特集


バリトン歌手・木村善明さん - 唯一無二のオペラ歌手を目指して

唯一無二のオペラ歌手を目指して バリトン歌手
木村善明さん

西ドイツの中都市・ビーレフェルトの歌劇場で、一人の日本人オペラ歌手が活躍している。バリトン歌手の木村善明さんは、2014年に同劇場の専属ソリストとして契約を結び、2018年には楽劇王ワーグナー作品の主役に抜擢された。本場欧州の荒波にもまれながらも、自分らしく演じることを追求してきた木村さんの素顔に迫った。(Text:編集部)

アルベリヒを演じる木村さんアルベリヒを演じる木村さん(楽劇『ラインの黄金』より)

木村善明さん(きむらよしあき) 岡山県倉敷市出身。 2007年に渡独し、カールスルーエ音大オペラ研修所、シュトゥットガルト音大、トロッシンゲン音大、仏・トゥーロン音楽院、白・フランダース歌劇場オペラスタジオで研鑽を積み、ドイツ国家演奏家資格取得。2014年より、ビーレフェルト歌劇場専属歌手ソリスト。 www.yoshiakikimura.net

欧州のオペラ歌手は「歌うサラリーマン」

どこの街にもたいてい劇場があるドイツでは、人々は映画を観に行くようにオペラを観に行く。木村善明さんが活躍するビーレフェルトも例外ではない。オペラ歌手が一つの職業としてきちんと成り立っているのは日本との違い、と木村さんは言う。

「専属ソリストの契約は1年ごとの更新ですが、毎月決まった給料をもらえ、年金や保険も完備されています。いうなれば『歌うサラリーマン』ですね(笑)。この夏、スイスで屋外オペラで歌う仕事があったのですが、ビーチサンダルに短パン姿で来るお客さんもいました。みんなワインを飲んで、ほろ酔い気分でオペラを鑑賞。こんなアットホームな雰囲気も欧州ならではですね」

アジア人としてぶち当たる壁

しかし、身近で楽しいオペラの雰囲気とは裏腹に、本場欧州でアジア人として歌うことの厳しさも痛感している、と木村さんは続ける。

「常に欧州人よりも結果を出さないと、アジア人は厳しい目で見られます。公演後に、発音が変だった、間違ったキャスティングだったのでは、と言われることも。逃げ出したいことは何度もありました。でも、そこで毎回自分に問うんです。『歌いたいのか?歌いたくないのか?』。歌いたいんだったら、文句を言わずにやるしかありません」  

そう話す木村さんは、毎日のトレーニングを欠かさず、時間が取れる限り遠方の恩師のもとまでレッスンに通うなど、いいものを作り上げるための努力は惜しまない。公演のない平日も稽古三昧だという。

「10~14時が稽古時間、14~18時が休憩時間、18時からまた稽古……というのがスタンダードな平日の時間割り。土曜日は午前だけ稽古をして、その後公演があったり、日曜日にもよく公演があります。休憩時間にスーパーに買い物に出かけたり、自主トレーニングをしています。

忙しい時期は3つのオペラを掛け持ちするので、ドイツ語の公演をしながら、英語の稽古をし、次の日の公演はイタリア語……ということも。常にフル回転ですね」

また、出演作品の予習や役作りにも余念がない。とりわけ驚いたのは、歌詞をすべて日本語に訳していることだ。

「歌詞を自分の言葉で表現することで、役への理解が深まると思っています。キャラクターがもっと生き生きするし、稽古のときに『僕はこう演じたい』とディスカッションができるんですね。ただのイエスマンではなく、一緒に作り上げていくことで、唯一無二の歌手になれると信じています」

大役を終えても、まだまだ進化中

木村さんのそうした努力が実り、2018年に念願のワーグナー作品の主役に抜擢された。大役アルベリヒを演じた『ラインの黄金』では、キャラクターを徹底的に研究するなど準備を重ねてきたが、極度のプレッシャーからリハーサルで声が出なくなるというハプニングに見舞われたり、毎回の本番で2キロも体重が落ちたという。

「全8回の公演でさまざまな評価があって、オペラ歌手としての厳しさを痛感しました。お客さんの心に残る歌い手を目指して、人間的にも歌手としても成長していきたいです。数年後にまた同じ役を演じたら全く違うものになるかもしれません」と意気込みを見せた。

一見ストイックにも見える木村さんだが、最近音楽とは全く違う、新しい趣味ができたとか……。

「頭を空っぽにする時間をもったほうが良い、という友人からのアドバイスで、先日初めてお菓子教室に参加しました。もともと料理好きなのでとても楽しかったし、さまざまな分野の方と知り合えるし、これがいい気分転換になるんですよ」と、最後にチャーミングな素顔を見せてくれた木村さん。確実に進化し続ける木村さんのさらなる活躍に期待したい。

ウェーバー作オペラ「魔弾の射手」ウェーバー作オペラ「魔弾の射手」でカスパールを演じる木村さん

ガソリンレズニチェク作オペラ「ガソリン」で木村さんが演じたプラムケイク

木村さんが出演するオペラ公演情報

オペラ「椿姫」 ヴェルディ作曲 / マルケーゼ役
2018年10月6日(土)、10日(水)、24日(水)、28日(日)
11月2日(金)、11日(日)、17日(土)
12月6日(木)、11日(火)、29日(土)

オペラ「魔笛」 モーツアルト作曲 / 弁者役
2018年10月20日(土)、11月4日(日)、12月8日(土)

オペラ「ヘンゼルとグレーテル」 フンパーディング作曲 / ペーター(父)役
2018年12月1日(土)、4日(火)、7日(金)、23日(日)、25日(火)

会場はすべてビーレフェルト歌劇場
ビーレフェルト歌劇場 https://theater-bielefeld.de

最終更新 Dienstag, 25 September 2018 09:37
 

ドイツ生まれの文房具

一生使いたい名品揃い!
ドイツ生まれの文房具

高品質かつ高機能な製品を生み出し続けている日本とドイツ。両国の文房具もまた、長い歴史と経験に裏打ちされた技術力と洗練されたデザインを誇る名品が数多く揃う。今回は最先端からクラシックなスタイルまで、一生付き合いたい「メイド・イン・ジャーマニー」の文房具の魅力に迫る。(Text:編集部)

※価格やアイテムの詳細は各社ホームページよりご確認いただけます。
※各商品のバリエーションなどは国ごとに違いがある場合がございます。

洗練されたデザインを追及
LAMY ラミー

  • 創業年:1930年
  • 創業場所:ハイデルベルク
  • 創業者:Carl Josef Lamy
  • www.lamy.com(ドイツ)
  • www.lamy.jp(日本)

ドイツ最古の大学を擁する古都、ハイデルベルクで誕生。アメリカの筆記用具メーカーに勤めていたカール・ヨーゼフ・ラミーによって設立された「ラミー」は、現在では年間約900万本もの筆記用具を生産している。1966年、マンフレート・ラミー博士とバウハウスの影響を受けたゲルト・アルフレッド・ミュラーが同社を代表するアイテム「ラミー2000」を手掛け、機能性だけでなく洗練されたデザイン性を実現し、礎を築いた。その後も国内外のさまざまなプロダクトデザイナーとタッグを組み、革新的な文房具を生み出し続けている。

LAMY

LAMY 2000(写真上)
1966年に誕生したラミーの原点となるプロダクト。同社のデザインの基礎を築いたゲルト・アルフレッド・ミュラーが手掛けたスタイリッシュなアイテムで、発売から50年以上が経った現在も高い人気を誇る。

LAMY safari (写真下)
工業デザイナーのウルフガング・ファビアンが手掛けたアイテム。現在のラミーを代表する商品の一つとなっている。手頃な価格設定で、多様なカラーと形状のバリエーションがあるため、自分の個性を表現できるのが特徴。

万年筆の代表的メーカー
Pelikan ペリカン

1832年に科学者のカール・ホルネマンがハノーファーに自身のカラーインク工場を設立したことが起源。その6年後に「ペリカン」を創業する。1929年には、同社で初となる万年筆を発表。ドイツで大きな産業ブームが起こった1950年には「ペリカン」を代表する万年筆モデル「400」が発売されると、その黒と緑のストライプのボディに黄金のペン先が施されたスタイリッシュなデザインで人気を博す。現在では高品質かつ高機能な高級万年筆を中心に、小さな子どもや学生向けの手頃なアイテムまでをグローバルに展開している。

Pelikan ペリカン

Souverän 400 (写真上)
クラシックかつシンプルなスタイルが特徴の「Souverän」は、同社を代表する商品として発売当初から高い人気を誇る。14金ロジウムの装飾が施されたペン先と、24金プレートのキャップリングを備えている。

Toledo 900 (写真下)
スペイン中部の町、トレドで知られている銅細工の技法を用いて作られた万年筆シリーズ。同メーカーの象徴であるペリカン模様は、ドイツで1本1本手作業で彫られており、非常に手の込んだ商品となっている。

鉛筆のバラエティーNo1!
STAEDTLER ステッドラー

  • 創業年:1835年
  • 創業場所:ニュルンベルク
  • 創業者:Johann Sebastian Staedtler
  • www.staedtler.com/de/de(ドイツ)
  • www.staedtler.jp (日本)

世界最古の鉛筆製造者として記録されているフリードリヒ・ステッドラーを祖父に持つ、ヨハネス・セバスティアン・ステッドラーが、1835年に現在のニュルンベルクに鉛筆製造工場を設立したのがはじまり。創業から5年の間に63種類もの鉛筆を開発し、1856年からはスギ素材で作られた円形と六角形の鉛筆をそれぞれ48色ずつ開発した。現在は製品の3/4をドイツで生産し、150カ国に商品を展開している。

STAEDTLER

Mars® シリーズ(写真上)
デザイン系ユーザーから人気が高いシリーズ。紙への定着の良さ、なめらかな書き心地、芯の折れにくさが人気の秘密。同シリーズの消しゴムもあり。※写真は Mars® Lumograph® 100

Noris digital(写真下)
サムスンの電子機器に対応したデジタルタイプのペン。鉛筆の感触を残した革新的なこのタッチペンを使用すると、携帯電話やタブレットの画面に直接書き込める。

世界最古の筆記用具メーカー
Faber Castell ファーバー・カステル

ニュルンベルク郊外で家具職人として働いていたカスパー・ファーバーが鉛筆の製造販売をスタートしたことが起源となる。その後1851年に4代目となるローター・フォン・ファーバーの下、六角形の鉛筆を製造。この鉛筆の長さ・太さ・強度が世界基準となり、さらに会社として発展を遂げた。この基準は150年以上が経過した現在でも世界中で使用されている。また、鉛筆に社名を刻印したのも「ファーバー・カステル」が初めて。

Faber Castell ファーバー・カステル

Albrecht Dürer 水彩色鉛筆(写真左)
ニュルンベルクの生まれの画家、アルブレヒト・デューラーの名が付けられた水彩鉛筆。使用する紙の質感に応じて着色後に水を加えると、水彩画のようなタッチが表現できる。

PITT グラファイトセット(写真右)
さまざまな硬度の鉛筆が揃い、スケッチからグラフィックデザイン、シェーディングなどに適す。深みあるブラックからニュアンスのあるグレーなど多彩な表現が実現。

蛍光ペンのパイオニア
STABILO スタビロ

  • 創業年:1855年
  • 創業場所:ニュルンベルク
  • 創業者:Gustav Adam Schwanhäuβer
  • www.stabilo.com (ドイツ)
  • www.stabilo.jp (日本)

1865年にグスタフ・アダム・シュヴァンホイサーが鉛筆工場を買収し、事業を拡大したのが始まり。1875年にはコピー鉛筆の製造で成功を収める。その後1971年に世界初となる蛍光ペン「STABILO BOSS」を発表し、世界的な文房具メーカーへと発展。1977年にはカラーバリエーションが豊富なフェルトペン「point88」を発売する。現在も改良を重ね、革新的なアイテムを生み出し続けている。

STABILO スタビロ

BOSS ORIGINAL Pastel (写真左)
パステルバージョンの水性マーカーペン。ソフトなカラーで、マーキングだけでなく画材としてなど、さまざまな用途で使うことが可能。全6色展開。

point88 (写真右)
ファイバーチップの多色水性サインペン。定規を用いて書くことに適しており、一般筆記、一般事務用、ポストカードなどの用途に大活躍。0.4mmの極細タイプ。

レトロな魅力で蘇る
Kaweco カヴェコ

  • 創業年:1883年
  • 創業場所:ハイデルベルク
  • 創業者:Heinrich Koch, Rudolph Weber
  • www.kaweco-pen.com

創業者2人の頭文字を併せて名付けられた。1930年代に万年筆とボールペンの携帯セットを発表して一世を風靡。1976年に経営難により一度会社をたたむも、1994年に再び製造が再開され、現在でもそのレトロなデザインで人気を博している。

Kaweco カヴェコ

CLASSIC Sport (写真上)
直径10.5cmのポータブルなサイズが特徴。同シリーズはカラーバリエーションが豊富。

PERKEO (写真下)
長時間使用しても疲れないように、工夫が施されている 万年筆シリーズ。4色展開。

ポップなデザインで魅了
Redfries レッドフライズ

  • 創業年:2014年
  • 創業場所:レーゲンスブルク
  • 創業者:Daniela Rosenhammer, Stjepan Dujmovic
  • https://redfries.com

Redfries レッドフライズ

メモパッド(写真左)
ウィークリーで予定が管理できるものから、TO DOリスト、ショッピングリストなど用途に合わせたアイテムが揃う。

ステッカー (写真中央)
ポストカードのワンポイントに、ノートへのデコレーションとしてなど、使い方のバリエーションは無限大。

ポストカード (写真右)
再生産が可能な木材から作られた紙を使用した封筒つきのポストカード。大切な人に送りたいユニークで洗練されたデザイン。

子どもにやさしいクレヨン
STOCKMAR シュトックマー

ニュージーランドではちみつとキャンドルを作っていた創業者が、故郷ドイツでシュタイナー学校の先生をしていた兄弟からクレヨン制作の依頼を受け、みつろうクレヨンを作り出したのがはじまり。同社が使用する原材料は、子どもの健康や環境に悪影響を与えない自然由来のものだけ。

STOCKMAR シュトックマー

みつろうクレヨン (スティック / ブロック)
みつろうのほのかな香りを残したクレヨン。線を描いたり、色を重ねたりさまざまな表現方法が可能になっている。スティックとブロックタイプがあり、それぞれ8色、12色、16色、24色のバリエーションを用意。

バリエーションの豊富さが魅力
LEUCHTTURM1917
ロイヒトトゥルム1917

  • 創業年:1917年
  • 創業場所:アッシャースレーベン
  • 創業者:Paul Koch
  • www.leuchtturm1917.de

1917年にリトグラファーであったポール・コッホが、パートナーとともにアッシャースレーベンで出版社「Kabe」を設立したことが起源となる。当初は スプリング・バインダーの生産からスタート。1948年にハンブルクに拠点を移動し、現在では50カ国以上にわたり商品を展開している。

ロイヒトトゥルム1917

1917 METALLIC EDITION NOTIZBÜCHER (写真左)
ブランド名の一部「1917」を大きくあしらった高級感のあるノートブック。カラーは、ゴールド・シルバー・ブロンズがある。仕様やサイズのバリエーションも多数。

Notizbücher / Kalender 2019 (写真右)
使いやすさを追求するためノートにはページがふられていたり、整理しやすくするために目次が付けられている。カラーバリエーションとサイズが豊富。

クラシックとモダンが同居
DIPLOMAT ディプロマット

ボンの近くに位置する小さな町、ヘンネフで誕生。1958年にドイツ市場で初めてカートリッジの万年筆を導入したメーカーとして名が広まり、一流ブランドへと成長した。機能性だけでなく、クラシックとモダンが同居したエレガントなスタイルも人気の理由の一つ。

DIPLOMAT ディプロマット

「EXCELLENCE A」シリーズ(写真左)
ディプロマットの代表的なモデル。回して開けるタイプのねじ式キャップが特徴のシリーズ。

「AERO」シリーズ(写真右)
ツェッペリン号のフォルムを意識してデザインされた「アエロ」シリーズ。なめらかなフォルムで書き心地の良さが特徴。

ベルリンの日本文房具店「sowale」に聞くドイツ文房具の魅力

最終更新 Montag, 24 September 2018 10:22
 

ベルリンの日本文房具店「ソワレ sowale」に聞くドイツ文房具の魅力

一生使いたい名品揃い!
ドイツ生まれの文房具

高品質かつ高機能な製品を生み出し続けている日本とドイツ。両国の文房具もまた、長い歴史と経験に裏打ちされた技術力と洗練されたデザインを誇る名品が数多く揃う。今回は最先端からクラシックなスタイルまで、一生付き合いたい「メイド・イン・ジャーマニー」の文房具の魅力に迫る。(Text:編集部)

ベルリンの日本文房具店「sowale」に聞く
ドイツ文房具の魅力
美しさの秘密はシンプルさと機能性

日本文房具店「sowale」

ベルリンの人気地区・プレンツラウアーベルクで文房具店「sowale」を営むのは、只松靖浩さん・友美さんご夫婦。ドイツ文房具に魅せられて、ベルリンにお店を構え、日本の文房具やオリジナル商品を販売している。そんな日独両方の文房具を愛するsowaleのお二人から、ドイツ文房具の魅力を聞いた。(写真提供:sowale)

ドイツと日本の文房具は、ちょっと似ている?

sowaleの只松夫妻にドイツ文房具に魅せられた理由を尋ねると、デザイン、機能性、シンプル……という言葉が返ってきた。

「ドイツの文房具は、バウハウスのプロダクトにも通ずるような美しさと機能を兼ね備えたものが多いと感じます。華美ではないけれど、たたずまいが美しいですよね」と妻の友美さん。夫の靖浩さんも「飾り気のない素材としての文房具は、日本ではほとんど見られません。その素朴さが個人的にとても気に入っています」と話す。

一般的にドイツも日本も「文房具大国」と言われている。両国には共通点もあるが、それぞれ違った良さがある、と友美さんは続ける。「それぞれ長い歴史があり、質の高い製品が造られてきたというのが共通点。ドイツでは新しいものを造るのではなく、良いものが長く愛されている印象です」。

一方、次々と新しく誕生する日本の製品について、靖浩さんは「ドイツよりもユーザーのニーズに対して柔軟に対応しているように思います。かゆいところに手が届くような商品は、海外でも賞賛されていますね」と教えてくれた。sowaleを訪れるお客さんも日本の文房具の質の高さに驚くことが多く、特に筆記具は人気商品だという。

ベルリンでオリジナル商品をつくるおもしろさ

お二人は文房具を販売する一方で、文房具の作り手でもある。オリジナル商品を作るときは、作った側の気配をあまり感じさせず、使い手が主人公となるようなシンプルさを心掛けていると言う。そのシンプルさは、まさにドイツ文房具から学んだことの一つ。

お店にはベルリン在住の日本人アーティストも多く出入りしており、一つひとつの出会いを大切にしている、と靖浩さん。「まず作品を見せてもらい、何か一緒にできないかと考えるところから、コラボレーションが始まります」。友美さんも「喜びも失敗もありますが、お互い楽しんでいますね。自分たちの想像を超えた美しいものを作れることが、コラボレーションのいいところ」とうなずく。

古き良き文化を守りながらも、常にどこかで新しいものが生まれ続けるベルリンという街は、きっとお二人の活躍の支えとなっているはず。2018年7月に移転2周年を迎えたsowaleで、これからまたどんな商品が誕生するのか、ますます見逃せない。

愛用のドイツ文房具

KUNST&PAPIER のスケッチブック 友美さんのお気に入り
KUNST&PAPIER のスケッチブック

「硬いグレーのボール紙に、色のついた製本テープが巻かれたシンプルなつくりのスケッチブックです。大小いくつかのサイズがあり、しっかりと開くので気持ち良く書くことができます。角が傷みにくいという実用性も兼ね備えています。棚に収納した様子も美しく、お部屋の中にそっとなじんでくれます」(友美さん)

ペリカン社の万年筆 靖浩さんのお気に入り
ペリカン社の万年筆

「10年以上愛用していて、旅先でも持ち歩くお守りのようなもの。800というタイプで、持ちやすい太さです。ペン先はいろいろと試してミディアムを選びました。書き心地が良く、思わず何かを書きたくなる気持ちにさせてくれるのが魅力。文字が太くなったり細くなったり、滲みや掠れがあるのも万年筆の持ち味ですね」(靖浩さん)

sowale のおすすめ商品

Kalender 2019 „Neben den Blumen
12カ月の花と言葉をお部屋に
Kalender 2019 „Neben den Blumen“
カレンダー 15€(A5サイズ / 封筒付き)

ベルリンで出会ったテキスタイルデザイナー・藤井千晶さんとsowaleがコラボレーションして作ったカレンダー。2019年は花がテーマになっている。藤井さんが描いたイラストに、sowaleが日本語とドイツ語で短い言葉を添えている。「クリスマスプレゼントにもおすすめです」と友美さん。

ポストカード 1枚 1.5€
優しい日本の風景をおすそ分け
postcard „silent square“
ポストカード 1枚 1.5€

ポラロイドカメラで切り取った、福岡での日常の一コマを載せた12種類のポストカード。ヴァンヌーボという良質な紙に、色味を忠実に再現して印刷した。そのクオリティの高さから現地のお客さんにも人気。「一番人気は海の風景。ベルリンは海から遠いので、海を恋しく思う人が多いのでは」と靖浩さん。

*いずれも店舗のみの取扱い

お店情報

sowale ソワレ 2009年に福岡で週末限定の文房具屋としてオープンし、2016年にベルリンへ移転。日本製品のほか、アーティストたちとコラボした商品を取扱う。不定期にギャラリー展示やイベントなども開催。

Stargarder Str.16, 10437 Berlin
月~金10:00-19:00、土 10:00-18:00 / 日曜定休
http://sowale.net

ドイツ生まれの文房具

最終更新 Donnerstag, 13 Juni 2019 14:00
 

核廃絶を訴える平田道正さんインタビュー

ドイツで伝える広島のあの日 今、ヒバクシャたちが
世界に望むこと

2018年8月、広島と長崎に原爆が投下されてから73年を迎えた。存命するヒバクシャの平均年齢は82歳を超え、その体験を直に聞く機会はますます減っている。そんななか、ヒバクシャの声を届けようと日本からはるばるドイツまでやってきたのは、平田道正さん。広島での被爆体験に加えて、自身が伝えたいこととは?ドイツ滞在中の平田さんからお話を伺った。(Text:編集部)

灯篭流し

平田道正さん

平田道正さん (ひらたみちまさ) 1935年広島市生まれ。広島で被爆した後、父親の転勤で東京へ移る。大学卒業後、アメリカへ留学する。
企業勤めの頃から、核廃絶運動に携わってきた。

あの日、広島は地上の地獄だった

1945年8月6日、当時9歳だった平田さんは爆心地から2kmほどの広島市内の自宅にいた。「突然青白い閃光が走り、父親が私を庭の防空壕に押し込みました。そして、父が入ろうとした瞬間、爆風がやってきたのです。4~5分して防空壕から出ると、自宅の屋根は吹っ飛び、かろうじて家の形が残っている状態で、木製の塀や空き地の草がちょろちょろ燃え始めていました。

しばらくすると、火の海となった中心地からボロボロの衣服を来た人たちがぞろぞろと歩いてきました。頭の毛は逆立ち、熱線で皮膚が垂れ下がった腕を前に突き出していました。外見からは男なのか女なのかもわからず、いわば『地上の地獄』でした」

その後、父親と一緒に火を避けながら、母親と妹の疎開先に向かったという。平田さんは火傷などの外傷は免れたものの、放射能の影響で今もなお白血球の数が通常の半分以下だ。肺炎などの感染症にかかりやすいが、幸いこれまでガンなどにはかかっていない。

ヒバクシャであることを忘れたくて

ヒバクシャとして自身の体験を語り出したのは、定年間近になってからだという平田さん。それまでは、あの日のことを思い出したくなかったと話す。

「ヒバクシャというだけで差別があり、被爆したことを隠していた人もたくさんいましたし、もう広島や長崎にはいたくないと言って東京に移り住んだ人も少なくありません。私自身も、忘れるために仕事に打ち込みました」

しかし、ある出来事をきっかけに、ヒバクシャとしての役目を意識するようになったと続ける。「1995年、アメリカのスミソニアン博物館で開催される予定だった原爆展が、政治的な理由で急遽中止になった時のことです。テレビを見ていたら、それに反対する現地のデモが報道され、そこに知っている顔が映っていました。なんと、会社の先輩でした。後日、彼に尋ねると、わざわざ年休を取ってデモに参加したことを話してくれ、そこで初めて、彼もヒバクシャだと知ったのです」

ヒバクシャとして自分も何かしなければ……。定年退職前だった平田さんは、平日の夜や週末をヒバクシャの活動に充てるようになった。退職後はアメリカやニュージーランドでの講演のほか、世界中を旅するピースボートに乗船し、自身の体験を語ったこともある。「毎回海外に出ると、意識を持った若い世代と知り合うことも多く、とても心強い」と笑顔を見せた。

一刻も早く、核禁止条約の批准を

今年で83歳になる平田さん。ここまで熱心に活動に打ち込むのには理由がある。

「核保有国は、アメリカやロシアなどの9カ国。その保有数は約1万5000発で、もしいずれかの国がミサイルを発射したら、ものの数分で報復のミサイルが発射されます。ですから、『一触即発』の状況であることを、多くの方に知っていただきたいのです。

2017年7月に国連で『核禁止条約』が採択されました。しかし、実際に批准した国はわずか14カ国。条約発効には50カ国の署名が必要ですが、核保有国は会議にすら参加していません。信じられないことに、原爆を投下された日本も政治的な理由で参加していないのです。私たちヒバクシャの願いは、早急に条約を発効すること。そのために、国際署名※を集め、より多くの声を国連に届けたいと思っています。

また、原子力発電も原爆と根っこの部分は同じ。チェルノブイリや福島から分かるように、いったん事故が起こると被害は甚大です。人間は原子力を完全にコントロールできないと思います。ですから、私は核兵器と同じように原発にも反対します」

今年8月6日にケルンのヒロシマナガサキ公園で開かれた祈念集会をはじめ、ケルンとデュッセルドルフで計4回の講演をした平田さん。自分の話を次の世代に伝えてほしい、と繰り返し強調した。「私たちヒバクシャが生きている間に、核のない世界を見ることはできないでしょう。ですから、お子さんやお孫さん、周りの友人に今が危険な状態であることをどうぞ伝えてください。ご一緒に、戦争のない平和な世界を実現していこうではありませんか」

2018年3月末時点で、認定被爆者は15万4859人になった。戦争を知らない世代として、核兵器のない世界をつくるというヒバクシャの願いを強く受け止めたい。

※ヒバクシャ国際署名:http://hibakusha-appeal.net

祈念集会8月6日にケルンのヒロシマナガサキ公園の祈念集会で登壇した平田道正さん。集会には50〜60人が参加した

笙奏者の清水美郎さん笙奏者の清水美郎さん(ケルン天理文化工房主宰)の演奏を聴きながら、祈念碑の前で参加者1人ずつが黙とうを捧げた

Aachener Weiher日本語の歌「原爆を許すまじ」などが演奏され、集会の最後は公園内の池「Aachener Weiher」での灯篭流し(上写真)で締めくくられた

最終更新 Mittwoch, 12 September 2018 13:18
 

子どもから大人まで楽しめるドイツ児童文学

リアルだけど、ロマンチック!? 子どもから大人まで楽しめる
ドイツ児童文学

ドイツ文学といえば、ゲーテやシラーなどの文豪が思い浮かびますが、「自分には難しいかも……」と本を開くのをためらってしまう人が多いかもしれません。でも、ドイツにはグリム童話をはじめとした子ども向けの文学も数多く残されています。今回は、そんなドイツ児童文学の魅力を、ドイツ文学者で作家の天沼春樹さんにお聞きするとともに、おすすめの本を世代別に教えていただきました。

お話を聞いた人

ドイツ弁護士 亘理興さん 天沼春樹さん
Haruki Amanuma
埼玉県川越市生まれ。ドイツ文学者・作家・翻訳家。中央大学にて博士課程修了。日本児童文芸家協会元理事長。日本グリム協会副会長。日本ツェッペリン協会会長を務める。翻訳書に『グリム童話全集 子どもと家庭のむかし話』『アンデルセン童話全集Ⅰ~Ⅲ』(ともに西村書店)など多数。

ドイツ児童文学の魅力とは?

夢も見るけど現実も見る……
それがドイツ児童文学

「ドイツ児童文学には、大きく分けて二つの分野があります。一つは、子どもたちの豊かな夢や冒険を伝える、いわゆるロマン派❶的な作品。その代表として、ミヒャエル・エンデ❷やオトフリート・プロイスラー(P12)などのロマン派の流れをくむような優れたファンタジー作家がいます。

もう一つは、現代の子どもたちが直面しているシリアスな問題に切り込んだ作品。そういった作品からは、ナチ時代の負の歴史や現代における人種差別、今日で言えば難民問題などからも決して目をそらさないという姿勢が感じられますね。現実を深く捉えたノンフィクション的な作品に取り組むという、積極的な精神に富んだ作家たちも尊敬に値すると思っています」(天沼さん)

ドイツ文学にハマり
人生にもロマンを求めて

「私はというと、16歳の頃には、完璧な『独浪漫派文学少年』になっていました。団塊の世代に続く世代としては、ちょっと変わった趣味趣向です。ノヴァーリス❸ヨーゼフ・フォン・アイヒェンドルフ❹、E.T.A. ホフマン❺などの翻訳作品を読み漁り、大学でもドイツ文学を専攻すると決めていました。将来の仕事も大学教師になって小説を書いたり、翻訳をやるんだと勝手に決め込んでいて、本当にその通りに進んできました。しかし、ドイツ語教師の間でも趣味趣向が全く違っていたので、浮いた存在だったと思います。

というのも、文学と同じように、ドイツのツェッペリンを中心とする『飛行船の文化史』という『ロマン』にとりつかれたのです。調査のためにツェッペリンの本場である南ドイツ・ボーデン湖に出かけ、ツェッペリン伯爵のお孫さんと親しくなったり、日本にハイテク飛行船のツェッペリンNTを飛ばすための役員に選ばれるなど、ドイツ文学者がやらなさそうなことにまで、首を突っ込んでいました。つまり、空想のなかだけのロマン主義に留まらず、結果的に現実にもロマンを求めるようになったということです」(天沼さん)

ツェッペリン飛行船ツェッペリン飛行船

用語解説

❶ ロマン派 ロマン主義。18世紀末~19世紀にかけて欧州で興った芸術上の理念や運動のことを指す。古典主義や合理主義に反抗し、感情や個性の尊重、自然との一体感、神秘的な体験などを表現した。

❷ ミヒャエル・エンデ Michael Ende(1929~1995) 南ドイツのガルミッシュ生まれ。演劇を学んだのち、ミュンヘンの劇場で舞台監督を務め、映画評論などの執筆も。著者に『モモ』『はてしない物語』(ともに岩波書店)など多数。

❸ ノヴァーリス Novalis(1772~1801) ドイツ・ロマン派詩人。天沼さんのおすすめは『青い花』(岩波書店)。青年ハインリヒの夢に現れた青い花をめぐる旅の物語。

❹ ヨーゼフ・フォン・アイヒェンドルフ Joseph von Eichendorff(1788~1857) ドイツ後期ロマン派詩人。代表作は『予感と現在』。『のらくら者日記』(集英社刊『集英社ギャラリー「世界の文学」10 ドイツⅠ』に収録)は、ちょっと大人になってから読むのがおすすめ、と天沼さん。

❺ E.T.A. ホフマン E.T.A.Hoffmann (1776~1822) ドイツ後期ロマン派作家。代表作は、チャイコフスキーのバレエの原作として有名な『クルミわりとネズミの王さま』(岩波書店)。

幼児~小学低学年向け

小さなお子さん向けに、二つの作品をご紹介します。どちらの著者も、ドイツの書店の絵本コーナーで人気の現役ドイツ人作家です。ドイツ語版でもぜひお試しあれ。

きみがしらないひみつの三人 作・絵:ヘルメ・ハイネ
訳:天沼春樹
発行元:徳間書店

人生で大切な三つのことって?
『きみがしらないひみつの三人』

あらすじ
「きみ」が生まれた日にやってきた3人の友だち。その3人は、「きみ」の体の中で働き始め、ずっと「きみ」についていく……。人の一生の頭と心と体の不思議な働きを、詩的に描いた作品。

天沼さんより一言
2004年とずいぶん以前の出版にもかかわらず、11刷となったロングセラー絵本です。人間が生きるための三つの大事なことを分かりやすく語っています。

ヘルメ・ハイネ Helme Heine
1941年ベルリン生まれ。ボローニャ国際児童図書展グラフィック賞などを受賞。ドイツで人気のある絵本作家の1人。翻訳されている絵本に『ぞうのさんすう』(あすなろ書房)、『ともだち』(ほるぷ出版)など。

空とぶペーター 作・絵:フィリップ・ヴェヒター
訳:天沼春樹
発行元:徳間書店

空を飛ぶのはすごいことだけれど……
『空とぶペーター』

あらすじ
空を飛べる男の子・ぺーターは、家族で南の島へ旅行に行くことになった。パパとママは飛行機だけど、ペーターは一人空を飛んで向かうことに。ところが、途中で渡り鳥に会って……。

天沼さんより一言
ペーターくんができるのは、ただ一つ、空を飛ぶこと。それだけでもすごいのですが、本当はもっとすごいところを見つけてほしい、というのがこの絵本の心ではないでしょうか?

フィリップ・ヴェヒター Philip Waechter
1968年フランクフルト生まれ。翻訳されている絵本に、ボローニャ国際絵本原画展入賞作『ロージーのモンスターたいじ』(ひさかたチャイルド)、『ひとりぼっち?』(徳間書店)ほか。

小学校中高年向け

小学校中高年におすすめの2冊は、ドイツ児童文学を代表するロングセラー作品。20世紀に活躍した作家だけれど、ロマン主義の影響が色濃く残っています。

飛ぶ教室 作:エーリヒ・ケストナー
訳:池田香代子
発行元:岩波書店

仲間ってこうでなくっちゃ!
『飛ぶ教室』

あらすじ
寄宿学校のクリスマス集会に向け、オリジナル劇「飛ぶ教室」を準備する5人の仲間。貧しい家庭に生まれた秀才マルティン、親と生き別れた詩人ジョニー、喧嘩に強いボクサー志望のマッツ、いつも冷静なゼバスティアーン、誰よりも臆病なウーリ。喧嘩に巻き込まれたり、仲間が悩み事を抱えていたり……クリスマス前に起こるさまざまなハプニングを、5人はどう乗り越えるのか?

天沼さんより一言
ナチスが政権をとった1933年にケストナーが発表した児童文学で、30カ国以上の国の言葉に翻訳されている名作です。ギムナジウムの寄宿舎の生徒たちが知恵と勇気をもって、日常に起こる問題を自由の精神から解決してく物語。本作をもとにした2003年のドイツ映画『飛ぶ教室』もおすすめです。

エーリヒ・ケストナー Erich Kästner
1899年ドレスデン生まれ。師範学校に進むが、大学卒業後、新聞社に勤める。『エーミールと探偵たち』(岩波書店)で成功するも、やがてナチスにより圧迫を受ける。1960年、国際アンデルセン大賞を受賞した。1974年没。

クラバート 作:オトフリート・プロイスラー
訳:中村浩三
発行元:偕成社

伝説をもとにしたファンタジー
『クラバート』

あらすじ
ある日、不思議な声に導かれ荒れ地の水車場を訪ねた、孤児の少年クラバート。この水車場の親方から、魔法を習うことになる。しかし、親方には恐ろしい秘密があって……。ドイツの一地方に伝わる伝説をもとにした壮大な物語。

天沼さんより一言
プロイスラーといえば、〈大どろぼうホッツェンプロッツ〉シリーズが人気ですが、小学校高学年には『クラバート』がおすすめ。ドイツのハリー・ポッターともいえる映画『クラバート闇の魔法学校』の原作にもなっています。プロイスラーは本作を書くにあたり、ドイツの水車小屋の歴史とその仕事について詳細に調査した上で物語にしたと語っています。現実の裏付けがあってこそ、ファンタジーも生き生きするという貴重な教えでした。

オトフリート・プロイスラー Otfried Preußler
1923年ボヘミア(現在のチェコ北西部)生まれ。第二次世界大戦後にドイツ南部に移り、小学校教師・校長を務める。1970年代より執筆に専念し、その全業績に対し国際アンデルセン賞作家賞推薦を受ける。2013年没。

中高生&大人向け

ティーンエイジャーはもちろんのこと、大人も夢中になって読んでしまうこと請け合いの2作品。秋の夜長にゆっくりと時間をかけて読んでみて。

列車はこの闇をぬけて 作:ディルク・ラインハルト
訳:天沼春樹
発行元:徳間書店

ドイツにおける難民問題に重ねて
『列車はこの闇をぬけて』

あらすじ
舞台は南米・グアテマラ。少年ミゲルは、米国に出稼ぎに行ったきり帰ってこない母親を探しに行くため、国境を越えてメキシコ縦断の旅を決意する。しかし、パスポートを持たない難民たちの旅は、想像を絶するほど危険なものであった。ミゲルは仲間とともに無事に米国にたどり着けるのか?著者の現地取材をもとに詳細に描かれる現代児童文学。

天沼さんより一言
難民が国境を越えてくるという現実は、日本では馴染みがないことですが、やがて日本も多民族を受け入れなくてはならないかもしれません。難民危機でいち早く国境を開いたドイツにとって、物語の舞台が中南米であっても切実なテーマです。国境の「壁」とは心の「壁」でもあると分かるはず。

ディルク・ラインハルト Dirk Reinhardt
1963年ベルクノイシュタット生まれ。ミュンスター大学で歴史学の博士号を取得し、研究員を経て、フリージャーナリストなどの傍ら、作家として活躍中。本作はドイツ最古の児童文学賞フリードリヒ・ゲルシュテッカー賞を受賞した。

ドラゴンゲート 作:ジェニー=マイ・ニュエン
訳:天沼春樹
発行元:柏書房

注目の新世代ファンタジー作品
『ドラゴンゲート』

あらすじ
その昔、ドラゴンはあらゆる種族から神のように尊敬されていた。しかし、いつしか人間がすべてを支配するようになり、エルフ族以外は滅び、ドラゴンは戦争の道具と化した。人間の強国ハラドーンとミルドハンの戦いが激しさを増すなか、エルフ族の王がある予言を告げる。予言によれば、世界を変える子どもたちが生まれるという。選ばれし人間の少年2人と、2人の王女の運命が交錯する純愛ファンタジー。

天沼さんより一言
16歳の時に執筆した長編ファンタジー『ニジューラ』でデビューしたジェニー=マイ・ニュエン。本作は彼女の2作目で、上下巻合わせて1000ページにわたる長編です。今後の活躍がますます期待できる若手作家ですね。

ジェニー=マイ・ニュエン Jenny-Mai Nguyen
1988年ミュンヘン生まれ。ベトナム系ドイツ人。13歳から小説を書き始めた。ニューヨークで映画製作を学んだのち、ベルリンに住み始める。18歳で執筆した本作は、10カ国語以上に翻訳された。 www.jennymainuyen.de

くらやみざか 闇の絵巻 作:天沼春樹
発行元:西村書店

東京が舞台の「ロマン派」作品……?
『くらやみざか 闇の絵巻』

東京のはずれに住む「わたし」の身に起こることは、夢なのか現実なのか、いつも曖昧である。目の前を横切 るゾウ、カラスの通夜を執 り行う女、「わたし」に救い を求める巫女……主人公とともに闇に迷い込んでいく幻想譚。

「少年時代に傾倒したドイツ・ロマン派は、観念的に理想郷に憧れる傾向が強かったように思います。作品としては惹かれるけれど、自分がそれをまねて耽美的になってしまっては、単なる『オタク』なんだろうと思い、20 代からはリアリズムも嫌わずにむしろ積極的に関わろうとしまし た。でも、生来のロマン派の尻尾はどこかにぶら下がっているようです。自分が書く小説は、どちらかと言うと幻想文学と言って良いほど、現 実と幻想の境が曖昧なものが多いですね。つまり、現実と幻想が地続き で語られているような……。近著の『くらやみざか』はそんな作風ですね」(天沼さん)

文学こぼれ話

ドイツ人が好きなグリム童話のお話は?

イラスト「私のお気に入りのお話でもあるのですが、『幸せハンス』(作品番号:KHM83)はドイツ人のなかでも人気だと聞きます。7年奉公した親方からせっかくもらった金の塊を、家に帰る間にどんどんつまらないものに交換していって、最終的に手に入れた石ころさえも井戸に落としてしまいます。それでも、大好きなお母さんのもとに帰り、再会を喜んだというお話です。ハンスは一見まぬけでお人好しみたいですが、本当に大事なものがなんなのかを教えてくれます。そういえば、ドイツの児童文学賞に『幸せハンス賞(Der Hans-im-Glück- Preis)』というのがありますね。このお話がドイツで愛される理由は、お金や宝よりも、家族に会えることが一番の幸せということなんだと思います」(天沼さん)

翻訳家の「愛」と「苦悩」

「例えば、ケストナーの『飛ぶ教室』はいくつかの出版社から刊行されていますね。岩波少年文庫の池田香代子さんの訳は、いかにも切れ味の良い個性的訳者の文体。偕成社文庫の若松宣子さん版は、あまり飛躍していない原文に忠実な丁寧な訳、というふうにそれぞれ持ち味があります。読み手の好みによって印象は違うと思うのですが、翻訳者は苦心しながら仕事をしているので、良し悪しはつけられるものではないと思います。児童文学だからと言って、決して翻訳が簡単なわけではありません。読者が子どもなだけに、分かりやすく意訳したり、いろいろと工夫をしています。翻訳は、本への愛情があって初めてできる仕事だと感じています」(天沼さん)

最終更新 Dienstag, 11 September 2018 13:35
 

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