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Fr. 21. Jan. 2022

ドイツのコロナ禍が深刻に - 未接種者に大幅な制約導入

11月に入ってドイツでは感染者数が急増し、西欧で最もコロナ禍が深刻な国の一つになった。ワクチン接種率がほかの欧州諸国に比べて低く、連邦議会選挙などのために、政府の対応が遅れたことが一因だ。

11月22日、ハンブルクのエルプフィルハーモニーで行われた予防接種キャンペーンの列の長さは数百メートルに及んだ11月22日、ハンブルクのエルプフィルハーモニーで行われた予防接種キャンペーンの列の長さは数百メートルに及んだ

仏伊に比べて低い予防接種率が災い

 ロベルト・コッホ研究所(RKI)によると、11月24日には過去最多の7万5961人の新規感染者が確認され、351人が死亡。パンデミックが始まってからの累計死者数は10万人を超えた。直近1週間の人口10万人当たりの新規感染者数(7日間指数)は404.5人と過去最高になった。特にザクセン州の状況は深刻だ。ワクチン接種率が57.8%(24日時点)と最も低い同州では、7日間指数が935.8で全国で最悪の状態にあり、1000を超えるのは時間の問題。重症者の約90%が、ワクチン未接種者だ。  重症者の急増により集中治療室のベッド数が不足しつつあり、同州医師会の会長は22日に「トリアージュが必要になる可能性がある」と語っている。トリアージュとは戦争や自然災害で用いられる手法で、医療資源が逼迫(ひっぱく)したときに、命を救える見込みが高い患者を優先的に治療する。昨年3〜4月に、イタリアやスペイン、フランスの一部の病院はトリアージュを余儀なくされたが、似た状況がドイツにも近づいている。  ちなみにドイツの7日間指数はフランス(69.0)、スペイン(90.4)、イタリア(114.4)などほかの西欧諸国に比べてはるかに高い。その原因の一つはドイツ政府が人々に予防接種の重要性を理解させることに失敗し、職場での3G規則、介護・医療従事者に対する接種の義務化などの対策を取るのが遅れたからだ。

コロナ対策の優等生が劣等生に転落

 スペインの接種率は80.6%、フランスは77.9%、イタリアは74.8%とドイツ(68%)を上回っている。例えばイタリア政府は今年9月に、全ての就業者に3G(接種済み、快復済み、または陰性証明)規則の遵守を義務付け、守らない者には出社を禁止し、自宅待機中には給料も支払わないという強硬な措置を取った。ドイツがこの措置を取ったのは11月24日で、イタリアに比べて約2カ月遅れた。  仏政府は9月15日に介護・医療従事者にワクチン接種を義務付け、約3000人が接種を拒否して事実上解雇された。ドイツでは本稿を書いている11月24日時点でも義務化していない。病院関係者らは、医療資源が逼迫しているときに接種を義務化した場合、さらに看護師数が減ることを懸念しているのだ。  ドイツのコロナ対策が大幅に遅れた理由の一つは、8~9月に政治家たちが連邦議会選挙に時間とエネルギーを集中させて、「コロナの冬への備え」を怠ったことだ。前のメルケル政権にはもはや統率力がないが、ショルツ政権も11月24日の時点では発足していない。つまり「権力の空白期」のために国が中ぶらりんの状態にあるときに、コロナウイルスがこの国を襲った。昨年は「コロナ対策の優等生」と呼ばれたドイツだが、今年は劣等生に転落したと言わざるを得ない。

未接種者の行動に大幅な制約

 メルケル首相は11月22日に、疲れ切った表情で記者会見に臨み、「現在の状態は、これまでで最も深刻だ。今準備されている対策では十分とはいえない」と語った。これに先立って18日にRKIのヴィーラ―所長は、ザクセン州政府とのビデオ会議の中で「1日の新規感染者5万人のうち、0.8%は死亡する。つまり毎日400人の命が失われる。厳しい措置を取らなければ、今年のクリスマスは悲惨なものになるだろう」と強い言葉で警告した。  しかも、ドイツ政府は2020年とは異なり、全国的ロックダウンをもはや実施できない。シュパーン保健相のイニシアチブで、昨年以来の「公衆衛生に関する国家緊急事態」は25日に終了したからだ。その背景には、ロックダウンが経済や教育に与えた悪影響が余りにも大きかったという事情がある。  このため各州政府は11月下旬から、クラブの一時的な営業禁止、職場などでの3G規則の導入、映画館などへの2Gプラス規則(接種済みまたは快復した市民も、コロナ検査で陰性であることが必要)の導入、ホームオフィス(テレワーク)を許可することを義務化するなどの措置を実施した。  バーデン=ヴュルテンベルク州のシュヴァルツヴァルト・バール郡など三つの郡では、ワクチン未接種者は午後9時~午前5時までは、病院や職場へ行く場合を除いて、原則的に外出を禁止された。また、快復者を除く未接種者は、レストラン、ホテル、商店(食料品店や薬局を除く)を利用することも禁じられる。

ワクチン接種義務を要求する声も

 バーデン=ヴュルテンベルク州のクレッチュマン首相とバイエルン州のゼーダ―首相は23日付のフランクフルター・アルゲマイネ紙(FAZ)に投稿して、ドイツはオーストリアと同じく、国民全員にワクチン接種義務を導入するべきだと主張。両氏は「接種義務は、自由権の侵害ではない。憲法は、ワクチンを自発的に受けない一部の市民の自由を守るために作られたものではない。接種拒否者の勝手な行動が、ほかの市民に被害を与えるのを放置してはならない」と訴えた。  パンデミックでは、1カ月の対策の遅れが多数の死者につながる。後手に回ったドイツが、いつウイルスの急激な拡大に歯止めをかけられるかは未知数だ。
 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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