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欧州と日本で活躍する12人に聞いた「今私たちが読むべき本」

さまざまなバックグラウンドをもつ12人に聞く世の中が変わるとき読む本

環境、人権、暮らし方など、当たり前と思われていた価値観が世界中でどんどん崩れ去り、特にコロナ禍以降は加速度的に人々の意識が大きく変わっている今、新たな指標となるものはあるのだろうか。2022年の英独新年号特集では、不安や希望を抱えて生きていく私たちのヒントになるような、新たな視点がつかめる本の数々をご紹介。英独を中心に欧州各国と日本、それぞれの空気を知るその道のプロフェッショナルに、「今私たちが読むべき本」を尋ねた。(文・取材: 英国・ドイツ・ニュースダイジェスト編集部)

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世の中が変わるとき読む本

2021年の英独の出版事情は?

コロナ禍で本を読む人が増加

2020年、新型コロナウイルスの感染拡大によって自宅で過ごす時間が増え、世界中で本の需要が増加した。英国も同様で、ロックダウン中は大部分の実店舗が閉鎖されたにもかかわらず、この年には2億冊以上の書籍(紙媒体)が販売された。これは12年以来の最高数だという。20年の英出版社の総売上高は64億ポンド(約9800億円)で、19年より2パーセント高くなった。また、今年は本を耳で楽しむオーディオブックの売り上げが急増し、1~6月は19年比で71パーセント・アップという数字が出た。

一方、ドイツで21年6月に行われたBitkomの調査によると、パンデミック以降ドイツ人の10人に4人(41パーセント)がより頻繁に本を手にするようになったと回答。またロックダウンにより書店が閉鎖された数週間の間に、ドイツでは電子書籍の売り上げが43.5パーセント増加したという。

英国とドイツではどんな本が読まれたか?

2021年になって、英国では相変わらず多くの人が娯楽のために本に目を向け、読書に費やす時間が2倍になった人もいたという。特に、古典文学、犯罪スリラー、セルフヘルプ、料理、趣味などのジャンルに人気が集まった。ドイツでは、「シュピーゲル」紙が20年末に発表した年間ベストセラーで、ノンフィクション部門の2位にコロナ禍における社会を論じた『Trotzdem』(Luchterhand)がランクイン。またホームスクールの影響もあり、子ども向けの本の人気が高まったほか、21年はメルケル首相の後任を決めるドイツ連邦議会選挙があったことから、政治関係の書籍が話題となる傾向も見られた。

出版業界にもサプライチェーンの問題

一方で、コロナ禍によって悪化する深刻なサプライチェーンの問題が、出版業界にも打撃を与えている。英国では、EU離脱(Brexit)も相まって、大手出版社は好調だが、インディペンデント出版社は苦戦という図式が見える。ドイツでも紙不足による印刷遅延が起きており、「シュピーゲル」紙によれば、出版社はこれまで4~5 日で手にできていた印刷物を、6~8週間、場合によってはそれ以上待たなくてはならない状況に陥っているという。

参考: theconversation(2020年10月14日)、thebookseller.com(2021年11月26日)、deutschland.de「Was die Deutschen lesen」(2020年10月9日)、buchreport「Das sind die SPIEGEL-Jahresbestseller」(2020年12月29日)、Spiegel「Buchverleger sorgen sich ums Weihnachtsgeschäft」(2021年10月18日)、zdf「Mehr Menschen greifen zum Buch-Lesend durch die Pandemie」(2021年10月18日)

欧州と日本で活躍する12人に聞いた「今私たちが読むべき本」

明日に希望を持つためのマニュアル4冊鴻上尚史

Shoji Kokami 鴻上尚史

Shoji Kokami 鴻上尚史

演出家・作家。早稲田大学在学中に劇団「第三舞台」を結成。現在はKOKAMI@network、虚構の劇団の二つを運営する。ラジオやTV司会、映画監督としても活躍。留学や舞台上演など英国とも縁が深い。

狂暴化した「世間」と闘う

まず僕の『同調圧力』について。日本に住み同調圧力に苦労してない人はいないでしょう。欧州にいると分かるでしょうが、日本には「社会」と反対のものとして「世間」があると思います。社会には見知らぬ他人がおり、世間は学校や会社など自分が属しているところ。日本人はこれまでは世間の中で暮らしていれば良かったのが、価値観の多様化や外国人の増加で、世間という物差しだけでは成立しなくなってきています。一方、コロナ禍で人々に寛容の心がなくなり、自粛警察のような形で世間の同調圧力がむき出しになりました。世間が新型コロナによって狂暴化したのです。SNSでの誹ひぼう謗中傷やライブハウスへの張り紙など、この状況は戦前戦中に住民同士が監視し合う隣組のシステムによく似ています。この本では人々を苦しめる世間の正体を明らかにし、同調圧力とどう闘うかを示したつもりです。

フェイク・ニュースを見極めよう

『歴史修正主義』は、フェイク・ニュースが世間に広がり、何が本当なのか分からなくなってしまった人に向け、歴史の専門家がアプローチ方法を分かりやすく教えてくれる本です。ホロコーストを題材にしていますが、従軍慰安婦などの問題を相似で考えられると思います。ホロコーストは年月がたって関係者が亡くなったこともあり、その存在を否定する人が出てきました。あれだけ記録フィルムや証言が残っている物事を否定するなどばかげていると、専門家たちは相手にしていませんでした。ところがこれが原因で、否定派は一般レベルでじわじわ浸透していき、気が付けば仏「ル・モンド」紙のような高級紙でも、「ホロコーストはあった派」と「なかった派」を両論併記で特集する事態になりました。特に今は、インターネットで自分の読みたい情報しか読まずに済ませることが可能で、フェイク・ニュースを信じやすい土壌が整っています。そんななか、あきらめず実証的に粘り強く検証していくことの重要性が説かれています。

明るい未来

『学校の「当たり前」をやめた。』は、ユニークな学校改革についてです。千代田区立麹町中学校の校長だった工藤さんは、服装検査から宿題に至るまで全てを廃しました。このような人が日本にもいるという事実に僕は大変驚き、対談もさせてもらいました。中学生に大事なのは勉強や社会に出る準備をすることで、規則を盲目的に守ることではありません。現在、ダイバーシティという社会的価値観から一番遠いところにあり、「世間」が最も色濃く残るシステムは学校と役所でしょう。学校は「社会」とシームレスにつながらなくてはいけないという工藤さんの考えは、日本の学校教育における希望の光です。最後に、『ザリガニの鳴くところ』は2020年のベストセラーですが、これは僕がコロナ禍で非常にしんどかったときに救われた本。作者が動物学者なので自然描写がきめ細かく素晴らしい。読んだ後に幸せな気持ちになること間違いなしの、おすすめの小説です。僕が選んだ4冊は、どれも希望が根底にあると思いますよ。

鴻上尚史さんおすすめの4冊

同調圧力 日本社会はなぜ息苦しいのか

同調圧力 日本社会はなぜ息苦しいのか

鴻上尚史、佐藤直樹 著
講談社現代新書

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新型コロナウイルスがあぶり出したのは、日本独自の「世間」だった。長年この問題と格闘してきた二人が、自粛、自己責任、忖度などの背後に潜む日本社会の「闇」を暴く。

学校の「当たり前」をやめた。― 生徒も教師も変わる!公立名門中学校長の改革 ―

学校の「当たり前」をやめた。― 生徒も教師も変わる!公立名門中学校長の改革 ―

工藤勇一 著
時事通信社

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次世代を担う子どもたちにとって必要な学校の形を追求した、区立麹町中学校の工藤勇一元校長による学校改革の理念とその全貌を追う。学校関連でアマゾン・ベストセラー第1位。

歴史修正主義 - ヒトラー賛美、ホロコースト否定論から法規制まで

歴史修正主義 - ヒトラー賛美、ホロコースト否定論から法規制まで

武井彩佳 著
中公新書

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1980年代以降に世界各地で噴出したホロコースト否定論をもとに、本書ではその主張がどのように生まれたかを検証。欧米の歴史修正主義の実態を追い、歴史とは何か、事実とは何かを問う。

ザリガニの鳴くところ

ザリガニの鳴くところ

ディーリア・オーエンズ 著、友廣純 訳、しらこ 挿画、早川書房デザイン室 装丁
早川書房

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2021年本屋大賞翻訳小説部門で第1位に輝いた作品。人種差別やジェンダー、環境など重層的なテーマをミステリーかつ少女の成長物語に落とし込んだ名作。原題は『Where the Crawdads Sing』。

「職業: ドイツ人」が選ぶドイツと日本の4冊マライ・メントライン

Marei Mentlein マライ・メントライン

Marei Mentlein マライ・メントライン

独北部キール出身で、日本在住14年目。ドイツにまつわる仕事なら何でもこなす「職業:ドイツ人」を自称し、翻訳・通訳や執筆、テレビ局プロデューサーなど、幅広い活動を展開している。

読書はドイツ語or日本語?

自分が楽しむ目的なら、ドイツ語の小説か、日本のマンガをよく読みます。日本語の本だとネイティブの3分の1くらいのスピードになりますが、一行一行丁寧に読むからこそ、じっくり内容が頭に入ってくる感じがします。また日本の出版社からドイツのミステリーを紹介する仕事をいただいたのがきっかけで、ミステリー小説を読むことが多いです。

新しい視点をくれる日独の4冊

『14歳、ぼくらの疾走』の主人公マイクとチックは、子どものピュアさが残りつつ、大人の社会に対して疑問を抱き始める14歳という年齢。旧東ドイツのエリアを車で走る二人の目を通して、さまざまな矛盾を抱える大人の社会が見事に描かれていて、大人が読んでも満足できる作品ですね。

社会実験的な演劇の戯曲として書かれた『テロ』では、ハイジャックされた飛行機を撃ち落とした独空軍少佐の裁判が展開されます。演劇のラストでは、観客自身が有罪か無罪に投票。その結果によってエンディングが変わるのですが、この作品がすごいのは、どちらでも納得のいく説明がされるところ。法律は絶対的なものではなく、グレーゾーンも存在する。法哲学とは何かを考えさせられます。

地球温暖化が進み人類末期なのに、ものすごく穏やかな世界を描いた『ヨコハマ買い出し紀行』。主人公はロボットだけど誰よりも人間的ですし、人が少ないからこその温かい人付き合いがあったり。実際、先進国では人口が減少しており、いずれ人類によって地球環境が破壊されてしまうかもしれません。もしそうなったら、私たちは「最後」とどう向き合うのか、どのようにソフトランディングできるのか。こんな世界の終わり方もあるのだと思わせてくれる、不思議で美しい物語です。

『超空気支配社会』の著者である辻田さんは、日本語でいうところの「是々非々」な方で、落ち着いた視点をお持ちです。この本は辻田さんのコラムなどを1冊にまとめたもので、メディアのあり方や、オリンピック、コロナなど、最近の社会的なテーマが出てきます。特に昨今のネット上の議論では、右がこう左がこう、といった極論のバトル状態になっていますが、そんななかで冷静なスタンスとは何かを分からせてくれる本だと思います。

日独をつなぐバランス感覚

私自身が発信するときは、日本とドイツそれぞれの良いところと悪いところについて、どちらかに偏らずにバランス良く紹介することを大切にしています。あと「ドイツ人は真面目」というイメージを持つ日本人が多いですが、実はおちゃめな人もたくさんいるし、ゆるいところもあるので、そういった面を積極的に伝えたい(笑)。また今はドイツのことを日本に紹介する仕事が多いですが、昨年の東京オリンピックの際にはドイツの公共放送で開会式のコメンテーターを務めました。ドイツの視聴者に向けて日本の社会や文化について解説するなかで、ドイツにもっと日本の面白いところなどを伝えたい、と改めて思い出して。今後はそういう機会も増やせればうれしいです。

マライ・メントラインさんおすすめの4冊

14歳、ぼくらの疾走: マイクとチック

14歳、ぼくらの疾走: マイクとチック

ヴォルフガング・ヘルンドルフ 著、木本栄 訳
小峰書店

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退屈な日々を過ごす、ギムナジウム8年生のマイク。破天荒な転校生のチックと出会ったことで、刺激的な一夏が幕を開ける。オンボロ車を無断で拝借し、二人は自由な旅に出るのだった。

テロ

テロ

フェルディナント・フォン・シーラッハ 著、酒寄 進一 訳
東京創元社

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ドイツ上空でハイジャックされた旅客機を独断で狙撃し、164人の乗客を殺して市民7万人を救った空軍少佐。彼は英雄か、殺人者か? 有罪と無罪、二通りの結末が用意された法廷劇。

ヨコハマ買い出し紀行(1)

ヨコハマ買い出し紀行(1)

芦奈野ひとし 著
講談社コミックス

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舞台は近未来の日本。地球温暖化によって水没しつつあるこの世界で、カフェを営むロボット・アルファさんを中心に、滅びゆく時代を緩やかに生きる人々の暮らしが描かれる。

超空気支配社会

超空気支配社会

辻田真佐憲 著
文藝春秋

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SNSの炎上やコロナ禍、オリンピックなど、「空気」の圧力が覆う現代日本を読み解く。何かと右と左に分類されがちな世の中で、どちらにも行き過ぎない筆者の冷静な立ち位置に注目。

リチャード・ロイド・パリー

Richard Lloyd-Parry リチャード・ロイド・パリー

Richard Lloyd-Parry リチャード・ロイド・パリー

英「タイムズ」紙のアジア編集長・東京支局長。1995年より東京在住。著書に東日本大震災被災者の内面に迫った『津波の霊たち: 3・11 死と生の物語』ほかがある。

本の新旧にかかわらず、今の時代に呼応する3冊を選びました。まず、冷戦時代に書かれたジョージ・オーウェルの『Nineteen Eighty-Four』は、全ての時代に当てはまる偉大な本です。この本に描かれた権力者が言語を駆使して現在と過去を操作するやり口は、グローバルな規模で新たな分裂が起きている現代にはとりわけ意味があり、世に警鐘を鳴らすものだと思います。

次に、テッド・ヒューズは英国で「自然の詩人」と呼ばれていますが、牧歌的なイメージとは程遠く、動物、鳥、自然界に関する強烈なイメージを持った作品です。それらが伝えるエネルギーは、自然自体が脅威にさらされている今こそ参考にすべきだといっていいでしょう。

最後に、南アフリカのノーベル賞作家J. M.クッツェーによる『Disgrace』は、現在の「文化的対立」が勃発するずっと以前に発表されました。ある女子学生と関係を持った白人の男性教授にもたらされる破滅を描いたこの小説は、権力、特権、搾取、人種など、今日議論されている多くの主題に正面から取り組んでいます。

リチャード・ロイド・パリーさんおすすめの3冊

Nineteen Eighty-Four

Nineteen Eighty-Four

George Orwell 著
Penguin Classics

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New and Selected Poems 1957-1994

New and Selected Poems 1957-1994

Ted Hughes 著
Faber and Faber Ltd.

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Disgrace

Disgrace

J. M. Coetzee 著
Vintage/Penguin

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石沢麻依

Mai Ishizawa 石沢麻依

Mai Ishizawa 石沢麻依

1980年、宮城県生まれ。東北大学大学院文学研究科修士課程修了。ドイツ美術史の研究のため、2015年からドイツ在住。昨年『貝に続く場所にて』(講談社)で第165回芥川賞を受賞した。

「越境」という言葉は空間だけではなく時間にも及び、常に断絶や連続の感覚と切り離せないのかもしれません。この主題を真摯に扱ってきた作家に、W・G・ゼーバルトがいます。『移民たち 四つの長い物語』は、移民もしくは亡命者の四人の人生を通して、土地と結びつく過去が描かれています。四人は異郷にあっても置き去りにされた過去が追いついてきて、記憶の中ではそこに戻ってしまうのです。

それとは逆に、ヴァージニア・ウルフの『自分ひとりの部屋』で探し求められるのは、故郷や失われた土地ではなく、自分が自分らしく生きてゆける場所。その空間を得られなかった女性たちの生の姿、ウルフの生きた時代、さらに遠い先の社会へと連続性を紡ぎ、「共通の生」について扱っている本です。

そして、トーベ・ヤンソンの『ムーミン谷の冬』は、例年より早く冬眠から目覚めたムーミンが、冬という見知らぬ世界を巡る物語。見慣れた土地の見知らぬ姿に孤独にさいなまれますが、やがて世界が断絶しているのではなく、連続していることに気付きます。そのとき、彼は恐ろしく美しいものを見いだした越境者となるのです。

石沢麻依さんおすすめの3冊

移民たち 四つの長い物語

移民たち 四つの長い物語

W・G・ゼーバルト 著 鈴木仁子 訳
白水社

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自分ひとりの部屋

自分ひとりの部屋

ヴァージニア・ウルフ 著 片山亜紀 訳
平凡社

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ムーミン谷の冬

ムーミン谷の冬

トーベ・ヤンソン 著、山室静 訳
講談社

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中村真人

Masato Nakamura 中村真人

Masato Nakamura 中村真人

ライター。神奈川県横須賀市出身。早稲田大学第一文学部を卒業後、2000年よりベルリン在住。著書に『ベルリンガイドブック』(学研プラス)など。 http://berlinhbf.com

なかなか旅行ができないこのご時世、旅をテーマに選んでみました。『旅の終りは個室寝台車』は、私が小学3年のときに初めて親に買ってもらった鉄道紀行文。写真が1枚も使われていないにもかかわらず、ひなびた鈍行列車の車内から冬の北海道の荘厳な風景までもが脳裏に浮かんできます。宮脇さんの簡素な文体と味わい深い描写は今も私のお手本です。

『忘れられた日本人』は、著名な民俗学者の代表作。戦前の日本各地に住む老人や女性の声を丹念に拾い上げています。「単なる懐古としてではなく、現在につながる問題として、老人たちのはたして来た役割を考えて見たくなった」(あとがきより)という姿勢からは多くを学びました。

『転がる香港に苔は生えない』は、1997年の香港返還前夜の2年間を描いた記録。人への好奇心と洞察力がすごく、20世紀末に一度だけ旅したことのある自分には懐かしくもあり、同時に現在の香港への複雑な思いもよぎります。コロナ禍の最初の夏に電子書籍リーダーを購入して以来、読書時間が飛躍的に増えました。古典から最新刊、再読したい本までが一つに収まる電子書籍は私にとって革命的でした。

中村真人さんおすすめの3冊

旅の終りは個室寝台車

旅の終りは個室寝台車

宮脇俊三 著
河出文庫

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忘れられた日本人

忘れられた日本人

宮本常一 著
岩波文庫

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転がる香港に苔は生えない

転がる香港に苔は生えない

星野博美 著
文春文庫

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グレアム・ロレンス

Graeme Lawrence グレアム・ロレンス

Graeme Lawrence グレアム・ロレンス

複数の日系企業勤務、異文化コンサルタントを経て、現在社内通訳者・翻訳者。静岡県立大学国際関係学部卒。2019年のSOASビジネス日本語スピーチ・コンテスト優勝。

元FBI交渉人が書いた『Never Split the Difference』は、銀行強盗や誘拐事件で磨いた交渉術のトリセツ。学問的なアプローチではなく、著者の実体験に基づいた技を学べます。ビジネスと私生活の両方に役立つ内容です。

次の『The Culture Map』は、異文化理解のための素晴らしいマニュアル。私が日本留学時代から携わっている分野なので、うなずきながら読んでいたビジネス書です。世界中の人々とコミュニケーションを取る人におすすめです。

最後は『カーネギー名言集』。対人スキルを上げるプログラムを開発したデール・カーネギーのリーダシップ育成コースを受講したばかりなので、最近同氏の名作を数冊読み直しました。80年前に書かれた本ですが、不安が募っているコロナ時代の今だからこそ必要かもしれません。戦前の人々の知恵が満載の作品です。パンデミックになってから、電子書籍を以前よりたくさん読むようになりましたが、最近「紙」の良さを再発見しました。理由の一つは、電子書籍だと内容があまり記憶に残らないから。先日、1年半ぶりに本屋に入ったら「この空間がいいな」とつくづく感じました。

グレアム・ロレンスさんおすすめの3冊

Never Split the Difference: Negotiating as if Your Life Depended on It

Never Split the Difference: Negotiating as if Your Life Depended on It

Chris Voss、Tahl Raz 著
Random House Business/Penguin

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The Culture Map

The Culture Map

Erin Meyer 著
PublicAffairs

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新装版 カーネギー名言集

新装版 カーネギー名言集

ドロシー・カーネギー 編、神島 康 訳
創元社

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原サチコ

Sachiko Hara 原サチコ

Sachiko Hara 原サチコ

2001年ドイツに移住。04年東洋人として初めてウィーン・ブルク劇場の専属俳優に。以後、日本人唯一のドイツ語圏公立劇場専属女優として活躍中。現在ハンブルク・ドイツ劇場に所属。

ロックダウン中、私はスイスに住んでいて、『『ハイジ』の生まれた世界』を夢中になって読みました。この本では『アルプスの少女ハイジ』の作者、ヨハンナ・シュピーリの波乱万丈な人生、またハイジが生きた時代背景を掘り下げて解説しています。ドイツにまた戻ろうと決心した後にロックダウンが始まったので、この本を読んでまた違う角度からスイスを見ることができました。

身体的には野口晴哉先生の『整体入門』が役立ちました。実は幼い頃病弱だったのですが、野口整体のおかげで丈夫になった経験があります。特別な道具もいらず、自己治療力を高め、体も心も整えられるイメージですね。先生の考え方は今でも私の助けになっています。

お守り的な本としては、ICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)が2017年にノーベル平和賞を受賞したときにスピーチをしたサーロー節子さんの『光に向かって這っていけ』。それ以前から私は広島原爆の記憶を伝える活動「ヒロシマ・サロン」を行っていますが、この本を読むと私の活動の意義を再確認することができ、勇気を与えてくれます。

原サチコさんおすすめの3冊

ハイジ』の生まれた世界: ヨハンナ・シュピーリと近代スイス

ハイジ』の生まれた世界: ヨハンナ・シュピーリと近代スイス

森田安一 著
教文館

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整体入門

整体入門

野口晴哉 著
ちくま文庫

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光に向かって這っていけ: 核なき世界を追い求めて

光に向かって這っていけ: 核なき世界を追い求めて

サーロー節子、金崎由美 著
岩波書店

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川合亮平

Ryohei Kawai 川合亮平

Ryohei Kawai 川合亮平

通訳者・翻訳者。著書に『なんでやねんを英語で言えますか?』(KADOKAWA)をはじめ、翻訳書などを多数出版。東京五輪のビジネス会議、俳優へのインタビューなど多岐にわたる通訳に携わる。

新型コロナの流行により、物語に現実逃避する重要性というのが増しました。なんだかよく分からないパンデミックな現実の傍らで、何もかも忘れて本の中のストーリーに没頭するのが、これまでにも増して個人的にとても重要な時間になりました。僕のおすすめは、アンソニー・ホロヴィッツの『The Word Is Murder』です。洋書ミステリーってこんなに面白いものなのかと衝撃を受けました。「洋書ミステリーを読む」という趣味以上の楽しみが増えるきっかけになった一冊です。

また村上春樹の「職業としての小説家」から、働くことに関してとても良い影響を受けました。それは僕が長らくフリーランスとして仕事をしており、人の仕事に対する姿勢、特にクリエイティブな仕事をしている方の仕事に対する日々のDiscipline(規律)に興味があるからです。

おなじみの人気シリーズより『Harry Potter and the Goblet of Fire』は、「血湧き肉躍る読書体験」というものを初めて味わった一冊です。それまで「そんなことホントにあるのかな?」と半信半疑でしたが、クライマックスまで本を置けませんでした。

川合亮平さんおすすめの3冊

The Word Is Murder

The Word Is Murder

Anthony Horowitz 著
Arrow/Penguin

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職業としての小説家

職業としての小説家

村上春樹 著
新潮社

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Harry Potter and the Goblet of Fire

Harry Potter and the Goblet of Fire

J.K. Rowling 著
Bloomsbury Publishing

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村上敦

Atsushi Murakami 村上敦

Atsushi Murakami 村上敦

ドイツ在住ジャーナリスト、環境コンサルタント。日本で土木工学部、ゼネコン勤務を経て、環境問題を意識し、フライブルクに留学。ドイツの環境・都市・エネルギー政策などを日本に紹介している。

伝説的な起業家であるピーター・ティールが母校スタンフォード大学で行った講義をまとめた『ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか』。そして、メルケル前独首相のアドバイザーとしても知られる文明評論家のジェレミー・リフキンによる『限界費用ゼロ社会』。この2冊は、気候変動・温暖化対策を推進する国際社会や、人口縮小社会に突入した日本において、過去に社会システムがどのような形で変革されてきたのかを考える際に参考になる本でした。今後の見通しについて、自身の意見を持ちやすくするための良書といえると思います。

また、1972年に地球の限界に警鐘を鳴らしたことで話題となった『成長の限界』は、私自身が環境・工学・科学系のジャーナリストとして活動していく際に、何度も初心に立ち返って読み返している本。未来のことは誰も正確には予測できませんが、確からしい情報を提供するという生業においては、バイブルのような存在です。

村上敦さんおすすめの3冊

ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか

ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか

ピーター・ティール、ブレイク・マスターズ 著瀧本哲史 序文、関美和 訳
NHK出版

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限界費用ゼロ社会〈モノのインターネット〉と共有型経済の台頭

限界費用ゼロ社会〈モノのインターネット〉と共有型経済の台頭

ジェレミー・リフキン 著、柴田裕之 訳
NHK出版

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成長の限界 - ローマ・クラブ「人類の危機」レポート

成長の限界 - ローマ・クラブ「人類の危機」レポート

D・H・メドウズほか 著、大来佐武郎 監訳
ダイヤモンド社

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関口涼子

Ryoko Sekiguchi 関口涼子

Ryoko Sekiguchi 関口涼子

1989年、第26回現代詩手帖賞受賞。1997年に渡仏し、自作のフランス語訳や日本文学書、マンガ作品の仏語訳も数多く手掛けている。2012年フランス政府から芸術文化勲章シュヴァリエを受章。

『料理と利他』はコロナ禍にオンラインで行われた、料理研究家と政治学者の対談。人とのつながりについて誰もが考え直す機会になった今だからこそ、人のために食べ物を作るとはどういうことかなど、日常に結びつく大事なテーマが掘り下げられています。

『最後の挨拶』は、シャーロック・ホームズの翻訳者だった父をもつ小林エリカが自らの家族をモデルに紡いだ物語です。コナン・ドイルと第一次世界大戦、広島の原爆投下、東日本大震災などがデリケートな線でつながれ、歴史における人々の死、そして個人にとっての死において、文学にできることが語られます。

『離れがたき二人』はシモーヌ・ド・ボーヴォワールの自伝的小説で、若き日に結んだ女性同士の友愛、自由への渇望、そして、女性が自分らしく生きようとすることの難しさが、みずみずしい筆致で描かれています。今から100年ほど前の物語ですが、現在でも女性が自分自身の人生を選び取ることがどれほど難しいかを考えると、この本は今なお、いや今だからこそ読まれる意義をもつと思います。

関口涼子さんおすすめの3冊

料理と利他

料理と利他

土井善晴、中島岳志 著
ミシマ社

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最後の挨拶

最後の挨拶

小林エリカ 著
講談社

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離れがたき二人

離れがたき二人

シモーヌ・ド・ボーヴォワール 著、関口涼子 訳、名久井直子 装丁
早川書房

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ペトル・ホリー

Petr Holy ペトル・ホリー

Petr Holy ペトル・ホリー

1997年カレル大学日本学科卒業後、国費留学生として日本へ。駐日チェコ共和国大使館一等書記官兼チェコセンター東京初代所長を経て、チェコ文化発信サイト「チェコ蔵」をオープン。

『シブヤで目覚めて』はチェコ文学新人賞を総なめした小説家アンナ・ツィマの鮮烈なデビュー作。自分の「想い」があらゆる場所に同時に存在し、プラハと東京が重なり合います。欧州と日本の両方を知って、住んでいる皆さんだからこそ読んでいただきたい新世代幻想ジャパネスク小説です。

『火の鳥ときつねのリシカ』は子どもの頃、祖父や母親によく読み聞かせてもらったチェコの童話や民話など24話が1冊になっている本。それに加えてチェコで活躍するイラストレーター、出久根育さんの挿絵もとってもすてきです。昔話は民族の知恵と勇気が詰まっているのでおすすめします。

そしてプラハで1920年代のプラハ美術の最先端の舞台美術を手がけていたチェコの建築家・美術家フォイエルシュタインについて書かれている『ベドジフ・フォイエルシュタインと日本』。彼は日本のモダニズム建築への貢献を果たし、チェコではジャポニスムの実践など、国際交流を通して驚くべき偉業を成し遂げました。このような交流が生み出す大切さを改めて感じることができる本です。

ペトル・ホリーさんおすすめの3冊

シブヤで目覚めて

シブヤで目覚めて

アンナ・ツィマ 著、阿部賢一、須藤輝彦 訳
河出書房新社

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火の鳥ときつねのリシカ

火の鳥ときつねのリシカ

出久根育 著・イラスト、木村有子 編集・訳
岩波書店

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ベドジフ・フォイエルシュタインと日本

ベドジフ・フォイエルシュタインと日本

ヘレナ・チャプコヴァー 著、阿部賢一 訳
成文社

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ふたりぱぱ みっつん

FutariPapa Mittsun ふたりぱぱ みっつん

FutariPapa Mittsun ふたりぱぱ みっつん

ブロガー、YouTuber、翻訳家。スウェーデン人の夫と同国の法律の下結婚し、その後、代理母出産により男児を授かる。スウェーデンの文化やLGBTQ、育児などについて発信している。

『チャックより愛をこめて』は、黒柳徹子さんが30代で全ての仕事をキャンセルし、1970年代の米ニューヨークへと1年間留学した時のエッセイです。当時の文化が爆発しているような独特なニューヨークの雰囲気が、徹子さんの純粋な目を通して生き生きと描かれます。

『深夜特急』は、著者の沢木耕太郎さんが香港からロンドンまで寄り合いバスで旅をするお話。1996〜98年に大沢たかおさん主演で制作されたドラマに、当時15歳くらいだった僕はぐいぐい引き込まれ、原作も一気に読みました。本の中では「また一つ自由になれた気がした」といった表現がよく出てくるのですが、30代でインドを旅した時はまさにそれを体感しましたね。若い頃は、これらの本を通して海外に憧れつつも、まさか自分が移住するとは思ってもみなかったので、今となっては不思議な感じです。

そして『RESPECT』は、10代の男の子向けに書かれた愛と性、性的同意についてのスウェーデンの本で、今回初めて邦訳を手掛けました。タイトルに「リスペクト」とあるように、相手の存在自体をリスペクトすることで、セックスの相手だけでなく、他者と共存していくために必要なスキルや考え方を改めて学ぶことができる一冊です。

ふたりぱぱ みっつんさんおすすめの3冊

チャックより愛をこめて

チャックより愛をこめて

黒柳徹子 著
文藝春秋

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深夜特急1 ―香港・マカオ―

深夜特急1 ―香港・マカオ―

沢木耕太郎 著
新潮社

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RESPECT 男の子が知っておきたいセックスのすべて

RESPECT 男の子が知っておきたいセックスのすべて

インティ・シャベス・ペレス 著、みっつん 訳
現代書館

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編集部スタッフがピックアップ!【番外編】コロナ禍でこころに残った1冊

本特集で選りすぐりの本を紹介してくださった12人の方々のように、私たちドイツニュースダイジェストスタッフも、この約2年間でさまざまな本を読んできた。最後に編集部3名が、コロナ禍に読んだ本の中で特に印象的だった1冊をそれぞれ紹介する。

編集部(島) 外界に触れるような好奇心をかき立てる1冊

パリの秘密

パリの秘密

鹿島茂 著
中央公論社

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外出制限中、はじめの方は映画やドラマを楽しんでいたものの、1カ月もすると気乗りしない状態に。ある日、本棚を掃除していると、奥の方から以前集めていた鹿島茂さんの本が出てきました。その中で立ったまま1時間ほど夢中で読んでしまったのが、『パリの秘密』です。

この本では、パリの通りの名前やファサードについている大きな物体まで、一度は見たことがあるけれど由来は知らない、という雑学的な約70テーマを解説しています。子どものように「なぜ?」とあらゆることに疑問を抱く鹿島氏は、ほかの本でもそうですが、フランスの歴史から調べてとことん解明。難しいテーマでも独自の視点でユーモラスにかみ砕き、面白さを引き出す天才なのです。動画は受け身で一方的な刺激がありますが、本は外界に触れるような好奇心をかき立てるものだと実感しました。

編集部(真) 自分の感性を見つめ直せる1冊

美について

美について

今道友信 著
講談社現代新書

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美学者・哲学者である今道友信さんの著書『美について』は、大学生の時から何度も読み返している本です。自然や芸術作品の美しさに圧倒されたり、誰かと過ごす時間を永遠のように感じたり……人間が感じる「美しい」という感覚が丁寧に分析されています。自分の視野や心が狭くなりそうなときに読みたくなる本で、コロナ禍でも何度かページを開きました。何より今道さんの文体が美しく、いつかこんな風に日本語を書けるようになりたいなぁと、かねてから憧れています。

ちなみに今道さんは『愛について』という本も執筆されていて、そちらはパートナーとケンカをしたときなどに読むと、哲学的に自己反省できるのでおすすめです(笑)。これらの本を通して「美」や「愛」の何たるかが分かるわけではありませんが、それらについて考えてみることの面白さを味わえます。

編集部(穂) 創作の楽しさを思い出させてくれた1冊

シンジケート[新装版]

シンジケート[新装版]

穂村弘 著、高橋源一郎 解説、ヒグチユウコ 絵、名久井直子 装丁
講談社

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これまで短歌の世界には全く興味がなかったのですが、コロナ禍に歌人の穂村弘さんの型破りでチャーミングな歌の数々に出会って、一気に引き込まれました。「体温計くわえて窓に額つけ「ゆひら」とさわぐ雪のことかよ」。これは穂村さんの有名な一首。口語文体の三十一文字(みそひともじ)から、はしゃぐ子どもの姿、そして雪景色が浮かぶと同時に、結句でくすっと笑えて、現代短歌の奥深さが感じられます。この一首も収録されている同氏の第一歌集『シンジケート』が、2021年に新装版で登場。新鮮な感性の短歌はそのままに、穂村さんの頭の中をのぞき見るような表紙と、どこかのページにあめの包み紙が挟まっている(⁉)独特の装丁が魅力的な1冊です。2021年は自分でも500首ほどの短歌を詠みましたが、この歌集に影響されて生まれた歌もあり、改めて創作の楽しさを思い出すことができました。
最終更新 Freitag, 02 Februar 2024 16:28
 

フォトコンテスト2021 受賞者発表!

ニュースダイジェスト主催 フォトコンテスト2021 受賞者発表!

毎回多くの力作が届くニュースダイジェスト主催のフォトコンテスト。第10回となる今年は新型コロナウイルスの影響で、これまでの生活が一変したり、何気ない日常のなかに新しい喜びを見いだしたりと、いつもとは違う思いで過ごした方々の作品が集まりました。その中から選び抜かれた、今年の受賞作を早速見ていきましょう! 

テーマ「コロナ禍の小さな幸せ」

大賞マチュア部門大賞

「早くコロナが収まりますように」 石川 佳里奈さん(英国)

「早くコロナが収まりますように」石川 佳里奈さん

コロナ禍で大学の卒業式もなくすぐに就職のため、レジデンスで過ごしていたあるとき、大雨の後に突然ロンドン市内に半円の大きな虹が出現。消える前に夢中で撮りました。英国では多くの人が「虹」の絵を描いて、NHS への感謝と希望の思いを窓に飾っていたことを思い出し、見ていると幸運が舞い込んで来るようでした。

審査員コメント

この作者のような機動力は大切ですね。美しい一瞬に出会ったとき、躊躇(ちゅうちょ)していればすぐに消えてしまうこともしばしばです。また、この写真は美しいだけではなく、自由に外に出られない状況で、ここに写っている窓の一つひとつに住民が住んでおり、大きく円を描く虹を皆がどこかで見ているという、人とつながっている希望も感じられる素晴らしい写真です。
by Canon Europe
Canon Europe

大賞 キッズ部門大賞

「白ウサギ捕まえたよ!」 渡辺 澪(みお)さん(4歳・英国)

「白ウサギ捕まえたよ!」渡辺 澪さん(4歳)

新型コロナの影響で海外に行きにくくなった分、英国内のいろいろな場所を巡った1年でした。この写真はロンドンの南西部にあるギルフォードで 撮ったもので、アリスが捕まえ逃した白ウサギを捕まえて! と言うママの言葉を合図に、皆がポーズを取りました。

審査員コメント

2人の表情と対照的な銅像の少女2人をきちんと画面に入れているのがすごいです。「不思議の国のアリス」を想起させる女の子の服装にウサギの銅像。ルイス・キャロルの物語の世界にこのまま入っていきそうですね。
by Canon Europe
Canon Europe

マチュア部門入賞

「雪のおかげでリフレッシュ」 村山 真由美さん(ドイツ)

「Bliss」村山 真由美さん

コロナ禍の1月、大好きな学校・幼稚園もオンライン授業の日々でした。少し行き詰まっていた頃に突然の大雪。初めて見るサラサラの大雪に子どもたちは大興奮で、一日中雪遊びに夢中になりました。 その日の夜、ドイツの澄んだ空気のなか、自分たちで作ったかまくらにキャンドルを持ち込んでの1枚です。

審査員コメント

夜空の暗い青と、かまくらを照らすろうそくの暖かいオレンジのコントラストが美しい1枚です。暖かい光に包まれた子どもたちも本当に楽しそう! かまくらはお庭で作ったのでしょうか。思うように外出ができないなか、身近な所で楽しみを見つけた一場面がうまく切り取られています。
by JSTV
JSTV

審査員総評

今年も素晴らしい作品が勢ぞろいし、大変審査の難しいコンテストでした。コロナ禍にあって、例年より家族を題材にした作品が多く集まったのが今回の特徴ではないでしょうか。また、携帯電話のカメラの性能が向上したことも実感しました。瞬間を捉えるチャンスが増え、今後「写真」というイメージはますます進化していくのでしょう。

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最終更新 Freitag, 03 Dezember 2021 16:08
 

ドイツで挑戦する若手職人たちの夢

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祝!職人最高位・マイスター取得ドイツで挑戦する若手職人たちの夢

ものづくり大国ドイツで、今年新たに2人の日本人マイスターが誕生した。ビスポークテーラーの城田真至(まさよし)さんと整形靴職人の北川大介さんだ。マイスター取得後は日本を活動拠点に選ぶ人が多いなかで、ドイツで仕事を続けていく道を選んだおふたり。マイスターがどんな資格であるのかをはじめ、それぞれの職業やこれからの目標についてお話を伺った。(文: ドイツニュースダイジェスト編集部)

左:城田 真至さん、:北川 大介さん左:城田 真至さん、右:北川 大介さん

一人ひとりの着心地の良さを追求したい身体になじむドイツ仕立てのスーツ

城田 真至さん Masayoshi Shirota

1988年兵庫県生まれ。注文紳士服製造マイスター。日本での修行を経て、2015年からベルリンのテーラーに勤務。2021年にデュッセルドルフでマイスター取得後、工房をオープンした。

服に関するお悩みやお問い合わせは このメールアドレスは、スパムロボットから保護されています。アドレスを確認するにはJavaScriptを有効にしてください まで。
Instagram:@masayoshi_shirota
Twitter:@shirota_bespoke

クラシックで細やかな技術が特徴

取材当日も自身が仕立てたスーツに身を包んでいた城田真至さん。ビスポークテーラー(Herrenmaßschneider)と呼ばれる職業で、お客さんと話し合う(be spoken)ことで、一人ひとりに合った服作りをする。日本人でドイツの注文紳士服製造マイスターを取得したのは、城田さんが初。ドイツ仕立ての注文洋服には、どんな魅力があるのだろうか。

工房で裁断する城田さん工房で裁断する城田さん

「あまり知られていませんが、ドイツ紳士服は19世紀後半に目まぐるしい発展を遂げ、世界をリードしました。脈々と受け継がれる伝統の裁断と縫製、そして確かな素材で仕立てる、気取らないクラシックなスタイルが特徴です」と城田さんは説明する。さらに、ドイツ紳士服の強みは着心地の良さ。その秘密はどうやら、ドイツならではの仕立て技術にあるようだ。

「ドイツではほとんどが手縫い。ミシンだと一定のリズムでしか縫うことができませんが、手縫いなら強弱を付けられるため、身体を動かした時に遊びが生まれて柔らかく感じるんです。それから『クセ取り』というアイロンワークで生地に立体感を出すことで、当たりが少なく軽く感じられる服になるのですが、ドイツ仕立てではしっかりとクセを取る。そういう隠れたところにある技術で、着心地の良さを作り出しています」

さまざまな服の悩みに応えられる職人

お客さんのさまざまな目的に合わせて服を仕立ててきた城田さん。その目的を達成させるだけでなく、それ以上の価値を生むことがテーラーの仕事だと語る。日本の師であるテーラーの佐伯博史さんの「僕たちは服を売っているんじゃない、夢を売っているんだ」という言葉に影響され、そう考えるようになった。

城田さんが仕立てたスーツ城田さんが仕立てたスーツ

城田さんがこの世界に入ったのは、学生時代に「長く着られる服がほしい」と思ったことが始まり。その背景には、まだ着られるのに流行を過ぎれば着なくなってしまう「ファッション」への強い違和感があったという。その点で、注文紳士服は持続可能で現代の価値感に合っている。

さらに、人生を変える出来事が城田さんの身に起こった。バイク事故に遭い、生死をさまよったのだ。「もともと戦場ジャーナリストになるという夢がありましたが、事故で進路変更を余儀なくされて」と城田さん。葛藤の末、仕立ての道へ進むことに決めた。その後、松葉づえをつきながら専門学校で洋裁を学び、神戸のテーラーで修行を積んだ。そして幼少期より憧れていたドイツで、仕立てのプロを目指すことを決意する。ベルリンのテーラーで縫製と裁断の全てを学んだ後、デュッセルドルフのマイスター学校に入学した。

仮縫い中の婦人用コート仮縫い中の婦人用コート

晴れてマイスターとなり、「目標だと思っていた場所がスタート地点に変わりました」と話す城田さんは、この秋に工房を構えた。ビスポークスーツはもちろん、ドイツではサイズが合わないという悩みに手頃な価格で応えるべく、パターンオーダースーツも展開する予定だ。また紳士服に限らず、婦人服やお直しなど、異国の地で大切な洋服を安心して任せられる「洋服のサービスポイント」になりたいと語る。

「僕がそうだったように、病気やけがで既製の洋服が着られない人の力になりたい。身体障がい者用の服を作ることも目標の一つで、今はその研究を進めています。障がいのある人が何に困っていて、どこが痛いかなどを理解して寄り添えることも自分の強み。僕は縫うことが好きだから、この技術で誰かを幸せにできたらうれしいです」

服を通してみんなを笑顔にしたいという城田さんの挑戦は、まだ始まったばかりだ。

どんな悩みもベストな解決策に導きたいおしゃれも楽しめるドイツ仕込みの整形靴

北川 大介さん Daisuke Kitagawa

1992年兵庫県生まれ。整形靴マイスター。神戸の会社で修行を積み、2015年に渡独。マイスター取得後、バイエルン州にあるOrthopädie Müller Zentrale in Fürthの整形靴部門の工房長として勤務している。

Instagram:@daisukeshoemaker

整形靴はドイツでは身近な選択肢

「整形靴」(Orthopädische Schuhe)とは、外反母趾(がいはんぼし)や足の長さが違うなど、足に悩みのある人たちのための特別な靴のこと。それぞれの悩みに応じてオーダーメイドの靴やインソール(中敷き)を作るほか、既製品の調整などを行うのが整形靴職人の仕事だ。北川大介さんは、そんな整形靴マイスターの資格を取得した。

木型制作のため足のギプスを取る北川さん木型制作のため足のギプスを取る北川さん

日本にも整形靴があるものの、ドイツの方がずっと認知度が高いと話す北川さん。病院で処方箋を出してもらい整形靴を作ることが多いドイツでは、足の問題を解決するための身近な選択肢の一つなのだ。

「初めての処方の方には外用に2足、室内用に1足作ることができます。日本だと高価ということもあって、どんな服装にも合わせやすい茶色や黒を選びがち。一方ドイツでは、次はこの色を試してみよう、今度はスニーカーが欲しいなど、デザインを楽しむことができるんです」

もともと北川さんには、スポーツメーカーで働くという夢があった。中学は野球部、高校はサッカー部に所属し、靴に興味を持ったと続ける。

「野球のスパイクは茶色や黒しかないのに対して、サッカーではピンクやオレンジと色鮮やか。そんなかっこいいスパイクを作ってみたいなと思って」

お客さんにとって最高の靴を作る喜び

高校卒業後、スポーツメーカーへの就職を目指し、地元にある整形靴の専門学校で学び始めた北川さん。ある授業で、大きな転機を迎える。

「実際に患者さんの話を聞きながら整形靴を作るという授業があったんです。ここに問題がある、こうしてみましょう、良くなった悪くなった……と患者さんからフィードバックをもらうのですが、こうしたやり取りのある仕事が自分に合っていると思いましたし、何より楽しかったんですね。そこで整形靴の世界に行こうと決意しました」

専門学校を卒業して、神戸にある工房に就職した北川さん。そこには、ドイツ出身のマイスターであるダニエル・ウィンデルさんがいた。しかし、入社1年目に作ったインソールを無言でごみ箱に捨てられてしまうという事件が発生……。

「当時は半泣きでしたが、『俺が一から教えてあげるから』と言って、本当に一から十まで横に立って教えてくれたんです。それから、『マイスターになりたいならドイツに行け』と後押しもしてもらいました」

そうして渡独した北川さんは、ウィンデルさんが修行したバイエルン州にある企業に就職し、マイスターを目指すことになった。語学面などで苦労も多かったが、最終の実技試験では成績は2位。州旗をモチーフにした青と白の着物地を使ったデザインで、何より患者さんが喜んでくれたことが印象的だったと話す。

青と白の着物地による靴青と白の着物地による靴

「マイスター学校の授業では足の長さが違う方の靴で、長さが違う部分に桜をデザインしたことも。それを友人たちに見せると言って、とても喜んでくれました。本来はハンディキャップの部分を人に自慢できる、そんな靴を作れたと思います」

桜を散らしたデザインの靴桜を散らしたデザインの靴

マイスターを取得して、「やっと終わった」とほっとした様子の北川さん。一方で工房長として、「お客さんがベストな選択をできるように心がけて働いていきたい」と意気込む。将来的にはドイツと日本に拠点を持ち、二国間の懸け橋となるような仕事をすることが北川さんの大きな目標だ。

「日本より身近なものなので、足に悩みがある人にはぜひインソールや整形靴などの選択肢があることを知っていただきたいです。僕たちの技術で、一人でも多くの人の生活をより良いものにできたらいいなと思います」

ドイツが誇るマイスター制度Q&A

Q1.そもそも「マイスター」とは?

マイスターとは、ドイツ語圏の国家資格で日本語の「親方」に当たる。高い技術力と、後継者を育てる教育力や会社を成長させる経営力を兼ね備えた者に与えられる職人最高位の称号で、試験合格者のみが取得できる。

手工業会議所(HWK)管轄の手工業マイスターには、家具や靴、時計などの手工業分野をはじめ、製菓や製パン、ハム・ソーセージなどの食品加工分野、自動車整備士や電気設備工が分類される機械分野などがある。城田さんと北川さんが合格した手工業分野は技能試験のレベルが高く、難関とされる。2021年現在、マイスターのある業種は145種類。

Q2.マイスターになるための条件は?

マイスター学校への入学には、国家資格「ゲゼレ」を取得していることが必須。ゲゼレは日本語の「職人」に当たり、見習い期間を経て、試験に合格したスペシャリストを指す。ただし日本ですでに修行したなど、ゲゼレと同様の経験があると認められた場合は、例外的にマイスター学校への入学が認められることもある。

マイスターの試験科目は、各業種の①専門実技と②専門知識、全業種共通の③経営学・商学・法学と④職業・労働教育学の四つで、各3回まで受験可能。ほとんどの場合は、連邦奨学金(BAföG)を利用して資格取得を目指す。

Q3.マイスター取得後の進路は?

晴れてマイスターになると、進む道は大きく分けて二つある。一つは城田さんのように起業という選択。マイスターのみが開業を認められている業種もあるが、任意でマイスターの資格を取得して開業することもできる。もう一つは、北川さんのように企業に勤務する道。マイスターは管理職など重要なポストに就くことが多く、北川さんは工房長に就任した。企業内に複数のマイスターがいることも珍しくない。

また、日本人でマイスターを取得した場合は、帰国して日本に拠点を置くという選択肢も。ドイツで得た経験を生かして、国内外で日本人マイスターたちが活躍している。

最終更新 Freitag, 03 Dezember 2021 13:03
 

世界中で愛されるシュタイフのぬいぐるみたち

ドイツ生まれの温もりを贈ろう世界中で愛されるシュタイフのぬいぐるみたち

1880年に世界で初めてぬいぐるみを生み出した「シュタイフ」。子ども時代をシュタイフ社のぬいぐるみと一緒に過ごしたという人は、ドイツに限らず世界中にいることだろう。実はシュタイフ社が誕生したきっかけは、大切な人へのクリスマスプレゼントだったそう。本特集では、そんなシュタイフ社の歴史をはじめ、贈り物におすすめのぬいぐるみをご紹介。さらに日独のシュタイフコレクターの方から、シュタイフとの思い出を語ってもらった。(文: ドイツニュースダイジェスト編集部)

世界中で愛されるシュタイフのぬいぐるみたち

ぬいぐるみの生みの親マルガレーテ・シュタイフの人生

エネルギッシュな少女マルガレーテ

若き日のマルガレーテ・シュタイフ若き日のマルガレーテ・シュタイフ

1847年7月24日、ドイツの小さな町ギーンゲンで、シュタイフ家の4人兄弟の3番目の子としてマルガレーテ・シュタイフ(1847-1909)は誕生した。後に世界初の「ぬいぐるみ」を生み出し、子どもの遊びの世界をがらりと変えた伝説的な人物である。しかし、かわいらしいぬいぐるみの裏には、人生のどん底を味わっても果敢に挑戦し続けるマルガレーテの姿があった。

マルガレーテは1歳半の時に高熱を出して倒れ、骨髄性小児まひを患う。何度も医者に通って治療をするも効果はみられず、両足と右手にハンデを負って生涯を車いすで過ごすことになった。しかし、楽しいことが大好きなマルガレーテは、自分の居場所を求め続け、やがて裁縫学校で手芸の才能を開花させる。1877年には「フェルト・メール・オーダー・カンパニー」を設立し、子どもや女性向けのフェルト衣料の販売を開始。マルガレーテが作るフェルト製品は評判となり、ビジネスとして成功を収めていった。

世界初のぬいぐるみは「ゾウ」だった

1879年12月のある日、マルガレーテはファッション雑誌「Modenwelt」で布製のゾウを目にする。そこからインスピレーションを得たマルガレーテは、クリスマスの贈り物として甥や姪にゾウの形のおもちゃを制作。大人用には針刺しとしてプレゼントした。その当時、人形といえばビスク・ドールが主流で、おもちゃも木やブリキなどの硬い素材で作られたものが多かった。そんななか、柔らかくて触り心地の良い、全く新しいおもちゃが誕生したのだ。

マルガレーテのアイデアから生まれたゾウのぬいぐるみマルガレーテのアイデアから生まれたゾウのぬいぐるみ

この小さなぬいぐるみは、瞬く間におもちゃとして大人気になった。年が明けた1880年、このゾウのぬいぐるみを求めてお店の前に行列ができるほど評判だったという。この年がシュタイフ社の創業年とされている。それからわずか6年で、マルガレーテは5000頭以上のゾウを販売した。さらにゾウに加えて、サル、ウマ、ブタ、イヌ、ネコ、ウサギなど、さまざまなぬいぐるみを生産していく。

永遠のベストセラー「テディベア」の誕生

1897年には、マルガレーテの甥であるリヒャルト・シュタイフが同社のスタッフとして加わる。彼はシュトゥットガルトの美術工芸学校に通い、英国に留学もした。リチャードが描いた動物のスケッチは、シュタイフ製品の多くの基礎となっている。そして1902年、リヒャルトは長年温めてきた、手足が動くクマのぬいぐるみデザインを手掛けることになった。

翌年、ライプツィヒで開催されたおもちゃ博覧会でリヒャルトのクマのぬいぐるみを発表すると、それを見つけた米国のバイヤーが3000体を注文。ルーズベルト大統領(当時)の晩餐会のテーブルディスプレイに使われたことで、大統領のミドルネーム「テディ」にちなんで「テディベア」と名付けられたのだった。これをきっかけに、テディベアは米国で空前の大ヒットを記録することになる。

1902年に作られた世界初のテディベア「Bär 55 PB」1902年に作られた世界初のテディベア「Bär 55 PB」

トレードマークの「ボタン・イン・イヤー」って?

急成長したシュタイフ社は、数え切れないほどの模造品と闘うことを強いられる。偽造品と区別するために1904年、シュタイフは「Steiff - Knopf im Ohr」(ボタン・イン・イヤー)という商標を作成。これは世界で一番古いトレードマークといわれており、全ての商品にシュタイフタグが付けられている。

トレードマークの「ボタン・イン・イヤー」

タグには、品番、製品の素材などを表示。シュタイフ社といえば「黄タグ+赤文字」を思い浮かべるが、「白タグ+赤(黒)文字」も存在する。白タグは数量限定生産のもの、またはレプリカに付けられていて、シリアルナンバーも記載されている。

おもちゃ界の伝説となったマルガレーテ

シュタイフ社が大成功を収めた一方で、1909年、マルガレーテは肺炎のため61歳でこの世を去ってしまう。思いやりのある経営者として慕われていたマルガレーテの死は、シュタイフ家の人々や従業員にとってとても悲しい出来事だった。経営面では甥のリヒャルトが引き継ぎ、シュタイフ社はその後も「子どもたちには最高のものこそふさわしい」という、マルガレーテのモットーを守り続けていく。

シュタイフ社創設から140年以上が経った2021年、マルガレーテは米国の玩具業界団体の最高の栄誉である「Toy Industry Association」(TIA)にて殿堂入りを果たした。玩具業界のオスカーとしても知られているこの賞は、これまでにミッキーマウスの生みの親であるウォルト・ディズニーや、セサミストリートなどで知られる操り人形師のジム・ヘンソンなどが表彰されてきた。マルガレーテは玩具業界のパイオニア的存在であるだけでなく、障がいがありながらも世界で最も早い時期にCEOになった女性の一人として、今なお愛されている。

今日、シュタイフ社のクマや動物のコレクションは800種類以上にもなるという。シュタイフ社が一つひとつ丁寧に制作するぬいぐるみたちが、これからも世界中の子どもたちの「大切な友だち」であり続けるだろう。

シュタイフのものづくり精神

「一生の友だち」というスローガンを元に、最高品質の素材にこだわるシュタイフ社。世界基準の「ISO 9001 認証」を取得し、モヘアやアルパカどの最高級の天然繊維や、合成繊維から作られたファーを、自社製織工場のシュタイフシュルテ社で織り上げるというこだわりようだ。ぬいぐるみの詰め物も有毒・有害な物質を一切含まないものを使用し、自宅で簡単に洗うことができる。

さらに今日のシュタイフ社は、ぬいぐるみだけでなく子ども服や木のおもちゃも製作。また他企業や他団体とコラボレーションするなど、新たな活動にも挑戦している。

「クマのプーさん」はシュタイフ社のぬいぐるみがモデル!?

「クマのプーさん」はシュタイフ社のぬいぐるみがモデル!?

1926年にA・A・ミルンが書いた「クマのプーさん」。挿絵を担当したE・H・シェパードは、よくミルン家に遊びに行ってスケッチをし、次々とキャラクターを生み出した。プーさんは、シェパードの息子が持っていたシュタイフ社のテディベアをモデルにしたといわれている。

キング・オブ・ロックンロールもシュタイフを所有

キング・オブ・ロックンロールもシュタイフを所有

1957年にキング・オブ・ロックンロール、エルヴィス・プレスリーが「テディベア」という歌を発表したが、実はシュタイフ社のテディベアを実際に所有していたことはご存じだろうか。それは190 9 年製のもので「メイベル」という名前が付けられていた。写真は自宅のぬいぐるみたちに囲まれたエルヴィス。

2021年のクリスマスに贈りたいおすすめのシュタイフぬいぐるみ

マルガレーテに倣い、今年のクリスマスはシュタイフのぬいぐるみを贈るのはいかがだろうか?赤ちゃんが初めて抱きしめるぬいぐるみからコレクターが思わず欲しくなる逸品まで、シュタイフの魅力が際立つ商品をピックアップしてご紹介する。

来年はテディベア誕生から120周年!コージーイヤーベア 2022

コージーイヤーベア 2022コージーイヤーベア 2022

足の裏に年号が入った毎年登場するコージーイヤーベアは、赤ちゃんや小さな子どもに優しく寄り添ってくれるソフトタイプのぬいぐるみ。毎年色が変わるリボンは、今年はベージュの毛にもよくなじむシックなさび色だ。出産祝いや結婚祝いなどの贈り物として人気だが、特に2022年はシュタイフ社でテディベアが誕生してから120周年を迎えるため、ますます特別なぬいぐるみとして注目されそう。

Cosy Jahresbär 2022
34cm/49.90€
※洗濯可

特別なクリスマスツリーにオーナメント・ハリネズミ・イン・ミトン

オーナメント・ハリネズミ・イン・ミトンオーナメント・ハリネズミ・イン・ミトン

オーバーサイズのサンタクロースの赤い手袋から、ちょこんと顔を出しているハリネズミ。そんなぬくぬくと温まっているかわいらしい姿が、オーナメントとしてシュタイフの仲間入り。柔らかいモヘアの毛にフェルト製の小さな耳をのぞかせて、愛らしさ120%。小さいながらも絶妙な存在感で、わが家のクリスマスツリーをきっと特別なものにしてくれるはず。世界で2000体の限定生産なので、ご購入はお早めに。

Igel im Handschuh Ornament
11cm/99.90€

赤ちゃんのシュタイフデビューにソフトカドリーフレンズ ウサギのホッピー

ソフトカドリーフレンズ ウサギのホッピーソフトカドリーフレンズ ウサギのホッピー

足の裏に「My First Steiff」と刺しゅうされたカドリーフレンズシリーズで、その名の通りシュタイフデビューにふさわしいぬいぐるみだ。たれ耳が愛くるしいウサギのホッピーは、いつでもどこでも一緒の友だちになってくれるはず。毎晩眠る時に思わずほっぺたですりすりしたくなるほど、ふわふわな肌ざわりに赤ちゃんもきっとうっとり。色はベビーピンクのほかに、アイボリーとパステルブルーがある。

Soft Cuddly Friends My first Steiff Hoppie Hase
26cm/29.90€
※洗濯可

映画のイメージがそのままシュタイフにパディントン ベア™

パディントン ベア™パディントン ベア™

ディズニー映画をはじめ、シュタイフではさまざまなキャラクターのぬいぐるみも作られている。こちらは『くまのパディントン』(福音館書店)を実写化した映画「パディントン」とのコラボベア。トレードマークの赤い帽子と青いコートは、物語のイメージをそのままに、優しくぎゅっと抱きしめられるソフトタイプだ。サイズはほかに38cmと60cm。絵本が原作のシリーズでは、ピーターラビットもあるので要チェック!

Paddington Bear™
28cm/89.90€
※洗濯可

これぞテディベアの逸品!テディ・クラウン・レプリカ 1926

テディ・クラウン・レプリカ 1926テディ・クラウン・レプリカ 1926

青いポンポンの付いた帽子を被り、シフォンの襟巻をした優雅なテディ・クラウン。上質なチップドモヘアが生き生きとした印象を与え、シュタイフの品質へのこだわりが見て取れる逸品だ。たったの926体しか生産されていないというこのレプリカは、世界中のシュタイフコレクターをとりこにし、日本ではすでに完売。ドイツではまだ手に入れるチャンスがあるので、豪華なクリスマスプレゼントにいかが……?

Teddy Clown 1926 Replica
40cm /449.90€

自然を守るためのアクションにもナショナルジオグラフィック カバのヘダ

ナショナルジオグラフィック カバのヘダナショナルジオグラフィック カバのヘダ

米誌「ナショナルジオグラフィック」とコラボして、生物多様性を保護する目的で作られたコレクションで、収益はナショナルジオグラフィック協会に寄付される。ゴリラやペンギンなど、さまざまな絶滅危惧種の動物を撮影して作られたぬいぐるみたちは、リアルな見た目ながら優しい表情が特徴的。カバのヘダはサハラ南部の出身で、森林伐採や密猟などによって絶滅の危機に瀕している。ぬいぐるみを通じて、地球の仲間に思いを寄せてみよう。

National Geographic Hedda Nilpferd
43cm /99.90€
※洗濯可

リアルでかわいい森の友だち赤ちゃんキツネのフォクシー

赤ちゃんキツネのフォクシー赤ちゃんキツネのフォクシー

シュタイフのモチーフには、ドイツの森に住んでいる動物たちもいっぱい。キツネの赤ちゃんのフォクシーは、最近仲間入りしたばかり。賢そうな目にとがった耳、エアブラシで丁寧に陰影が付けられた毛並みは、本物のキツネそのものだ。小さめのサイズなので、子どもが抱いて遊ぶのにもぴったりな大きさ。ほかにもリスのニキやノロジカのロミ―など、森のベストフレンドを探してみて!

Foxy Baby-Fuchs
19cm /39.90€
※洗濯可

シュタイフのお手入れ方法

洗濯可のぬいぐるみは、洗濯ネットに入れて洗濯機に入れ、中性洗剤を使って30℃で洗おう。アルパカやモヘアのぬいぐるみの場合は拭き洗いがベスト。中性洗剤を付けたタオルで表面を丁寧にこすり、さらに水を含ませたタオルですすぎの拭き洗いをしよう。

日独コレクターに聞いた!わたしの宝物シュタイフ

シュタイフ社員のコレクションは100体!ジモーネ・ピュルクハウアーさん

Simone Pürckhauer
1997年にMargarete Steiff GmbHに入社し、現在はPRを担当している。2013年に東京おもちゃショーに招かれた経験もある。

古いものから新しいものまで、およそ100体ものシュタイフを持っているため、一番を選ぶことができません。初めてのシュタイフは、テディベアのモリー。11歳のクリスマスに両親からもらい、今でも大切に持っています。シュタイフ・スタジオのボクサー犬もお気に入りの一つです。わが家にはディガーという名前の本物のボクサー犬がいて、一緒に写真も撮りました。

息子さんとディガー、シュタイフ製のボクサー犬と一緒に息子さんとディガー、シュタイフ製のボクサー犬と一緒に

それから、私の宝物で古いテディベアがあるのですが、なんと私の祖父がマルガレーテ・シュタイフの甥っ子であるフリードヘルムからもらったものなんです。群議会で祖父が彼の隣に座った時、「もしたばこを吸うのをやめてもらえたら、テディベアをプレゼントしましょう」と言われたのだそう。そうしてもらったテディベアが私の父へと受け継がれ、今は私の元にあります。祖父の代からすでにシュタイフとのつながりがあったと思うと不思議です。

お祖父さんから代々受け継がれてきたテディベアお祖父さんから代々受け継がれてきたテディベア

のみの市で出会ったシュタイフたち守屋 亜衣さん

Ai Moliya
2017年よりベルリン在住。主にグラフィックデザイン、ファインアート、金継ぎの3領域で活動中。幼少からぬいぐるみに親しみ、のみの市に行っては宝探しをしている。

わが家にたくさんあるぬいぐるみのうち、シュタイフのものは5体です。一番のお気に入りは、ベルリンののみの市で見つけたオープンマウスのビーバーのナギー。とぼけたような表情、愛くるしい前歯、体幹の強い立ち姿がポイントです。シュタイフファンの方ならぜひとも訪れてほしいシュタイフミュージアムでは、展示冒頭、よりすぐりのぬいぐるみたちによって短い劇が上演されます。その物語にいたく感動して涙したことは、今も忘れられない思い出です。

守屋さんがコレクションしているシュタイフたち守屋さんがコレクションしているシュタイフたち

シュタイフにしかない魅力、それは歴史と誇りに支えられた品質の高さだと思います。シュタイフは「子どもにこそ本物を」というポリシーのもと、まるで発明品ともいえるほどの、楽しく遊べるデザインを作り出し続けています。口に入れられても振り回されても、その姿を崩すことなく寄り添ってくれる丈夫さはシュタイフならでは。どこまでも手を抜かず、世代を超えて愛され受け継がれるぬいぐるみは唯一無二の存在ではないでしょうか。

何ともいえない表情のビーバーのナギー何ともいえない表情のビーバーのナギー

もっと知りたい人にシュタイフミュージアム

2005年にオープンしたシュタイフミュージアム。ギーンゲンの町外れにあるシュタイフ本社の隣にそびえる円形建物がそうだ。最初にマルガレーテ・シュタイフとシュタイフ社の歩みがストーリー仕立て紹介され、次に歴代シュタイフ製品の展示コーナーへと進む。3階から2階へ降りる蛇の形をした巨大チューブの滑り台は大人にも人気。

製造工程を紹介したミニ工場では、丁寧な作業を見学できる。1階にシュタイフショップがあるほか、レストランやアウトレットも隣接しており、季節ごとにイベントも開かれている。

シュタイフミュージアム

Steiff Museum
Margarete-Steiff-Platz 1, 89537 Giengen an der Brenz
火〜日 10:00-17:00
入場料:10€(一般)
www.steiff.com/de-de/i/steiff-museum

最終更新 Freitag, 26 November 2021 10:42
 

展覧会「オモシロガラ」が好評開催中!

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着物と現代美術から日本の近代化をめぐるダイナミズムを紐解く展覧会「オモシロガラ」が好評開催中!

期間2022年2月27日(日)まで

会場DKM美術館(NRW州デュイスブルク)

麻の葉旗文帯、1930 ~ 40年代、乾淑子氏所蔵、DKM美術館会場風景(写真: クリスティーナ・ワイルド)麻の葉旗文帯、1930 ~ 40年代、乾淑子氏所蔵、DKM美術館会場風景(写真: クリスティーナ・ワイルド)

現在デュイスブルクで開催中の「オモシロガラ」展。着物と現代美術から、日本を軸としたアジアの近代化をめぐるダイナミズムを多角的な視点から紐解く野心的な展覧会だ。

展覧会「オモシロガラ」が好評開催中!ミッキーマウス襦袢、1930年代、乾淑子氏所蔵

面白柄とは、明治初期から太平洋戦争中期まで生産されていた、主に男性向けの着物のジャンル。羽織の裏や襦袢など、外からは見えない所に奇抜な模様や図柄が描かれ、「粋」としてもてはやされた。例えば日清・日露戦争の錦絵風刺画のほか、映画、ミッキーマウス、絵葉書、新聞の切り抜きなど大衆文化を反映した図柄、ナチスの鉤十字や満州国の鉄道地図など帝国主義的な図柄、そして銃後の模範的な生活が1時間ごとに描かれた図柄など、そのモチーフは多岐にわたる。そんな激動の近代化を迎えた日本社会や緊迫した世界情勢を鮮やかに物語る面白柄着物が、これまで語られることの少なかった一般市民の近代化の体験を色濃く反映する貴重な史料として、近年欧米の美術館および博物館から注目を集めている。

小林エリカ《彼女たちは待っていた》2019/2021年、DKM美術館会場風景(写真: 森脇統)小林エリカ《彼女たちは待っていた》2019/2021年、DKM美術館会場風景(写真: 森脇統)

「オモシロガラ」展では、第12回ドクメンタ(2007年)の芸術監督を務めたロガー・M・ビュルゲルによるディレクションのもと、美術史家であり世界的な面白柄研究の第一人者である乾淑子(いぬい よしこ)氏(東海大学名誉教授)の稀有な着物コレクションが、かつてない規模で大胆に展示されている。さらに荒木悠、小林エリカ、李晶玉、竹村京、田村友一郎の5人の気鋭の現代美術家の作品に加え、DKM美術館のコレクションも登場する。会場で無料配布される資料は日独英の3カ国語表記。またDKM美術館は、優れた東アジア美術を多く所蔵することで知られ、仏像から陶磁器、重要な現代美術作品まで幅広く展開する常設展も、一見の価値ありだ。

オモシロガラ / OMOSHIROGARA

2022年2月27日(日)まで
土日祝日・毎月第1金曜日、12:00~18:00*
DKM美術館 Güntherstr. 13-15, 47051 Duisburg
www.museum-dkm.de

キュレーション: ロガー・M・ビュルゲル、根来美和、三上真理子
助成: ドイツ外務省、国際交流基金
ウェブサイト: http://omoshirogara.org
お問い合わせ(日本語可): このメールアドレスは、スパムロボットから保護されています。アドレスを確認するにはJavaScriptを有効にしてください

*月曜日から金曜日に訪問を希望する場合は、要予約。毎月第1金曜日には16:00から美術館スタッフによる無料ガイドツアーが実施されている。また日本語でのガイドツアーも実施予定。詳細は要問い合わせ。

最終更新 Freitag, 19 November 2021 10:22
 

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