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Do. 21. Okt. 2021

アフガン政権崩壊とドイツ政府の苦悩

アフガニスタンで8月15日にイスラム過激勢力タリバンがカブールを制圧し、ガニ政権が崩壊したことは、メルケル政権に衝撃を与えた。外務省や国防省の判断ミスにより、ドイツに協力した約8000人のアフガン人現地職員と家族の救出が大幅に遅れている。

8月25日、カブール空港でドイツ連邦軍の輸送機に乗り込む人々8月25日、カブール空港でドイツ連邦軍の輸送機に乗り込む人々

タリバン復権でアフガン人協力者に迫る危険

国防省は8月16日に連邦軍の輸送機をカブール空港に派遣。8月26日までにタシケント空港に約5200人の民間人を脱出させた。この数字には現地の支援団体で働くドイツ人医師や慈善活動家、ジャーナリストだけではなく、アフガン人の現地職員など約40カ国の外国人も含まれる。北大西洋条約機構(NATO)加盟国であるドイツは、同時多発テロで打撃を受けた米国を支援するため、2001年から約5000人の戦闘部隊をアフガニスタンに常駐させた。タリバンとの戦闘などで、59人のドイツ兵が死亡している。

過去20年間に何千人ものアフガン人が通訳、運転手、作業員などとしてドイツ連邦軍や大使館、諜報機関などに協力してきた。だが彼らはタリバンから「敵国に協力した裏切者」と見なされて逮捕されたり、処刑されたりする危険がある。このためアフガン人の協力者の大半は家族と共にドイツなどに亡命することを望んでいる。さらにドイツの国際放送局ドイチェヴェレやさまざまな支援団体で働いていたアフガン人、女性の権利を守るための運動を行っていた活動家、女性議員、弁護士たちも危険にさらされている。

独外務省の対応に大幅な遅れ

米国のトランプ政権は、昨年タリバンと行った合意のなかで、米軍を5月1日までにアフガニスタンから撤退させると発表。後任のバイデン大統領は今年4月にこの期限を延長し、9月11日までに撤兵を完了する方針を打ち出していた。しかし、7月以降タリバンの攻勢が強まり、アフガニスタンの地方都市はドミノを倒すように陥落していった。タリバンの戦闘員の数は約6万人。アフガン政府軍は約30万人だったが、政府軍はほとんど戦わずに壊走した。

だがメルケル政権は、諜報機関の情報に基づいて、「タリバンのカブール侵攻は早くても9月末」と考えていた。このため現地協力者へのビザの発給が大幅に遅れていた。カブールのドイツ大使館は、ベルリンの本省に対して、7月以来現地の状況が急速に悪化していることを伝えていたが、メルケル政権は素早い対応を取らなかった。現地協力者の中には、8月の第1週にビザを申請したのに、今なお外務省から退避時期を知らされていない人がいる。

8月16日、ハイコ・マース外相は、「弁解の余地は全くない。われわれは状況判断を完全に誤った。ドイツ連邦政府、同盟国、諜報機関はこのような状況を想定していなかった。タリバンがこれほど速くカブールを手中に収めるとは考えていなかった。アフガニスタン政府軍がタリバンと戦うと思っていたが、それは完全な見込み違いだった」と述べ、判断ミスを認めた。

メルケル政権に対する批判強まる

フランク=ヴァルター・シュタインマイヤー大統領も、混乱するカブール空港の映像について「このような状況は恥ずかしい」とコメントし、ドイツを含む各国政府が早期に民間人退避の準備を始めなかったことに対して、苦言を呈した。メルケル政権は遅くとも5月には、アフガン人協力者の国外退避の準備を始めるべきだった。なぜ準備が遅れたのかは謎である。野党からは「メルケル政権の判断ミスが、多くのアフガン人協力者とその家族を危険にさらしている」として、外相と国防相の辞任を求める声が上がっている。

「アフガン現地協力者支援機関」のマルクス・グロティアン氏は、8月24日の記者会見で「約8000人の現地協力者と家族のうち、脱出できたのは2000人にすぎない。それは、ドイツ政府が退避させるアフガン人現地協力者を厳しく選別しているからだ。空港にたどり着いても、『リストに載っていない』という理由で追い返された人もいる。ドイツ政府は、受け入れるアフガン人の数を低く抑えようとしているのではないか」と述べ、メルケル政権を厳しく批判した。

時間との戦い

カブールでは国外脱出が日に日に難しくなっている。バイデン大統領は軍による救出活動を8月末で終える方針。タリバンも「各国の救出作戦は8月31日で終了させる」と宣言している。これに対し米国以外のG7加盟国は、まだ多くの外国人やアフガン人の協力者が残っていることから、米国に対して軍を9月1日以降もカブールに残すよう要請している。

空港周辺には出国を希望する数千人のアフガン市民が集まっている。8月23日には何者かがアフガン政府軍兵士を狙撃して殺傷し、米軍とドイツ連邦軍が応戦した。8月26日には空港周辺で自爆テロが起き、多数の死傷者が出た。タリバンはカブール市内から空港に通じる道路に検問所を設置し、アフガン人を出国させないようにしている。このためドイツ連邦軍は、ヘリコプターでカブール市内の集合地点から空港へ退避者を空輸し始めている。

タリバンの広報官は記者会見で「われわれは、外国人のために働いたアフガン人に恩赦を与える。報復はしない」と語っているが、そうした発言を鵜呑みにすることはできない。1人でも多くのアフガン人協力者が脱出できることを、心から祈る。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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