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はしか(麻疹)と予防接種

今年はドイツで「はしか」が流行っていると聞きました。日本で予防接種を受けないままドイツに来た2歳の子どもがいますが、どうすればよいでしょう。

ドイツではしかが流行?

今年に入り、ノルトライン=ヴェストファーレン州ではしか(麻疹、ドイツ語ではMasern)が流行しています。はしかウイルスは感染性が高いため、ドイツ在住の日本人でもワクチン未接種児やワクチン非接種の未罹患者は注意が必要です。なぜなら、はしか対策の唯一の方法がワクチン接種による予防だからです。日本の1歳児のはしかワクチン接種率は約50%と極めて低く、はしか患者のほとんどがワクチン未接種児です。

なぜワクチンが効果的なのでしょうか

はしかウイルスに一度感染もしくはワクチン接種をすると抗体(免疫)ができます。はしかウイルスは変異(構造の変化)を起こさないために、その後の不顕性感染による免疫の増強もあって、ほぼ「終生免疫」が得られます。同じウイルスでも毎年のように変異を繰り返すインフルエンザの場合には毎年予防接種が必要になるのとは対照的です。このように終生免疫を獲得できるウイルス性疾患にはそのほか、水痘(みずぼうそう)、風疹(三日はしか)、流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)などがあります。

はしかの症状は?

はしかは人から人へ空気感染(飛沫核感染)する発疹性ウイルス疾患です。潜伏期は約10日前後、38~39℃の発熱が2~4日間続き、結膜炎と咳、鼻漏などの症状が増強します。発疹が現れる1~2日前に、口腔内にコピリック班という白色小斑点が出るのが特徴的です。発疹は耳後部、頚部、額部から次第に顔、体、腕、四肢へと広がります。発疹が全身に広がるまで高熱が続きますが、合併症がないかぎり7~10日後には回復します(表1、図1)。

はしかの合併症は、5歳未満の乳幼児と20歳以上の大人で起こる確率が高いとされています。最も多いのが中耳炎で、患者の約5~15%にみられます。乳幼児の場合は症状を訴えないので、膿を伴った耳漏で見つかることもあります。脳炎と肺炎ははしかによる二大死因となっており注意が必要です。

表1 はしかの主な症状
・38.5℃以上の発熱
・結膜充血、咳、鼻汁
・口腔内の小さな白斑状口内炎(コプリック班)
・全身の発疹(初期は耳後部、頚部、前額部)

はしかの臨床経過
日本医師会編「感染症の診断・治療ガイドライン」より引用改変

大人のはしかは大変だと聞きましたが

ワクチン未接種で、罹患したことのない大人がはしかに感染・発症すると重症になりやすく、入院が必要となることも少なくありません。幼児に比べて症状が劇症化しやすいだけでなく、肺炎などの合併症を起こしやすく、一過性の肝機能障害をきたすこともあります。罹患者との接触などはなるべく避けた方がよいでしょう。はしかは最初の発熱前からすでに感染力があります。感染時期は発病1~2日前から発疹が現れる4~5日までとされています。

はしかに罹る子どもは?

ワクチン未接種ではしかに罹ったことのない、免疫を持たない子どもたちです。はしかワクチン接種前の1歳児と、日本でMMR(はしか・おたふくかぜ・風疹)混合ワクチンが 中止された1993年(平成5年)4月直後に生まれた、現在の12歳前後の子どもに抗体陰性者が多くみられます。また現在の15~25歳にも抗体陰性者が多いとされています。

お子さん自身は、幼児期に自分がはしかの予防接種を受けたことがあるか、また罹患したことがあるかを覚えていない場合が多いので、ご両親による確認が大切です。はしかの予防接種の名前と制度も変わってきています(表2)。

表2 日本のはしかワクチン接種の移り変わり
  名称 内容
1966年 KL 不活性化と生ワクチンの併用(任意接種)
1969年   高度弱毒性生ワクチン(任意接種)
1978年   定期予防接種になる
1989年 MMR はしか・おたふくかぜ・風疹ワクチンの混合
1993年 はしかワクチン 単独で1回
2006年4月 2回法 はしか・風疹ワクチンの混合

日本のはしかの予防接種は現在どうなっていますか

日本ではこれまで、単独のはしかワクチン接種を生後12ヶ月~7歳半未満に1回としていましたが、今年4月からはしか・風疹2種の混合ワクチンを1歳時(第1期)と小学校入学前1年間(第2期)の2回接種することになりました(図2)。2回接種する理由は、1回目の接種で免疫ができなかった場合にも確実に免疫をつけるため、また1回目で免疫のついた子どもにはその免疫を増強するためです。 現在ドイツにいらっしゃるお子さんのほとんどは、以前の単独1回制の接種を行っていることになります。

ドイツと日本のはしかワクチン接種の違い

ドイツの予防接種制度は?

ドイツをはじめ欧州の多くの国では、MMR(はしか、おたふくかぜ、風疹)3種混合ワクチンの接種を生後11~14カ月(1回目)と生後15~23カ月(2回目)の2回行っています(図2)。今回日本で予防接種の制度が変わりましたが、これは欧州の制度により近いものになったと言えます。MMR3種混合ワクチンは、日本で行っているDPT(ジフテリア・百日咳・破傷風)3種混合ワクチンとは別のものですのでご注意ください。

日本から連れてきた子どもはどうしたらよいでしょうか

従来の日本の制度では7歳半までにはしかワクチン接種を一回受ければ良いことになっていました。そのため未接種のままドイツに来たお子さんもいることと思います。1歳を過ぎている場合にはできるだけ早い時期にワクチンの接種をおすすめします。ドイツ式を取り入れることには不安もあるかと思いますが「郷に入っては郷に従え」、小さい子どもを無防備のままにしておくことは危険です。

近く日本へ帰国する子どもは?

ケース別に以下のようにまとめてみました。

ドイツでワクチンを接種した子ども
日本国外でMMRワクチンなどを接種した場合、日本でのMRワクチン(公費)の接種対象にはなりません。
1歳以下の子どもの場合
日本に住所を移した年齢が1歳以下(2歳未満)であれば、市区町村役場の予防接種担当課に連絡してください。はしか・風疹のどちらも未接種・未罹患であればMRワクチンの第1期からの公費接種の対象となります。
ワクチン未接種の2歳以上~小学校入学前の子ども
MRワクチン・第2期(公費)の接種のみが可能です。ただし、第2期接種の小学校入学前年度までに時間がある場合は、帰国後早い時期に有料のワクチン接種を受けた方がよいでしょう。
ワクチン未接種で小学校に入ってしまった子ども
MRワクチンの公費接種対象にはなりません。早い時期の有料接種をおすすめします。
渡独前に日本でワクチン接種をした子ども
平成17年(2005年)までにはしかまたは風疹のワクチンを接種している子どもは、MRワクチンの対象になりません。
風疹ワクチン接種・はしかワクチン未接種の子ども
はしかワクチン未接種でも風疹ワクチンを接種しているお子さんは、MRワクチンの対象になりません。はしかワクチンの有料接種をおすすめします。ただし地方自治体によっては移行措置を取っている場合があるので、公費接種の可能性について確認するとよいでしょう。
 
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馬場恒春 内科医師、医学博士、元福島医大助教授。 ザビーネ夫人がノイゲバウア馬場内科クリニックを開設 (Oststraße 51, Tel. 0211-383756)、著者は同分院 (Prinzenallee 19) で診療。

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