Hanacell
Edgar Wilkening

企業の物語作りを手伝う
戦略アドバイザー

大切なのは、自分の殻に閉じこもらず、
誰とでも何かを語り合うきっかけを作ること

今回の仕事人
Edgar Wilkening
エドガー・ヴィルケニング

Strategische Kommunikationsberater, Autor(企業戦略アドバイザー、作家)。オスナブリュック大学在学中、コピーライターとして働くうちに仕事が本業に。大学を中退し、フリーランサーの脚本家、CMディレクターとして才能を発揮。2000年に個人事務所「ビッグ・アイデアズ」を設立し、企業戦略アドバイザーとして活躍中。

事務所名が象徴するように、エドガー・ヴィルケニング(53)の頭の中は尽きないビジネスアイデアで溢れている。ハンブルクで大成功を収めたポップアップレストランは、一般に知られた彼の企画の一例だ。企業戦略アドバイザーとは、どんな仕事なのだろう。この職業の内側に迫ってみた。

キションの小説に魅せられて

エドガーはビーレフェルト近郊の農村生まれ。父は公務員、母は事務職。村には彼の興味を満たしてくれるものは何もなかったという。しかし、12歳を過ぎた頃から自宅の書棚にあったイスラエルの作家エフライム・キションの風刺小説を読むようになり、その虜になる。やがて、自分もこんな面白い小説を書いてみたいと強く思うようになり、実際に小説を書き始めた。

「でも、両親に学校を出たら何になりたいかと聞かれ、小説家になりたいとは言えなくてね……。親の期待を裏切りたくなくて庭師になると言ったんだ」。ギムナジウムを卒業して非軍事役務(Zivildienst)に就いた後、2年間庭師修業をするが、やりがいを感じられず、大学へ進むことにした。

コピーライターから企業戦略アドバイザーへ

大学の文学部に入学し、副専攻でコミュニケーション学を選択。それが面白く、メディアの世界で働きたいと思うようになった。そうして大学の授業もそこそこに、広告代理店でアルバイトをするようになった。

広告コピーに始まり、CMディレクターなど、徐々に大きな仕事を依頼されるようになった。それが積み重なり、1つのプロジェクトを企画から任されるようになった頃、大学を辞めて独立した。1990年に出版社や広告代理店が集中するハンブルクに引っ越したのは、当然の成り行きだった。

「建築に例えるなら、コピーライターの仕事は石を上手く積み上げる作業。でも、どのように石を積むかというコンセプトを考えるのは別の人間。さらにその上には、どんな家を建てるかという建築家の大きな理念がある。企業戦略アドバイザーというのは、その根本理念に深く関わる」。彼は石を積む仕事から始め、建築家の助言者に当たる企業戦略アドバイザーになった。

「例えば、いかにブランドの価値やイメージを高めるかといった課題に取り組む場合、企業戦略を考えざるを得ない。ある企業のトップと一緒に会社全体を見直し、その核心に関わる仕事は、クリエイティブでとても面白い」。2000年に個人事務所を構えてからは、常時、複数のプロジェクトを掛け持ちしている。進行中のプロジェクトのほとんどが長期的な仕事。例えば、中規模の印刷会社が生き残るためのイメージアップの仕事などを請け負っている。「これまで、仕事はすべて口コミで舞い込んできた。僕の仕事に宣伝はいらない。良い仕事をすることが一番の宣伝で、それが次の顧客に繋がっていくんだ」と語る。

企業の物語作りを手伝う

「企業が成功するには、膨大な量の知識が必要だ。それは通常、起業した社長が持っている。そして大抵の企業には、確固とした理念やストーリーがある。でも、一方でそういうことを一切考えてこなかった企業もある。僕のクライアントはそのような中小企業」。何千というドイツの中小企業の中には、可能性を秘めた会社がいくつもあると、エドガーは考える。

彼は1990年代頃から会社というものはどうあるべきか、ある会社が成功するのかなぜなのかということを意識的に考えて続けてきた。そうして解ったのは、成功のポイントは宣伝の上手下手や広告に掛ける費用ではなく、企業自体が核心を見極めているか否かにあるということ、つまり企業が自分探しをしているかどうか、他者に語れるストーリーを持っているか否かにかかっている。「企業がストーリーを語れば、共感した人々がそれを仲間に語り始め、その企業は人々の間で話題になる。そうなれば理想的だ。僕は岐路に立たされている企業が正しい道に進めるよう手助けをするだけ。ストーリーを見付けるのは企業自身なんだよ」。

趣味の料理もビジネスに発展

料理が趣味というエドガーは、数年前から仲間と一緒にポップアップレストランを開業している。1回の営業期間は1週間で、今のところ年1回ペース。休暇中のカフェやビストロをレンタルしての店開きだ。「ハンブルクには5000軒以上のレストランがある。新しい店を開業するというのは大きな挑戦だ。ほかの店にはない個性が必要で、それが他店とかけ離れていればいるほど、成功のチャンスは高い」。

レストラン名は「7つの大罪(Die Sieben Sünden)」*1。キリスト教の7つの大罪をテーマとし、個々の料理に物語性を持たせた。例えば『暴食』は、パスタ料理をわんこそばの要領で客が「ストップ」と言うまで少量ずつ延々と提供する。『憤怒』は鯛の塩釜焼きに小さなハンマーを添え、客に憤怒して叩き壊してもらうという趣向。宣伝費はゼロ、フェイスブックで呼び掛けただけだったが、連日予約で満席になった。

「7つの大罪」にて
ポップアップレストラン「7つの大罪」で得意の料理の腕を振るう

「本業では仕事の結果が出るまでに何年も掛かるけれど、レストランでは客の反応が刻々と判るから面白い」。遊び心で始めた企画だが、ベルリンやミュンヘンからも開業依頼が舞い込み、こちらもビジネスに発展しそうだ。「たった1週間の営業だから、金儲けにはならない。でも、どうせやるならプロの仕事をしようと思った。このレストランの企画には、僕の本職に通じるものもあるしね」。

エドガーは、小説家になる夢も捨てなかった。彼の短編小説は、2冊の短編小説集に収録され、この秋に出版される*2。いずれも食またはワインにまつわる話で、近い将来、自らの短編小説集を出版したいという。「僕にとって大切なのは、自分の殻に閉じこもらず、誰とでも何かを語り合うきっかけを作ること」。今秋からは、ソムリエのカルステン・ラーデと、ワインをめぐるカバレット(ドイツ式の寄席)も上演する。脚本はもちろん、エドガーが手掛けている。

*1「 傲慢」「嫉妬」「憤怒」「怠惰」「強欲」「暴食」「色欲」の7種類の料理が提供された。
*2 「Weihna cht en mit derbuckligen Verwandtschaft」(Rowohlt Verlag)と「Mordsküche」(Der Kleine Buch Verlag)に短編が収録されている。

BIG IDEAS | Edgar Wilkening
Paul-Roosen-Straße 32, 22767 Hamburg
www.bigideas.de

 

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岩本順子(いわもとじゅんこ) 翻訳者、ライター。ハンブルク在住。ドイツとブラジルを往復しながら、主に両国の食生活、ワイン造り、生活習慣などを取材中。著書に「おいしいワインが出来た!」(講談社文庫)、「ドイツワイン、偉大なる造り手たちの肖像」(新宿書房)他。www.junkoiwamoto.com
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