ジャパンダイジェスト

甲状腺(こうじょうせん)機能の病気

甲状腺機能の病気の1つ、「バセドウ病」と診断されました。薬を減らしたり、いつかは服薬をやめたりすることはできるのでしょうか?

そもそも甲状腺とはどのような役割を果たしているのですか?

甲状腺(Schilddrüse)は前頚部に蝶ネクタイのように存在する内分泌腺で、甲状腺ホルモン(T3,T4)*を産生しています。甲状腺ホルモンは食物中のヨードを原料として作られ、体内のエネルギー産生、代謝、心臓の機能調節など多くの仕事を担うと同時に、小児期においては体の発育や成長に欠かせない働きをしています(表1)。太古から近年までの食料事情が良くなった時期においては、飢餓時の血糖値を維持するという大切な役割も担ってきました。

* T3=トリヨードサイロニン T4=サイロキシン 人体内でT4が T3に変わり、ホルモンとしての実際的な働きをする

表1 バセドウ病と橋本病
  バセドウ病 橋本病
機能の状態 甲状腺機能亢進症 甲状腺機能低下症
甲状腺ホルモン (T3, T4) 血中レベルが上昇 低下
甲状腺刺激ホルモン (TSH) 低下 上昇
自己抗体 TRAK TGO-AK, TPO-AK
主な症状 発汗、手指振戦、動悸、食欲亢進、時に眼症状 寒さ、活動が遅くなる、体重増加
治療 抗甲状腺剤(メルカゾール、プロバジール) 合成甲状腺ホルモンの補充(チラージンS)
治療効果の目安 (症状以外) T3, T4, TSH値の正常化、TRAKの低下 T3, TSH値の正常化

どうやって甲状腺ホルモンの分泌は調節されているのですか?

甲状腺ホルモンの産生は、頭の中の「ホルモンの制御センター」である脳下垂体から分泌される「甲状腺刺激ホルモン(TSH)」と呼ばれるホルモンにより調整されています。TSHは甲状腺にある受皿(TSH受容体)と結合することによって、甲状腺ホルモンの産生を促します。血中の甲状腺ホルモンが足りなくなると、このTSHが増えて、甲状腺ホルモンを一定の値に保つようにします。一方、甲状腺ホルモンが多くなった場合には、TSHは少なくなり、甲状腺ホルモンの分泌を抑えようとします(図1)。

甲状腺ホルモンの調節

甲状腺機能の病気にはどのようなものがありますか?

甲状腺ホルモンが正常よりたくさん産生される場合を甲状腺機能亢進症といい、その代表的なものがバセドウ病です。逆に、甲状腺ホルモンの分泌が低下した状態を甲状腺機能低下症といいます。日本人では、慢性甲状腺炎と呼ばれる病気が原因の大半を占めます。慢性甲状腺炎は1912年に日本の橋本策先生が初めて発表したことから橋本病、ドイツでも Hashimoto-Thyreoiditisと呼ばれます。

バセドウ病について教えてください

30~50歳の女性が多く罹る(男性の8倍)病気です。自分の体の一部を異物とみなして抗体を作る自己免疫性疾患の1つで、体の中にTSH受容体と結合してしまう自己抗体ができることが原因です。この甲状腺刺激物質(TRAK)が絶えず甲状腺の受け皿を刺激するため、甲状腺はホルモン産生の指令があったとして甲状腺ホルモンを作り続けます。

どんな症状がみられますか?

未治療の甲状腺機能亢進の自覚症状として、発汗、動悸、暑がり(冬でも半袖・半ズボンでも平気)、手指の震え、多食でも太らない、イライラ感などがあります。また、目が若干飛び出してみえる眼球突出をみることもあります(図2)。ほとんどの患者で甲状腺が大きく腫れ、首が太くなっているのが確認されます。

バセドウ病と橋本病

どのような検査が行われますか?

まず血中の甲状腺ホルモンを測定します。バセドウ病では甲状腺ホルモン値は高く、反対に、脳下垂体からの甲状腺刺激ホルモン(TSH)は抑えられてほとんど出ないため低値になっています。また本来みられない自己抗体、甲状腺刺激物質(TRAK)が検出されます。これらの検査値は治療効果の目安として非常に大切です。甲状腺機能亢進状態では心電図検査で脈拍数が多くなるのが確認されます。他の原因による甲状腺機能亢進症がないかを超音波で調べます。悪性疾患が疑われる場合にはシンチグラフィーと呼ばれる放射線検査が行われます。

治療法と薬を減らす目安を教えてください

抗甲状腺薬を服用し、血中の甲状腺ホルモン濃度をみながら量を調整していきます。血液中の甲状腺ホルモン値は薬により比較的早期に正常化し、投与量も、2~4年で最小の維持量もしくは中止まで持っていくことができます。しかし、血液中の甲状腺刺激ホルモン(TRAK)値が高いうちは、抗甲状腺薬による治療を続けます。甲状腺ホルモン値が下がってくると、代謝が正常化するため、食べたら通常どおり、体重が増えてきます。薬だけではコントロールが難しい場合には、放射線治療や手術が行われることがあります。

治療中に注意すべきことは何ですか?

甲状腺ホルモン値が早期に正常化しても薬によってホルモン産生が抑えられているだけですから、抗甲状腺薬の服薬は続ける必要があります。急に服薬を中断すると、甲状腺機能が極端に亢進し、非常に危険な状態に陥る跳ね返り現象が起きることがあるので要注意です。また、ヨード類は甲状腺ホルモンの原料になりますので、風邪で扁桃腺が腫れたときも、ヨードの入ったうがい薬は使用しないようにしましょう。

甲状腺機能低下症とはどんな病気ですか?

すべての甲状腺疾患の中で最も多い病気です。日本人の1%にみられ、その原因として最も多いのが、先述した橋本病と呼ばれる自己免疫性疾患です。日本以外ではヨード摂取の不足が原因となっている地域もあります。甲状腺の全摘出を行った後や、脳下垂体の病気や分娩時の大出血などで脳下垂体からの甲状腺刺激ホルモン(TSH)が出なくなった時も甲状腺機能低下症が生じます。

どんな症状が見られるのでしょうか?

極端な寒がり(夏の炎天下でも全く暑くないか寒く感じる)、表情が乏しくいつも眠たそう、まぶたがむくんだ感じ、小食でも体重が増加、何となく無気力、便秘傾向、脈拍数の減少などです。しかし、自他覚症状ともに「静かな異常」のため、見逃されていることも少なくない病気です。橋本病では甲状腺がやや硬く腫れるのが特徴です。

検査所見は?

甲状腺のホルモン産生に原因がある場合には、血液中の甲状腺ホルモン値は低下し、それを補おうと脳下垂体からの甲状腺刺激ホルモン値は逆に上昇します。さらに甲状腺の自己抗体であるTG-AKやTPO-AK**が陽性となります。体の新陳代謝が低下し、心電図では脈拍数が少なくなっているのが確認されます。他の甲状腺疾患と鑑別する手段として超音波検査が行われます。

** TG-AK(Thyreoglobulin-Antikörper)抗サイグロブリン抗体TPO-AK(Thyreoperoxidase-Antikörper)抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体

どのような治療が行われますか?

合成した甲状腺ホルモンの補充を続けることにより、健康人と全く変わらない状態を保つことができます。甲状腺ホルモンはヨードの摂取と関係していますが、ヨード不足が原因でない限り海藻類を極端に大食しても効果はありません。

 
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馬場恒春 内科医師、医学博士、元福島医大助教授。 ザビーネ夫人がノイゲバウア馬場内科クリニックを開設 (Oststraße 51, Tel. 0211-383756)、著者は同分院 (Prinzenallee 19) で診療。

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