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Mi. 29. Jun. 2022

原子力はグリーンか?EUとドイツが対立

欧州各国でエネルギー価格が上昇を続けるなか、欧州連合(EU)では原子力が持続可能性が高いエネルギーかどうかについて、論争が起きている。

昨年末に廃炉になったニーダーザクセン州のグローンデ原子力発電所。環境保護団体グリーンピースが「原子力フリーの欧州のために」の文字を映し出した昨年末に廃炉になったニーダーザクセン州のグローンデ原子力発電所。環境保護団体グリーンピースが「原子力フリーの欧州のために」の文字を映し出した

EU、原子力の「グリーン認定」を提案

引き金となったのは、EUが昨年12月31日の深夜に加盟国政府に送った文書だ。EUはこのなかで、原子力発電所と天然ガス火力発電所が一定の条件を満たせば、「地球温暖化や気候変動の抑制に貢献する事業」のリスト(タクソノミー)に載せる方針を打ち出した。EUが作成中のタクソノミーは、持続可能性の高い経済活動の事業分類表で、民間の投資家のための指針として使われる。ここに記載された事業は「グリーンな経済活動」と認められて、将来資金の調達が容易になる。

EU提案によると、原子力発電所をタクソノミーに記載するには、最新のテクノロジーを使用すること、2045年までに建設許可を取得すること、2050年までに高レベル放射性廃棄物の処理方法について、具体的な計画があるなどの条件を満たすことが必要。

また2030年までに新設される天然ガス火力発電所については、電力1キロワット時を発電する際に排出される二酸化炭素(CO2)の量が270グラム以下であること、2035年までに燃料を天然ガスから再生可能エネルギーによる電力で作られる「グリーン水素」に切り替えることなどの条件を満たせば、タクソノミーに記載される。

ドイツは原子力のタクソノミー記載に反対

これに対しドイツは、EU提案に強く反発している。同国は2011年に日本で起きた福島第一原発の炉心溶融事故以来、脱原子力政策を進めている。これまでに14基の原子炉を廃止し、今年12月末には残りの3基のスイッチを切る。

連邦経済気候保護省のハベック大臣(緑の党)は、「原発からの高レベル放射性廃棄物は、人類と環境にとって長年にわたり負担となる。そう考えると、原子力をEU タクソノミーに記載することは、持続可能性の定義を不当に変更することになる。これはいわゆるグリーンウォッシングであり、誤りだ」と反対した。グリーンウォッシングとは、実際には環境保護に貢献しないものや事業を、表面的に「持続可能性が高い」と見せかけることだ。

すでに脱原子力を達成しているオーストリアも、EU提案に反対している。同国ゲヴェッスラー環境大臣(緑の党)は、「EUが原子力を実際にタクソノミーに記載した場合には法的措置を取る」として、欧州裁判所に提訴する可能性を示唆した。

EU提案の背景には、欧州の多くの国々で、「CO2を迅速に減らすには、原子力と天然ガス火力を使う必要がある」とする意見が強まっているという事実がある。その筆頭は、電力の約71%を原子力でカバーしているフランスだ。マクロン大統領は当初原子力の比率の引き下げと再エネ拡大を計画していたが、昨年のエネルギー価格の高騰で方針を転換し、2021年11月、原子炉の新設計画を発表した。

またポーランドは現在電力の78%を石炭に依存しているが、2049年までに脱石炭を実現するために、2033年までに最初の原子炉を稼働させる。EUのフォンデアライエン欧州委員長も昨年11月、「2050年までにカーボンニュートラルを達成するには、少なくとも過渡期のエネルギーとして原子力と天然ガスの使用が不可欠だ」と語っている。

つまり欧州では、EUのCO2削減政策が「原子力ルネサンス」の追い風となっているのだ。このためドイツやオーストリアは押し切られる公算が大きい。提案は、EUの人口の65%を持つ20カ国が反対しない限り、可決される。フランス、オランダなど12カ国が原子力のタクソノミー記載に賛成しており、反対しているのはドイツやオーストリアなど5カ国にすぎない。

ちなみにハベック大臣は「天然ガス火力発電所は、長期的には持続可能性が高いとはいえない。しかし過渡期のエネルギーとしての役割を果たすことができる」と述べ、タクソノミーへの記載に前向きである。ショルツ政権は連立契約書の中で、「電力需要が増えるなかで、安定供給を確保するために、天然ガス火力発電所を新設する。ただし、将来は燃料を天然ガスからグリーン水素に切り替える」と明記している。つまりEUは原子力のグリーン認定を求めるフランスと、天然ガスのグリーン認定を求めるドイツの意向に配慮したことになる。

金融機関も「原子力のグリーン認定」には当惑

重要な点は、EU タクソノミーが民間投資家のための指針であり、加盟国に対してエネルギー政策を命じるものではないということだ。各国はこれまで通り、独自のエネルギー政策を取ることを許される。つまりこの事業分類リストは、ドイツが脱原子力政策を貫徹する上で、障害にはならない。

また金融業界からは、EU提案に批判的な意見が出ている。これまでもドイツの一部の投資ファンドは、「大規模事故のリスクや、放射性廃棄物の問題がある」として、原子力関連事業が年間売上高の5%以上を超える企業への投資を避けていた。このため原子力がタクソノミーに記載されても、EUの思惑通り、投資家が原子力関連産業を含むポートフォリオへ投資するかどうかは、未知数である。EU加盟国間の原子力をめぐる論争には、まだ紆余曲折が予想される。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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