西の古都ケルン。様々な人と文化が入り混じり新古が共存する街。今回よりレポーターを務めるチェロ弾きの上原ありすです。万華鏡のように移ろうこの街の「いま」を皆様へお届けして参ります。
この数カ月、ある日本人の存在がここケルンをにぎわせていました。アーティスト、草間彌生。彼女の大規模回顧展がルートヴィヒ美術館創立50周年記念として開催。会期終了ふた月前にはチケットが完売し、史上最多来場者数の記録を樹立しました。
そんな人気を博す草間彌生展へ私が訪れたのは6月の某日。来場者を出迎えてくれたのは、彼女のシンボルともいえる黄かぼちゃでした。「ああ、これこれ!」と沸き立つ気持ちと共に、初対面にもかかわらず覚えた懐かしさは、異国で出会う同邦人としてのノスタルジーだったのかもしれません。
ケルン大聖堂と「天空にささげたわたしの心のすべてをかたる花たち」
その心のまま足を踏み入れた回顧展は幼い頃のお絵描きに始まり、学生時代の秀逸なデッサン、現在の片りん見える若き日の作品、そして立体作品や空間アートへと彼女のあゆみを追っていく。内面に湧き出るなにかをぶつけるようだった早期から、徐々にそれを支配し思いのまま操ることで彼女の力は輪郭を帯び、強さを増していく。そんな印象を抱きました。
規則的なようで不規則、静でありながらも何かがうごめいているような。色と色、形と形がひしめき合い、恐ろしいのに見入ってしまう。そんな相反するものたちがぶつかり合うパワーが場に満ち溢れていました。
作品世界へ耽溺 「インフィニティ・ミラー・ルーム」
来場者でにぎわう会場では、時折私が日本人と分かり好意的に話しかけてくださる方もいました。これは今までの美術館鑑賞では体験し得なかったこと。そして何より印象的だったのは、子どもたちの多さと楽しげな様子。没入型作品も多く、笑い声と瞳を輝かせながら作品の海を自由に謳歌していました。
作品展示は館内に留まらず屋上テラスにも。ケルンが誇る大聖堂を背に咲く三輪の花。それは新古の極み。回顧展最大の相反が、曇天にも負けぬ最上の美を生み現していました。
10歳の草間彌生が描いた 「無題(母の肖像)」
最後に、私は10歳の彼女が描いた絵に再び向かいました。母親の肖像一面に散らされたドット。彼女にのみ見えていた世界。己を苦しめる「それ」をあえて描き、傍らに置き魔除けとし、アートへと昇華させた。そして今、全世界の人々が彼女の作品に惹かれ集っている。同邦人として、同じアーティストとして、ドイツで生きる力をあらためて与えてもらえた、そんな稀有な出会い。私と草間彌生との出会いでした。
ケルンに暮らす、モダンとバロックのチェロ奏者。そして物書き。自身を通して音楽と文学をかさねながら、うさぎ穴に飛び込むごとくさまざまな世界へ飛び込み、活動を行っている。文学・アート・アンティーク・甘いものが生きる糧。 https://kaninchen-bau.com | Instagram: @alice_u_cello



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