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Fr. 01. Jul. 2022

ウクライナへの初の戦車輸出を承認

ドイツ政府がまたもや安全保障に関する原則を大きく転換した。ショルツ政権は4月26日、内外の圧力に屈して、ゲパルト対空戦車のウクライナへの輸出を承認すると発表した。ランブレヒト国防大臣によると、政府は武器メーカー、クラウス=マッファイ・ヴェクマン社が連邦軍から引き取って保管していた中古の対空戦車ゲパルト50両を、ウクライナに輸出することを許可。さらに政府は、中古のレオパルド1型戦車20両と、マルダー装甲歩兵戦闘車80両に関するウクライナへの輸出許可申請も審査している。

4月19日、バイデン米大統領と欧州首脳との電話会談後に記者会見するショルツ首相4月19日、バイデン米大統領と欧州首脳との電話会談後に記者会見するショルツ首相

ドイツが紛争地域に戦車を輸出するのは初めて。同国はこれまでウクライナに携帯式対戦車ロケット砲など小型の武器しか送っていない。ウクライナのゼレンスキー大統領は、「ロシア軍に包囲された都市を奪回し市民を救うには、戦車や自走りゅう弾砲などが不可欠」として、ドイツなどに重火器の供与を要請していた。

「第三次世界大戦を避けたい」

ショルツ首相は長い間、戦車、装甲歩兵戦闘車、自走りゅう弾砲などの重火器をウクライナに送ることをちゅうちょしていた。その理由は、「重火器をウクライナに送ると、ロシアからドイツが交戦国と見なされる危険がある」と考えていたからだ。彼は、ドイツが第三次世界大戦に巻き込まれることを懸念している。

首相は、4月にシュピーゲル誌に対して行ったインタビューの中でも、「ドイツは、独り歩きするべきではない。ロシアと直接交戦する事態、そして核戦争は避けなければならない」と語っていた。確かにこの時点では、ポーランドなど東欧諸国は極秘裏に戦車をウクライナに供与していたが、米国、英国、フランスは戦車や装甲歩兵戦闘車を供与していなかった。

ショルツ政権は苦肉の策として、スロベニアがウクライナにT72型戦車を供与し、ドイツがスロベニアにマルダー装甲歩兵戦闘車を送って、兵器の不足を穴埋めする」という方針を打ち出した。ランブレヒト国防大臣は、「T72はソ連製なので、ウクライナ兵たちも操縦法に熟知しており、すぐに使えるという利点がある」と説明していた。

だがポーランド、バルト三国など北大西洋条約機構(NATO)加盟国からは、ドイツのためらいに対して、強い批判と不満の声が上がった。彼らは、「ウクライナ人たちは自国だけではなく、欧州全体をプーチン大統領の侵略戦争から守るために戦っている。毎日ウクライナ市民が犠牲になっているなか、欧州のリーダー国ドイツは、もっとイニシアチブを取って軍事支援を強化するべきではないか」と主張した。

さらに連立与党の間でも、重火器の供与を求める声が強まった。連邦議会国防委員会のシュトラック=ツィンマーマン委員長(自由民主党・FDP)や欧州担当委員会のホーフライター委員長(緑の党)は、「われわれに与えられた時間は少ない。重火器の供与が遅れれば、ウクライナでさらに犠牲者が増える」として、首相の決断を求めた。ベアボック外務大臣も、「ウクライナに対する支援内容にタブーがあってはならない」として、間接的に重火器の供与を求めた。

ホーフライター氏らは、「プーチン大統領の侵略戦争がウクライナで終わる保証はない。もしロシアが勝ったら、プーチン大統領はバルト三国などNATO加盟国に矛先を向け、欧州が第三次世界大戦に巻き込まれるかもしれない」と訴えた。首相が属する社会民主党(SPD)よりも、反戦主義的な傾向が強かった緑の党の方が、重火器の供与に積極的な姿勢を示した。

キリスト教民主同盟(CDU)のメルツ党首も「ショルツ首相が引っ込み思案であるために、ドイツの国際的信用が日一日と低下している」と批判し、ウクライナへの重火器供与に関する決議案を連邦議会に提出し、政府への圧力を高めた。

米国のオースティン国防長官は、ブリンケン国務長官と共に4月24日にキーウを訪問した後、ドイツで各国の国防大臣との会議に参加し、ウクライナへの軍事支援について協議した。同長官は、ショルツ政権が重火器の供与に踏み切ったことを歓迎した。

ドイツの指導力に陰り

しかし、ショルツ政権は当初説明責任を十分に果たさなかった。ドイツは「戦車を送る前に、まずウクライナ兵に訓練を受けさせて操作法に習熟させなくてはならない。現地で戦車が故障したら誰が修理するのか」、「自国領土の防衛やNATOの任務のためにも重火器が必要なので、連邦軍にはもはやウクライナに送れる兵器はない」などとさまざまな言い訳を述べて、重火器の供与を断ろうとした。同政権は内外で批判が沸騰するまで、戦車輸出にゴーサインを出さなかった。

ドイツは、今年1月にロシア軍がウクライナ国境に20万人近い兵力を集結させて緊張が高まり、米英が対戦車兵器などをウクライナに送り始めていたときにも、「わが国では法律で紛争地域への武器供与は禁じられている」としてウクライナの要請を断った。ランブレヒト国防大臣は、ヘルメット5000個の供与を発表して、全世界から失笑を買った。

ドイツの消極姿勢は、同国がこれまで欧州で果たしてきた指導的な役割に大きな影を落とした。特に東欧諸国は、ショルツ政権への失望を隠さない。シュレーダー・メルケル両政権がプーチン大統領に対して懐柔的な態度を取り、ロシアのガスへの依存度を高めたことと並び、ショルツ政権の優柔不断な態度は、各国のドイツへの視線を厳しいものにするだろう。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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