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Mo. 29. Nov. 2021

新たな難民危機にドイツはどう対応するか?

欧州で新たな難民危機が起きつつある。氷点下以下の厳しい寒さのなか、ポーランド・ベラルーシの国境地帯では、シリア、イラク、アフガニスタンなどからの難民約4000人が野宿している。人々は寒さに震えながら、たき火をして暖を取っている。衛生状態は劣悪で、水や食べ物も十分ではない。

10日、ベラルーシとポーランドの国境地帯の難民キャンプの様子10日、ベラルーシとポーランドの国境地帯の難民キャンプの様子

欧州の国境に新たな壁の建設

ポーランド政府は国境地域に「非常事態宣言」を発令して、数千人の兵士・警察官を配置。鉄条網やフェンスを設置して難民の侵入を防ごうとしている。ポーランド・ベラルーシ間の国境線の長さは約400キロメートル。このためポーランド政府は国境を完全に遮断することが難しい。

同じ状況は、ベラルーシと国境を接するラトビアとリトアニアでも起きつつある。これらの国々も国境沿いにフェンスを建設し始め、両国では欧州連合(EU)に対する資金や人員による支援を求める声が強まっている。ベルリンの壁が崩壊してから32年目の今年、欧州には新たな「壁」がつくられつつあるのだ。

国境の突破に成功した難民たちが目指す最終目的地は、ドイツだ。彼らはドイツの難民保護規定がほかの欧州諸国に比べると寛容で、社会保障制度が手厚いことを知っている。今年8月末から10月中旬までに、ベラルーシ経由でドイツに到着した難民の数は約4500人。ポーランドと国境を接するブランデンブルク州に今年8月に到着して亡命申請した難民の数は400人だったが、9月にはその数が約6倍に増加した。

ルカシェンコ大統領の圧制

難民危機の引き金は、EUとベラルーシ政府の政治的対立だ。「欧州最後の独裁者」と呼ばれるベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は、昨年8月の選挙で再選。得票率は80.1%と異常に高く、市民は「不正選挙だ」と政府に抗議するデモを繰り広げた。ルカシェンコ大統領は、警官隊を動員して暴力でデモを制圧。政府に批判的な多数の市民を投獄した。大統領選挙以降逮捕された市民のうち、約450人が拘留中に拷問や性的暴力を受けたと主張している。

今年5月には、ギリシャのアテネからリトアニアのビリニュスに向かっていたライアンエアの旅客機がルカシェンコ政権によってベラルーシに強制着陸させられた。目的は、機内にいたベラルーシ人のジャーナリストらを逮捕するためだった。この時にベラルーシ空軍はミグ29戦闘機を発進させて、旅客機をミンスク空港に向かわせた。反体制派を逮捕することを目的とした、航空史上にも例のない「国家によるハイジャック」だ。EUはルカシェンコ政権が暴力によって市民の異議申し立てを抑え込もうとしていることを重く見て、今年9月に政府要人に対する経済制裁を発動した。

難民を武器に使うベラルーシ政府

ルカシェンコ政権はEUに圧力をかけて制裁措置を撤回させるために、難民を「将棋の駒」として使うという手段に出た。同政権は、レバノンやトルコからチャーター便でシリア難民らをベラルーシに移送し、トラックでポーランドやリトアニア、ラトビアの国境まで運んでEUに送り込み始めた。ルカシェンコ大統領は、多数の難民の流入がEUを苦境に陥れることを知っている。2015年には、戦火を逃れたシリア人ら約100万人の難民がドイツなど欧州諸国に流入し、各国で政治的・社会的な混乱が起きた。

EUは、「ルカシェンコ大統領は難民を武器として使って、西欧に対するハイブリッド(混合型)戦争を行っている」と反発。ハイブリッド戦争とは、難民の流入や偽情報など軍事力以外の手段を使って外国に損害を与えようとする、新しい戦争手段である。

ドイツのハイコ・マース外務大臣は、難民危機を人為的に引き起こしているルカシェンコ大統領を、「国営の人身売買機関の元締め」と呼んで強く非難。同外相は、9日に「EUはベラルーシ政府の脅迫行為には屈しない。われわれは、難民のEUへの移送に関わっている全ての関係者や団体を、経済制裁のリストに載せる」と述べ、同国に対する制裁をさらに強化する意向を明らかにした。ブランデンブルク州のミヒャエル・シュトゥープゲン内務大臣も、「ルカシェンコ大統領は、難民が凍死したり飢え死にしたりしても構わないと考えている。最悪の人身売買だ」と批判している。

EU共通の難民政策の難しさ

EUでは、2015年の難民危機後も、域内に多数の難民が到着した際の配分の仕方など、統一された難民規定が作られていない。各国とも難民をなるべく受け入れたくないというのが本音だ。例えば2015年にEUはイタリアやドイツに到着した多数の難民を、人口や国内総生産などに従って加盟国に割り当てようとしたが、東欧諸国は難民受け入れを頑として拒んだ。ルカシェンコ大統領は、そうしたEUの足並みの乱れに付け込んでいるのである。

人口学者たちの間では、「欧州に比べ出生率が高い北アフリカや中東では、将来多くの若者が職業や住宅を見つけられなくなり、生活水準を引き上げるために欧州を目指すだろう」という意見が有力だ。さらに、今後地球温暖化と気候変動のために、アフリカやアラブ諸国では干ばつと食糧不足が悪化する可能性が強い。つまり、飢餓から逃れるために欧州へ向かう難民が増加するとみられている。人権擁護を重視するEUは一刻も早く、有効な難民政策を確立する必要がある。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
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