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Di. 29. Nov. 2022

ショルツ政権支持率 エネルギー危機で急落

社会民主党(SPD)・緑の党・自由民主党(FDP)の三党連立政権を生んだ連邦議会選挙から、1年が経った。ロシアのウクライナ侵攻が引き起こしたエネルギー危機とインフレなどのために、ショルツ政権への支持率が急落し、逆に極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)への支持率が増えつつある。

9月24日、ショルツ首相はサウジアラビアのムハンマド皇太子と会談し、エネルギー分野で協調していくことを確認した9月24日、ショルツ首相はサウジアラビアのムハンマド皇太子と会談し、エネルギー分野で協調していくことを確認した

ショルツ首相の優柔不断な態度に批判の声

アレンスバッハ人口動態研究所が発表した世論調査結果によると、昨年9月24日にはSPDへの支持率は26%だったが、今年9月16日には6ポイント少ない20%に急落。FDPへの支持率も、同時期に10.5%から7%に下がっている。これに対し野党キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)への支持率は、25%から30%に増加した。また連立与党の中では唯一、緑の党が1年間で16%から19%に増加した。

これらの数字には、ウクライナ支援策についての世論が反映されている。SPDの支持率が下がっている理由の一つは、オラフ・ショルツ首相の煮え切らない態度だ。例えば同氏は、当初ウクライナにドイツ製の対空戦車ゲパルトや自走りゅう弾砲などの重火器を供与することに反対していた。しかしウクライナや東欧諸国に強く批判された結果、重火器の供与にゴーサインを出した。現在もショルツ首相は、ウクライナ政府が求めているドイツ製のレオパルド2型戦闘戦車とマルダー装甲歩兵戦闘車の供与には反対している。

ショルツ首相は、今年1月には「ロシアとドイツを結ぶ天然ガスパイプライン・ノルドストリーム2(NS2)は純粋に民間経済のプロジェクトだ」と公言して、稼働に前向きだった。しかし2月にプーチン大統領が親ロシア派の多いルガンスク人民共和国などの独立を承認したため、慌てて態度を変え、稼働を禁じた。

つまり多くの国民が、ショルツ首相の優柔不断な態度に失望しているのだ。もちろんこれはショルツ氏の慎重な性格を反映しているのだが、現在の緊急事態を考えると、「首相としてのリーダーシップに欠けている」と思う市民が増えるのも無理はない。

緑の党は重火器供与に前向き

SPDとは対照的に、緑の党への支持率が増えている理由の一つは、同党のウクライナ支援の姿勢が一貫していることだ。緑の党は、連立与党の中で戦闘戦車などウクライナへの重火器の供与について最も積極的だ。同党は環境保護だけではなく、人権の保護も重視する政党だからだ。

緑の党の政治家たちは、連邦議会・欧州委員会のアントン・ホフライター委員長のように、「ウクライナが勝てるように、ドイツはゼレンスキー政権を強力に後押しするべきだ」という態度を貫いている。この党は、ロシアのウクライナ侵攻が起きる前から、ロシアとNS2プロジェクトを進めることに反対してきた。

インフレに対する市民の強い不安

もう一つ、SPDの支持率を下げている理由は、エネルギー危機だ。8月31日以降ロシアがNS1を通じたドイツへのガス供給を停止したために、企業経営者や市民の間ではこの冬にガスや電力料金が高騰し、可処分所得が激減するという不安が強まっている。連邦統計庁によると、今年8月の消費者物価上昇率は7.9%。特に電力、ガスは46.4%、食料品は15.7%と二桁の上昇率で、過去約40年間で最高の水準だ。

インフレは通貨の価値と購買力を減らす。アレンスバッハ人口動態研究所が今年8月に発表した世論調査によると、「あなたの不安の最大の原因は何ですか?」という問いに対し、インフレを挙げた回答者の比率は83%で最も高かった。

ショルツ政権のエネルギー政策をめぐる右往左往も目に付く。今年8月には「エネルギー会社の連鎖倒産を防ぐために、消費者にガス賦課金の支払いを義務付ける」と発表したが、9月下旬には「消費者負担を増やすガス賦課金は無意味であり、撤回すべきだ」という意見が与党内で強まっている。

ショルツ政権は、今年3月には「3基の原子炉を予定通り今年12月31日までに廃止する」と発表していた。しかし9月27日には連邦経済気候保護省のロベルト・ハーベック大臣が「今年冬には電力不足が予想され、隣国フランスも電力の融通が難しいことから、3基のうち2基の原子炉は、来年1月1日から4月半ばまで運転させる必要がある」と政策を修正した。

本稿を執筆している9月28日の時点では、ショルツ政権がこの冬に何を財源として電力とガス料金に上限を設定し、市民の負担増加に歯止めをかけるのかについて明確な方針が打ち出されていない。エネルギー政策の右往左往とエネルギー・インフレの悪化は、ハーベック大臣が属する緑の党の支持率にも将来的に悪影響を与えるかもしれない。

われわれ外国人にとって気になるのは、極右政党への支持率がじりじりと増えていることだ。AfDの支持率は昨年9月には10%だったが、今年9月には13%に増えた。INSAが9月26日に公表した世論調査によると、旧東ドイツ地域ではAfDへの支持率は27%で、最も人気が高い政党になっている。これらの数字には、現政権のインフレ対策への市民の不満が浮き彫りになっている。

インフレを背景にAfDが勢いを増していることには、イタリア総選挙での右翼勢力の圧勝と一脈通じるものがある。市民の怒りが、ポピュリズム勢力にとって追い風とならないことを祈る。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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