特集


シュトレンはどこから来たの?

シュトレンはどこから来たの?

バウムクーヘンのみならず、ドイツ菓子として日本でもすっかり認知度が上がったクリスマス限定のお菓子「シュトレン」。発祥の地はドレスデンと言われているが、これには諸説があり、1329年のナウムブルグ司教へのクリスマスの贈り物が最古の記録とされている。しかし、キリスト教の断食期間である4旬節にはバターと牛乳の摂取が禁じられていたため、水・オーツ麦・てんさいの根の油を使用した当時の シュトレンは、かなり素っ気ない味だったようだ。

馬車
4トンものシュトレンを乗せた馬車

これに不満を持ったザクセン選帝侯エルンストと弟アルブレヒトは、1430年にローマ教皇へバター・牛乳摂取禁止令の撤廃を懇願し、91年にようやく「バター食用許可証(Butterbrief)」が公布された。この公布はザクセン選帝侯の宮廷でのみ有効だったにもかかわらず、バターと牛乳を使用したシュトレンは公国全体に広まったのである。宮廷パン職人だったハインリッヒ・ドラスドは乾燥フルーツなどを加えて工夫し、今日に伝わるシュトレンを完成させた。その後ザクセン公国では、毎年クリスマスに宮廷に献上するのが習慣となったが、1730年、アウグスト強王は2万4000人を招いたパーティーの最後に出す1.8トンものシュトレンを注文。この巨大シュトレンは8日間かけて焼かれ、1.6メートルのナイフで客の前でさばかれたと言われている。

黄金に輝く引換券
黄金に輝く引換券

強王らしいこのド派手な出来事を記念して、ドレスデンではクリスマス時期の第2アドヴェント前の土曜日(今年は12月8日)に、シュトレン祭(Stollenfest)が開催される。小山のようなシュトレン(最高記録は2000年の4.2トン)が馬車に乗せられて練り歩き、クリスマスマーケットの会場で1.2メートルのナイフで切り分けられるのである(事前に引換券を購入すれば、巨大シュトーレンのお裾分けがもらえるのでお試しを)。

Werner社のシュトレン
Werner社のシュトレン

現在では「ドレスデン風シュトレン(Dresdner Stollen)」は商標登録されており、ビール純粋令と同様に材料の分量が指定されている。基本的なレシピは存在するが、ドレスデンにある約150軒のパン屋は門外不出のレシピを代々伝授しており、味を競っている。ドレスデン一美味と言われるものが、1893年創業の「Werner」だ。

手に取るとずっしり重いシュトレン。手間のかかる作業をていねいにこなす職人の思いが伝わるようで、ひと切れずつ大切に食べたい。ただし、砂糖やバターたっぷりのシュトレンは超高カロリーなので、食べすぎにご注意。

(ライター・福田陽子)

シュトレンのレシピ

シュトレン

シュトレンとは、もともと坑道や地下道の意味。トンネルの形に似ているからこの名がついたと言われている。真っ白でやわらかな粉砂糖に覆われた外観は、幼子イエスを包むおくるみに見立てられることも多いよう。

ドライフルーツとマジパンがたっぷり入ったドレスデン風シュトレン。ずっしりと重いので、薄く切ってティータイムにどうぞ。寒い日にグリューワインとともに食すれば、体の芯から温まってくる。

(舞楽あき子)

 材料
強力粉(Mehl Type 550)
300g
レーズン(Rosinen)
250g
オレンジピール(Orangeat)
100g
レモンピール(Zitronat)
50g
挽きアーモンド(Mandeln;gehackt)
75g
ラム酒
70ml
生イースト(Hefe)
30g
牛乳
125ml
砂糖
30g
卵黄
1個
小さじ1/2
レープクーヘン香料(Lebkuchengewürz)
小さじ1
マジパン(Marzipanrohmasse)
100g
バター
150g
粉砂糖
80g
バニラ砂糖(Vanillezucker)
1袋
 作り方
1. 前日にレーズン、オレンジ&レモンピール、アーモンドをラム酒につけてやわらかくする。
2. 中種づくり。ボールに強力粉150グラム、牛乳、砂糖、イーストを入れてよくこねる。まとまったらラップでふたをし、暖かい所に置いて2倍くらいの大きさになるまで発酵させる(目安1時間弱)。
3. 2に残りの強力粉、卵黄、塩、レープクーヘン香料を入れよくこねる。
4. マジパンとバター100グラムを少量ずつ加え、よく混ぜてこねる。
5. フルーツを入れてさらに混ぜ、まとめた後ラップでふたをし、さらに20分間2次発酵させる。
6. 粉(別量)をまぶした台の上に20×30センチくらいに引き伸ばし、長い方を三つ折にする。
7.

空気が入らないようにぐるぐる巻きに
オーブンを200℃に温め、クッキングシートを敷いた天板に6を乗せ45分間待つ。その後175℃に下げ、さらに15分。その間、残りのバター50グラムを溶かしておく(オーブンから取り出し、まだ熱いうちに溶かしバターをはけで塗る)。荒熱がとれたら、粉砂糖とバニラ砂糖を混ぜたものを全体にまぶし、ラップで3~4重に包む。
8. 冷暗所に保管し、1週間以上寝かしてできあがり。

最終更新 Freitag, 21 Juni 2019 16:06
 

カール・ラガーフェルトx安藤忠雄 写真展

カールラガーフェルト


Karl Lagerfeld
1938年ハンブルク生まれ。ピエール・バルマンらに師事した後、独立。クロエ、フェンディ、シャネルのデザイナーを経て、現在自らのブランド、カール・ラガーフェルトを持つ。87年から写真家としても活動している。
「計画や期待はせず、ただ成り行きに身を任せる。
だから物事は楽しい」

クロエ、フェンディ、シャネルなど一流有名ブランドのファッションデザイナーとして、モード界を牽引してきた巨匠カール・ラガーフェルト。その彼が、安藤忠雄の設計で知られるランゲン美術館(ノイス市)のために企画した写真展が開かれています。オープニングを前に美術館を訪れた同氏のコメントを交えながら、写真展をレポートします。
(編集部・神野直子)

写真展に付けられたタイトルは、「KONKRET ABSTRAKT GESEHEN」。今回の展覧会は、長くから親交があるランゲン夫妻のたっての依頼ということで実現したが、会場が安藤忠雄の設計した美術館であるということが大きかったという。

ラガーフェルト
作品の前でポーズをとる
カール・ラガーフェルト

「私は安藤の大ファンで、彼の建物も撮影しています。フランスで彼に設計を依頼したこともありましたが、3回とも購入した土地の法的な制約などで頓挫してしまいました。良き知り合いでもある安藤が造ったランゲン美術館は、私にとっても非常になじみがあり、まるで自分の家にいるかのような気がします」

展示された100点を超える作品の被写体は、建物の一部であったり、アスファルトの表面をクローズアップしたものだったり、階段の横に空けられた穴であったり、人の輪郭であったり……とモチーフはさまざまだが、どれも全体をとらえたものではなく、何かの破片にすぎない。

「ここに提示された世界は、何かを模倣したりしたわけではありません。ある一部を切り取ったのは、断片をクローズアップしていくことで新しい世界と絵が広がっていくと思うから。何かを撮ろうと計画を練ることはありませんね。計画すること自体が難しく、私の作品は偶然の産物なのです」

写真

自らの写真に対するスタンスは、「決して何かが撮れると期待はせず、なりゆきに任せてことの次第を楽しむ」のだと言う。そしてその姿勢は自身の写真スタイルを自らどこかに当てはめることを嫌ったり、デザイナー、写真家、芸術家としての活動を平行して追求する生き方にも反映されている。

「3つのそれぞれの活動を、呼吸したり眠ったりするのと同じように行っています。デザイナーとしての仕事と並行して写真を撮っていますが、あらゆることを並行してやっていても、それが一本の道となっていくのです。自分で何らかの歯止めをかけることはありま せん」

 

トレードマークである白髪を後ろに束ねたヘアスタイルとサングラス、黒一色のコーディネートで会場に現れたラガーフェルトは、まさにテレビで見るイメージそのものだった。ただ決してその素顔を見せないように、スタイルを規定せず、作品についても鑑賞する側に説明を委ねようとする姿勢は、常に変化と新しさを求められるモードの世界を生き抜いてきた所以なのかもしれない。

「安藤の作品を集めた本を作りたい」と語るラガーフェルトの写真展は、彼の視線を追体験し、その世界を五感で感じられる絶好の機会と言えるだろう。


<展覧会情報>
期間 開催中~2008年5月4日
休館日 12月24~26日、31日、08年1月1日
時間 10:00~18:00
料金 7,50ユーロ(割引5ユーロ)
場所 Langen Foundation Raketenstation Hombroich 1, 41472 Neuss
TEL 02182-57010
WEB www.langenfoundation.de
最終更新 Freitag, 30 August 2019 16:47
 

クリスマスが街にやってきた!

クリスマス間近
クリスマスが街にやってきた!

ついにやってきたクリスマスシーズン。あなたの街でももうクリスマスマーケットが始まったことでしょう。デパートもショーウインドウも商店街もイルミネーションで美しく飾られ、街は、いやこの国全体がクリスマス一色に染まります。

12月2日の日曜日は最初のアドヴェント。3週間後には子供たちのところに、サンタクロースならぬクリストキントやヴァイナハツマンがプレゼントを持ってやって来ます。日本だとこの時期はなぜか恋人達が盛り上がる季節で、独り者にとっては肩身の狭〜い思いをさせられてしまうけれど、本来のクリスマスは、家族と一緒にイエス・キリストの誕生の日を待つというもの。そう、クリスマスまでは”待つ時間”なのですね。

でも、ただ待ってるだけではもちろん退屈。というわけで、1日1日を家族と一緒に数えながら過ごす、ドイツ式クリスマスの愉しみ方を紹介しましょう。

(ニュースダイジェスト編集部)

クリスマス間近スペシャル・突撃インタビュー

サンタさんに何をお願いする?
(デュッセルドルフ日本人幼稚園でお迎えの時間に直撃)


「キティちゃんの大きなぬいぐるみ」
福井 里歩ちゃん(4)
在独歴2年
 
「特急『白いソニック』の模型」
中島 佑太くん(4)
在独歴2年
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「リカちゃんのせんたくルーム」
鬼頭 あゆみちゃん(6)
在独歴8ヶ月
 
「青色の大きなブルドーザー」
西澤 翼くん(3)
在独歴1年半
----

「キティちゃんに似た
大きなぬいぐるみ」

丸山 瑞季ちゃん(5)
在独歴2年
 
「リモコンで動く
レーシングカー」

寺門 優くん(5)
在独歴1年
ドイツ式クリスマスの過ごし方がひと目でわかる
アドヴェントカレンダー Adventskalender
1クリスマスツリーはもう準備した?丸い飾りにするか、木の人形を吊るすか……今年は何色でデコレーションしよう。赤、シルバー、白、ゴールド?伝統的には12月23日に飾って、1月6日の「東方の三博士」の日にしまうのが正しいとか。
21. Advent 第1アドヴェント
(待降節)

アドヴェントは、ラテン語の「到着、待望」という言葉が語源。昔は断食の時期だったそう。欠かせないのが、アドヴェンツクランツ。1839年にハンブルクのヨハン・ヴィヒェルン牧師が、木でできた丸いクランツに23本のロウソクを飾ったのが始まりです。60年ごろからはモミの木の枝を使用するようになったとか。ドイツから広がったこの慣習、クランツの丸い形は神は始まりも終わりもなく愛してくれるという意味。葉の緑は希望、ロウソクやリボンの赤は愛情を表しています。今日は4本のロウソクのうち、1本目を灯す日。
2そろそろクリスマスカードの準備を。
クリスマスシーズンは郵便が混んで到着までに通常より時間がかかるから、お早めに。
4小枝Barbaratag 聖バルバラの日
今日は、外に桜の木かレンギョウなどの小枝を探しに行きましょう。一晩お湯の中にその枝を浸けておき、翌日花瓶に。あとは暖かい場所に置いて光を当てるだけ。もちろんお湯も3日に1度の頻度で変えて、クリスマスの日にきれいな花が咲くのを待ちましょう。この枝は「バルバラの小枝」と呼ばれています。バルバラとは2世紀ごろトルコに住んでいた女性で、父親は裕福な商人でした。父親が旅行に出ている間に内緒でキリスト教の洗礼を受け、それを知った父親は激怒。塔の中に閉じ込められてしまったとか。そして牢屋へ連れて行かれる途中、彼女はばれないように小枝を折って洋服の中に隠し、牢屋で水がめの中に挿します。死刑判決を受けた日、小枝は満開に咲いていたそうです。私たち一人ひとりが小枝に咲いた花のような存在である、との意味も込められています。
5明日は聖ニコラウスの日。よく磨いた自分の靴かブーツを玄関前に出して。今年いい子にしていたあなたには、今夜、聖ニコラウスがチョコレートやりんご、お菓子などのプレゼントを中に入れて おいてくれるはず。
6Nikolaustag 聖ニコラウスの日
自分の靴の中に、お菓子はたくさん入っていましたか?キリスト教の司教で、とても心の温かい人だったニコラウス。多くの窮に瀕した人々を助け、数々の善行が今日まで語り継がれています。例えば、餓死しそうな市民に穀物を与え、そのお陰で市民たちはパンを焼くことができた、というのもその一つ。ニコラウスの行いを忘れないようにと、この時期になると街には「ニコラウスのお菓子」が登場します。また、3人の貧しい娘にお金を与え、結婚できるようにしてあげたという話も。ここから、家のドアの外に靴やお皿を置いておく習慣になりました。
7 家のドアにヤドリギ(Mistelzweig)は飾りましたか?魔除けのお守りと言われており、家や家族を守ってくれます。ヤドリギの下でキスすると、幸福になれるとの言い伝えも。
7Maria Empfängnis 聖母の無原罪の御宿りの日
カトリック系の教会では、聖母マリアが原罪の汚れなく宿ったことをお祝いします。
92. Advent 第2アドヴェント
さぁ、アドヴェンツクランツの2本目のろうそくに火を。
6
クリスマスソングをドイツ語で覚えましょう。1曲くらいドイツ語で歌えないとね。一番有名なのは「O Tannenbaum」。メロディも簡単だからすぐマスターできるはず。ザルツブルク近郊のオーベルンドルフで生まれた、定番の「Stille Nacht, heilige Nacht(きよしこの夜)」もはずせません。ちなみにドイツで最古のクリスマスソングは、11世紀に作られた「Sei uns willkommen, Herre Christ」なんだとか。

O Tannenbaum
O Tannenbaum, o Tannenbaum,
Wie treu sind deine Blätter!
Du grünst nicht nur zur Sommerzeit,
Nein, auch im Winter, wenn es schneit.
O Tannenbaum, o Tannenbaum,
Wie treu sind deine Blätter!

Stille Nacht, heilige Nacht
Stille Nacht! Heilige Nacht!
Alles schläft; einsam wacht
Nur das traute hochheilige Paar.
Holder Knabe im lockigen Haar,
Schlaf in himmlischer Ruh!
Schlaf in himmlischer Ruh!

13Luziatag ルツィアの日
ルツィアとは、3世紀ごろのシチリア生まれの女の子。当時はキリスト教徒として生きることは難しかったので、多くのキリスト教徒たちは殺害や逮捕を恐れて、隠れて生活をしていました。地下生活をする彼らに食料を調達していたのが彼女。ルツィアは彼らに食料を届けるとき、両手にたくさん持てるようにと、ロウソクを立てたリース(クランツ)を頭に着けたそう。別名「光を届ける女の子」。だからこの日は、ロウソクを灯して窓辺に置いて。みんなに光が届くように、そして暗闇が少しでも明るくなるように。
14 レープクーヘンは 買った?ニュルンベルクが一番有名なこのお菓子、クリスマスには欠かせません。
14 そろそろクリスマスプレゼントを買わなきゃ。マーケットへ急げ!!
16 3. Advent 第3アドヴェント
3本目のろうそくにも火が灯り、残りはあと1本。
クリスマスはもうすぐそこ。
17クリスマスの代表的な飲み物はホットワインの「グリューワイン」。凍てつくような寒さがこたえる夜には、本当に体が温まります。屋台ごとにオリジナルのコップを使っているので、いろいろ集めても楽しい。
18クリスマスまでの日にちを数えるアドヴェントカレンダーも、もう3分の2が終わり。実はこのカレンダー、シュヴァーベン地方に住む牧師の妻が、1900年にカレンダーに24つのお菓子袋を縫い付けたのが始まり。
19クリスマスのテレビと言ったら、ドイツでは「シシー」がお約束。え?シシーを知らない?バイエルンの公家に生まれ、ハプスブルク帝国の皇帝フランツ・ヨーゼフと結婚したエリーザベトの愛称のこと。おじさんには懐かしいロミ・シュナイダーが主演したシシー3部作、毎年必ずクリスマスイブから3日連続で放送されるので、日本の「忠臣蔵」みたいなもの。でも熱心な視聴者は年配の女性っていうのがお決まりで、男性はみんなそろっていや~な顔。テレビのチャンネル権を誰が握っているかにかかっています。これもドイツ文化の一つだから、一度は見ておくといいかも。
20クリスマスには欠かせないクラシック音楽と言えば、J.S.バッハの「クリスマス・オラトリオ(BWV248)」。4大宗教曲の一つに数えられるこの曲は、1734年にライプツィヒで作曲されました。
21&22クリッぺって知ってる?クリッペとは、キリストの降誕時を人形で再現しもの。教会や知り合いの家で見たことがあるのでは?クリッペとはもともと「飼い葉おけ」という意味で、キリストが生まれたとき飼い葉おけに寝かされていたことからその名前が付きました。クリッペは小さくて簡素なものから、たくさんの人形をそろえる豪華なものまでさまざま。一番簡素なものは、家畜小屋とマリアとヨセフと赤ちゃんのイエスのみ。これらに、「救い主誕生」の知らせを聞いてイエスを礼拝に来た羊飼いたち、東方の三博士たち、羊や家畜、天使が加わります。セットで買えるものもありますが、オリーブの木でできたものなどは高価なので、人形一体のみから購入可能。
クリッペ ドイツでは、毎年一つずつ人形を買い足している家庭も多いそうです。各教会でも独自のクリッペを飾ります。教会で飾られるクリッペは家庭のものより大きく見ごたえがあるので、クリスマス時期に教会を訪れる際には、ぜひクリッペを探してみてはいかが?でも、クリッペの中にイエスが登場するのは、12月24日(それも深夜)になってから!それはイエスが生まれた日を覚えるためです。クリスマスの本来の意味は「キリストを礼拝する」ということなので、家畜小屋のクリッペを飾るのは「我が家にキリストをお迎えする」というドイツ人の信仰の表れと言えます。 (ハンブルク日本語福音キリスト教会・井野葉由美)
23 4. Advent 第4アドヴェント
最後のろうそくを点けたら、いよいよ明日はクリスマスイブ!
24Heiligabend
クリスマスイブ

いよいよクリスマス。今夜はクリストキントかヴァイナハツマンがプレゼントを持ってやって来ます。ちなみに、サンタクロースが赤い服を着ているのは、1932年に米コカコーラ社の宣伝によって作られたものだとか。そう言われれば、赤と白はコカコーラの色!「Weihnacht」とは、古いドイツ語で「聖なる夜」という意味。この日は教会に行って、家族で過ごす人が多いようです。各地方で異なるけれど、ジャガイモのサラダとボックヴルストだけを食べたり、クリスマスのガチョウ料理を食べたりするのが伝統的。
25Weihnachtstag
クリスマス

ドイツではプレゼントを家 族みんなでそれぞれ交換します。プレゼントはクリスマスツリーの下に名前を書いて置いてあるので、どれから、誰から開けようか悩むところ。そこで、ドイツ式プレゼントの開け方を紹介しますね。この遊びは、北ドイツに住むマイケさん(30)から聞いたもの。プレゼントをただ開けるだけじゃつまらないので、ぜひやってみてください。まずさいころを一つ用意します。順々にさいころを振って、6が出た人からプレゼントを一つずつ開けます。ということは、6が出ない不運な人はいつまでたっても開けられないはめに……。開けるときは 「Danke schön, lieber Weihnachtsmann!!!」と感謝するのを忘れずに。
クリスマスマーケット
東ドイツ地域BERLIN

50以上のクリスマーケットが開かれる。どこに行こうか迷ってしまいそう。クリスマスが終わっても年末までマーケットを楽しめるのがうれしい。

日程 ~12月31日(月)
時間 11:00~22:00(金土~23:00、24日~18:00、31日~25:00)
website www.winterzauber-berlin.de

至福のスポット
オーストリアのリゾート気分を味わおう

滑走路ポツダム広場のど真ん中にそびえる滑走路。これ、実は今年で4回目を迎えるクリスマスイベント「冬の世界(Winterwelt)」のメインアトラクションで、そりを楽しめるというもの。高さ12メートル、長さ70メートルというスケールは移動式そりとしてはヨーロッパ最大なのだとか。雪の一部はオーストリア・ザルツブルク州から実際に運ばれて来るそうで、毎日14トンの人工の雪が補充される。同州の名物を集めた屋台をそぞろ歩けば、都心にいながらにしてオーストリアの冬のリゾート気分を味わえること間違いなし(?)。(ライター・中村真人)

日程 ~1月6日(日)
時間 10:00~22:00
場所 Potsdamer Platz
料金 そり持ち込みの場合は無料 / スノーチューブのレンタルは1.5ユーロ
website www.winterwelt-berlin.de

至福のスポット
年末まで楽しめる高級志向のクリスマスマーケット

年末までウンター・デン・リンデンの南側、ジャンダルメンマルクトでのクリス マスマーケット「クリスマスの魔法(Weihnachts Zauber)」は、ほかではなかなか見られない高級感が漂う。1ユーロの入場料を取るのが特徴で、それだけに食べ物、手作りのオーナメント類や民芸品の種類は豊富で質も高い。いくつかのテントには暖房が効いているので、寒さを気にせずゆっくり見て回れるのもうれしい。仮設ステージでは、子ども連れでも楽しめるコンサートやショーが定期的に行われるほか、大晦日の夜はジルベスター・ガラが開催される。(ライター・中村真人)

日程 ~12月31日(月)
時間 11:00~22:00(金土~23:00)
場所 Gendarmenmarkt
料金 1ユーロ(12歳以下は無料)
website www.gendarmenmarktberlin.de
東ドイツ地域DRESDEN

ドレスデン1434年に始まって以来、今年で573回目を迎えるドイツ最古のクリスマスマーケット「シュトリーツェルマルクト(Striezelmarkt)」。マーケットの中央には14.62メートルという世界最大のクリスマスピラミッドが立ち、その周りではコーラスや合唱などを楽しむことができる。12月8日(土)にはシュトレン祭が開催。

日程 ~12月24日(月)
時間 10:00~20:00(金土~21:00、24日~14:00)
場所 Ferdinandplatz(今年はAltmarktが工事中のため)
website www.dresden-striezelmarkt.de
東ドイツ地域LEIPZIG

ここ音楽の都では、バッハのクリスマス・オラトリオの演奏やバッハが長年オルガニスト兼指揮者を務めた聖トーマス教会の合唱団によるコンサートを聴いてみたい。エルツ地方の伝統ある「鉱夫のパレード」も必見。

日程 ~12月23日(日)
時間 10:00~20:00(金土~21:00)
場所 Marktplatz
website www.leipzig.de
東ドイツ地域ERFURT

テューリンゲン地方最大の街エアフルトでは、第157回クリスマーケットが開催中。中央には20メートルのクリスマツツリーが立ち、メルヘンの世界に訪れた人を連れて行ってくれる。

日程 ~12月22日(土)
時間 10:00~20:00(木金土~21:00)
場所 Domplatz
website www.erfurter-weihnachtsmarkt.eu
西ドイツ地域FRANKFURT

フランクフルト毎年300万人が訪れる、ドイツの中でも美しいマーケットの一つ。200以上の屋台が立ち並び、クリスマスツリーの周りではコンサートや吹奏楽、グロッケンシュピールなど、さまざまなイベントが用意されている。12月6日(木)にはニコラウスがRömerbergにやって来る。

日程 ~12月22日(土)
時間 10:00~21:00(日11:00~)
場所 Römerberg、Paulsplatz、Mainlai
website www.frankfurt-tourismus.de
西ドイツ地域DÜSSELDORF

4つの広場と二つの通りでノスタルジーなマーケットが開かれる。おとぎ話のような雰囲気に彩られた街並みを歩き、日常をしばし忘れてみては?

日程 ~12月23日(日)
時間 11:00~20:00(金土~21:00)
場所 Marktplatz、Heinrich-Heine-Platz、Flingerstraße、Stadtbrückchen、Schadowstraße、Schadowplatz
website www.duesseldorf-weihnachtsmarkt.de

至福のスポット
星降るクリスマスマーケット

今年のおススメは、ヴィルヘルム・マックス・ハウスの中庭で開かれる“星のマーケット”。田園風に飾り付けられたマーケットでは、都会にいながらして星が瞬く冬景色を堪能できる。数え切れないほどの星と、煌めくクリスタルで飾り付けられ たマーケットにぜひ行ってみて。

場所 Stadtbrückchen
西ドイツ地域MAINZ

1788年から続く、マルティン大聖堂の前で開催されるクリスマスマーケット「ニコローゼ・マルクト (Nikolose Markt)」。大聖堂の近くにあるステージでは、音楽や合唱などのイベントが盛りだくさん。

日程 ~12月23日(日)
時間 11:00~20:30(金~21:00、土10:00~21:00、1日~22:00、23日~19:00)
場所 Domplatz
website www.mainz.de
西ドイツ地域KÖLN

ケルンでは6つのクリスマスマーケットが楽しめる。ライン川に浮かぶKDライン汽船の船上にあるクリスマスマーケットを体験してみては?ひと味違う雰囲気を味わえるかも。

日程 ~12月23日(日)
時間 11:00~21:00(木金土~21:00)
場所 Neumarkt、Alter Markt、Domplatte、Rudolfplatz、Am Schokoladenmuseum、MS Wappen von Mainz
website www.koeln.de
西ドイツ地域ESSEN

第35回国際クリスマスマーケットが開催。“光の王冠”と呼ばれる10キロにわたって電球で飾られた夜空や“青い木”と名づけられた7メートルのLEDライトで作られた木など、光の洪水の中で思い出に残る一夜を過ごそう。“国際”というだけあって、アフリカやロシアなど、世界各地からクリスマスグッズが勢ぞろいする。

日程 ~12月23日(日)
時間 11:00~21:00(金土~22:00、8日~真夜中)
場所 Willy-Brandt-Platz
website www.weihnachtsmarkt.essen.de
北ドイツ地域HAMBURG

8つのマーケットのうち、ユングフェルンシュティークでは12月31日(月)まで開催、ゲンゼマルクトとメンケベルグ通りは30日(日)までと、クリスマスが終わってからでも楽しめるのがうれしい。

場所
時間
Jungfernstieg 11:00~21:00(24、25日はお休み)
Gänsemarkt 10:00~21:00
Mönkebergstraße 10:00~21:00(24、25日はお休み)
website www.hamburg.de

至福のスポット
船上で楽しむ子どものためのクリスマス

ユングフェルンシュティークから出航するメルヘン船の上で、クリスマスのお菓子を焼いたり、劇を観たり、仮装したり……と毎日心躍る子どものためのイベントが開催される。アルスター湖の上で、非日常な1日を過ごしてみては?

日程 ~12月23日(日)
時間 イベントによって異なるので要確認
場所 Jungfernstieg
料金 お菓子を焼く船は1ユーロ、劇を観られる船は無料、など
website www.maerchenschiffe.de
北ドイツ地域LÜBECK

ハンザ都市リューベックでは400以上の出店が並び、趣きあふれるマーケットを体験できる。聖霊養老院では13世紀の雰囲気を醸し出すドイツ、スカンジナビアなどヨーロッパ各国から集まった職人マーケットが開催(~12月10日、入場料2ユーロ)。

日程 ~12月30日(日)
時間 11:00~21:00(金土~22:00、日11:30~)
場所 Markt und Koberg
website http://luebecker-weihnachtsmarkt.de
北ドイツ地域ROSTOCK

Rostockハンザ都市のこの港町では、サンタクロースは船でやってくる。ノイアーマルクトではメルヘンの劇が演じられ、マリエン教会の前では中世風のクリス マスマーケットが開かれる。

日程 ~12月22日(土)
時間 10:00~20:00(金土~21:00、日11:00~)
場所 Innenstadt
website www.rostocker-weihnachtsmarkt.de
北ドイツ地域BREMEN

ヴェーザー川沿いに立ち並ぶマーケットは、中世の港町を再現したノスタルジーな雰囲気。15日(土)は「長い買い物の夜」と銘打ち、店舗は24時まで営業する。今年のおススメは、アンスガリキルヒェホーフで開催されるオープン映画館。毎日17時30分から星空の下、映画を楽しめる。

日程 ~12月23日(日)
時間 10:00~20:00(日11:00~)
場所 Innenstadt
website www.bremer-weihnachtsmarkt.de
北ドイツ地域HANNOVER

珍しいのは、旧市街のバールホーフ広場で開催されるフィンランド風クリスマス村。トナカイの毛皮などフィンランドの手工芸品はもちろん、美味 しい特産品に舌鼓を打ってみては?

日程 ~12月22日(土)
時間 11:00~21:00
場所 Altstadt, vor dem Hauptbahnhof, Lister Meile
website www.hannover.de
南ドイツ地域MÜNCHEN

2500本のロウソクで彩られた30メートルのクリスマスツリーが立つマリエン広場や、シュヴァーヴィング、英国式庭園、ハイトハウゼンなど、ロマンチックなマーケットが各地で開催される。

日程 ~12月24日(月)
時間 10:00~20:30(土9:00~、日~19:30)
場所 Marienplatz
website www.muenchen.de

至福のスポット
クランプスの行列

アルプス地方の伝統であるクランプスの行列。聖ニコラウスと従者クランプスが、神話上の恐ろしいお面をかぶって町を練り歩く。あまりの恐怖に泣き叫び、逃げ出してしまう子どもも。見た目は、秋田県のなまはげに似ているのが興味深い。

日程 12月9日(日)、23日(日)
時間 16:30~17:30
場所 Marienplatz近くのWeinstraßeからKripperlmarktまで
料金 お菓子を焼く船は1ユーロ、劇を観られる船は無料、など
website www.muenchen.de
南ドイツ地域BAD TÖLZ

バイエルンのかわいい小さな町のクリスマスマーケットは、昔ながらの情緒が満載。世界的に有名な「テルツ少年合唱団」が、クアハウスや教会で きれいな歌声を聴かせてくれる。

日程 ~12月24日(月)
時間 11:00~19:00
場所 Marktstraße
website www.bad-toelz.de
南ドイツ地域NÜRNBERG

世界一有名なクリスマスマーケットへようこそ。有名なニュルンベルガーソーセージやレープクーヘンをほお張りながら、中世の雰囲気を思う存分味わおう。13日(木)18時15分からは、約2000人の生徒がちょうちんを持ってパレードを行う。

日程 ~12月24日(月)
時間 9:30~20:00(金土~22:00、日10:30~)
場所 Hauptmarkt
website www.christkindlesmarkt.de
南ドイツ地域STUTTGART

シュトゥットガルト280以上もの屋台が立ち並ぶ、ドイツの中でも最も美しいマーケットの一つ。フィンランド風クリスマス村では、鮭やトナカイのハムなどを味わえ、まるでフィンランドに旅行したような気分になれる。

日程 ~12月23日(日)
時間 10:00~21:00(日11:00~)
場所 Innenstadt
website www.stuttgart-tourist.de
最終更新 Montag, 02 September 2019 17:25
 

冬の祭典「Tollwood」でムルティクルティ気分!

11月28日(水)~12月31日(月) in ミュンヘン

冬の祭典「Toll wood」でムルティクルティ気分!

空気が肌に冷たくなり、寒さが身に染みてくる今日このごろ。いよいよ冬将軍が本格的に到来したようです。外は寒いから家の中でみかんを……なんていう気持ちもわかるけれど、いよいよ来週からは各地で世界一美しい!クリスマスマーケットが始まります。

なかでも、ミュンヘンで28日から開催される「Tollwood」 は一風変わったイベント。世界各国の若いアーティスト の作品が並ぶアイデアマーケットだけでなく、コンサートや舞台、子どものためのイベント、地球環境を考える催し物、そして締めは大晦日の盛大な花火とライブ、など内容は盛りだくさん。

そもそもTollwoodとは、夏と冬の年に2回行われる芸術色の濃いお祭りで、モットーは地球環境を考え、若いアーティストたちを支援しようというもの。1988年夏に地元の芸術家コンスタンチン・ヴェッカーが始め、現在では公的な補助金を受けずに成功を収める、ミュンヘンの代表的なイベントの一つとなりました。

まだ行ったことない方、今年はぜひ足を運んでみましょう!きっと今までとは違った冬の1日を過ごせますよ。

プログラム満載プログラム満載
アイデアマーケット

アイデアマーケットイタリア、フランス、オーストリア、ギリシャ、ラテンアメリカなど各国から集まったデザイナーたちが、テントに自分の作品を並べます。NGOが手掛けるフェアトレード製品にも注目。今冬からは、環境と健康のために、テント内では全面禁煙になりました。

マーケットにはもちろん、美味しい屋台もあります。今回は50店のうち2割が初めての出店。どの店も直接生産者から仕入れたビオ製品を使用しているので、各国、各地方から集まったオリジナルの味を堪能できますよ。

子ども向けイベント

子供向けイベント期間中、劇や工作、コンサート、朗読会など、さまざまな子ども向けイベントが開催されます。家族で行っても飽きさせない充実ぶり。期間中、何回も訪れてしまうかも。

★ クリスマス工作教室
会場を飾り付けしたりクリスマス用の衣装を縫ったり、各国のクリスマスグッズを手作り体験できます。
開催日時 月~金14:00-19:00、 土13:00-19:00、日12:00-19:00
料金 無料
★ ニコラウスがやってくる!
ニコラウスが大きな袋を持って、みんなにプレゼントを持ってきますよ。
開催日時 12月6日(木) 14:00-19:00
場所 Performance-Platzl
★ ビオの製パン体験
ビオのパン屋さんが、どうやってクリスマス・プレッツヒェン(クッキー)が焼きあがるかを見せてくれるイベント。さらに、ミュンヘン市の環境・健康担当者が、自慢のお手製クッキーのレシピを教えてくれます。
開催日時 12月15日(土)14:00-18:00
大晦日のカウントダウンパーティ

カウントダウン真夜中少し前から始まるカウントダウンパーティ。Tollwoodの会場3カ所で、ダンスやライブミュージックで盛り上がりながら年越しするのもオツなもの。盛大な花火もあります。きっと思い出に残る時間を過ごせるはず。

入場 19:00
ライブ演奏 21:00
料金 通常 17ユーロ
割引 14.5ユーロ
オンラインでのチケット予約の場合 20.55ユーロ


INFORMATION
開催期間 11月28日(水)~12月31日(月)
※12月24日(月)はお休み
アイデアマーケット
開催期間 11月28日(水)~12月23日(日)
月~金14:00-24:00、土日11:00-24:00
場所 Theresienwiese
料金 アイデアマーケットは入場無料
チケット予約 Tel 0700-38385024(オンラインでも予約可能)
WEB www.tollwood.de
最終更新 Montag, 02 September 2019 17:28
 

ベルリン州立バレエ団プリンシパル・ダンサー 中村祥子

中村祥子さんインタビュー

タイトル写真:2007/08シーズンのオープニング記念公演『ドン・キホーテ』にて(2007年9月)

日本人であることの強み、それは「まじめさ」です。

世界中から優秀な逸材が結集するベルリン州立バレエ団で、今年からプリンシパルを務める中村祥子。16歳でドイツの地を踏み、バレリーナにとっては致命的なじん帯を断裂するという苦難な時代を乗り越えたいま、世界で最も輝いているバレエ・ダンサーの一人となった ──。

中村祥子さん中村祥子 (なかむら・しょうこ)
1980年1月20日生まれ。佐賀市出身。6歳よりバレエを始め、96年にローザンヌ国際バレエコンクールでスカラシップ賞を受賞、同年シュトゥットガルトのジョン・クランコ・バレエ学校に留学。98年、シュトゥットガルト州立劇場バレエ団に入団するも、練習中にじん帯断裂の大けがをし退団。リハビリ生活を余儀なくされるが、2000年、ウィーン国立歌劇場バレエ団に入団。02年同バレエ団ソリストに昇格。06年ベルリン州立バレエ団へソリストとして移籍。07年、同バレエ団プリンシパルに昇格。

ベルリン州立オペラ座におけるジゼルの第2幕。幽玄な舞台に、中村祥子がまったく重力を感じさせず宙に浮いているように登場した。

彼女が演じる「精霊の女王ミルタ」は、生身の人間ではなく空中に漂う霊的存在。冷ややかで感情を決して表に出すことがないこの役は、ダンサーが最も敬遠するキャラクターだという。青白い月光の中で舞う中村の表情には、冷淡さの中にも人間の移ろいやすい心、愚かさをもすべて透かした慈悲愛のような情感が感じられた。

「ああいうミルタを踊った人を初めて見たよ、とバレエマイスターから言われたときは嬉しかったですね。伝統芸能である能に代表されるように、日本人は極限まで感情を抑えた表現形式が得意なのかもしれません」と、中村は思いついたようにふと漏らした。

16歳でシュトゥットガルトへ

ベルリン州立バレエ団のプリンシパル(バレエ団の最高位)である中村は、熊川哲也や吉田都の次世代に当たる、活動拠点を海外に置く日本人ダンサーだ。バレエほど、容姿と実力が明確にさらされる芸術はない。まっすぐな骨格とバランスのとれた肢体を持った欧米人の中で、日本人としての資質を生かしながら活躍している。

中村が初めてドイツの地を踏んだのは、16歳のとき。1996年にローザンヌ国際バレエコンクールでスカラシップ賞を受賞し、シュトゥットガルトのジョン・クランコ・バレエ学校に留学したのがきっかけだ。

「バレエをやるつらさよりも、ホームシックで毎日泣いていましたね。でもほかの留学生も、スペイン人とかアメリカ人とか外国人ばかり。同じようにホームシックにかかっていたんです。バレエの場合、同じ目標を持ってやっているので、伝えたいという気持ちがあれば通じ合えるんです。3カ月ほどすると、みんなとも仲良くなってドイツで生活するのが楽しくなってきました」

98年には順調にシュトゥットガルト州立劇場バレエ団へ入団。しかし練習中にじん帯断裂の大けがに見舞われ、日本への帰国を余儀なくされた。

「あの時期は本当につらかったですね。自分の足ではないような感覚になってしまって、バレエを断念せざるをえないのかもと、何度も思いました。でも、途中であきらめることは自分から捨てることになるから、最後までがんばりなさいと両親が励ましてくれたんです。それがなかったら落ちてしまったかもしれないですね」

「バレエは本当に孤独な世界なんです。毎日が自分との闘い。あきらめることも怠けることをも制して、自分を追いつめていかなければならない。つらいけど、極限の状態でどうかんばるかで、その人の道ができてきてしまうんです」

日本食を自分で作ったり体調を管理したり、普通に暮らすだけでも海外生活は大変なことが多い。しかし、一番厳しいと感じられるのは、主体性が求められる個人主義の国ドイツで、徹底的に自己管理が各自の責任に委ね られている点だという。

「今の生活はほとんど劇場にいて、トレーニング、リハーサルという踊りだけの毎日です。それ以外にもマッサージをしたり、トゥシューズをかがったり、次の作品を観て研究しなければならないし、寝不足だと体力が出ないのできちんと休まないといけない。料理をする時間はほとんどないですね。

リハーサルでも、90人ぐらいのダンサーがいるので、一人ひとりが見てもらえるわけではありません。自主的に自分のパートをリハーサルしなければならないんです。だれかが見てくれて、音楽が流れてと、セッティングされているのではない。手を抜こうと思えばいくらでもできるけど、そこで自分にムチを打ってやらないといけない。どの芸術でも結局は同じなんでしょうけど、一人でやろうとすると、力が必要ですよね」

舞台の上には魔法がある

『Sylvia』で主役シルヴィアを踊る
『Sylvia』で主役シルヴィアを踊る
(写真・Enrico Nawrath)

もがきながらも、自分が信じるものに向かって一心に突き進む凛としたすがすがしさ。中村の中にも、バレリーナ独特の血が流れている。おっとりした性格と、現代的でさばさばとした雰囲気。質問に対して言葉を選んで話す誠実さと、170センチ以上の長身からくる舞台映えのする華やかさ。日本人独特のきめ細かな心配りと、海外生活で体得した自己プレゼンテーション能力。相反するさまざまな要素を内包した中村には、ダンサーとして、多面的な役を表現できる可能性が感じられる。

現役ダンサーの中で最高峰と称されるシルヴィ・ギエムは、バレエへの想いを「愛という言葉では足りないすべてを焼き尽くす情熱」と表現した。6歳のときに、女の子は姿勢がきれいだといいからと両親に勧められて始めたバレエ。いつしか中村は、バレエの魅力に取りつかれていた。

「踊ること、舞台に立つことが好きで、最後まであきらめずやり尽くしたいんです。私はもともと骨格的にはバレエ向きではないですけれど、踊るのが本当に好きなんですね。衣装を着て舞台に出るとスイッチが入るんです。音楽が流れて一歩舞台に立って光を浴びると、普段の自分では考えられない大胆さやエネルギーが出てきて、自分でなくなってしまう。実際に経験はなくても、舞台の上では役になりきって恋もできるし、男性を誘惑もする。何かが合わさるというか、出てくるんです。舞台の上には魔法がありますね。私は普段はぼーっとしていると言われるんですが、それだからこそ、お姫さまになったり白鳥になったり別のものになれる楽しみがあっていいんじゃないのかなと、最近思います」

日本人にしかできない“白鳥”もある

古典作品からモダンまで幅広いレパートリーをこなす中村だが、思い入れがある役柄といえば、『白鳥の湖』の「オデット/オディール」だろう。これは2003年にウィーン国立歌劇場バレエ団時代に抜擢されたデビュー作で、ウィーンのバレエ団史上、日本人が同作品に主演するのは初めてのことだった。

「初めて全幕を踊った作品で、苦労しました。ダンサーはいつも鏡を見て練習するんですが、自分がアジア人だからどうしても西洋人と比べてしまって踊る意欲がわいてこないんです。振りは入っていても、白鳥になりきれていなくて、本番前日まで悩んでいました。それが本番になって音楽が始まると、すっと入り込めたんです。日本人らしい繊細さが白鳥に合っていたと言われて、そういう解釈もあるんだ、日本人にしかできない白鳥もあるのかと気づかされました。

役の解釈も、踊り込んでいくうちに変わっていきます。白鳥が飛んできて湖に降り立つ場面がありますが、最初は、白鳥は魔法で変えられた王女の姿だから、ただ悲しい気持ちで踊っていました。でも、もしかしたら白鳥は普通に私たちが生活をしているように、朝起きて伸びをして、白鳥としてずっと生きていかなければならない現実を受け入れて生活しているんじゃないかというように、白鳥のもっと深い心情がわかるようになってきたんです」

06年には、男性舞踊家の金字塔ウラジーミル・マラーホフが芸術監督を務めるベルリン州立バレエ団へ移籍。マラーホフとはウィーン時代から面識があったので直接電話でアプローチしたところ、快諾の返事をもらった。

「マラーホフさんが選ぶ素材が集まっているだけあって、ベルリンはダンサーのレベルが高いです。プロというのは、どんな状況下でも自分自身の踊りを見せていかなければならないんですけれど、ベルリンに来た当初は、みんなに実力を見せなきゃと意識しすぎて、自分の踊りを見失ってしまいました。あるとき、同じウィーンから移ってきたダンサーの同僚に『ウィーンではあんなにすばらしい踊りをしていたのに。いまの祥子は自分の踊りをしていない』と言われハッとしました。その子はシュトゥットガルト時代の留学生の一人だったんです」

踊るために生命を与えられた

バレエ・インペリアル
『バレエ・インペリアル』でローランド・サブコビッチと
(写真・Enrico Nawrath)

マラーホフが選んだプリンシパル・ダンサーとして、中村の踊りに世界が注目している。日本人であることの強みは何かという質問に「まじめさ」という返事が返ってきた。

「あきらめないこと。その少しの違いが、大きなプラスに変わるんです。バレエはどこまでやっても終わりがありません。自分が探せば探すほど、得るものがあるんです。まじめにきちんとする姿勢やあきらめない粘り強さを、ほかの日本人ダンサーにも見ることができますね。ヨーロッパのダンサーが決してまじめじゃないと言うわけではないんですが、バレエは少しのまじめさじゃ足りないんです。消耗していても、あと少しやる。体がついていかなくても、力を振り絞ってあとひとがんばりする。

周りが、祥子はまだやってるよとか、祥子にはバレエしかないとか、劇場の外に出てみなよ、バレエだけが世界じゃないよとか、囁いているのが聞こえます。でもそれを振り切って、喜んでもらえる舞台を作るために自分の意志を貫くんです。それがなければ今の私はなかったし、それをやめるときが自分がバレエをやめるときだと思います。祥子はできるからもういいでしょうと言われるけど、それは違うんです。みんなは見ていないかもしないけど、人が帰った後に練習したからそれができるようになったんです。

人生はバレエだけじゃない、バレエばかりやっていたら得ることがないというみんなの気持ちもわかります。でも私には、踊るために生きることを与えられたという使命感があるんです。だから自分を成長させたい。人に感動してもらえることは本当にすばらしいなと思います。そういう職を与えてもらえたことに感謝しています。いい舞台をありがとうと拍手をいただいたときの喜びや、人のために何かをしたいと思う気持ち。バレエをやらなかったら、こういう感情はわからなかったかもしれません」

街散策でエネルギー補充

一番の気分転換は、街を散歩すること。

「いろんなことを見てエネルギーを吸収しないと、リハーサルのときに使い切ってしまいますから。そんなときには、空や季節の移り変わり、風、草木、人を感じに街に出るんです。カフェに入って人間観察をしてみる。人の表情、動きだけでいろんなことが得られます。そうして自分の心を満たすことで、次の舞台へのエネルギーを貯められるんです。散歩の途中で花や建物を見てきれいと思う。それを素直に言葉にするようになりましたね」

研ぎ澄まされた感受性の透明さは、余分なものをそぎ落として求道する者の清らかさを思わせる。バレエは精神と肉体の総合芸術だ。踊りの技術だけでなく、ダンサー自身の思想、感性、人格など、生き方のすべてが踊りに反映する。

海外で生きることで、育まれ完成されていく中村の舞踊の世界から、目が離せない。

(インタビュー、文・荒井剛)

ベルリン州立バレエ団とは?
“世界のプリンス”として名高いウラジーミル・マラーホフ (Vladimir Malakhov)が率いるドイツ最大規模のバレエ団。2004年にベルリン州立歌劇場、ベルリン・ドイチェ・オーパー、ベルリン・コーミッシェ・オーパーの3つの歌劇場バレエ団が統合して誕生した。古典の大作から現代作品まで幅広いレパートリーを持ち、世界中から才能と魅力に溢れたダンサーが集まっている。

中村祥子さんの公演情報
11月23日(金)19:30開演 『Apollon Musagète(邦題=「アポロ」)』Kalliope役
11月24日(土)19:00開演 『Afternoon of a Faun(邦題=「牧神の午後」)』
11月28日(水)19:30開演 『Apollon Musagète』Kalliope役
12月1日(土)19:00開演 『Afternoon of a Faun』
12月2日(日)18:00開演 『Apollon Musagète』Kalliope役
12月6日(木)19:30開演 『Dornröschen(邦題=「いばら姫」)』オーロラ姫役
12月18日(火)19:30開演 『Sylvia(邦題=「シルヴィア」)』シルヴィア役
12月25日(火)19:30開演 『Sylvia(邦題=「シルヴィア」)』シルヴィア役

※ 詳しい情報は、ベルリン州立バレエ団のホームページで。 www.staatsballett-berlin.de

最終更新 Freitag, 30 August 2019 16:30
 

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