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ウクライナ支援の手を緩めないドイツ

ロシアのウクライナ侵攻が始まってから、約10カ月になるが、戦火が止む気配はない。ドイツなど周辺諸国は、ウクライナに武器を供与するだけではなく経済的、人道的な支援をさらに強化する方針だ。

11月23日、街一体が停電となったウクライナの首都キーウ11月23日、街一体が停電となったウクライナの首都キーウ

1000万人が電気のない生活

ウクライナの気温が0度を割るなか、ロシア軍は発電所、変電所、暖房設備など生活に不可欠なインフラを巡航ミサイルで破壊するという戦術を取っている。5日にもキーウなどで空襲警報が鳴り響き、人々は地下鉄駅やアパートの地下室への避難を余儀なくされた。

ウクライナのゼレンスキー大統領は、11月18日、「キーウやオデッサなどで1000万人を超える市民が電力を奪われている」と語った。キーウだけでも、約150万人が電気のない暮らしを送っている。人々は極寒の中、水道施設の前で、水をくむために順番を待っている。ロシアから奪回したへルソンなどでは、市当局が暖房装置のある避難所を設置し、市民が暖を取ったり、携帯電話に充電したりできるようにしている。

11月25日にドイツの報道機関のウェブサイトに、夜の欧州を上空から撮影した衛星写真が掲載された。ルーマニア、ポーランド、ベラルーシなどでは暗闇の中に街のともしびが見えるが、ウクライナは真っ暗だ。市民たちは、この暗闇の中でじっと寒さに耐えている。

多数の発電機を寄付

このためドイツなどでは、ウクライナに発電機を送る動きが進んでいる。災害時の復興を支援するドイツの「技術援助機関」(THW)は、150台の発電機をウクライナの電力会社ウクレネゴに送ったが、近くさらに320台を送るための準備を進めている。THWがウクライナに送る発電機の総額は、195万ユーロ(27億3000万円・1ユーロ=140円換算)となる。

ドイツ対外経済援助省は、ウクライナ戦争勃発以来、同国に2430台の発電機を送ったが、さらに1200万ユーロ(16億8000万円)相当の発電機をウクライナに送る方針。またドイツ内務省は、蓄電装置を20台、灯油を使う暖房装置を15台、居住用コンテナを38棟ウクライナに送る準備を行っている。

地方自治体による支援活動も進んでいる。ケルン市役所は11月25日、「姉妹都市ドニプロへ、発電機118台、防寒具、車椅子、マットレスなどを送るためのトラックが出発した」と発表。同市は今年7月と8月にも、医薬品と医療器具をドニプロに送っている。

11月29日から2日間にわたりブカレストで開かれた北大西洋条約機構(NATO)外相会議でも、加盟国はウクライナへの武器援助だけではなく、ロシア軍が破壊したインフラストラクチャーの再建についても支援することを明らかにした。

寒さを武器に使うロシア

ロシア軍の狙いの一つは、電気、暖房、水道をカットすることで、ウクライナから東欧、西欧へ逃げる市民の数を増やし、新たな「難民危機」を引き起こすことだ。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、今年2月24日以来、ウクライナを出国し、東欧・西欧の国に避難民として登録された数は、約478万人。隣接する東欧諸国は、今後寒さが厳しくなるとともに、避難する人の数が増えるとみている。

民間人を苦しめるためにインフラを破壊する行為は、戦争犯罪の一種だ。ドイツ政府のベアボック外務大臣は、11月29日「プーチン大統領は、冬の寒さを武器として使おうとしている。これは国際法に違反するだけではなく、文明からの離反だ。ロシアは、インフラを意図的に破壊することで、『ウクライナで子どもや高齢者らが寒さ、空腹、喉の渇きで死んでもかまわない』という態度を取っている」と非難した。

ベアボック大臣が使った「文明からの離反」(Zivilisationsbruch)という言葉は、注目を集めた。この言葉は通常ドイツの政治家や歴史学者たちが、ナチスのユダヤ人虐殺を非難するときに使う表現だからである。「人間の文明に属さない」という発言は、ドイツが他国を非難するときに使う言葉としては、最も強い表現だ。ベアボック氏はロシアとナチスドイツを同列に並べようとしているわけではないが、この言葉によりプーチン大統領への強い怒りを表現したのだ。

ウクライナに多額の軍事援助

一方、ドイツは軍事支援も強めている。同国はウクライナ戦争の勃発後、「紛争地域に武器を輸出しない」という伝統的な政策を変更。これまでウクライナに19億3346万ユーロ(2706億円)相当の武器、弾薬などを送った。例えばゲパルト型対空戦車を30両、自走りゅう弾砲PzH 2000型を14両、多連装ロケット砲マースIIを5門など多数の兵器を供与した。

キール世界経済研究所によると、ドイツが12月1日までにウクライナに対して行った軍事、経済、人道援助の総額は54億4500万ユーロ(7623億円)に上る。米国(478億1900万ユーロ)と英国(70億8200万ユーロ)に次いで世界で3番目に多い。

ウクライナは一方的に攻め込まれて市民が殺害され、街が破壊されている。同国は「ロシア兵をクリミア半島やドンバス地域を含むウクライナ領土から完全に駆逐するまで、停戦交渉には応じない」としている。ロシアも「ウクライナを非武装化し、欧米がわが国の安全を保障するまで戦う」と主張。つまりこの戦争は長期化する可能性が強い。ウクライナを支援する欧米とプーチン大統領の間の「持久戦」は当分続くだろう。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。神戸放送局、報道局国際部、ワシントン特派員を経て、1990年からフリージャーナリストとしてドイツ在住。主な著書に『なぜメルケルは「転向」したのか―ドイツ原子力四〇年戦争』ほか多数。
www.facebook.com/toru.kumagai.92
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