ボンの美術館ブンデスクンストハレでは、ドイツの巨匠ヴィム・ヴェンダース監督の生誕80年を記念し、大規模な回顧展「W.I.M. 見ることの芸術」(W.I.M. Die Kunst des Sehens)が開催されています。監督の誕生月である8月に開幕した本展。すっかり季節が巡った冬空の週末に、ようやく訪れることができました。
展示室に足を踏み入れると、正面には「ベルリン 天使の詩」(1987年)に登場する中年男性の姿をしたモノクロの天使。その周りを、監督自身による言葉がぐるりと囲みます。「旅人であり、その次に映画監督、写真家である」。これまで多くのロードムービーやドキュメンタリーを世に生み出したヴェンダース監督は、自身をそう表現します。彼自身の言葉に誘われるように来場者が展示室の中へと入る構成は、まるで今度は自分が、ヴェンダース監督の思想世界を追体験する旅人になったかのようです。
冬空に覆われたブンデスクンストハレ
展示は、画家を目指していた若年期の貴重な水彩画や水墨画から、本展のための新作である没入型空間インスタレーションに至るまで、「文学」「音楽」「写真」「3D技術」そして「日本」など、エッセンスごとにヴェンダース監督の軌跡をたどるアーカイブ資料や作品が続きます。世界を舞台に大きく活躍の幅を広げ、国際的評価を確立していく一方、ケルンのバンドのBAPやヴッパータールを拠点とした振付師ピナ・バウシュのドキュメンタリー制作、生まれ故郷デュッセルドルフでのヴィム・ヴェンダース財団設立など、地元であるノルトライン=ヴェストファーレン州との縁を大切に制作を続ける姿。また、彼自身によるオーディオガイドでは、小津安二郎監督をはじめとする日本映画、そして日本の文化や生活への深い造詣と親愛が語られます。東京を舞台に描かれた映画「PERFECT DAYS」(2023年)で、公衆トイレ清掃員を演じた役所広司がカンヌ国際映画祭で主演男優賞を受賞したのが記憶に新しい方も多いのではないでしょうか。それらの根底に、旅人たるヴェンダース監督がその土地で生きる人間や文化へと向けた深く一貫した敬愛の眼差しを感じました。
ヴェンダース監督の最新エッセイ集『Wesentliches』(2025年)。ユニクロ×ヴィム・ヴェンダースの靴下と共に
本展会期は来年1月11日(日)まで。その後、3月11日(水)~10月18日(日)にはフランクフルトのドイツ映画博物館にて、コンセプトを新たにした回顧展「W.I.M. 時の流れのなかで」(W.I.M. Im Lauf der Zeit)も開催されます。副題の「Im Laufe der Zeit」は、ヴェンダース監督のロードムービー「さすらい」(1976年)の原題でもあります。旅を続けるヴェンダース監督の展示に、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょう。
新刊記念に出版社が作成したヴェンダース映画音楽のSpotifyプレイリストも公開中!
1991年生まれ、ケルン在住3年目。映画とビールと音楽が大好き。最近はケルンの地ビールであるケルシュに合う和食レシピを研究中。



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