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Fr. 21. Jan. 2022

エネルギーの価格高騰 新政権はどう対応する?

ドイツなど欧州諸国ではガスなどのエネルギー価格が昨年に比べて大幅に高くなっており、市民の間では暖房費用の高騰について懸念が強まっている。

メクレンブルク=フォアポンメルン州ルプミンにあるノルドストリーム2のガスステーションメクレンブルク=フォアポンメルン州ルプミンにあるノルドストリーム2のガスステーション

エネ高騰がインフレに拍車

連邦統計庁は9月30日に、「今年9月の消費者物価指数は、前年同期比で4.1%上昇した」と発表した。ドイツの物価上昇率が4%を超えたのは、28年ぶりだ。同庁によると、最大の原因は原油やガス価格の高騰である。エネルギー価格は、前年同期比で14.3%も増えている。特に増加率が高いのが暖房用の灯油で、価格が76.5%上昇した。自動車燃料も28.4%、ガスが5.7%、電力は2%高くなった。

環境コンサルティング企業「co2online」によると、暖房に灯油を使う家では、今年の暖房費用が前年比約44%、ガスでは約14%増える可能性がある。同社は「8月の天然ガスの輸入価格は、前年同期に比べて約177%高くなったほか、原油の輸入価格は前年同期比で約64%上昇した」と説明する。ドイツの家庭の約半分が暖房にガスを、約25%が灯油を使っている。エネルギー価格などの比較サイト「Verivox」によると、ガス供給会社32社が9月から10月にかけて、価格を平均12.6%引き上げる方針を明らかにした。

電力価格も高騰している。欧州エネルギー取引所のドイツ向けEPEXスポット価格は、今年1月の1メガワット時当たり34.9ユーロから、8月には82.7ユーロに跳ね上がった。もちろん昨年ドイツ経済がコロナ・パンデミックのために停滞していたため、エネルギー価格が低かったこと、さらに昨年後半に付加価値税が一時的に引き下げられていたことも影響している。しかし、それだけではこの高騰は説明できない。

炭素税も高騰の一因

連邦統計庁は、「暖房と自動車の燃料に導入された炭素税も、エネルギー価格高騰の一因」と指摘。メルケル政権は、地球温暖化に歯止めをかけるための施策の一環として、今年1月から暖房や自動車から排出される二酸化炭素(CO2)1トン当たり25ユーロの税金を課した。市民がディーゼルエンジン・ガソリンエンジンの車から電気自動車(EV)に乗り換えることや、灯油による暖房をヒートポンプなどCO2排出量が少ない暖房に切り替えるのを促進するためである。

ちなみに、この炭素税は今後毎年引き上げられていく。給油時に、「昨年よりもガソリンや軽油が高くなった」と感じた人が多いと思うが、内燃機関の車のコストは、今後年々増大する。2045年までにカーボンニュートラルを達成するための施策の一つである。

メルケル政権が導入した炭素税

メルケル政権が導入した炭素税

オランダのオンラインガス取引市場Title Transfer Facilityでも、昨年12月31日には1メガワット時当たりのガス価格が16.75ユーロだったが、今年9月21日には73.78ユーロに達した。340%もの上昇である。英国、フランス、スペインでも、ガスや灯油の価格上昇に対して市民の懸念が強まっている。電力大手RWEのマルクス・クレッバーCEOは日刊紙のインタビューで、「ガスと電力は今後数年間にわたり、高い水準にとどまるだろう。今起きているような価格の急上昇は、誰も予想していなかった」と語った。

炭素税収入の市民への還元が必要

価格高騰の理由として、まずパンデミックの影響が弱まった国では経済活動が再開され、エネルギー需要の急激な高まりが挙げられる。さらに昨年冬の寒さが厳しかったため、ドイツのガスの貯蔵施設が約67%しか充填されていないことや、ガス企業が価格高騰を嫌って仕入れを控えている可能性が指摘されている。

また緑の党の一部の議員は、「現在ドイツ政府は、ロシアから同国へ直接ガスを輸送する海底パイプライン・ノルドストリーム2の稼働許可申請を審査している。ロシアはガス供給量をわざと減らして、ドイツが一刻も早く稼働を許可するように、圧力をかけている」と指摘。ロシアのエネルギー企業ガスプロムは「わが社は契約通り、ドイツなど西欧諸国にガスを供給している」として、緑の党の批判に反論している。

欧州連合(EU)加盟国首脳は10月21日から2日間、ブリュッセルでエネルギー問題について討議したが、有効な結論は出なかった。スペイン政府は、EUに対してガスを共同購入して配分するよう求めている。

ドイツ消費者保護センター連合会のクラウス・ミュラー会長は、「ドイツに近く樹立される新政権は、オーストリア政府が行っているように、炭素税収入を全ての消費者に対して『気候保護ボーナス』として還元するべきだ。同時に、再生可能エネルギー拡大を加速したり、EV充電器を増設したりすることによって、化石燃料への依存度を減らす必要がある」と訴えている。

最も大きなしわ寄せを受けるのは、低所得層だ。可処分所得が大幅に減った場合、エネルギー転換に反対する市民が増える危険もある。次期政権は、「エネルギー弱者」への支援を強化する必要があるだろう。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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