都市ガイドシリーズ 16
1000年の歴史が息づく街ニュルンベルクの魅力再発見!
16の個性豊かな州からなるドイツ。歴史や文化はもちろん、言葉も食もそれぞれ異なる。そんな魅力たっぷりのドイツ各地の都市を、一つずつスポットを当てて紹介していく「都市ガイドシリーズ」。第16回目は、バイエルン州の第二の都市ニュルンベルクへ。帝国都市として繁栄したこの街はクリスマスマーケットでも有名だが、20世紀にはナチスの聖地になるなど、第二次世界大戦との関係も深い。そんなニュルンベルクをニュースダイジェスト編集部が実際に訪れ、その魅力をたっぷりとお届けする。
(文: ドイツニュースダイジェスト編集部・土井美穂、取材協力:ドイツ政府観光局)

ニュルンベルクってどんな街?

ニュルンベルクが初めて文献に記されたのは、1050年7月16日のこと。その後1219年に神聖ローマ帝国の帝国自由都市となった。1385年には皇帝選出の原則を定めた金印勅書がニュルンベルクで公布され、1424~1796年まで帝国宝器の保管場所にされていたなど、神聖ローマ皇帝とは特別な関係を築いてきた。15世紀後半から16世紀にかけて、ニュルンベルクは黄金期を迎える。貴族と商人たちによる貿易業、そして当時人口の50%以上を占めていたといわれる職人たちの手工業が、ニュルンベルクに経済的な繁栄をもたらしたのである。そしてこの時代には、画家のアルブレヒト・デューラーをはじめ、多くの芸術家や人文主義者、科学者がこの街で活躍した。
1806年の神聖ローマ帝国の終焉によって、ニュルンベルクはバイエルン王国へと併合される。もともと手工業が盛んだったことから、19世紀の産業革命によって製造業が栄え、南ドイツを代表する工業都市へと発展していった。同時に、中世の街並みや豊かな文化遺産によって、ニュルンベルクは古き良きドイツの象徴としての地位も確立していく。
しかし20世紀になると、ニュルンベルクが「ドイツ人精神」を象徴する場所として、ナチスに利用されることに。ヒトラーはこの地で党大会を開き、反ユダヤ主義政策の基盤となった「ニュルンベルク法」を制定。そしてドイツが敗戦すると、戦争犯罪を裁いた「ニュルンベルク裁判」が開かれた。第二次世界大戦中の二度の爆撃によって、旧市街の95%が破壊された。戦後、主要な建物のみが再建されたが、都市計画法によって新たに建てる建物も高さや屋根の形などの基本的な構造は戦前のスタイルが維持されることになり、今もなお中世の街並みを見ることができる。
現在も工業都市として知られるニュルンベルクでは、国内有数のクリスマスマーケットが開かれ、観光地としても人気が高い。この街が見せてくれるさまざまな表情は、1000年という歴史の重厚感を訪れる人に感じさせてくれるだろう。
参考:Historisches Lexikon Bayerns
アクセス
ニュルンベルク中央駅
Nürnberg Hbf
● ミュンヘン中央駅から
ICEで約1時間15分
● フランクフルト中央駅から
ICEで約2時間
● ベルリン中央駅から
ICEで約3時間45分(最短)
お得なカード
ツーリスト向け
ニュルンベルクカード
Nürnberg Card

市内交通機関が乗り放題になるほか、ニュルンベルク城やアルブレヒト・デューラー・ハウス、ニュルンベルク裁判記念館など、約30の観光スポットやミュージアムを無料で訪れることができ、一部の施設は入場料が半額になる。48時間有効で38ユーロ(6~11歳は12ユーロ)。オンラインで予約可能。
www.nurembergcard.com
※2025年11月時点の価格
ニュルンベルクのおすすめスポット
ニュルンベルクに旅行で来たり、引っ越してきたりした人はぜひ訪れるべき、おすすめスポットをご紹介。
Kaiserburg Nürnberg① ニュルンベルク城

街中の坂を上った先にある、巨大な砂岩の上に立つニュルンベルク城は、この街を見守ってきたランドマーク。ここから眺める旧市街の景色は、ニュルンベルクを訪れたら必ず見ておきたい。かつて神聖ローマ帝国の皇帝は都市から都市へと移動しながら各地域を治めており、この城は皇帝が滞在していた重要な皇居の一つに数えられる。ロマネスク様式の二重礼拝堂、深さ47メートルの井戸が見られるほか、武器のコレクションなども展示。なお城の一部はユースホステルになっており、古城ファンならぜひ泊まりたい。
Auf der Burg 17, 90403
www.kaiserburg-nuernberg.de
Handwerkerhof Nürnberg② ハントヴェルク・ホーフ

デューラー生誕500周年を記念してオープンしたハントヴェルク・ホーフは、中央駅前に位置し、ニュルンベルクの職人たちの息遣いが感じられるスポットだ。重厚な城壁に囲まれ、伝統的な錫工房や陶器工房が並び、まるで中世の街へタイムスリップしたかのような気分を味わえる。創業800年以上のBratwurst Glöckleinでは、元祖ニュルンベルガーソーセージを変わらぬ味で提供。フランケン地方の料理とワインを楽しめるレストランのほか、ブリキのおもちゃやレープクーヘンなどのニュルンベルク土産もチェックしよう。
Am Königstor, 90402
www.nuernberg.de/internet/handwerkerhof
Heilig-Geist-Spital③ 聖霊施療院

ペグニッツ川の上に立つ聖霊施療院は、1339年に商人のコンラート・グロスによって設立された病院と救貧院を兼ねた建物で、中世ドイツ最大の社会施設だった。また病院内の教会には400年近く、皇帝の戴冠のための帝国宝器が保管されていた。現在はフランケン料理が堪能できるレストランが併設されている。中庭のKreuzigungshofは、毎年夏に開催されるワールドミュージックの祭典「Bardentreffen」の会場としても使われており、こぢんまりとした雰囲気のなかでコンサートを楽しむことができる。
Spitalgasse 16, 90403
www.heilig-geist-spital.de
Hauptmarkt Nürnberg④ 中央市場広場

昔も今も買い物をする人々で活気づく中央市場広場では、アドベント時期にはクリスマスマーケットが開かれ、多くの観光客で溢れかえる。一方で、14世紀以前はユダヤ人が定住していたが、1349年に皇帝カール4世がユダヤ人の追放を認可し、ここでユダヤ人虐殺が起きたという悲しい歴史もある。後期ゴシック様式のフラウエン教会では、毎日正午に7人の選帝侯がカール4世を取り囲む、1509年製のからくり時計を見ることができる。また広場にある噴水塔「美しの泉」では、黄金の輪を3回転させると子宝に恵まれるという言い伝えも。
Hauptmarkt, 90403
噴水塔「美しの泉」と黄金の輪
Historische Felsengänge Nürnberg⑤ 歴史的岩窟ツアー

ニュルンベルクの地下には、2万平方メートルに及ぶ岩窟が4階層にわたって掘られている。最初のトンネルは700年ほど前に造られ、ビールの発酵と貯蔵のために使われてきた。また第二次世界大戦時には防空壕としても利用され、収容人数は最大2万人だったが、実際にはその2倍の人数が避難したともいわれている。毎時間ガイド付きツアー(ドイツ語、英語は土日のみ)が開催され、子ども向けの宝探しツアーのほか、脱出ゲームなどの企画も。岩窟内は年間を通して平均9度と涼しいため、暖かい服装で出かけよう。
Bergstr. 19, 90403
www.historische-felsengaenge.de
Albrecht-Dürer-Haus⑥ アルブレヒト・デューラー・ハウス

ルネサンス期の画家アルブレヒト・デューラー(1471-1528)は、ここニュルンベルクで生まれ、亡くなった。1509年から亡くなるまで住んでいたこの4階建ての木組みの家は、1828年にドイツ初となる芸術家のミュージアムとして公開された。デューラーの絵画の精巧なレプリカや市の貴重な美術コレクションが並ぶほか、当時の生活が再現されている。日本語の音声ガイドもあり、館内を歩きながらデューラーの人生に思いをめぐらせることができる。また毎週水曜と土曜には、デューラー時代の銅版画と木版画の印刷技術の実演も。
Albrecht-Dürer-Str. 39, 90403
https://museen.nuernberg.de/duererhaus

Spielzeugmuseum Nürnberg⑦ おもちゃ博物館

600年以上もの間、おもちゃの街として栄えてきたニュルンベルク。中世の人形作りから始まり、錫の人形、産業革命期にはブリキのおもちゃが生産されるようになり、今日では世界最大の国際玩具見本市の開催地として知られている。おもちゃ博物館では、1400平方メートルもの広さに、ニュルンベルクで造られた錫やブリキのおもちゃ、精巧なドールハウスなどのアンティーク玩具のほか、年代ごとにまとめられた懐かしいおもちゃの展示も。実際におもちゃで遊べるエリアもあり、どの世代でも楽しめるはず!
Karlstr. 13-15, 90403
https://museen.nuernberg.de/spielzeugmuseum
Memorium Nürnberger Prozesse⑧ ニュルンベルク裁判記念館

1945年11月20日〜1946年10月1日まで、連合国がドイツの戦争指導者を裁いたニュルンベルク国際軍事裁判が行われた裁判所は、現在は記念館としてその歴史を伝えている。裁判の背景や経緯、ナチ高官に対する四つの罪状、その後の報道内容まで、事細かにまとめられた資料を展示。公判が開かれた600号法廷は、当時とほとんど変わらぬ姿で保存されており、ニュルンベルク裁判の様子を再現したメディアインスタレーションが毎日5回(各15分)上映されている。それぞれが静かに平和について考える時間を過ごせる場所だ。
Bärenschanzstr. 72, 90429
https://museen.nuernberg.de/memorium-nuernberger-prozesse
スタッフが現地で見つけたもの
歩いたからこそ見つけた街の魅力。ニュルンベルク散策がさらに楽しくなるヒントをご紹介!
旧市街を囲む市壁 アトリエやアパートに利用
14~15世紀にかけて建設されたニュルンベルクの市壁(Stadtmauer)は、街を全長5キロにわたって取り囲み、そのうち約3.7キロが現存する。ドイツで唯一、今もなお壁に囲まれている都市なのだ。市壁に沿って点々と残る74の塔は市が管理しており、青少年団体の施設や芸術家のアトリエ、アパートとして利用されている。地元の人によると、市壁に沿って散歩するのもおすすめとのこと。

Ⓐ 穴の牢獄 市庁舎の真下に地下牢⁉
ニュルンベルクの市庁舎の地下には、かつてパンを売っていた建物があり、14世紀に周辺を埋め立ててそのまま地下牢にした……という不思議な空間がある。「穴の牢獄」(Lochgefängnisse)と呼ばれるこの場所には、裁判を待つ者と死刑宣告を受けた者が収容され、現存する中世の牢獄の中で最大規模を誇る。毎日ツアー(ドイツ語・英語)が開催されており、真っ暗な独房やおどろおどろしい拷問部屋などに入ることができる。

Ⓑ ニュルンベルガーソーセージ 700年以上の伝統の味
1313年にはすでに品質ガイドラインが存在していたニュルンベルガーソーセージは、絶対に現地で食べるべき。しっかりグリルされた小ぶりの粗びきソーセージが錫製のお皿で提供され、ザワークラウトかポテトサラダといただくのが伝統だ。Ⓑ レストラン「Bratwursthäusle」は、Ⓒ 焼きソーセージ博物館(Nürnberger Bratwurstmuseum)のスタッフさんのおすすめ。ジューシーな歯ごたえとマジョラムの香りがたまらない!
お土産用に缶入りも!
一口サイズのレープクーヘン ニュルンベルク土産にぴったり
クリスマス菓子の定番レープクーヘンの発祥の地といわれるニュルンベルク。この地で作られるレープクーヘンは「エリーゼンレープクーヘン」(Elisenlebkuchen) と呼ばれ、小麦粉の含有量は最大10%までと決められており、シナモンやクローブなどのさまざまなスパイスが効いた、しっとりとした食感が特徴だ。今回お土産用に買ったのは、大人数でちょっとずつ味わえる一口サイズのレープクーヘン。
珍しい塩キャラメル味と焼きりんご味!
350年の歴史を紡ぐクリスマスマーケット クリストキンドレスマルクトが特別な理由

ニュルンベルクのクリストキンドレスマルクト(Nürnberger Christkindlesmarkt)は、ドイツの三大クリスマスマーケットの一つに数えられる。毎年およそ200万人が訪れるこのマーケットは、なぜここまで人を惹きつけるのだろうか。その理由を知ったら、きっと足を運んでみたくなるはず。
2025年の開催日
11月28日(金)~12月24日(水)10:00~21:00
(11月28日は17:30開場、12月24日は14:00閉場)
www.christkindlesmarkt.de
職人の街で始まったクリスマスマーケット
ニュルンベルクのクリスマスマーケットの最古の記録を示すのは、1678年のものと思われる細長い小さな木箱で、年号とともに「Kindlesmarck」と記されている。1737年のクリスマスマーケットでは、当時の街の職人ほぼ全員が出店していたことが分かるリストが現存する。ナイフや食器、ブラシなどの日用品のほか、人形や木工、レープクーヘンなどが売られていたといい、かつて人口の半数を職人が占めていたこの街らしいマーケットだったことが想像できる。
19世紀には、ツリーの飾りなどが多く売られるようになり、今日のクリスマスマーケットにより近い形に。現在も職人技が光る屋台が多く並んでいる。

なぜクリストキント? ルターとの関係
ニュルンベルクのクリスマスマーケットが「クリストキンドレスマルクト」と呼ばれる背景には、宗教改革者マルティン・ルターの影響がある。1525年、ニュルンベルクはルターの宗教改革をいち早く取り入れ、プロテスタントの都市となった。印刷業と交易に強かったことから「95か条の論題」をはじめとした書物の印刷に携わるなど、宗教改革の発信地として重要な役割を果たした。そのルターが宗教改革の一環として、それまでクリスマスに贈り物をしていた聖ニコラウスを含む聖人を賛美することを禁止。代わりにクリストキント(Christkind)が子どもたちに贈り物をするよう提唱し、これによりニュルンベルクではクリストキントがクリスマスのアイコンになったのである。
2年ごとに選ばれるクリストキント
本来「クリストキント」は幼子キリストの別名だが、クリスマスの場面においては、白いドレスをまとった金髪の天使のような姿で描かれる。ニュルンベルクでは、なんとそのクリストキントに会うことができる。
1969年以降、クリストキントとして地元在住の16~19歳の女性(160センチ以上、高所恐怖症でないことも条件)が2年ごとに選出されてきた。マーケットの会期中は、式典に出席するほか、テレビ出演、小児病院の訪問など、100件以上の活動を行う。さらに週4回は会場に現れ、子どもたちにプレゼントを配って歩いているので、見かけたら声をかけてみよう。

スタッフのおすすめ
※2023年撮影
● 子どものクリスマスマーケット
メイン会場から徒歩5分の場所で、子ども向けクリスマスマーケット「Kinderweihnacht」が開催されている。キャンドルやレープクーヘンを手作りできる工房は子どもたちに大人気。ノスタルジックな2階建てメリーゴーランドや観覧車など、思わずカメラを向けたくなる。

● ミニチュアショップ
おもちゃの街ニュルンベルクらしく、ドールハウス用のミニチュア家具や雑貨を売るお店も。子ども向けかな……と思いきや、結構真剣になって選んでいる大人の姿が見られるのがほほ笑ましい。あまりの細かさについ見入ってしまうこと間違いなし!

● ほうろうのマグカップ
アルブレヒト・デューラー・ハウスの坂を登った先にあるCafé Wandererでも、この時期はグリューワインを販売している。ここで提供されるマグカップは、なんとほうろう製。クリスマスマーケットのマグカップを収集している人にはぜひおすすめしたい。




インベスト・イン・ババリア
スケッチブック






