Hanacell

旧東ドイツの塩ビール

来る11月9日、ドイツを東西に分断していたベルリンの壁崩落から25周年を迎えます。ベルリンでは大規模な記念式典の開催が予定されており、準備が着々と進んでいますね。

1989年の壁崩落は多くのドイツ人に希望をもたらしましたが、これによって思わぬ危機に立たされたのが旧東ドイツのビール醸造所です。旧東ドイツでは物資の不足や嗜好の理由から、ビールに砂糖やデンプン、ハーブが添加されることがありました。ところが、東西ドイツが統一され、実質的に東側が西側に吸収合併されるようになると、「ビール純粋令」が適用されていきます。これは、ドイツビールの美味しさと安全性を保証するためにビールの原料を大麦麦芽とホップ、水、酵母に限定するとした法律。これが適用されたことにより、多くの醸造所が副原料の使用を中止するか廃業するかを迫られる中、困ったのはそれまで伝統的に副原料を使っていた醸造所です。

昔は平たいボディに細長いネックのボトルに詰められていた。
ラベルにも描かれている
昔は平たいボディに細長いネックのボトルに詰められていた。
ラベルにも描かれている

その代表的なビールが「ゴーゼビール」。ハルツ地方のゴスラーという町で中世から造られていた、塩を加えたビールです。原料は大麦麦芽とホップのほかに小麦麦芽を使い、味付けにコリアンダーなどの薬草を加えて大量の塩を投入します。そして発酵には乳酸菌の力を借りるという、世界的にも珍しいビール。味はヨーグルトのような酸味とオレンジのようなフルーティーさを持ちつつ、塩気も加わって、ビールとは思えないまろやかさです。

ゴスラーの旧市街地とその近郊にあるランメルスベルク鉱山は、ユネスコの世界文化遺産に登録されています。ゴスラーでは、ローマ時代から銀や銅、鉛などの鉱物が採掘されていました。そして10世紀には鉱脈が発見され、大規模な採掘が行われていました。多量に汗をかく鉱山労働者にとって、ゴーゼビールは体から失われた塩分などのミネラル分と水分を補うのに最適な飲み物だったことでしょう。15~16世紀には各地に輸出されるまでになっています。

18世紀に刊行されたドイツビールの博物誌に、面白いくだりを見付けました。「ゴーゼは滋養に富んだ美味しいビールだが、慣れていない人の場合、下痢を引き起こす原因となる。飲み過ぎた者はホーゼ(ズボン)に注意せよ」。ゴーゼとホーゼを掛けた駄洒落です。ズボンが汚れてしまった原因は、おそらく乳酸菌に不慣れだったせいでしょうね。

このように長い歴史を持つゴーゼビールですが、現在は生まれ故郷のゴスラーよりもライプツィヒでよく知られています。ゴスラーは旧東西ドイツ国境の西側に位置しますが、ライプツィヒは東側にあるため、何度か途絶えそうになりながらも、ここでは技術が受け継がれたのです。とはいえ、東西ドイツ統一によってビール純粋令が適用されたことにより、大っぴらには販売できなくなっていきます。しかし、1993年にある転機が訪れました。それは、ビール純粋令が欧州連合(EU)の関税障壁と判断され、効力を失ったこと。今ではゴーゼはライプツィヒを中心に、いくつかの醸造所で造られているので、見付けたらぜひ飲んでみてください。

最終更新 Montag, 20 Oktober 2014 17:26  
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