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Oliver Was­ser­mann
So. 22. Sep. 2019
Naima Hakim

編み物好きのための
サロンを生んだ毛糸店

経営に不安はあったけれど、
編み物好きのコミュニティーに支えられてきた

今回の仕事人
Naima Hakim
ナイマ・ハキム

モロッコ生まれ。5歳の時にドイツへ移住。専門学校でビジネス外国語を学んだ後、約20年間秘書職に従事。辞職後、大好きな編み物に関わる仕事で独立することを決意。2009年にインターネットの毛糸店を開店。翌2010年、毛糸店と、編み物をして過ごせるカフェをドッキングさせた「mylys(マイリーズ)」をオープンした。

ナイマ・ハキム(45)と出会ったのは、今からもう20年近く前、彼女がまだアニメ制作会社で秘書として働いていた頃のことだった。その後、しばらく音信が途絶え、再会したのは5年ほど前。これまでにないタイプの毛糸店を立ち上げたいと、準備を始めたばかりの彼女から、日本の編み物の本を入手するにはどうすれば良いかと、相談を受けたのだった。

編み物ばかりしていたドイツの祖母

ナイマの父親はモロッコ人、母はドイツ人。幼少時にドイツへ移住し、母親、母方の祖母と一緒に暮らした。「祖母は編み物から刺しゅうまで何でもできる人で、私の服はすべて彼女の手作りだった。母が働きに出ていたので、子どもの頃の思い出と言えば、ソファで編み物をしていた祖母の姿ばかりが浮かぶの」。  

ナイマは外国語を活かせる仕事がしたいと考え、レアルシューレ(実科学校)卒業後、ビジネス外国語(英・仏・スペイン語)を勉強。米国にも1年間留学し、戻ってから貿易会社で7年、その後アニメ制作会社で12年間、秘書職を務めた。長年、秘書業務に就いていたおかげで、物事をオーガナイズする能力が磨かれた。彼女自身も、秘書の仕事がとても気に入っていたと言う。「でもね、会社勤めばかりだと変化が欲しくなるの。自分にはほかに何ができるんだろう、何がしたいんだろうと、常に頭の中で自問していたわ」。彼女が何より好きだった編み物が、後に仕事へと繋がっていく。

徹底的に調査し、じっくりとコンセプトを練る

やがて、勤めていた会社の経営が傾き、辞職。編み物に関わる仕事を始めようと、本格的に始動した。1980年代、ドイツでは編み物が流行し、ナイマも当時、夢中になって編んでいた。あれから30年、ドイツの編み物文化の実態はどうなっているのだろう? ナイマはまずインターネットで編み物関連のフォーラムやコミュニティー* に参加し、リサーチを開始。得意の外国語を駆使し、各国の編み物事情も調べた。そうして、ドイツが世界的なトレンドから取り残されていることを知る。「他国では素敵な毛糸が手に入り、洗練された編み物の本が出版され、古臭いイメージが全くない。なのにドイツでは、編み物は老人やエコ・フリークの手仕事としか思われていなかったの」。ナイマはハンブルクに当時12軒あった毛糸店を巡り歩いたが、ピンと来る店がなく、「それなら自分で店を開こうか」と思うようになった。  

その後もナイマは、自分が考えるタイプの店に需要があるのかどうか、調査を続けた。編み物人口はそれほど多くないため、市場規模を知ることが重要と考え、4週間の起業セミナーにも通った。「ビジネスプランを立てるという課題が難しかったわ。私は経営に関しては全くの素人、最初は何をどう計算すれば良いかすら分からなかった」。その上、苦労して立てたビジネスプランは講師たちに全く評価されなかった。「毛糸店なんてお遊びの延長で、ビジネスとはみなしてくれなかったのよ。当時は手作りなんて話題にもなっていなかったしね」。しかし、その後まもなくドイツに手作りブームが起こり、手作り商品を売る店が増える。ハンブルクでは2010年から「Hello Handmade」という、無名デザイナーたちがハイレベルな手作り商品を出展する見本市まで始まり、盛況を呈している。  

自営業には経営能力も問われる。「店舗の運営には組織力も必要。でも、起業セミナーでは参加者個人の長所や短所といった根本的で大切な問題には踏み込んでくれないから、自分でその辺りを見極めることができず、失敗する人も多い」そうだ。  

「ほかとは違う店を開きたかった」と言うナイマ。「行けば必ず欲しい毛糸が見付かり、いつでもアドバイスを受けられる店。創造力を掻き立てられ、友人を連れて行きたくなるような店をね」。店舗のコンセプトも考え尽くした。

編み物好きが集まる場所づくり

ナイマはオンライン・ショップと店舗を同時に開店するつもりだったが、店舗探しが難航し、先にオンライン・ショップを開くことに。物件を探す一方で、試験的に開いたポップアップ・ストアが大好評を博した。「レンタルブティックを3日間借りて開店してみたら、驚くほど手応えがあったの。この時、店を開いても大丈夫だと自信を持つことができた」。  

mylys店内。カフェは右隣にある
mylys店内。カフェは右隣にある

その頃、ナイマは毛糸店に編み物ができるカフェを併設するという考えに取り憑かれていた。会社員だった頃、カフェでよく友人と編み物をして過ごし、なじみのカフェで編み物好きが集まるイベントを主催したこともあったからだ。やがて彼女は、自分のコンセプトにぴったりの物件と出会う。それは隣り合わせの2店舗で、一方を毛糸店に、もう一方をカフェに改装。壁を取り払い、双方を行き来できるようにした。入口が2つあり、カフェだけを利用したい人も入りやすい。  

2010年春、予定より2年遅れてようやく開店。すっきりと明るい店内は、従来の毛糸店とは全く違うイメージ。奥のサロンでは、定期的に講習会などが行われている。隣のカフェに座ると、商品棚のカラフルな毛糸を見渡すことができ、インスピレーションが湧く。「店で過ごす時間はとても楽しい。だって、顧客から直接フィードバックをもらえるでしょ。でも、店を持てばそこに縛られる。客商売には向き不向きがあるわ」。  

現在はフルタイムとパートタイムを合わせた計3人のスタッフを率いている。「小売店で働いた経験がないから、経営に不安はあったけれど、編み物好きのコミュニティーに支えられてきたの」と言う。時間を掛けて手に入れた編み物好きたちとのネットワークが、彼女の財産だ。  

ナイマのカフェでは心置きなく編み物ができる。それまで家に籠っていた編み物好きが集まり、その輪はどんどん広がっていく。編み物をする人の姿に惹かれて来店する人もいるだろう。編み物カフェの原点には、祖母の記憶があるのかもしれない。

mylys
Weidenallee 12, 20357 Hamburg
Tel. 040-41498867
E-Mail: このメールアドレスは、スパムロボットから保護されています。アドレスを確認するにはJavaScriptを有効にしてください
www.mylys.de

 
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岩本順子(いわもとじゅんこ) 翻訳者、ライター。ハンブルク在住。ドイツとブラジルを往復しながら、主に両国の食生活、ワイン造り、生活習慣などを取材中。著書に「おいしいワインが出来た!」(講談社文庫)、「ドイツワイン、偉大なる造り手たちの肖像」(新宿書房)他。www.junkoiwamoto.com
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