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ロンドンのゲストハウス
Sa. 24. Aug. 2019

イラン危機への対応に苦慮するドイツ

米国とイランとの間で緊張が高まるなか、ドイツ政府は重要な決定を行った。ドイツ外務省のハイコ・マース大臣は、7月31日にワルシャワで「わが国は、米国が計画中のホルムズ海峡の警戒作戦には加わらない」と述べたのだ。

7月31日にワルシャワで開かれた記者会見で話すマース外相(左)7月31日にワルシャワで開かれた記者会見で話すマース外相(左)

「イラン危機は外交交渉で解決を」

米国政府は、数週間前からドイツなど同盟国に対し、ホルムズ海峡に軍艦を派遣して、この海域を航行するタンカーを守る作戦に参加するよう要請していた。米軍が「センチネル作戦」と呼ぶこの作戦では、海峡を通過するタンカーに軍艦が随伴し、敵の攻撃から守る。イランの革命防衛隊がタンカーを拿捕したり、船体に機雷を仕掛けたりしようとした場合には、米軍が発砲し両国間で戦闘が始まる可能性がある。

マース氏はトランプ政権の要請を拒絶する理由について、「わが国は、イランへの圧力を最大限に高めるという米国政府の戦略には反対だ。あくまで外交的な手段を使うべきだ。米国主導の警戒作戦への参加は、外交手段を優先するわが国の方針と相容れない。これはフランスなど同盟国との協議の結果、決めたことだ」と説明した。

つまりマース外相は、ホルムズ海峡で軍艦を航行させてタンカーをイランの攻撃から守るというトランプ政権の方針に、真っ向から「ノー」と言ったのである。

マース氏は、「米国がホルムズ海峡に軍艦を派遣することは、中東の緊張をさらに高める恐れがある。軍事的なエスカレートは回避するべきだ。イラン危機を解決する唯一の道は外交交渉。軍事手段を使ってはならない」と述べ、トランプ政権の姿勢を間接的に批判した。マース氏は社会民主党(SPD)に属し、リベラルな思想を持つハト派の政治家だ。2003年にSPDと緑の党の左派連立政権を率いたゲアハルト・シュレーダー首相は、米国のイラク侵攻作戦への参加を拒否した。SPDは、それから16年後に再び、米国主導の軍事作戦への協力を拒否したことになる。

やはりSPDに属するオーラフ・ショルツ副首相(財務大臣)も「私は米国主導の作戦には懐疑的だ。今最も重要なことは緊張の緩和である。夢遊病者のように軍事衝突の道に迷い込むことだけは絶対に避けなくてはならない」と述べ、トランプ政権の方針に反対した。

EU主導の作戦を提唱

ただしドイツ政府は、米国主導ではない欧州連合(EU)独自の作戦を検討している。マース外相が考えているのは、米国のように軍艦にタンカーを護衛させるのではなく、ホルムズ海峡の状況に関するデータを逐一タンカーなど民間の艦船に伝達することにより、抑止力を高めようとするものだ。ただし万一タンカーがイランなどに攻撃されても、EUの艦艇は武力で反撃しない。メルケル政権は現在この作戦について、フランスなど同盟国と協議している。

ドイツ産業連盟(BDI)のシュテファン・マイヤー理事も「ホルムズ海峡は貿易立国ドイツにとって重要な交通路だ。攻撃的ではなく、欧州諸国が主導権を握る作戦を実施するべきだ」と述べ、マース外相の路線を支持する態度を打ち出している。BDIは、米国主導の作戦をメルケル政権が拒否したのは正しいという見解を持っている。

ホルムズ海峡で相次ぐ攻撃・拿捕

トランプ政権が昨年5月にイランとの核合意から撤退して以来、欧米とイランとの間の緊張は急激に高まっている。この核合意は、包括的共同作業計画(JCPOA)と呼ばれ、米国のオバマ政権、英、仏、独、中、露の6カ国が2015年7月にイラン政府との間で結んだもの。イランに対する経済制裁の緩和と引き換えに、同国の核開発にブレーキをかけることが目的だった。だがトランプ政権は、イスラエル政府の意向を受けて「最悪のディールだ」とこの合意から撤退しただけではなく、イランへの経済制裁を再び強化した。

それ以来、ホルムズ海峡付近では緊張が高まる一方だ。今年6月13日には日本船籍のタンカーを含む2隻が爆発物による攻撃を受けて損傷した。トランプ政権は「イランの革命防衛隊が船体に機雷を付着させた」と主張。イラン側はこれを否定している。

6月20日には米軍の無人偵察機が、ホルムズ海峡上空でイランに撃墜された。米国政府は同月21日以降に報復としてイランを攻撃しようとしたが、トランプ大統領は攻撃開始10分前に「民間人に多数の犠牲者が出る」として攻撃命令を撤回した。7月4日には英国がジブラルタル付近でイランのタンカーを拿捕。これに対しイランは同月19日以降、ホルムズ海峡を航行していた英国籍のタンカーなど3隻を報復措置として拿捕している。英国政府は、米国主導のセンチネル作戦に参加する方針を明らかにした。

ホルムズ海峡は戦略的に世界で最も重要な交通路の1つだ。幅は狭いところで約35キロメートルで、毎日約1700万バレル分の原油が輸送される。そのうちの約76%が日本、中国、韓国などアジア諸国向けだ。世界で消費される天然ガスの約30%、原油の約25%がこの海峡を通過している。万一この海峡が封鎖された場合、世界経済は深刻な打撃を受ける。欧米としては現在の状況を放置するわけにはいかないだろう。軍事的緊張を高めずに、ホルムズ海峡の安全を確保するというドイツ政府の戦略は成功するだろうか。ドイツの支援拒否にトランプ政権がどう反応するかも、注目される。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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