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頻発する洪水 ドイツの取り組み

このところ、ドイツでは雷を伴う大雨が続いている。そして、その影響を受けて、特にドイツの南西部では死者が出るほどの洪水が相次いで起こった。ドイツはライン川やドナウ川といった欧州有数の河川がいくつも流れているという地理的な条件を持ちながら、なぜ毎年のように洪水が発生し、大きな被害が出ているのだろうか。今回は、ドイツの洪水の特徴や、行政による取り組みと対策についてみていきたい。

ドイツと自然災害

2016年5月30日からの数日間、ドイツ南西部は局地的に暴風雨に見舞われた。この暴風雨により河川の氾濫が起きたジムズバッハ・アム・イン、シュベービッシュ・グミュント、ユルバッハといった街は、数名の死亡が確認される惨事となった。

2013年の人口
150年以上前から設置されているベルリンのリトファスゾイレ

ドイツでは国土の地層学的、また地理学的特性として、地震や火山活動による土石流、津波などがほとんど起こらない。そのため、自然災害と言えば水害であることが多く、近年は特に頻発している。ドイツに流れているのは、7つの大きな河川。ライン川、エルベ川、ドナウ川、マイン川、ヴェーザー川、シュプレー川、そしてモーゼル川である。これらの河川が、大雨や雪解けの影響を強く受けることで氾濫が起こり、水害がもたらされる。

日独の河川を比較

日本の川は、短い距離を急こう配で駆け抜ける特性を持つ。例えば利根川は全長322kmで、標高差は1800mである。一方、ライン川は1320kmの全長に対して、水源から河口までの標高差は約1700m。つまり、ドイツの河川は日本と比べてゆっくりと流れる傾向があることが分かる。

そして、そのことが洪水の発生のし方の違いにも表れている。河川が氾濫した際、日本の川は「鉄砲水」と言われるような急激な増水により、あっという間に堤防が決壊し、浸水する。対するドイツの川は、ゆっくりと氾濫が進行するため、避難などの初動に対しては時間的な余裕がある。ただし、一端浸水したら、なかなか水が引かない。日本では深刻な浸水が続くのは数時間から数日程度である場合が多いが、ドイツでは、それが数週間に及ぶこともある。

次に、川の水量を決定する主な要素である降水量で比較してみよう。ドイツの気候は、北部に平野が多く、南部はアルプス山脈があるなど起伏に富むなど南北でかなり違うため、南北2カ所の数字を参照したい。

データ
阪急交通社ホームページよりデータを加工

表から分かるように、ドイツは日本と比べると降水量が少ない。しかし、ドイツ南部のアルプス山脈には氷河があるため、温暖化などにより氷河が溶けて川に流れ出ることも想定する必要がある。

また、洪水の発生時期については、日本では梅雨と台風による集中豪雨が原因である場合が多く、ドイツでは冬季の降雪および降雨によって河川の水かさが増すことが原因となることが多い。ドイツでは、増水や洪水などにより、自然に形成された「氾濫原」と呼ばれる平野が緩衝地の役目を担ってきたが、近年の急激な環境の変化や都市開発によって機能しなくなっていることも、重大な洪水被害が頻発している原因の一つだと考えられている。そのほか、両国の資料には共通して森林破壊が及ぼす影響に関しても述べられている。

洪水被害を出さないために

洪水に関する「土地利用規制」は、1957年に制定されてから改定を重ね、2009年に更改された「水管理法」の第六章「洪水防御」に具体的な考え方が示されている。簡単にまとめると、洪水に関する地域のリスク評価、及びそれに基づく地図と管理プランの作成が求められ、その評価により、州が「浸水地域」を認定する。「浸水地域」は、洪水の際の氾濫原として扱われ、例外を除いて「浸水地域」への新しい建物の建設は規制される。この「浸水地域」の認定については、6年ごとに見直され、浸水地域の変化にも対応。今後の洪水リスクへの積極的な予防的対策を行うとされる。

洪水の被害地域に対して、ドイツはどのような支援を行っているのか。ドイツの州政府および連邦政府が被害者に対して、緊急一時支援金を拠出し、支援していくケースがあり、また、保険で損害を補うこともあるが、災害で失ったものは、お金で解決できないこともある。被害が生じないよう、洪水に対して有効な予防ができる体制が整うことを切に望んでやまない。


災害時に活躍する技術支援隊という組織

川の氾濫や建物の崩壊など、災害が起こった際に事態を収束するため、日本では消防や警察、自衛隊が活躍する。ドイツではどの組織がその任務を担うのか。もちろん、消防、警察、ドイツ国防軍が任務に当たるが、それに加え、日本にはない組織も活躍している。

 THW

ドイツのテレビで災害関連ニュースを見ていると、下記のようなマークがついた、青い車両を見ることがある。ボランティアの市民参加が認めら れている連邦機関、技術支援隊(Techniker Hilfswerk=THW)である。THWは、1950年に当時の内務大臣らによって設立され、53年に内務省の管轄団体となった。現在では、全国に8万人以上、18歳から60歳までの有志が所属し、国内における緊急事態や国での人道援助に備えている。

ドイツで災害が発生した場合、ドイツ基本法[第35条司法共助および職務共助、災害救助]によって、第一に災害地域を管轄する州に対応が任され、連邦政府は州の要請に従って調整と支援を行う。THWは連邦機関であるため、州からの要請があれば、州の垣根を超えた範囲で人員が動員できるなど、自由に活動できる点が大きなメリットとされる。

またTHWは、①橋梁防護、②飲料水確保、③非常電力確保、④ポンプ出動、⑤堤防破壊、⑥水質保全、⑦化学物質流入対応、⑧油流入対応、⑨上水・下水処理場対応、⑩救出・探索、⑪輸送という水害に際して必要とされる知識や解決能力を持っている。そのため、効率的な活動により水害から地域や住民を守ることが可能となる。日本で同様な働きが可能なのは「河川管理者」や「水防団」に当たる組織だ。

 THW
今回の洪水への支援として飲用水を用意する隊員

損害
Schaden

Schadenは残念だという意味で良く利用されるが、損害や災害を指すこともある。嵐や暴風雨を指すUnwetterと組み合わせ「Unwetterschaden=暴風雨災害」となる。一方、「Schadenfreude(他人の不幸・失敗を喜ぶ)」という慣用句があり、その意味は「人の不幸は蜜の味」という意地悪なものとなる。

<参考>
■「欧米諸国における治水事業実施システム」財団法人国土技術研究センター
■「ライン川における総合治水計画と氾濫原の復元」池内幸司、 浅利修一、北田健夫、原田圭助、リバーフロント研究所報告 第10号、(財)リバーフロント整備センター
■ 「2002年ヨーロッパ水害調査 報告書」(平成15年3月)ヨーロッパ水害調査団
■ ドイツ水管理法における洪水抑制制度. Die Ausgestaltung des Hochwasserschutzes im WHG. アンネッテ・グッケル ベルガー(ザールブリュッケン)(翻訳 磯村篤範)
www.thw.dede.html ほか

今井民子(いまい・たみこ) 気が付けば在独10年以上、日独両企業に勤務した経験を活用しながら尽きることのない好奇心を持って読者の皆さんに分かりやすく面白いニュース追跡を目指しています。日本人らしさを忘れずにドイツで生きていくことが目標です。よろしくお願いいたします。

最終更新 Dienstag, 01 August 2017 13:12  
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