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緑の再生マーク誕生から20年

環境先進国と言われるドイツ。ごみの分別、再利用にい ち早く取り組んできたのが、そのゆえんだ。中でも商品を入れている包装材や容器の回収・再生を促す「緑のマーク(Der Grüne Punkt)」は、ごみリサイクルのシンボルとして、各国の手本にもなっている。今回は、今年で誕生から20年を迎えたドイツ生まれの「緑のマーク」について見ていこう。

包装廃棄物政令

「緑のマーク(→用語解説)」誕生のきっかけは、1991年に発効された「包装廃棄物政令(Verpackungsverordnung)」。増え続けるごみの山を減らすため、そして限りある資源を再利用するため、産業界、包装関連業界、流通業界に対し、パッケージ類の回収および再利用を義務付けたものだ。しかし衛生上、業務上の問題から、実際に小売店や製造元が回収・再生作業を行うのは難しい。そこで法令が発効される直前の1990年、代行業者として「デュアル・システム・ドイチュラント(DSD)」社が設立された。

DSDは「緑のマーク」をデザイン、商標化し、このマークを回収・再利用の義務対象となっている包装材や容器に印刷させることで、関連業者からライセンス料を徴収。これにより、緑のマークが付いたごみを無料で回収する形で運営している。ライセンス料は生産者側が商品価格に上乗せしているので、実際は消費者が負担している格好だ。月額にして、1人当たり1.90ユーロほどの計算になっている。


©Der Grüne Punkt - Duales System Deutschland GmbH

デュアル・システム

DSDの社名にもなっている「デュアル・システム」とは、これまで1つしかなかった自治体によるごみ処理に加え、企業によるごみ処理を平行して行うということ。自治体によるごみの回収は有料(各土地所有者に設置が義務付けられているごみ回収コンテナの容量や回収頻度により異なる)だが、企業が行う緑のマークの回収は、前述の通り無料。デュアル・システムの下ではつまり、ごみを分別すれば、ごみの有効利用に貢献できるだけでなく、有料で回収されるごみを減らすことで、家計の負担減にもつながることになるのだ。

緑のマークに対する住民の関心やごみに対する意識は、この20年で大きく変わった。世論調査によると、同マークの知名度は98%。デュアル・システム開始からしばらくはDSDが独占状態にあったが、知名度の上昇、回収・再生率の増加に伴い、現在では全部で9社が競合、総従業員数25万人を抱える市場に発展している。売上高は年間15億ユーロ。包装材・容器市場研究所(GVM)によると、昨年は85.7%のパッケージ類が有効利用された。

欧州26カ国で導入

DSDだけでもこの20年で包装材7800万トンを再生、それにより2300万トンの二酸化炭素(CO2)排出量を削減させてきた。昨年は275万トンを再利用、600億メガジュールの1次エネルギーおよび150万トンのCO2を削減している。この成果が評価され、今日では欧州26カ国が「緑のマーク」システムを導入。米国、アジア、アフリカでも導入を検討、計画している国が増えている。

批判的な意見ももちろんある。分別技術が今日ほど発展していなかったスタート時は特に、新しく作るよりもコストが掛かり、環境にも負荷を掛けているという意見が多かった。またデポジット制で回収されるビールのビンなど、何度も繰り返し利用できるビン容器の価値が保護されているかどうかを懸念する声も多い。

回収したごみの分別は手作業でも行われており、ごみ処理の効率化は、捨てる側の住民の協力なしには実現しない。正しく分別することはもちろん、例えば空き缶の中にヨーグルトの容器を重ねたりしないことで、分別作業の手間は大きく省ける。またヨーグルトの容器など、中身が食べ終わった状態であれば、洗う必要はない。水の無駄使いになるからだ。この機会にもう一度ごみの分別について見直してみたい。

再利用の基準値およびDSDが行った再利用率(2009年)

ドイツの一般家庭にあるごみ箱(コンテナ)は主に4種類。ごみの分別はどうなっている?

灰色コンテナ:燃やすごみ(Restmüll)
いわゆる“普通のごみ”で、最低でもこのコンテナは手配、設置しなくてはならない。設置、回収は有料。

茶色コンテナ:生ごみ(Biomüll)
食べ残しや、植物など。自宅の庭などで処理する場合は、設置しなくても良い。有料。

青色コンテナ:古紙(Altpapier)
新聞、ダンボール、紙類。道路脇などの公共の場に設置されている。灰色、茶色のコンテナとは異なり、設置の義務はないが、希望者は自宅にも設置することができる。無料

黄色コンテナ:容器・包装材(Grüner Punkt)
本文で取り上げたパッケージ類用のコンテナ。無料。ただし、ここに入れるのは缶類、紙パック(牛乳やジュースなど)およびプラスチック(シャンプーやヨーグルトなどの容器)のみ。コーンフレークの箱といった紙製のパッケージは上記「青いコンテナ」に、デポジット制で回収されないビン類は道路脇などに備え付けられている専用の回収コンテナへ。


プラスチックでも、おもちゃやボールペンなどは「普通ごみ」。黄色いコンテナはあくまでも包装用のみ。これは、黄色いコンテナの回収・処理が緑のマークのライセンス料で運用されているため、ライセンス料が支払われていない「商品」は対象外となるからだ。ただしいくつかの都市では“プラスアルファ”として、おもちゃや鍋なども一緒に回収する試験的プロジェクト「Gelbe Tonne plus」も行われている。また、パッケージ類は黄色い専用の袋に入れて捨てることもできる。袋は無料で配布されているが、こちらも同様、ライセンス料でまかなわれているので、ほかの用途には使わないように。
(注)ごみの分別は自治体によって異なることがあります。

用語解説

緑のマーク Der Grüne Punkt

濃い緑と薄い緑の2本の矢印が円を描いているデザイン。陰と陽をモチーフに作られた。「緑」のマークだが、パッケージの配色の関係で、緑ではないものもある。最近では同マークの商標権を持つDSD以外の会社も参入しており、必ずしも同マークを表示する義務はなくなったが、ごみ分別の際の識別マークとして一役買っている。日本にも「プラマーク」など容器包装識別表示がある。

<参考文献>
■ Duales System Deutschland GmbH (www.gruener-punkt.de) 
■ Die Welt "Im Recyclingzirkus" (22.11.2010) ほか
■ Bundesministerium für Umwelt, Naturschutz und Reaktorsicherheit (www.bmu.de)

内田 由起子(うちだ・ゆきこ) 東京外国語大学ドイツ語学科卒業。在学中、卒業後とドイツを行ったり来たりしながら語学勉強を続けた後、英語ニュースの翻訳に携わり、ジャーナリズムの世界に入る。04年1月からハンブルク在住。渡独後は主に、ドイツニュースの発信に努めている。
 
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