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「18歳選挙権」の先輩 ドイツの政治教育

2016年7月に予定されている参議院議員通常選挙より、選挙権を得られる年齢がこれまでの「20歳以上」から「18歳以上」に引き下げられる。これは昨年6月に公職選挙法が改正されたことによるもので、1945年の施行から70年ぶりの改正となった。そこで今回は、既に「18歳選挙権」を導入しているドイツでの子供たちへの政治教育の取り組みを見てみよう。

日本とドイツ投票率の比較

国立国会図書館の調査によると、199の国と地域のうち、約9割の176の国と地域で18歳までに選挙権が与えられている。ドイツがそれまでの21歳から18歳へ選挙権年齢を引き下げたのは1970年のことで、現在、一部の州では16歳から選挙権が与えられている。一方、日本はG7(主要7カ国首脳会議)では最も遅れて18歳へ引き下げが実現。OECD加盟34カ国中では韓国(19歳)を除き、日本を含む33カ国が18歳から選挙権を与えており、ようやく世界の水準に追いついたかたちだ。

次に、直近の両国の国政選挙の投票率を比較してみよう。

国際選挙における年齢別投票率
※日本:2014年12月、第47回衆議院議員総選挙、
ドイツ:2013年9月、第18回連邦議会選挙

両国とも20歳代の投票率が一番低いが、日本の32.58%に対して、ドイツは約60%、18~20歳の投票率はさらにそれを上回る約65%となっている。日本の総務省によると、全体の投票率は52.66%と戦後最低を記録した選挙で、約70%近くの若者が棄権している状況だ。選挙権年齢が引き下げられても、果たして18~19歳の新有権者(約240万人)が投票に行くかどうか、懸念されている。

政治教育センター

ドイツには、政府機関である連邦政治教育センター(用語解説を参照)とニーダーザクセン州を除く15州に州立政治教育センター(Landeszentrale für politische Bildung)がある。連邦センターは、戦前にナチスの台頭を許した反省から、政治的実情の理解を深め、民主主義の意識や政治参加意欲を高めることを目指し、政治的中立性を保ちながら、学校で使用する政治教育関連の教材を開発している。中でも、「授業での決断(Entscheidung im Unterricht)」シリーズ(1.50ユーロ)は人気があるという。

主人公が身近な社会問題に直面するという設定で、いくつかのテーマが用意されており、どのような対処方法を取るべきかといった決断の仕方を、生徒が自分自身のことに置き換えて考えていく。どのテーマにも、結論や正解はなく、あくまで生徒が自身の言葉を用いてクラスで話し合い、考えることを目的としている。

ボイステル・バッハ・コンセンサス
(政治教育三原則)

また、政治教育をめぐり、保守・革新の対立の激しかった1970年代に政治学者が論議を重ね、1976年「ボイテルス・バッハ・コンセンサス」と呼ばれる政治教育における三原則を導き出した。当時、バーデン=ヴェルテンブルク州の政治教育センターが政治学者たちを召集した会議で、主催者の一人が激しい議論の中に3点の合意点を見いだし、会議開催地名をとって命名された。

① 教員は、生徒を期待される見解をもって圧倒し、生徒が自らの判断を獲得するのを妨げてはならない。
→ 教師が自身の意見を述べることはできる。生徒の判断を妨げるような意見の押しつけのみ制限されている。

② 学問や政治の世界で議論のあるテーマは、授業においても議論があるものとして扱わなければならない。
→ 様々な対立する意見も紹介する。

③ 生徒が自らの関心・利害に基づいて効果的に政治に参加できるよう、必要な能力の獲得が促されなければならない。
→ 生徒が自身で考え、自身の言葉で意見を発言できるようにしていくことが大事。

身近なテーマで議論することも大切

ドイツの学校には①「学校会議」、②「調停者」という制度が存在する。①は校長・教員・生徒・保護者・外部のメンバーで構成され、学校運営全般に関わるテーマを議論し、決定するというもの。②は生徒間で問題が発生した際に仲裁に入る生徒を指し、生徒が自ら問題解決を試みるというもの。解決が困難な場合は、教員の「調停者」に依頼することもできる。

以上のように、政治参加に必要な判断力と行動力を得るには、それぞれの学習年齢に合ったカリキュラムと、身近な問題から考え、解決に導く訓練をすることが大切だと考えられる。


日本における政治教育

私が受けた日本の政治教育は、政治関連の制度や知識の習得に重点が置かれ、現実のテーマを取り上げ生徒同士で議論するといった学習活動は積極的ではなかったように思う。今、18歳選挙権になったのを機に、日本の政治教育も変わろうとしている。文部科学省と選挙を管轄する総務省とが連携し、高校生向けに「主権者教育(社会に参加し、自ら考え、自ら判断する主権者を育てる)」を目指す参加型の副教材「私たちが拓く日本の未来」を公表。これ以外にも、総務省では3月末まで全国各地で、模擬選挙などを体験できるワークショップを開催している。

16歳に選挙権を与えるドイツ

ドイツには、16歳に選挙権を与えている地域があるので、下記にご紹介する。
・州・市町村選挙:ブランデンブルク州、ブレーメン州、ハンブルク州、シュレスヴィヒ=ホルシュタイン州
・市町村選挙:バーデン=ヴュルテンブルク州、ベルリン、メクレンブルク=フォアポンメルン州、ザクセン州、ノルトライン=ヴェストファーレン州、ザクセン=アンハルト州

世界各国・地域の選挙権年齢

選挙権年齢(国数)国 名
16歳(6) アルゼンチン エクアドル
オーストリア キューバ
ニカラグア ブラジル
17歳(3) インドネシア 東ティモール
朝鮮民主主義人民共和国
19歳(1) 大韓民国
20歳(4) カメルーン 台湾
ナウル バーレーン
21歳(8) オマーン クウェート
コートジボワール サモア
シンガポール トンガ
マレーシア レバノン

ここで、興味深いのは次の2点だ。
・インドネシア、ドミニカ共和国、ニジェールは既婚者であれば年齢に関係なく選挙権が与えられる。
・アラブ首長国連邦は、一般国民に選挙権はなかったが、2005年12月に連邦国民評議会の定数の半分に値する国民に参政権が認められた。しかし、有権者(25歳から)は各首長が選出した約2000人とかなり限定されている。政党は禁止。間接選挙。

用語解説

連邦政治教育センター
Bundeszentrale für politische Bildung 略:bpb

1925年に前身である「祖国奉仕センター」として西独ボンに設立。1963年に改称。第二次世界大戦後、ナチス独裁政権の反省から市民の政治参加の重要性が見直され、民主主義教育を目的としている。内務省の管轄。特定の政党に偏ることなく、政治的中立性を保つために、監査委員会が設置されている。ドイツの全政党から22名の議員が参加している。

 

<参考>
www.soumu.go.jp 日本の総務省
www.bpb.de Bundeszentrale für politische Bildung
www.bpb.de/shop/lernen/entscheidung-im-unterricht/
Entscheidung im Unterricht
■近藤孝弘「ヨーロッパ統合のなかのドイツの政治教育」
『南山大学ヨーロッパ研究センター報』第13号、2007年
■城繁幸、小黒一正、高橋亮平『世代格差ってなんだ:若者は
なぜ損をするのか?』PHP研究所、2010年
http://eumag.jp EU MAG 駐日欧州連合代表部 など 

筧 美恵子(かけひ・みえこ) 大学卒業後、婦人服のパタンナーとなる。その後一転し、電機メーカーにて主に輸出関連業務に10年間携わる。その頃からドイツとの馴染みが深い。2006年4月からニュルンベルク在住。幅広い視野を持って、分かりやすい記事の発信を目指す。健康のため、ジムで筋力トレーニングに日々励んでいる。

最終更新 Donnerstag, 16 Mai 2019 17:24  
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