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Di. 29. Nov. 2022

露のガス供給削減で独大手エネ企業が経営難

ウクライナ戦争の影響がドイツ経済に及び始めた。ロシアがガス供給量を大幅に減らしたため、ドイツの大手電力・ガス会社ユニパー(本社デュッセルドルフ)の経営が悪化し、政府に救済を要請したのだ。

5日、記者会見で話すハーベック経済気候保護大臣5日、記者会見で話すハーベック経済気候保護大臣

政府の資本参加も視野

ユニパーが6月29日にウェブサイト上で公表した情報は、経済界に衝撃を与えた。同社は、「ロシアの国営企業ガスプロムが6月16日以来、ガスパイプライン・ノルドストリーム1(NS1)を通じた1日の天然ガス供給量を通常に比べて60%減らしているため、わが社の経済的負担が大きくなっている。このためわが社は連邦政府との間で、経営を安定化するための措置について協議を始めた。政府からの緊急融資や保証、さらに政府のわが社への資本参加が行われる可能性もある」と発表した。

ガスプロムは「ガス圧縮装置の故障」を理由に、NS1を通じた1日当たりのガス輸送量を通常の1億6700万平方メートル(㎥)から6700万㎥に減らしている。ショルツ政権は、「故障」は口実で、プーチン大統領がドイツの産業にとって不可欠なガス供給を減らして、「経済戦争」をしかけていると見ている。

だがユニパーは小売契約に基づいて、化学メーカーなど顧客にガスを供給しなくてはならない。このためスポット市場といわれる卸売市場でガスを仕入れて不足分を穴埋めしている。この市場で取引されるガスは、長期契約のガスに比べて価格がはるかに高い。しかもスポット市場でのガスの卸売価格は、1年前に比べて約4倍に高騰。だがユニパーは、顧客に対するガス小売価格を急激に引き上げることができない。このため損失額が拡大し、政府に救済措置を要請したのだ。ウクライナ戦争に関連してドイツの大手エネルギー会社が政府の救援を求めたのは、初めてである。

ユニパーはドイツで最も多くロシアのガスを輸入しており、昨年外国から輸入したガス3700億キロワット時(kWh)のうち、54%がロシアからの輸入だった。その大半がNS1を通じてドイツに送られていた。同社は地域電力会社(シュタットベルケ)100社にガスや電力を供給しているため、ユニパーが窮地に陥った場合、エネルギー市場全体に影響が及ぶ。

政府はエネ企業救済の枠組み整備へ

連邦経済気候保護省のハーベック大臣は、7月5日の記者会見で「エネルギー企業が1社倒産すると、連鎖的に経営難に陥る企業が増える危険がある」として、ユニパー救済に前向きの姿勢を示した。

政府は、2020年のコロナ・パンデミックによる旅客数の激減が原因でルフトハンザが経営難に陥った際に、同社に資本参加して破綻から救った。ユニパーに対しても同様の措置を取るものとみられている。さらに政府は「経済安定・加速法」(WStBG)を改正してエネルギー企業に資本参加するための枠組みを整える方針だ。また政府は、ガス会社が卸売価格の高騰分を、顧客に転嫁するための仕組みも検討している。

その理由は、政府がユニパー以外にも苦境に陥るエネルギー企業が現れると思われるからだ。焦点となる日付は、7月11日だ。NS1では毎年夏に、ガスの輸送を止めて定期点検が行われる。今年の定期点検は7月11日から約2週間。ショルツ政権は、「ガスプロムが技術的な理由を口実にして、点検が終わってもガス輸送を再開しない恐れがある」と見ている。

現在ドイツのガス貯蔵設備のガス充じゅうてん填率は、約61%。政府は貯蔵設備の運営企業に対し、今年11月1日までに充填率を90%に引き上げるよう義務付けている。そのためには、夏のうちにガスを充填しなくてはならないが、NS1を通じた供給量の削減により、充填作業が予定通り進まない恐れがある。

ドイツには今のところLNG陸揚げターミナルがない。政府とエネルギー企業は北部のヴィルヘルムスハーフェンなど3カ所に陸揚げターミナルを建設中だが、完成するのは早くても2024年の夏になる見通しだ。つまりドイツはそれまでの間、ロシアからのガスを完全に代替することができない。

最悪の場合、冬のガス備蓄がゼロに

ハーベック大臣はドイツで将来起こり得るガス危機について、6月23日にシミュレーション結果を公表した。連邦系統規制庁(BNetzA)は、NS1のガス供給量の減少率、産業界のガス節約の進捗度などに応じて、六つのシナリオを作成した。そのうち、「7月11日以降NS1からのガスが完全に止まり、国内のガス消費量の節約も進まない」という最悪のシナリオによると、ドイツのガス貯蔵設備は、来年1月27日から4月23日まで、約3カ月にわたって空っぽになる。

BNetzAのミュラー長官は、「ドイツの産業界は、化学業界からの製品や原材料に大きく依存し、サプライチェーンが複雑に絡み合っている。このためガス・ロックダウンによって化学産業の生産活動が滞った場合、経済全体に与える打撃は、コロナ・パンデミックをはるかに上回る」と見ている。

米国の故ジョン・マケイン上院議員は、2014年にロシアについて「国家の仮面をかぶっているが、実はマフィアが経営するガソリンスタンドだ」と言ったことがある。同氏は今日の状況を鋭く見通していたのだ。

政府がガス緊急事態を宣言し、製造業界などへのガスの配給制度を導入するのは不可避と思われる。消費者が支払うガス代、暖房代も急激に上昇する。ドイツは戦後最大のピンチをどう乗り切るだろうか。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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