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Fr. 17. Aug. 2018

4月に値下げされた公共放送受信料とは何ものか

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「2015年4月1日、ドイツのいわゆる「公共放送受信料」が月当たり48セント減額された。電車の運賃が毎年のように値上げされ、昨年まで1ユーロで購入できていたはずのブレッツェルもそれでは買えなくなっているなど、見渡す限りどんどん物価が上昇している。そんな中、なぜ「公共放送受信料」は値下げされたのだろうか。その理由を探りつつ、「公共放送受信料」という制度の歴史と、今回の変更の背景について考えてみたい。

ドイツにおける受信料の成り立ち

日本には、NHKが徴収する「放送受信料」という、放送受信設備を持つ人が支払う費用があるが、同じようなものがドイツにも存在する。その歴史は1923年、ラジオに関する「放送受信機の設置および使用のための許可料(受信料)」の導入から始まったといわれる。その後、第2次世界大戦時のナチスによるマスメディアの濫用への反省から、公共放送はそれまでの国による管轄から州へと権限が移行した。

1950年にドイツ公共放送連盟(ARD)が結成され、放送受信機を持つ人々から「受信料」の徴収も引き続き行われた。「受信料」の徴収業務は、76年まで連邦郵便(Bundespost)が行っていた。その後、徴収業務の効率化を図るため、ARDに加盟する州放送協会が「受信料徴収センター(GEZ)」を設立し、徴収業務を引き継いだ。この当時の「受信料」は、制度の導入当初から続く「放送受信機の設置および使用のための許可料」という性格が色濃く残っていた。

その後、インターネットが普及し、PCや携帯端末でも放送を受信できるようになると、「放送受信機」の定義付けが難しくなってきた。そこでGEZは、従来の受信機(テレビやラジオ)のほかに、「受信機能を有する新装置(Neuartige Rundfunkempfangsgeräte)」というカテゴリを設けることで解決を図った。しかし、個人が受信機や受信装置を2つ以上持つなど、旧制度が現状と合わないことが明白になったため、2013年1月1日、それまでの「公共放送受信料(Rundfunkgebühr)」を「放送負担金(Rundfunkbeitrag)」として、問題の解決と料金の明確化および単純化を図った(詳細はニュースを追跡「ドイツにもある!公共放送受信料」27 April 2012 Nr. 916も参照)。

放送負担金制度が開始される以前、公共放送受信料は17.98ユーロであったが、新制度の放送負担金もその金額を踏襲した。しかし一方で2013年当時、徴収できる放送負担金の国全体の総額が不確定であったため、現状に合わせた金額と支払条件の調整を2015年に行うことを同時に取り決めた。

新しい制度の下、2013年の総徴収額が前年比2.5%増となったことが明らかになったため、2015年からの放送負担金の徴収額を減額して、総額を調整することが決定された。このような経緯から、「公共放送受信料」と呼ばれる放送負担金が月当たり48セント減額となったのである。

放送負担金の意味合い

「放送受信機の設置および使用のための許可料」であった公共放送受信料が、「放送負担金」と変更されたことで大きく変わったのが、その意味合いである。

この変更の骨格をなすのが、ハイデルベルク大学教授のパウル・キルヒホフ氏が2010年5月に提唱した「キルヒホフ鑑定書」である。その鑑定書によれば、費用の徴収の根拠を受信機所有とせず、公共放送によるサービスを享受する権利とすること、そして個人単位ではなく世帯単位で費用を徴収することが提唱された。これを踏まえて「放送負担金」制度が成立したのである。

国民の理解度と受け入れ状況

2013年に制度が変更された際、多くの人にとっては「受信料」の金額が変わらなかったため、新しい放送負担金制度は抵抗なく受け入れられたとされている。しかし一方で、受信料を免除もしくは減額されていた人で、制度変更後には支払うことになった放送受信機を持たない人や障がい者、負担が増えた企業などからは、「放送負担金制度は違憲である」として、訴訟が起きている。

執筆現在、どの裁判所からも「違憲判決」は出ていないものの、法律専門家の間では、徴収の公平性や、州と連邦政府の権限に関わる問題など様々な論点の議論が続いている。

公共放送のプログラムと目的

プログラム

プログラム

目的

杉内有介「世界の公共放送の制度と財源」報告(ドイツ)より

1. 個人および公共の自由な意見形成過程の媒体かつ要因として機能すること
2. 欧州・国内・地方の重要なできごとについての包括的な概観を提供すること
3. 国際的な相互理解,欧州統合,連邦と州の社会的な連携を促進すること
4. 情報,教養,生活情報,娯楽に役立ち,特に文化に寄与する番組を提供すること


私たちの生活と放送負担金

放送負担金の支払いについて

日本のNHKへの「放送受信料」について、「テレビを持っていないから」「皆が支払っていないから(公平ではないから)」支払わないという主張がある。ドイツでこのような論理が通用するかというと、非常に難しい。

放送負担金制度導入にあたって、GEZを前身とするARD、ZDFドイチュラントラジオ負担金サービス(以下、負担金サービス)は、住民登録局から全ての住民の情報を入手して、GEZの登録データと照合。そして2015年末までに負担金サービスに「未登録」であった全世帯に2013年以降の未払い分についての請求を行っている。この際、放送負担金の支払いが免除・減額されるのは、個人の場合は、公的扶助などの受給者や重度障がい者、その他の特例のみで、いずれも公的文書による証明が必要だ。

正当な理由なく放送負担金が未払い状態であると州放送協会が認定した場合、その人は「負担金債務者」となる。その場合、州ごとの規定により異なるが、負担金のほかに延滞付加金、負担金徴収のために必要となる第三者から請求された費用、強制執行の費用、行政文書のコピーの作成と送付費用など、追加で支払い義務が生じてしまう。

放送負担金の支払いを停止するための方法

負担金サービスからの請求により放送負担金の支払いを開始した人が、帰国や転居など、ドイツ国外への転出、または結婚や同居の開始による世帯の合算を理由に、放送負担金支払を停止したい場合がある。その際は負担金サービスのウェブサイト(下記参照)にある解約届(Abmeldung der Wohnung/en)を出さなくてはならない。

なお、放送負担金の支払いを止めるために認められる理由は、ほかの負担金支払者の元に転居する場合(もう一方の負担金支払者の番号が必要)、長期間外国に転居する場合(住民登録局による証明書が必要)、支払いを行っていた人が死亡した場合(届出人は本人ではない)、複数の住宅を持ち、そのうち1つを手放す場合、老人ホームもしくは福祉住宅に転居する場合(フォーマットが異なる)、その他の場合である。記入した届出書は、郵送かFAXで負担金サービスに送る。その後、負担金サービスから解約を認めるという主旨の文書が届く。解約を確定する文書が届くまでは、解約が成立したとみなされないので注意をしてほしい。

用語解説

料金
Gebühr / Beitrag

Gebührとは直訳すると料金、手数料という意味であり、特に役所などの業務に関する世界では「実際に利用したサービスへの対価」との意味合いを持つ。一方Beitragについては、料金という意味ではGebührと同様だが、実際利用したかどうかとは関係無く支払う費用、つまり負担金という意味合いを持っている。Beitragと呼ばれるものの代表格は保険料などである。

<参考>
www.nhk.or.jp「NHK受信料について」
■ 「始まったドイツの新受信料制度―全世帯徴収の「放送負担金」導入までの経緯と論点―」『放送研究と調査』(2013年3月)杉内有介著
■ 『ドイツの新しい放送負担金制度 : インターネット時代の受信料制度』(2014年12月)齋藤純子著
■ 「世界の公共放送の制度と財源」報告(ドイツ)『NHK放送文化研究所年報2012』杉内有介著
www.ard.de/download/74354/index.pdf 「キルヒホフ鑑定書」
www.rundfunkbeitrag.de
www.welt.de Die Welt “Das ändert sich zum 1. April für die Deutschen”

今井民子(いまい・たみこ) 気が付けば在独10年以上、日独両企業に勤務した経験を活用しながら尽きることのない好奇心を持って読者の皆さんに分かりやすく面白いニュース追跡を目指しています。日本人らしさを忘れずにドイツで生きていくことが目標です。よろしくお願いいたします。

 
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