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経済を支えるアウトバーン

ドイツ全国をくまなく結ぶ高速道路、アウトバーン。世界でも“速度無制限”、“全線無料”などとしてよく知られており、住民や旅行者にとって便利な交通網となっている。それだけでなく、ドイツがヨーロッパの中央に位置するという立地条件から、貨物輸送においても大きな役割を果たしている。今回は欧州の経済を支えるアウトバーンについて、経済的な側面から見ていこう。

連邦遠距離道路

アウトバーン(Bundesautobahn, Autobahn)の全長は1万2718キロメートル(2009年時点)。これは国内を走る全道路の総距離約23万キロメートルのうち、わずか5.5%を占めるに過ぎないが、交通量はなんと全体の33%にも及ぶ。6車線以上ある区間は延べ3000キロメートルを超え、多くの交通をさばくのに役立っている。またアウトバーンは、もう1つの全国的な自動車網、連邦道路(Bundesstraße)とともに、連邦遠距離道路(Bundesfernstraße)を形成し、その利便性をさらに高めている。連邦遠距離道路の全長は合計5万2921キロメートル、交通量は全体のおよそ半分だ。経済大国として欧州経済をけん引しているドイツ、そして位置的にも東西ヨーロッパを結んでいるドイツ。当地の遠距離道路はまさに、貨物輸送における欧州最大のトランジット網として、国内外の経済発展に重要な役割を担っている。

巨費投入と財政難

交通量の増加と経済成長に伴い、アウトバーンも発展を続けてきた。自動車の数は今後も増え続けるとみられ、また経済のさらなる発展も期待される。このためドイツ政府は毎年、連邦遠距離道路の拡張費、維持費などに莫大な費用を投じている。2009年の歳出額は、アウトバーンに39億ユーロ、連邦道路に30億ユーロで、総額69億ユーロ。今年は総額62億ユーロを見積もっている。また金融・経済危機の中、第1次景気回復策として9億5000万ユーロ、第2次景気回復策として8億5000万ユーロを、連邦遠距離道路への投資に捻出(ねんしゅつ)することも決めている。

しかし戦後最大の新規国債を発行し、深刻な財政難で歳出削減策が講じられる中、資金繰りは極めて困難なのが現状。しかし、だからといってアウトバーンへの投資を怠っては、好景気は見込めないという悪循環を招いてしまう。そこで検討されているのが、アウトバーン通行料(→用語解説)の徴収だ。アウトバーン通行料は現在のところ、道路に大きな負担をかける大型トラックに対してのみ課されている。ラムザウアー運輸相(キリスト教社会同盟=CSU)はこのトラック通行料を、4車線ある連邦道路にも導入しようと提案。これにより年間1億~ 1億5000万ユーロの収入増を見込めるとしている。

アウトバーンの未来

さらにトラックだけでなく、乗用車にアウトバーン通行料を課そうとする動きも進んでいる。全ドイツ自動車クラブ(ADAC)によると、1キロ走行当たり5セントの通行料徴収で、約250億ユーロの収入増につながる見通し。しかしADACはアウトバーン有料化に強く反対。理由として、赤字の埋め合わせには収入のうちのわずか40億~50億ユーロ程度しか回らず、財政難の解決にはつながらないこと、乗用車への通行料で運転手1人当たり年間最高700ユーロの負担増になり、自動車を手放さざるを得ない人が出てくること、これによりかえって経済に悪影響を及ぼすことなどを挙げている。

アウトバーン有料化に反対する意見としてはほかにも、住宅地付近など一般道路での渋滞を生じさせてしまうという指摘もある。これまでも有料化計画は幾度となく取り上げられており、そのたびに上記のような理由で却下されてきた。しかし財政難に陥っている今となっては、有料化賛成派も徐々に増え、有料化されればアウトバーンの交通量が減り、渋滞は緩和され、環境にも良いとするプラス面が強調されてきている。また、環境への配慮から、アウトバーンの時速制限を設けるよう求める声も多くなっている。経済発展のため、地球温暖化対策のため、そして財政建て直しのため、ドイツのアウトバーンは現在、変化を求められているといえよう。ほかの多くの国と同様、ドイツのアウトバーンが“速度制限付き”、“有料”となる日も近いかもしれない。

連邦遠距離道路の発展

Quelle: Deutscher Bundestag

ためになるアウトバーンの豆知識

■ ヒトラーとアウトバーン
アウトバーン建設計画はすでに1928年から始まっていたが、本格的に建設が進められたのは、ヒトラーが権力を掌握した1933年以降。このためアウトバーンは「ナチス時代の成果」「ヒトラーの遺産」とも言われる。

■ 速度無制限
場所によって、速度が制限されているところはあるが、アウトバーン全体の速度を規定するものはない。ただし時速130キロが“推奨”されている。

■ 路線番号の意味
1桁の路線番号(数字の前の「A」は「Autobahn」の略記)は州をまたがって走るもの。うち南北に延びる路線は奇数、東西に延びる路線は偶数となっている。
2桁は地域を走る路線。10番台はベルリン、ブランデンブルク州、メクレンブルク=フォアポメルン州など東部、20番台はハンブルク、シュレスヴィヒ=ホルシュタイン州など北部、30番台はニーダーザクセン州、ノルトライン=ヴェストファーレン州北東部など、40番台はライン=ルール、ライン=マイン地方、50番台はノルトライン=ヴェストファーレン州南西部、60番台はラインラント=プファルツ州、ザールラント州、ヘッセン州南部、70番台はバイエルン州北部周辺、80番台はバーデン=ヴュルテンベルク州、90番台はバイエルン州南部など。
また3桁表示のアウトバーンは、地域の大きな路線とつながっているもの。例えばA395は「A39 から枝分かれしている5番目のアウトバーン」という位置付けになる。

■ 最長路線
デンマークとの国境沿いエルントとオーストリアの国境近くフュッセンを縦に結ぶA7。全長963.6キロメートルで、シュレスヴィヒ=ホルシュタイン州、ハンブルク、ニーダーザクセン州、ヘッセン州、バイエルン州、バーデン=ヴュルテンベルク州を走る。

■ 最初のアウトバーン
1932年にケルン―ボン間を結んだ約20キロメートルの区間。現在のA555。

■ 最多交通量
1日の平均交通量が最も多い区間はベルリンを走るA100(Dreieck Funkturm - Kurfürstendamm)で、19万1400台。
(参考:Bundesanstalt für Straßenwesen: Manuelle Straßenverkehrszählung 2005)

■ 左側の出口
アウトバーンの出口は通常右側だが、バーデン=ヴュルテンベルク州A81のゲルトリンゲン(AS 27)、ベルリンのA100のシーメンスダム(AS 5)など、まれに左側に出口があるところがある。

■ 道路工事情報
アウトバーンの工事情報は随時、運輸・建設・都市開発省のウェブサイトで公開されている。渋滞に巻き込まれないよう、事前にチェックしよう(http://www.bmvbs.de/Service/-,373/ Baustellen-Informationssystem.htm)。

Quelle: wikipedia.de など
用語解説

通行料 Maut

アウトバーン建設費などを確保するため、2005年1月から導入された。課金対象はアウトバーンと交通量の多い一部の連邦道路を利用する12トン以上の大型トラック。料金は排気ガス量や車軸数によって、1km当たり0.141~0.288ユーロ。09年の収入は44億ユーロ強。

<参考文献>
■ Bundesministerium für Verkehr, Bau und Stadtentwicklung
■ Bundesministerium der Finanzen
■ Die Welt“ Lkw-Maut soll auch auf vierspurigen Bundesstraßen gelten”ほか

内田 由起子(うちだ・ゆきこ) 東京外国語大学ドイツ語学科卒業。在学中、卒業後とドイツを行ったり来たりしながら語学勉強を続けた後、英語ニュースの翻訳に携わり、ジャーナリズムの世界に入る。04年1月からハンブルク在住。渡独後は主に、ドイツニュースの発信に努めている。
最終更新 Mittwoch, 19 April 2017 13:21  
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