特集


マルセイユに行ってみよう - フランス第2の都市で太陽を満喫!

マルセイユに行ってみよう - フランス第2の都市で太陽を満喫!

マルセイユに行ってみよう - フランス第2の都市で太陽を満喫!

日照時間が延び、
遠出するのに最適な季節がやって来ました。
「燦々と照り付ける太陽の光を浴びに、
ドイツから国外へ羽を伸ばしたい!」
という方にお勧めなのが、
南仏らしい穏やかさと港町の活気を併せ持つ
フランス第2の都市マルセイユ。
日光の力でエネルギーをチャージしたら、
この街が誇る文学、建築、
そして食の世界を堪能しよう!
(取材・文:フランスニュースダイジェスト Kei Okishima)

ドイツからの行き方

OUIGO飛行機であれば、ベルリンからマルセイユ・プロヴァンス空港へ直行便で行くことができる。所要時間は約2時間。デュッセルドルフやフランクフルト、シュトゥットガルトなど、その他の主要空港からはアムステルダムやパリ、ジュネーブなどを経由することになる。

マルセイユ・プロヴァンス空港から市内のマルセイユ・サン・シャルル(Marseille-Saint-Charles)駅までは、シャトルバスで約30分。パリ旅行と併せてマルセイユも訪れたいという場合には、フランス国鉄(SNCF)が昨年、営業を開始した格安列車ウイゴー(OIGO) を利用するという手もある。パリとリヨン、ヴァランス、アヴィニョン、エクス・アン・プロヴァンス、マルセイユ、ニーム、モンペリ エを結んでおり、チケット料金は最安値のもので片道10ユーロから販売されている。パリからの所要時間は3時間強。パリの出発駅はRER線のマルヌ・シェシー(Marne-la-Vallée-Chessy)駅となるのでご注意を。

OUIGO公式ホームページ www.ouigo.com

港町を見守ってきた800年の歴史
旅の始まりはノートルダム・ド・ラ・ガルドから

ノートルダム・ド・ラ・ガルド

ボンヌ・メール19世紀まで、貿易の中心地として栄えたマルセイユ。旧港の南の丘、147.85メートルの高台に、ノートルダム・ド・ラ・ガルド寺院(Notre-Dame de la Garde)はそびえる。現在の寺院は19世紀に建築家エスペランデュによって建てられたものだが、歴史をたどれば基となった寺院は、1214年に丘の上に建てられていた。今年、誕生から800年を迎える。寺院の上には黄金に輝く9.72メートル、重さ約1トンの聖母マリア像が町を見下ろすように立っている。この黄金に輝く聖母マリアは「ボンヌ・メール(良き母)」と呼ばれ、これまで漁を、町を、そして住民を見守ってきた。内部のモザイク装飾は圧巻。内部には天井からいくつもの船がつり下げられていたり、海にまつわる絵画などが飾られていたりと、漁や平癒に対する感謝の気持ちから納められた奉納品が飾られている。ここから見るマルセイユは絶景。市内から徒歩で来るには、かなりの坂道を登ることになるので、バスが便利。

Basilique Notre-Dame de la Garde

Rue Fort du Sanctuaire 13281 Marseille
Tel: +33 (0)4 91 13 40 80
開館時間:4月~9月 7:00-19:15、10月~3月 7:00-18:15(9:00以降が望ましい)
アクセス:旧港(Vieux-Port)からバス 60番で、
ノートルダム・ド・ラ・ガルドのパーキングまで
www.rtm.fr

小説の舞台で一休み
モンテ・クリスト伯の舞台、イフ島へ

イフ島

1529年、フランソワ1世が町を守るための要塞として建設したイフ島の城シャトー・ディフ。その後、逃亡不可能な建築スタイルと立地から、監獄として使用されるようになった。フランス革命のリーダーとなったミラボーもここに監禁され、「専制政治論」を完成させた場所として知られている。また、作家アレクサンドル・デュマは、フランスの新聞「ジュルナル・デ・デバ」に連載した「モンテ・クリスト伯(巌窟王)」の小説の舞台にシャトー・ディフを選んだ。主人公、エドモン・ダンテスは無実の罪でシャトー・ディフに投獄され、14年間をこのイフ島で過ごしたという設定だ。シャトー・ディフの窓からは、マルセイユの高台にそびえるノートルダム・ド・ラ・ガルドが見える。

シャトー・ディフChâteau d'If

Embarcadère Frioul If
1, Quai de la Fraternité, 13001 Marseille
4月1日~5月15日 9:30-16:45、
5月16日~9月16日 9:30-18:10、
9月17日~3月31日 9:30-16:45(月休)

アクセス

マルセイユ市内からイフ島までは旧港からフェリーで約20分

イフ島行きのフェリー

Frioul If Express
Tel: +33 (0)4 96 11 03 50
www.frioul-if-express.com

ル・コルビュジエの集合住宅
ユニテ・ダビタシオンを体感

ル・コルビュジエ20世紀最大の建築家と言われるル・コルビュジエが建てた巨大な集合住宅「ユニテ・ダビタシオン」。中でも一番初めに建てられたマルセイユのユニテ・ダビタシオンは、今日でも世界中の人を魅了している。

この集合住宅は第2次世界大戦後復興期の1947~52年、理想的な生活のスタイルを実現するために造られた。137メートル×56メートル×24メートル、18階建てという巨大な建物の中には23種類の異なる部屋のタイプがあり、1600人が生活することができる。この集合住宅は1つの玄関ホールから出入りするようになっており、建物全体が1つの小さな町のようなコンセプトで造られている。1階部分はピロティーになっていて、この巨大な建物を柱がしっかりと支えている姿は圧巻。ピロティーのおかげで自転車を置いたり、自由に通り抜けることができたりと、ゆったりとしたスペースが確保されている。多くの部屋がメゾネット形式になっているため、エレベーターは3階、6階のように数階ごとに停止するのも 特徴の1つ。中間階には共同のスペースや店舗があり、屋上にはプールや運動ができる場所などが設置されている。屋上ではマルセイユの空、海、山、そして太陽を満喫できる。

コルビュジエの建築内で宿泊

ユニテ・ダビタシオンの見学は、個人で見る分には無料で、売店などがあるエリアや屋上を見学することができる。しかし、この世界にゆっくりと浸りたい建築ファンやコルビュジエファンにお勧めなのが、同集合住宅内にあるホテルだ。部屋は16平方メートルまたは32 平方メートルがあり、1~ 4人まで宿泊可能。 世界中のファンが予約する人気ホテルなので、旅が決まったら早めに予約を取ろう。

ユニテ・ダビタシオン内にはミシュラン・ガイドにも紹介されているレストラン「Le Ventre de l'Architecte」がある。宿泊が難しい人は、こちらでゆっくりと食事を堪能してみては?

Unité d'Habitation

280, Boulevard Michelet 13008 Marseille

個人での見学(共有部分のみ可能)

毎日9:00-18:00

ガイド付き見学

火~土 14:30~、16:30~(各1h30、要予約)
www.marseille-tourisme.com
(Visites-GuidéesからLe Corbusier en exclusivitéを選択)

ホテル

Hôtel Le Corbusier
Tel: +33 (0)4 91 16 78 00
www.gerardin-corbusier.com

レストラン

Le Ventre de l'Architecte
Tel: +33 (0)4 91 16 78 23
www.leventredelarchitecte.com

アクセス

マルセイユ駅から地下鉄2番線(Dromel方面)
ロン・ポワン・ドゥ・プラド(Rond Point du Prado)駅下車。
その後21番、21S番、22番、22S番のいずれかのバスで
ル・コルビュジエ(Le Corbusier)駅下車。

肌が喜ぶ植物オイル
職人が作るマルセイユせっけん工場を見学

マルセイユせっけんマルセイユのせっけんは、植物性のオイルと苛性ソーダを混ぜたもの。ルイ14世の時 代の1688年10月5日、財務総監を務めていたジャン=バティスト・コルベールにより、原料の油脂はオリーブ・オイルにすることなど、マルセイユのせっけん作りの製法が定められた。現在でも伝統的な方法で作られているマルセイユせっけんは、72%の植物オイルを含んでおり、かま炊きけん化法で植物オイルとソーダを煮詰め、その後、塩水で不純 物を取り除くなど、約80時間の行程を経て生み出されている。

マルセイユせっけんを代表する「植物油脂72%」と刻印された600gのせっけんは、お土産にぴったり。ほかにも、南仏で特に有名なスポーツ、ペタンクの形をしたせっけんや、パスティス(後述)の香りがするせっけんなどもお勧めだ。また、特別注文で、結婚式の引き出物用に名前が刻印されたせっけんを注文する人や、生まれた赤ちゃんと同じ重さのせっけんを記念に作ってほしいという依頼を受けることもあるのだそう。面白いアイデアがあれば、ぜひ事前に問い合わせをしてみよう。

せっけん作り
左)圧延機に掛け、せっけん素地を均一にしている 右)最後に丸いせっけんの形にプレスする

せっけん作りを見学できるお店

Savonnerie Marseillaise de la Licorne  
34 Cours Julien 13006 Marseille
Tel: +33 (0)4 96 12 00 91
www.savon-de-marseille-licorne.com

せっけん作り見学

11時、15時、16時(日祝以外)、無料

憲章で守られている伝統スープ
ブイヤベースに舌鼓

その昔、漁師たちが売れそうにない魚や売れ残った魚などをスープにして食べたことから始まったブイヤベース(La bouillabaisse)は、今やマルセイユの代表料理として知られている。伝統的なマルセイユの本格派ブイヤベースは1980年に制定 された「ブイヤベース憲章」で守られており、材料や調理法には決まりがある。魚は地中海の岩礁に生息するもので、ホウボウ、アンコウ、マトウダイ、カサゴ、足長ガニなどの中から4種類以上の魚を使わなければならず、エビ類や貝、タコ、イカなどは入れない。ベースとなるスープは決められた小魚でだしを取る。ほかに使用される材料は、塩、タマネギ、コショウ、パセリ、じゃがいも、ニンニク、オリーブ・ オイル、サフラン、フェンネル、オレンジの樹皮など。ルイユという特製のソースと、ニンニクの香りが付けられたクルトンと一緒に提供される。最初にスープのみを客に出し、その後に魚を別の皿に盛り、提供するというのが基本的なパターンだ。

市街では複数のレストランがブイヤベースを提供しているが、きちんと調理をしているレストランでは待ち時間も長いので、余裕を持って行こう。また、量もかなり多めなことをお忘れなく。

ブイヤベース

お薦めレストラン

小さな港の前にあり、マルセイユの雰囲気にゆっくりと浸りながら
静かに過ごすことができるレストラン。
Chez Fonfon
140, Vallon des Auffes 13007 Marseille
Tel: +33 (0)4 91 52 14 38
www.chez-fonfon.com

気になる伝統料理・菓子

ピエ・エ・パケPieds et paquets
ピエ・エ・パケ

羊の足と内臓をワインとトマトソースで煮込んだ伝統料理。

ナヴェットNavette
ナヴェット

舟の形をしたビスケット。2月の聖燭節には、クレープではなくナヴェットを食べる習慣も


ご当地ものにこだわって
マルセイユでアペリティフ

アペリティフの歴史をたどっていくと、古代ローマ時代から存在していたことが分かる。古代ローマ人は食欲を増進させるため、食事の前に少しアルコールを含む特別な効能を持った飲み物を飲む習慣があった。アペリティフという言葉の語源は、ラテン語の「aperire =開く」というもの。この伝統は世紀を越えて受け継がれ、19世紀には食前に飲むすべてのアルコール飲料のことを「アペリティフ」と呼ぶようになった。マルセイユでは、アペリティフはとても大切。カフェやバーで、また、友人を自宅に招いてゆったりとしたア ペリティフの時間を楽しんでいる。日が長くなるこれからのシーズン、テラスのあるカフェでゆっくりと楽しもう。

マルセイユ生まれのリキュール「パスティス」

パスティスマルセイユのアペリティフとして欠かせないのが、マルセイユ生まれのアルコール、パスティスだ。パスティスの前身ともいわれるのが、19世紀、フランスの芸術家たちを魅了したアルコール「アブサン」。強い陶酔感と興奮をもたらすアブサンは、ゴッホ、ゴーギャン、ピカソ、ロートレック、ランボー、ボードレールなど、フランスにいた多くの芸術家を魅了した魔のお酒と言われている。しかし20世紀に入りアブサンの製造が禁止され、その代わりにポール・リカールがアブサンの製法を改良して作ったのがパスティスだった。スターアニスやフェンネル、リコリスの香辛料が強いため、スーッとした後味が暑い気候のマルセイユに爽快感を与える。ちなみに「Pastis de Marseille(マルセイユのパスティス)」と表記するためには、アルコール度が45%以上で1リットル当たり、2g以上のアネトール(アニスの主成分)が含まれていなければならない。パスティスは水割りが一般的で、水を入れると白く濁るのが特徴。慣れてきたらカクテルにも挑戦しよう。有名どころでは、グレナデン・シロップ(sirop de grenadine)を加えたLa tomate、ミントのシロップ(sirop de menthe)を加えたLe perroquetなど。

La Cagole
マルセイユご当地ビール La Cagole

マルセイユにノスタルジックな思いを抱える幼なじみの友達2人が作ったビールメーカー。ビールの色はマルセイユの旧港(Vieux-Port)の水の色と同じだとか!初めはパニエ地区の小さなブラッセリーで作られたそうだが、今やマルセイユのご当地ビールとして浸透し、市街のブラッセリーやバー、スーパーで購入できる。
www.lacagole.com

Fada Cola
マルセイユ発の炭酸飲料 Fada Cola

お酒はちょっと、という人には、マルセイユ発の炭酸飲料水Fada Colaを。レモネードなどの炭酸飲料を展開している。La Cagoleビールも、Fada Colaも、パッケージのイラストがかわいいので、ちょっとした手土産にも喜ばれるかも。
www.fadacola.fr

最終更新 Donnerstag, 04 Juli 2019 11:53
 

ドイツ各地の民俗祭

地域の伝統を今に伝えるドイツ各地の民俗祭

伝統を後世に伝える大切な役割と、人々に日常を忘れさせ、
そのひとときを心から楽しめる娯楽性も兼ね備えた「祭り」。
それぞれの祭りにはその土地特有の慣習や歴史が
反映されていて、子どもたちにとっては、
地域で行われる民俗祭が1年のうちで
最大のイベントだったりもするだろう。
賑やかな音楽、華やかな衣装、
そこでしか食べられない料理……。
民俗祭は非日常へと誘ってくれるだけでなく、
ドイツ各地に伝わる風習に触れる良い機会ともなるはず。
(編集部: 山口 理恵)

ヘクセン・ナハト魔女の祭り ヴァルプルギスの夜
ヘクセン・ナハト
Walpurgisnacht

ブロッケン山・ハルツ
Brocken, Harz Sachsen-Anhalt

4月30日(水)

キリスト教が広まる以前、季節を2分して考えていたケルト人は、毎年5月1日に春を祝う祭りを行っていたが、その前夜には、魔女たちも夜な夜な集まって祝宴を上げていたという……。不思議な現象が起こると言われるハルツ山脈のブロッケン山は、17世紀中期以降、魔女が集まる場所として知られるようになり、現在も山頂の広場には、毎年この日に魔女や悪魔(に仮装した人)たちが押し寄せる!真夜中の山の中で、一夜限りのミステリアスな祭りを体験してみては?

www.harzinfo.de

マイスタートゥルンク 市長の武勇伝が祭りの由来
マイスタートゥルンク
Meister trunk

ローテンブルク
Rothenburg, Bayern

6月6日(金)~ 9日(月)

宗教戦争の真っただ中、ローテンブルクは新教軍に侵略され、窮地に立たされる。その際、敵の大将ティリーが出した提案が、「大量のワイン(3.25リットル)を一気に飲み干せる者がいれば、すべてを許してやろう」というもの。これを老市長ヌッシュが受けて立ち、見事にワインを飲み干して町を救ったという伝説にちなんだ祭り。パレード(8日)には大勢の観光客が訪れる。ティリー大将とヌッシュ老市長が登場する市議宴会館の仕掛け時計もお見逃しなく。

www.meistertrunk.de

ハノーファー射撃祭射撃クラブのパレードが圧巻
ハノーファー射撃祭
Schützenfest

ハノーファー
Hannover, Niedersachsen

7月4日(金)~13日(日)

約600年以上の伝統を持つ世界最大の射撃祭。当地に75ある射撃クラブのメンバーによるパレードは欧州でも最大級で、毎年150万人もの人々がこの祭りを訪れている。移動遊園地やディスコパーティーなども同時開催されるので、厳かな雰囲気の伝統的な祭りを祝うだけでなく、老若男女が楽しめる夏の一大祭りとなっている。名物はLüttje Lageというお酒。アルコール度数7~10%の地元の黒ビールと、32%の蒸留酒コルンを混ぜた伝統的な飲み物だ。

www.schuetzenfest-hannover.net

テンツェルフェスト主役は何と言っても子どもたち
テンツェルフェスト
Tänzelfest

カウフボイレン
Kaufbeuren, Bayern

7月10日(木)~21日(月)

1497年から続く、バイエルン州最古と言われる子ども祭り。毎年1000人以上の子どもたちが参加し、15世紀 の皇帝マクシミリアン1世の来訪を称える。当時の王様や貴族に扮した子どもたちの仮装パレードは壮観だ。子どものための祭典というだけあって、子ども向けプログラムが充実。ソーセージ作りや機織り、パン造りといった様々な職業を体験できる。付き添いの大人にはビールの試飲や、お風呂に浸かりながら1杯、なんていうユニークなプログラムも。

www.taenzelfest.de

カルテンブルク騎士祭1歩足を踏み入れれば、そこは中世の世界
カルテンブルク騎士祭
Kaltenberger Ritter turnier

カルテンベルク
Kaltenberg, Baden-Württemberg

7月11日(金)~27日(日)

カルテンベルク城で毎年開催される、中世を忠実に再現した祭り。中世風の屋台が80軒以上立ち並び、当時の衣 装を身にまとった人々が手工芸品や食べ物などを提供する姿を見れば、中世にタイムスリップしたような気分になるだろう。会場には中世音楽が鳴り響き、ダンサーや曲芸師、楽器の演奏者らが思い思いのパフォーマンスを披露する。ハイライトは、野外アリーナで開催される、騎士たちの臨場感溢れる決闘シーンや馬上演技。歴史的背景の解説なども行われる。

www.ritterturnier.de

キンダーツェッヒェ町を救った子どもの勇気を称える
キンダーツェッヒェ
Kinderzeche

ディンケルスビュール
Dinkelsbühl, Bayern

7月18日(金)~27日(日)

1632年春、三十年戦争でスウェーデン軍に包囲されたディンケルスビュールは降伏を迫られ、敵軍はいよいよ町を焼き払おうとする。そこで少女ローレが仲間を引き連れ、町を焼かないよう懇願すると、心を打たれた敵将は退散し、町は破壊から免れたという逸話が歴史に残る。この祭りは、このときの勇気ある子どもたちを称え、毎年開催されており、期間中、中世の面影を今に残す町の内外では、前述の史実を基にした劇や、ゴシックスタイルの衣装を着た人々のパレードが楽しめる。

www.kinderzeche.de

鉄ひげ博士が帰って来る!町医者の伝説を語り継ぐ
鉄ひげ博士が帰って来る!
Doc Eisenbarth is back in town!

フィーヒタッハ
Viechtach, Bayern

7月19日(土)~8月3日(日)

18世紀初頭に実在した伝説の名医ヨハン・アイゼンバルトは、「鉄ひげ博士」としてニーダーザクセン州のハン・ミュンデンという町で活躍し、生涯を閉じた。ヤブ医者だったとも言われるが、その理由は、変わった治療を施したからとか、腕の良さが妬まれて、同業者によってその名が付けられたという説もある。彼の生誕地である当地では、彼の功績を称え、毎年彼の 活躍ぶりをお芝居にした野外劇を開催し、期間中の上演は全8公演。
料金は大人17ユーロ、8~14歳は8ユーロ。

www.viechtacher-land.de

花の祭典町中が花で満たされる
花の祭典
Blumenkorso Bad Ems

バート・エムス
Bad Ems, Rheinland-Pfalz

8月29日(金)~9月1日(月)

米・パサディナ、フランス・ニースに次ぐ花祭りが、ドイツ有数の温泉地で開催される。地元の伯爵が市場を開いたのが始まりだが、現在は巨大なフラワーマーケットと移動遊園地が立つ一大イベントに発展。花のパレードは31日14:00〜。通りは歩行者天国となり、30台もの華やかな山車が続々とお披露目される。モチーフには『ハリー・ポッター』や『ヘンゼルとグレーテル』を題材にしたユニークなものも。使用される花はダリアだけでも150万本!観覧料は大人8ユーロ。

www.blumenkorso.de

中世スペクタクルショー中世の暮らしを芝居で再現
中世スペクタクルショー
Arnsberg Mitterlalteriches Spectaculum

アルンスベルク
Arnsberg, Nordrhein-Westfalen

9月6日(土)・7日(日)

アルンスベルク城跡で2年ごとに開催されているショー。中世に暮らした人々や兵士たちの日常を、史実に即した芝居仕立てで紹介する。城の廃墟を利用した舞台を騎士たちが馬に乗って走り回り、火の中を駆け抜けるシーンは、まさにスペクタクル。その他、中世音楽を演奏する女性バンドのコンサートが催され、夕方にはファイヤー・ショーが始まるなど、見どころ満載の2日間。会場内には、珍しい手工芸品店が並ぶスタンドや食べ物の屋台も併設されている。

www.arnsberg-info.de

アルムアプトリープ農業大国ならではの祭り
アルムアプトリープ
Almabtrieb

オーバーシュタウフェン
Oberstaufen, Bayern

9月12日(金)・19日(金)

アルプスに放牧した牛と牧人たちの帰還を祝う、アルゴイ地方の収牧祭。この両日、オーバーシュタウフェンでは、約100日間を牛とともに山で過ごした牧人たちがバイエルンの民族衣装を身にまとい、牛たちと山を下りてくる。カウベルや草花で着飾った牛たちが町の中を練り歩く光景を一目見ようと、毎年大勢の観光客も訪れ、無事牛たちを酪農家へ帰した後は、盛大な祭りが始まる。ビールやソーセージ、チーズが振る舞われ、人々はこの行事が幕を下ろすと、夏の終わりを実感する。

www.oberstaufen.de

ハイン城跡祭 個性的なプログラムが盛りだくさん
ハイン城跡祭
Hayner Burgfest

ドライアイヒェンハイン
Dreieichenhain, Hessen

9月12日(金)~14日(日)

フランクフルトの南約20キロの場所に位置するハイン城跡。当地で毎年開催される祭りは今年で75年目を迎え、今回のテーマは「野生の魔力」。敷地内では女性鷹匠によるショーや、観客が歌って踊れるコンサートなど、訪れる者を飽きさせない様々なプログラムが用意されている。会場内には子どもたちが中世の職業を体験できるコーナーも点在。小ぢんまりとしていて、ローカルな中世の雰囲気がたっぷり味わえる。1日券は大人10.50ユーロ(12歳以下は無料)。

www.hayner-burgfest.de

ブレーメン「自由市場」北ドイツのオクトーバーフェスト
ブレーメン「自由市場」
Freimarkt Bremen

ブレーメン
Bremen

10月17日(金)~11月2日(日)

北ドイツの「オクトーバーフェスト」とも称される祭りの起源は1035年。当時、地元の同業組合の許可がなくても、誰でも自由に商売ができた「自由市場」が立っていたことに由来する。近年は祭りとしての色合いが濃くなり、中央駅前広場や世界遺産の市庁舎前広場に、移動遊園地や350もの屋台、ビールテントが設置され、400万人以上が訪れる国内屈指の祭りとなった。ローラント像は巨大ハート形レープクーヘンが飾られて愛らしい印象に。名物はスモークうなぎ!

www.freimarkt.de

最終更新 Dienstag, 02 Juli 2019 17:40
 

特別展「カンディンスキー、マレーヴィッチ、モンドリアン - 限りなく白い深淵」

カンディンスキー、マレーヴィッチ、モンドリアン特別展 限りなく白い深淵


カンディンスキー、マレーヴィッチ、モンドリアン。
20世紀を代表する3人の抽象画家の作品を、
デュッセルドルフのK20が
「白」というテーマに基づいてセレクトし、特別展を開催する。
題して『限りなく白い深淵』。
通常はカンバスの上で脇役に甘んじる白という色に、
3人の作家はどのような想いを込めたのだろうか。

2014年4月5日(土)〜7月6日(日)
開館時間:火水日祝 10:00–18:00 木金土 10:00–22:00 月曜休館
入場料:大人12ユーロ、割引9.50ユーロ
Kunstsammlung NRW K20 Grabbeplatz
Grabbeplatz 5 40213 Düsseldorf
Tel: 0211-8381 204 www.kunstsammlung.de

ワシーリー・カンディンスキーはロシア出身、「抽象絵画の父」と称される作家だ。彼は、音楽が“対象”を介さずに聴く者の感性や感覚を直接喚起するのと同じように、絵画が具象の物語性から離れ、純粋な色彩と形態だけで見る者に働き掛けることを目指した。

カンディンスキー初期の抽象絵画は、野獣派にも通じる色彩の乱舞が特徴的だが、後期の作品では色彩と幾何学的造形が画面上ですっきりと統合されている。そこで「白」は重要な役割を果たした。色彩が“和音”を奏でる役割を持つならば、白は“無音”、つまり静寂の役割を果たし、画面全体に安定感を与えている。色と形の冒険を繰り返してきた画家にとって、白はすべての色が消えた世界、喜怒哀楽や創作の葛藤を包み込んでくれる宇宙の象徴だった。カンディンスキーは言う。「白は我々の精神に大きな沈黙として働き掛ける。それは死ではなく無限の可能性なのだ」と。

カンディンスキー

一方、同じくロシア出身のカジミール・マレーヴィッチは、色や形を画面からどんどん排除していくことで、創作の意味そのものを揺るがす作品群を世に送り出した。カンディンスキーが様々な色や形の心理的効果を作品に利用したのに対し、マレーヴィッチは白黒の円や正方形だけを使うことにより、作者の意図や鑑賞者の感想の一切を拒否したのだ。その過激さは、ロシア革命という時代背景抜きには語れない。新時代を創造するには、芸術においてもすべての既存のアプローチを超越する理念が必要だった。

マレーヴィッチにとっては、「白」こそが革命への回答だった。彼は、「白く自由な限りない深淵が我々の前に横たわっている」と語っている。色を超え、理念として立ち現れる「白」。マレーヴィッチはそこに、どこまでも自由な「無」を見ていた。それは停止や無気力感ではなく、色やフォルムを意識的に超えて勝ち取られた、未知数としての「無」だったのだ。

そして、オランダの作家ピエト・モンドリアンである。その作品は1度見れば、まず忘れることはないだろう。真っ白なカンバスが黒い縦横の直線で分割され、線の交わりによってできた四角形のうち、ごく一部が赤、青、または黄色で塗りつぶされている。同じ幾何学的抽象であっても、有機性を感じさせるカンディンスキーの作品に比べて、無機的で取り付く島がない印象だ。

マレーヴィッチ

しかし、モンドリアンにしても、自分が肯定する世界の原理を描こうとした点ではカンディンスキーやマレーヴィッチと一致する。モンドリアンは、そのミニマルな表現で、どこまでも静謐で均衡の取れた世界を表現した。2度の世界大戦の狂気と混沌を体験したモンドリアンにとって、作品上の完璧な秩序は作家として、そして人間としての意思表示だったのだ。「コンポジション」というタイトルの作品が多いが、カンディンスキーの同題の作品群が「作曲」へのオマージュであったのに対し、モンドリアンのそれは「構成」である。そこでは、白が画面のほとんどを埋めることで初めて、最小限の線と色が最大限の意味と効果を持つことになる。

作品にそれぞれのユートピアを託した3人の作家たち。彼らが描いた未来が実現したのかどうか、本展の「白」を見つめながら考えてみたい。

(Kunstsammlung NRW 非常勤スタッフ 田中聖香)

最終更新 Dienstag, 02 Juli 2019 16:24
 

ドイツの音楽祭アラカルト2014

楽しみ方いろいろ ドイツの音楽祭アラカルト

暖かくなり、外出するのが楽しくなってきたこの季節。
それは、ドイツ各地で開催される音楽祭の始まりを意味します。
解放感溢れる野外コンサートに出掛けるも良し、
おめかしして夜の音楽祭を訪れてみるのも良し。
楽しみ方は人それぞれ、自由自在です。
今回は、クラシックからジャズ、ロックまで、
あらゆるジャンルの音楽祭を一挙にご紹介します。
(編集部:山口 理恵)

4月26日(土)~5月4日(日)
ハノーファー

国際アカペラ週間
14. Internationale A-Capella-Woche

国際アカペラ週間

期待の新星を発掘しつつ、アカペラ界で名を馳せるグループの歌を1週間にわたって披露する。楽曲のジャンルは聖歌からポップ、ダンスミュージックまで多岐にわたり、今年も様々な国からアーティストが参加する。目玉は米国のニューヨーク・ポリフォニー。中世の宗教曲を得意とする4人の正統派アカペラグループのハーモニーを、この機会にぜひ。

www.acappellawoche.com

5月9日(金)~7月12日(土)
ルール地方

ルール・ピアノ・フェスティバル
Klavier-Festival Ruhr

ルール・ピアノ・フェスティバル

ルール地方各地で開催される音楽祭は、毎回、ライヴ演奏を収録したアルバムが発売されるほどの人気。その理由は、参加する著名なゲストの顔ぶれにある。今年は中国のラン・ラン(5月16日)や、1996年以来、毎年、別府アルゲリッチ音楽祭を開催しているマルタ・アルゲリッチ(7月11日)が参加する。豪華なピアニストがそろうぜいたくな音楽祭。

www.klavierfestival.de

5月23日(金)、24日(土)
ハンブルク

エルプジャズ・フェスティバル
ELBJAZZ Festival 2014

エルプジャズ・フェスティバル

爽やかな初夏の風を感じながら、野外でジャズを楽しめる2日間。今年は、日本でも話題のダニエル・グラッツェル率いる19人のジャズバンド、アンドロメダ・メガ・エクスプレス・オーケストラがベルリンから参加。聴き逃せないのは、米音楽界最高峰のグラミー賞でベスト・ジャズ・ヴォーカル・アルバム賞を受賞したグレゴリー・ポーターの歌声だ。

www.elbjazz.de

5月23日(金)~6月29日(日)
ヴュルツブルク

モーツァルト音楽祭
Mozartfest Würzburg

モーツァルト音楽祭

歴史的にオーストリアのザルツブルク音楽祭と双璧をなす音楽祭。今年もレジデンツの庭園で開かれる無料の"Mozart-Tag"を皮切りに、盛大に開催される。レジデンツのカイザーザール(皇帝の間)には、バイエルン放送交響楽団と、世界的に有名なクラリネット奏者で作曲家でもあるヨルク・ヴィトマンを迎え、モーツァルトの美しい旋律が奏でられる。

www.mozartfest.de

6月5日(木)~8日(日)
ニュルブルクリンク

ロック・アム・リング
Rock am Ring 2014

Rock am Ring 2014

サーキット内で開催される、欧州最大級のロックフェスティバル。今年は約85組のバンドが参加し、世界中で圧倒的な人気を誇るリンキン・パークや、多国籍パンクバンドのゴーゴル・ボルデロなどが、会場を熱狂の渦に巻き込む。日本からは大阪出身のメタルコアバンドCrossfaithが、ワールドデビューアルバム「APOCALYZE」を引っ提げて参加する。

www.rock-am-ring.com

6月13日(金)~22日(日)
ライプツィヒ

ライプツィヒ・バッハ音楽祭
Bach Festival Leipzig

ライプツィヒ・バッハ音楽祭

今年はヨハン・セバスチャン・バッハの次男、カール・フィリップ・エマヌエル・バッハの生誕300年という記念年。プログラムは、彼と代父ゲオルク・フィリップ・テレマン、父バッハの作品で構成され、後世の音楽家に影響を与えた彼の古典派音楽の価値を再認識できる。ゲストには、カナダからターフェルムジーク・バロック・オーケストラを招へいする。

www.bach-leipzig.de

6月20日(金)~9月21日(日)
メクレンブルク=フォアポンメルン

メクレンブルク=フォアポンメルン音楽祭
Festspiele Mecklenburg-Vorpommern

メクレンブルク=フォアポンメルン音楽祭

3カ月にわたり開催される当地の音楽祭は、州内69カ所の会場に約270組のアーティストを迎え、盛大に催される。中でも注目なのは、飛び抜けた技巧、芸術的センスを併せ持つ、今世紀最大の天才ピアニストと称されるイゴール・レヴィット。ドイツ・カンマー・フィルハーモニー管弦楽団やベルリン・ドイツ交響楽団などとの共演が予定されている。

www.festspiele-mv.de

6月28日(土)~9月13日(土)
ラインガウ

ラインガウ音楽祭
Rheingau Musik Festival

ラインガウ音楽祭

1988年から続く、ライン河畔の町々で開催されるこの音楽祭は、有名な演奏家が登場することで有名。今回は、デュイスブルク生まれの正統派バイオリニスト、フランツ・ぺーター・ツィマーマンや、現役ピアニストの中で最も高い評価を得ているイタリアのマウリツィオ・ポリーニのパフォーマンスが楽しめる。45の会場で全159のコンサートが催される。

www.rheingau-musik-festival.de

7月31日(木)~8月2日(土)
ヴァッケン

ヴァッケン・オープン・エア
Wacken Open Air

ヴァッケン・オープン・エア

世界最大のハードロック&ヘビーメタル・イベントは、北部の小さな町ヴァッケンで毎年開催され、今年で25回目。地元のバンドSKYLINEが町おこしとして始め、今でも地域の住民が一丸となって支え続けているフェスティバルだ。参加バンド数は約70組に上り、前夜祭の前夜祭が開催されるなど、ファン待望の一大イベントが今年も畑のど真ん中に現れる。

www.wacken.com

8月1日(金)~3日(日)
ハンスブリュック

ネイチャー・ワン
Nature One - The Golden 20

Nature One – The Golden 20

エレクトロ系やダンスミュージックで人気の音楽祭。観客動員数は年々増え続け、昨年は6万4000人が訪れた。照明技術も見どころで、野外に設置された会場では、ステージごとにハードコア、ハウス、テクノ、トランスと、それぞれ違ったライヴが楽しめる。参加DJは約70組で、日本からは東京を中心に活躍するカツ・アライ氏がテクノ・フロアに登場する。

www.nature-one.de

8月13日(水)~8月17日(日)
キームゼー

キームゼー・サマー
CHIEMSEE SUMMER

CHIEMSEE SUMMER

ブラック、レゲエ、ポップと多彩な音楽が楽しめるフェスティバルには、5日間の期間中に100以上のバンドが登場。レゲエ界からは、65歳の現在も現役で活躍するジミー・クリフが、ドイツのシンガーソングライターで、ヨーロッパ版グラミー賞・エコーでベスト・ミュージック・ビデオ賞にノミネートされたボッセも登場。自分の好みの音楽を開拓できるかも。

www.chiemsee-summer.de

8月23日(土)19:30
ベルリン

ベルリン野外オペラ「魔笛」
Open Air in der Waldbühne Berlin: Die Zauberflöte

ベルリン野外オペラ「魔笛」

毎年恒例、一夜限りの夏の野外オペラで、今年はモーツァルトの「魔笛」が上演される。ベルリン・ドイツ・オペラ管弦楽団やコーラスとともに、悪人ザラストロ役で登場するのは、ドイツ内外で引っ張りだこのバリトン歌手アンテ・イェルクニカ。劇場に引けを取らない大掛かりな演出に加え、夕暮れ時の野外オペラは、背景の自然と相まって迫力満点。

www.deutscheoperberlin.de

リヒャルト・シュトラウス生誕150周年!
リヒャルト・シュトラウス・フェスティバル

リヒャルト・シュトラウス・フェスティバル
Richard Strauss Festival 2014

リヒャルト・ゲオルク・シュトラウス
Richard Georg Strauss
1864–1949
シュトラウス
ミュンヘンに生まれ、宮廷歌劇場の首席ホルン演奏者であった父親の影響で、子どもの頃から英才教育を受ける。6歳で作曲を始め、学生時代にはソナタやオーケストラの楽曲に着手した。生涯で手掛けた作品にはオペラが多く、ドイツの後期ロマン派を代表する作曲家として偉大な功績を残した。

2014年6月11日(水)~19日(木)

リヒャルト・シュトラウスが、死去するまでの40年間を過ごしたガルミッシュ=パルテンキルヒェンにおいて、生誕150年を記念した盛大な音楽祭が催される。プラハ放送交響楽団がオープニングを飾り、期間中は様々なアーティストによるコンサートも開催される。

www.gapa.de/Richard-Strauss-Festival


最終更新 Donnerstag, 04 Juli 2019 15:22
 

坂本あゆみ監督インタビュー

坂本あゆみ 監督インタビュー 第64回 ベルリン国際映画祭 FIPRESCI受賞映画『FORMA』

日本映画界に新星が現れた。その人は、坂本あゆみ監督。長編デビュー作となる『FORMA』が、 第64回ベルリン国際映画祭にてFIPRESCI(国際批評家連盟賞、各部門から選出される特別賞)を受賞したのだ。過去のベルリン国際映画祭において、初監督作品が本賞を受賞したのは史上初。映画のタイトルとなったラテン語の"FORMA"という言葉は、「本質」という意味を持つ。 坂本監督は、人間が本質的に持っている悪意や心の闇を、現代日本に生きる女性2人を通して斬新な手法で描いた。映画祭での公開初日の翌日、自身の映画や人間観について、坂本監督がみずみずしい言葉で語ってくれた。(取材・文:中村真人)

Ayumi Sakamoto
坂本あゆみ
Ayumi Sakamoto

1981年2月16日生まれ。熊本県出身。高校卒業後、映画監督を目指し上京。塚本晋也監督の作品に多数参加し、演出・撮影・照明技術を学ぶ。その後、照明技師となり、様々な作品の光の演出を手掛ける。現在、映像作家として、ミュージックビデオやドキュメンタリー、ライブ、インスタレーションなどの映像を演出する。本作が長編初監督作品。

撮ることで、生きていることの罪悪感を浄化したい

ベルリンに来られたのは今回が初めてですか?

海外の映画祭に参加するのも、ベルリンに来たのも初めてです。今回の映画祭ではオープニング作品、そして大好きなラース・フォン・トリアー監督の『Nymphomaniac』を観ました。日本の映画館はいつも静かなので、ここでは雰囲気や熱気を肌で感じることができ、面白かったですね。メイン会場でのオープニングセレモニーにも参加させていただき、それはもう圧倒されるほど素晴らしい世界でした。

一方で、ベルリンの街はまだ少ししか見られていません。今回借りているアパートの近くをうろうろしたり、タクシーの中から『ベルリン・天使の詩』(ヴィム・ヴェンダース監督)に出てくる女神像を見上げたり、(ユダヤ人犠牲者を慰霊する)つまずきの石のところを通ったり……。

今回、ベルリン国際映画祭のフォーラム部門に出品された『FORMA』は、昨夜が初上映でした。観客の反応はいかがでしたか?

実は本当に緊張していて、心ここにあらずというか、気が気でなかったんです(笑)。上映後にQ&Aも控えていましたから。日本ではなかったところで笑いが起きることが何度かありましたが、皆さん淡々とじっくり観てくださっているようには感じました。

FORMA

最後のQ&Aでは多くの質問が出ましたね。

質問の内容は、日本で受けるものと大差はありませんでした。「こんなに不幸なのが日本なのですか?日本のOLってこうなんですか?」といった質問を受けましたが、反対に私が別の国の不幸な人々を描いた映画を観ても、それがその国のすべてだとは考えないと思うんです。私は、人間の根本的な姿というのは変わらないと思っているのですが、社会のある部分を切り取って忠実に再現することを追求したので、そういう質問が出てきたのは、逆にリアルに描けたからではないかとプラスに考えています。

本作は完成までに、実に6年掛かったとうかがっています。

まず4年程掛けて、別の撮影の仕事の合間に脚本家の仁志原了さんと一緒に脚本を作りました。2011年にこの映画の撮影をし、そこから編集作業を別の仕事の合間に少しずつ行いました。その後、体調を崩してしばらく作業を休んだ時期もありましたが、最終的に13年1月に完成披露となり、撮影から2年経って、ようやく皆さんにお見せすることができました。

映画監督になるまでの道のりを聞かせてください。

高校卒業後、映画監督を目指して熊本から上京し、塚本晋也監督のスタッフとして何作品かの制作に参加させていただきました。映画作りについて監督から直接得たものは大きいですね。

もう1つ、自分にとって大変ラッキーだったのは、プロデューサーの谷中史幸さんと出会えたことです。初めて台本を見せたときは、私自身の映画を撮る態勢が熟しておらず、撮らせてもらえませんでしたが、谷中さんの判断でOKが出た後は、自由にやらせてもらえました。芸術性、作家性を大事にしてくださったのです。こういうケースは稀だと思います。デビューしたいという人はたくさんいると思いますが、日本では若手の監督に対する支援がありません。商業性の強いプロデューサーの下では、どうしても様々な制約があり、自分が本当に撮りたいものとの折り合いを付けていくのが大変です。もちろん自分の気持ちは大切ですが、プロデューサーの存在は大きいと思いました。

坂本あゆみ監督(右)と谷中史幸プロデューサー
映画『FORMA』の坂本あゆみ監督(右)と谷中史幸プロデューサー

『FORMA』を撮影した際のエピソードを1つ教えてください。

実は、ラストシーンは別の設定を考えていました。撮影最終日の前日の深夜になって、谷中さんがそのことを根本から問うような意見を伝えてきたんです。「今ですか!?」と、私は唖然としました(笑)。眠れずにずっとそのことを考えていたのですが、翌朝現場に立って何テイクか撮っているうちに、自然とラストシーンが見えたというか、映画自体がラストシーンを作ったという瞬間が生まれたんです。スタッフ全員がそう感じたと思います。結果的に当初考えていた設定とは違うものになりました。様々なタイプの監督がいると思いますが、私はいかに芝居が"リアルな現実"になるかを目指していて、その集大成がラストシーンに向かったという感じです。

なぜ、この作品のタイトルが示す「人間の本質」や「心の闇」というテーマに取り組もうと思ったのですか?

私が映画を撮る理由の1つに「罪悪感」があります。生きていることに対して、すごく罪悪感があるのです。肉を食べたり、他人を傷つけたりと、人は生きているだけで加害者の立場からどうしても逃れられない。ものすごく人類を憎んでいるんです。殺し合ったり、睨み合ったり、動物をいじめたり……。かといって自分は完全な菜食主義者ではないし、いろいろな犠牲を生み出すことから逃れられない。自分もそのような人類に属するということの罪悪感ですね。それを浄化したいという気持ちが、何かを撮り、表現する行為に繋がっています。でも、憎んでいる反面、愛してもいるので、そのバランスを取るのは自分にとって難しい。この矛盾した気持ちを映画に投影できたら良いなと思います。

人物の造形で心掛けたことは?

大まかに言うと、多面的、客観的に描くようにしました。1人の主人公で押し切るのではなく、リアリティーの追及も含めて、いろいろな場面から切り取っていく話にしたいと思いました。多くの映画では、重要な登場人物が冒頭で説明されてから始まりますが、実際の日常生活では突然会う人っていますよね。それが映画の中で起きたら面白いなと思いましたし、説明ばかりしている映画に対しての反抗心も少しありました。

その意味では、観客の多くが意表を突かれ、ストーリーの中で重要な鍵を握っているのが長田修という役柄だったと思います。

多面的に描くに当たって、長田役は最初の構成の段階から決まっていました。突然、変な男が現れるという……。長田役のノゾエ征爾さんは普通の人と変な人の境目すれすれのところを絶妙に演じてくださいましたね。撮影の前にいろいろな話をして、人物を固めていく上で決めた結果ですが、素晴らしい演技をしてくださり、助けられました。主人公の女性2人の芝居もレベルが高く、リアルに演じてくださいました。

この映画でもう1つ特徴的だったのが、カメラを固定しての長撮りです。特にクライマックス・シーンは圧巻でした。

シーンを短くしてしまうと、どうしても「説明」になってしまうんです。私は説明をしたいのではなく、その人物の裏にある想いを描きたかった。例えば公園のシーンでは、子どもの頃はただ楽しい遊び場だった公園が大人になったら楽しめなくなったり、ブランコに乗っている2人がやがて悲劇を迎えてしまうなど、様々な感情や不可避の運命が凝縮されていると思うのですが、短くしてしまうと「公園にいた」という事実にしかなりません。人によっては長いと感じるでしょうし、それも理解できますが、私にとってはどうしてもあの長い尺が必要だったんです。観客の皆さんには、多分ボディーブローのように効いているとは思います。ありがたいことに、作品の長さは最初から気にせず作っていました。

綾子(梅野渚)が頭にダンボールを被る冒頭のシーンについて、「日本の何かの習慣なのですか?」と質問した観客がいました(笑)。

冒頭のシーンは最初の構成にはありませんでした。まず綾子の心の闇を抽象的に表したいと漠然と考えていたのですが、ある日、そのアイデアを仁志原さんが持ってきて、すぐには受け入れられなかったのですが、考えていくうちに自分の中で納得することができました。実は、安部公房の『箱男』へのオマージュも少し入っています。スタッフの間では、あのシーンを「箱女」と呼んでいました(笑)。

FORMA

坂本監督は、塚本晋也監督の下で学ばれました。特に影響を受けた監督、また好きな映画監督を何人か挙げていただけますか?

やはり、まず塚本監督ですね。塚本監督がいたから今の自分があると言っても過言ではありません。崇拝し、尊敬しています。パワーに溢れ、「芸術家とはこうあるべきだ」という鏡のような存在です。作風は全く異なりますが、ものを作る人としては、彼から大きな影響を受けました。

作風で影響を受けたとなると、イランのアッバス・キアロスタミ監督でしょうか。日常を決して劇的に描かないというか、「でも日常的なことこそ、実はドラマチックなのだ」というようなことを描いています。初めてイラン映画を観たときの衝撃は、ものすごかったですね。同監督が脚本を書いた『鍵』という作品で、部屋の中で少年が鍵を探すというだけの内容なんです。それまで映画には起承転結があるものだと思っていたので、ただ鍵を探すだけで成立している映画があることに驚きました。高校を卒業した頃、実際にイランに行きたいと思いましたよ。こういう風に映画を撮る国ってどんなところだろうと思ったし、とにかく憧れていました。まだ実現していないですが、いつか行ってみたいですね。

もう1人映画監督を挙げるとしたら?

1人ではなく、たくさん挙げてもいいですか?(笑)。好きな監督の名前を挙げるのは、それだけで楽しいので。ギリシャのテオ・アンゲロプロス監督とポーランドのクシシュトフ・キェシロフスキ監督です。実は『FORMA』の中にもキェシロフスキ監督へのオマージュがあります。父親役の光石研さんがテレビのスポーツニュースを観ているシーンで、「キェシロフスキ」 が水泳競技の選手名として出てくるんです。まだ誰にも気付かれていませんよ(笑)。あとはラース・フォン・トリアー監督、オーストリアのミヒャエル・ハネケ監督ですね。映画の由香里(松岡恵望子)の部屋は実は私のアパートなのですが、ハネケのDVDボックスが置いてあります(笑)。

最後に、今後の目標を教えてください。

私の主題は、これからもずっと変わらないと思います。人間の偽善、原罪(人が生まれ持ったどうしても 逃れられない罪)、罪深さ。そういうことをもっともっと追求して描き続けていきたいです。またベルリンにも戻って来たいですね。これがスタートラインなので、怠らずに精進していきたいと思います。


『FORMA』あらすじ

ある日、金城綾子は同級生だった保坂由香里と再会する。綾子は由香里を自分の会社に誘い、由香里は綾子の会社で働くようになる。しかし、綾子は徐々に由香里に冷たくなり、奇妙な態度を取り始める。次第に追い詰められていく由香里。綾子には、ある想いがあった。積み重なった憎しみが、綾子の心の闇を深くする。その想いを確認するため、綾子は由香里を呼び出す。交錯する、それぞれの想い……。そして憎しみの連鎖は、どのような結末を迎えようとしているのか。

『FORMA』作品情報

監督・原案:坂本あゆみ
プロデューサー:谷中史幸
脚本:仁志原了
撮影監督:山田真也
ギャファー:竹本勝幸
録音:高橋勝
キャスティング・ディレクター:奏太
キャスト:松岡恵望子、梅野渚、ノゾエ征爾、光石研

2013年 / 日本 / 145分 / ステレオ / ©kukuru inc. /
配給: kukuru(株)
公式ホームページ:http://forma-movie.com/jp/
日本公開:2014年予定

最終更新 Dienstag, 02 Juli 2019 17:22
 

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