り物を利用したり、コンサート会場など大勢人が集まる場所を嫌い、行動範囲も次第に狭まります。

図1 パニック発作

パニック発作時の身体症状

動悸はどうして?
恐怖感や不安感が異常に高まった結果、体(脳)が危険回避の闘争状態に入り、交感神経系機能が亢進し、脈拍数と心臓の拍出運動が一気に増えるためです。

呼吸困難はどうして?
過呼吸(呼吸回数が必要以上に多い状態)で、呼気から血中の二酸化炭素が失われ、呼吸中枢が抑えられてしまいます。その結果「呼吸ができない」「息が吸えない」といった強い恐怖感が現れます。下記の症状と合わせ、「過換気症候群(Hyperventilation)」と呼ばれます。

手のしびれ、筋肉の硬直はどうして?
過呼吸による呼吸性のアルカローシス(血液のアルカリ濃度が高くなった状態)から、手のしびれや筋肉の硬直、めまいなど、多種多様な全身症状が現れます。

パニック発作とパニック障害の頻度

パニック発作はどの不安障害でもみられ、毎年人口の10%近くの人が経験するとも言われています 。一方、パニック障害については、平成14〜18年に行われた日本の厚生労働省の研究班の調査によると、生涯有病率は0.8% と報告されています。米国でのパニック障害の有病率は少し高く(1.6〜4.7%)、近年さらに増加傾向にあるようです。パニック発作もパニック障害も、女性に、男性の約2倍の頻度でみられます。

パニック障害の原因は?

特に理由もなく起こるパニック障害は「気のせい」や「気持ちの持ち方」によるものと誤解されがちですが、そうではなく、脳内の扁桃体にある、恐怖の感情を司る回路(恐怖神経回路)の機能の過活動のためと考えられています。仕事上や家庭での過大なストレス、過去の体験との関連も示唆されています。パニック障害を抱える人の50〜65% が、生涯のある時点でうつ病を経験するという報告もあります。

図2 パニック障害の悪循環

パニック障害の治療

パニック障害以外でのパニック発作は、自然と発作がみられなくなることも少なくありません。パニック障害の場合には、早期から薬物療法と精神療法を行います。薬としては、主に抗うつ薬のSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やほかの抗うつ薬が用いられます。また、精神療法として、認知行動療法という治療法が用いられます(厚労省研究班の一般医向けのガイドラインより)。ドイツでは精神療法士(Psychotherapeut/ in)の助力も有益です。

過換気症候群への対応

過換気(過呼吸)症候群は、パニック発作だけでなく、激しい運動の直後や、口で大きな風船を急いでふくらませた後、過度の緊張による頻呼吸から引き起こされることもある病態です。過呼吸で失われた血液中の二酸化炭素の濃度を上げることで大抵の症状は落ち着きます。具体的には、中サイズの紙袋をゆるく口と鼻にかぶせ、出来るだけゆっくりと呼吸をします。呼気中の二酸化炭素を再び吸い込むことで、呼吸性アルカローシスの改善がみられます。

身体疾患からのパニック様発作

心筋梗塞や気管支喘息の発作時にもパニック様発作を起こすことがあります。また、アルコールや薬物依存症の禁断症状、 外傷後ストレス障害(PTSD) でも似た症状を示すことがあります。

パニック障害が疑われる方へ

1) 早期の診断、早期の治療開始が大切です。2) この病気についてよく理解することが大切です。3) 医師の指示に従って治療を受けてください。4) カフェインの入った飲食品(コーヒーや紅茶、緑茶、コーラ、チョコレートなど)の摂り過ぎは不安症状の増強につながります。5) さらに、心身がリラックスできるように生活のパターンを工夫しましょう。

最終更新 Montag, 26 November 2012 12:20
 

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