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Fr. 01. Jul. 2022

なぜウクライナ危機で ドイツが批判されるのか?

各国の外交努力にもかかわらず、ロシアがウクライナ国境付近に集結させた約13万人の軍隊を撤兵させる兆しはない。こうしたなか、米国やウクライナではドイツに対する批判が高まっている。

7日、ショルツ首相は米国のバイデン大統領と会談し、結束をアピール。しかし、ノルドストリーム2への意見の相違が浮き彫りになった7日、ショルツ首相は米国のバイデン大統領と会談し、結束をアピール。しかし、ノルドストリーム2への意見の相違が浮き彫りになった

ウクライナへの武器供与をかたくなに拒否

最大の理由は、ショルツ政権がウクライナへの武器供与を拒否していることだ。同国はドイツに対して、携帯式対空ミサイル、ドローン迎撃用機関砲、弾薬、赤外線暗視装置などの供与を求めている。ドイツは「紛争が起きている国に兵器を供与することはできない」として断り、ヘルメットを5000個供与することだけを約束した。

この決定について在ドイツ・ウクライナ大使館のメルニク大使は、「ヘルメットは、シンボルとしての意味しか持たない。プーチン大統領は将来何をするか分からない。従って、ドイツはわが国への武器供与に慎重な路線を改めてほしい」と不満を表明した。

ドイツは、他国のウクライナへの武器供与にも待ったをかけた。エストニアは、1990年代にドイツから42門の榴りゅうだんほう弾砲を買っていた。これは東ドイツが所有していたソ連製の大砲だった。エストニアはウクライナを支援するために、この榴弾砲の供与を計画した。ところがショルツ政権は、エストニアに対してこの大砲をウクライナに移転することを許可しなかった。

ドイツの法律は紛争地域への武器移転を禁止

ドイツの「戦争兵器管理法」は、「紛争に巻き込まれている国、もしくは紛争が勃発する危険のある国に対する兵器の輸出や移転」を原則的に禁止している。

ドイツ人にとっては、第二次世界大戦中の記憶も武器供与をためらわせる理由となっている。ナチス・ドイツ軍がウクライナを含むソ連領土に侵攻し深刻な被害を与えたからだ。ドイツの政治家たちはウクライナに武器を供与することをためらう理由として、「過去の経験から」という言葉をしばしば使うが、ナチスがソ連に対して与えた甚大な被害に対する罪の意識を示している。

ほかの国々は、ドイツよりもウクライナに対する軍事支援に積極的だ。バイデン政権は2月2日に2000人の戦闘部隊をドイツとポーランドに送り、ドイツに駐留している1000人の兵士をルーマニアに派遣した。米国は昨年12月にウクライナに対し2億ドル(220億円・1ドル=110円換算)の軍事物資を供与することを約束し、ジャベリン対戦車ロケット砲や弾薬など約90トンの支援物資をキエフに送った。

英国政府は、今年1月「ウクライナに携帯式対戦車ミサイルの供与を開始し、同国の兵士たちをミサイルの操作法に習熟させるために少数の英軍兵士を同国へ派遣した」と発表。トルコも、ウクライナに対し地上攻撃ミサイルを装備したドローン「バイラクタルTB2」を売却している。

かつてソ連に強制的に編入され、1990年代に独立を回復したバルト三国も、米国政府に対して「米国製の武器をウクライナに供与することを許可してほしい」と要請。バイデン政権は1月中旬に、これらの国々に対し、米国から買っていた対戦車兵器などをウクライナに供与することを承認した。ポーランドも「ウクライナ政府に、携帯式対空ミサイルの供与を決めた」と発表している。

ドイツは、世界第4位の武器輸出大国だ。同国は昨年93億5000万ユーロ(1兆2155億円・1ユーロ=130円換算)の武器を中東、アフリカ、アジアなどに輸出した。2014年には、「紛争地域に武器を送らない」という原則の例外措置として、テロ組織・イスラム国と戦うクルド人の戦闘部隊に、対戦車ミサイルを供与した。米国やバルト三国が「ドイツはなぜ今回も例外措置として、ウクライナに武器を送らないのか」と批判するのは、そのためだ。

これに対しドイツ政府は、「わが国は2014年以来、ウクライナに18億3000万ユーロ(2379億円)の経済援助を行っている。2018~2019年にウクライナに対して行った経済援助額は2億2000万ドル(242億円)で、二国間の援助額としては、世界で最も多い」と反論する。

ウクライナはドイツの態度に強い不満

ただし、ほかの国々が武器を送っているときに、ドイツが「われわれは多額の金を払っている」と主張しても、理解を得ることは難しい。

2月1日にウクライナ議会で、議員たちは米国、英国、ポーランド、トルコなど同国に軍事支援を行っている国々の国旗を掲げて、感謝の意を表した。しかしその中にドイツの国旗は入っていなかった。ウクライナ人たちのドイツへの不満がはっきりと表われている。

もう一つの理由は、ロシアに対する経済制裁をめぐるドイツの態度だ。米国やウクライナは、「ウクライナ侵攻が起きた場合、ロシアからドイツに直接ガスを送るパイプライン、ノルドストリーム2(NS2)の稼働を禁止するべきだ」と主張。一方で、ショルツ首相は「あらゆるオプションを検討する」と言うだけで、明言を避けている。首相は「手のうちを全部見せない方が、抑止効果がある」と説明しているが、欧州連合(EU)のフォンデアライエン委員長もNS2を制裁の対象に含めると述べているなか、ドイツの首相が腫れ物に触るような態度を取っているのは、不自然だ。

ショルツ首相は、政権発足早々に吹き始めた逆風を、押し戻すことができるだろうか。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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