医療
Medizinische Versorgung
病気になる前に知っておきたいドイツの医療事情
お話を聞いた人: 篠田郁弥先生(篠田診療所)
ドイツの病院の種類は三つ
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ドイツには大きく分けて三つの医療機関があり、それぞれ役割が決まっています。いざという時のために、まずはどんな医療機関があるのか、しっかり理解しておきましょう。
開業医院(Praxis プラクシス)
外来診療も含め、まずはプラクシスでの診察が基本。必要に応じて、専門医院やウニクリニック(後述)に紹介状を書いてもらう。ドイツでの診察は基本的に全て予約制。当日枠もあるが、後回しにされることもあるため、できるだけ予約を取っていくと良い。夜間や土日祝日などで緊急の場合は「Notfallpraxis+地名」でインターネット検索すると、近くの診療所を見つけることができる。
病院(Krankenhaus
クランケンハウス)
緊急の場合を除き、入院するための施設。プラクシスの診察で入院が必要になったら、クランケンハウスに移る。
大学病院(Uni-Klinik
ウニクリニック)
緊急の場合を除き、原則的にプラクシスやクランケンハウスからの紹介状を書いてもらい、診察してもらえる。
家庭医(ハウスアルツト)を見つけよう
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ドイツには、ハウスアルツト(Hausarzt)というかかりつけ医の制度があります。ハウスアルツトを見つけることは義務ではありませんが、さまざまなメリットが。例えば、「今日どうしたの?
顔色が悪いね」など、普段の状態と違うことに医師が気づきやすくなるのです。
特に持病がある人は、ドイツに来たらできるだけ早めにハウスアルツトを探しましょう。その際に、日本のかかりつけ医に書いてもらった紹介状を持参するのがベターです。「どういう診断で、どのような治療を、いつからいつまでしていたか」を医師に伝えると、その後の診療がスムーズになります。もしハウスアルツトになってもらいたい場合は、受診時に医師にその希望を伝えましょう。
受診する時の注意点
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自覚症状を説明する
例えば「貧血だと思います」は避けたい表現です。貧血は「ヘモグロビンの不足」といった定義が存在するため、本来は患者が判断できるものではありません。その代わりに、「立ち上がったらふらふらする」、「座っていてもふらふらする」など、自分で感じたことをそのまま伝えるようにしましょう。病名を判断するのはあくまで医師の仕事です。
同じように「この症状がしばらく続いています」や「微熱があります」というあいまいな表現も避けましょう。体温が何度あるのか、具体的にどのくらいの期間続いているのかを伝えると、医師にとって良い判断材料になります。限られた診察時間内で自覚症状や不安に感じていること全てを伝えるのが難しい時は、事前にそれらをメモしてから診察に臨むのも一案です。
できれば通訳の人と一緒に
日本人の医師がいなかったり、日本語通訳のスタッフがいない場合は、ドイツ語のできる方に同席してもらうのがベターです。自分の行きたいプラクシスを選ぶのは患者の権利なので、その希望が優先されるようにアレンジしましょう。また、ドイツの医師はできるだけ専門用語を使わずに患者に説明をするよう教育を受けており、一般的にある程度英語ができると考えられます。
ドイツでの風邪の考え方
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風邪をひいても薬はもらえない!?
「風邪」という言葉は、医学の教科書には全く載っていません。いわゆる風邪は、ウイルス性の感染のことを指し、基本的に自然に治癒するものだと認識されています。患者は臨床的問題点(倦怠感、痛み、咳、腹痛、熱など)を明確にし、対処法を聞くために病院を訪れるのです。国際的にもウイルス性感染症の場合には抗生物質は不要とされています(ウイルスには効かない上、新たに耐性菌の問題が発生するため)。ただし、合併症の場合はこの限りではありません。例えば、当院では点滴などの処置を行っています。また副作用などを考慮し、薬を厳選して処方しています。
就労不能証明書の発行
ドイツでは、患者が「Arbeitsunfähigkeitsbescheinigung(AU、就労不能証明書)」が必要だと申し出た場合、社会福祉法に基づいて医師が諸条件を考慮した上でそれを発行します。これは法的効力があり、企業主はこれを無視することはできません。いわゆる風邪で3日以上就労不可能な場合は、雇用主が保険機構から損失補填を受けるため、AUが必要になります。ですから、AUの発行が必要な時は医師に伝えましょう。なお、AUは実際の診察をもとに発行する証明書なので、診察以前の証明は通常不可能です。詳しく知りたい方は、社会福祉法をご覧ください。
体調不良の場合は出勤しない
風邪をひいてしまったけれど、どうしても外せない会議があるため出勤。ところが、同僚に「具合が悪いんだったら家に帰って」と言われてしまった……。特にドイツに来たばかりの方はこのようなカルチャーショックを受けることがあるでしょう。例えば、風邪をひいた1人が1週間休めば済んだはずのことが、風邪をひいた人が出勤したことでほかの人にうつしてしまい、全員が1週間休むことになってしまっては仕事になりません。これは疫学の考え方で、ウイルスの感染を今の時点でストップさせ、最小限にとどめる対策を打っているのです。
常備薬はひとまず「解熱剤」を
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もし1番重要な常備薬を上げるとしたら、解熱剤(Fiebermittel)でしょう。ちなみに、いわゆる風邪薬や鎮痛剤の主成分は解熱剤のそれと似ています。
例えば、熱があって水を飲む気力さえない場合は、解熱剤を飲みましょう。熱が下がって落ち着いたら、水を飲んでください。風邪では熱の有無だけにとらわれず、水分補給もお忘れなく。1日様子を見ても症状が改善されない場合は、診察してもらうようにしましょう。その際は、ドイツでは予約制の診療所が多いので注意してください。
新生活で気を付けたい病気
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待ちに待ったドイツでの新生活。しかし日本とは違う環境で、体調を崩しやすくなることも多々あるでしょう。ここでは、特にドイツに来たばかりの人が気を付けるべき項目をご紹介します。
新しい生活によるストレス
特に駐在員の場合は、引っ越し、職場環境が変わること、外国に行くこと自体……など、さまざまなストレスが一度にかかるものです。また、配偶者の異動に伴い、自身の仕事を辞めて急に専業主婦・主夫になったという人は、いきなり空いた時間ができることがストレスの要因となるケースも多く見受けられます。ストレスによってどんな症状が出るかは人ぞれぞれで、漠然と体調が悪いという人も。自分だけの問題と思わず、医師に相談しましょう。
シラカバによる花粉症
ドイツにはスギ花粉はありませんが、4~5月にかけてシラカバ(Birken)花粉が飛散します。日本では主に北海道にシラカバが生息していますが、それ以外の地域では見られないため、ドイツ在住2~3年目に発症する人が多くいます。花粉症の治療は、基本的に対処療法。長期にわたってドイツに住む場合は、アレルゲンを投与して治療する減感作療法という選択肢もありますが、治療には数年を要します。
ダニ脳炎
南ドイツやオーストリア、ポーランドなどでみられる病気で、病気を持ったダニに刺された場合にのみ発症します。WHO(世界保健機関)によると、日本でも北海道でダニ脳炎の発症例が。フランクフルトより南に在住あるいは旅行する場合は、予防接種を受けておくと安心です。
季節性うつ
日本の冬とは違い、寒くて長いドイツの冬。この時期は季節性うつ(別名冬季うつ/ Winterdepression)を発症しやすくなるため、注意が必要です。日照時間の少なさが原因とされており、対処法としては人工的に強い光を浴びる光療法が挙げられます。しかし、季節性うつではなく、前述のストレスによるうつなども考えられるため、まずは医師に相談することが望ましいでしょう。
ドイツの新型コロナウイルスの状況
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イタリアで新型コロナウイルスが感染拡大した時、ドイツではただちに退院可能な入院患者を帰宅させ、緊急の手術以外は日程を延期するなど、病床数を確保しました。これは政府からのお達しで、医療機関への経済的な支援があってこそ実現できたことです。また、もともと集中治療室の数が多く、医療崩壊を起こさずに重篤患者の治療に当たることができました。さらに、ドイツでは多くの検査を実施することでリスクのある人々を特定。入院患者は全体の20%といわれていますから、それ以外の感染者は基本的に家に待機させて感染拡大を防いでいるのです。
またドイツでは、専門家も現在分かっている事実が一部であることをきちんと認識して記者会見などを行っています。そのため、新型コロナウイルスの情報にはある程度透明性があるといえるでしょう。
なお、ドイツにおける新型コロナウイルスに関する日本語の情報は、在ドイツ日本大使館および領事館のホームページから確認できます。それぞれの連邦州によって規制も異なるので、各州のルールを守りながら感染対策を行いましょう。
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