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Di. 07. Feb. 2023

暖冬でドイツのガス不足 回避の可能性高まる

ロシアのウクライナ侵攻以来、ドイツ経済と市民生活に垂れこめていた暗雲に、一筋の光が見えてきた。ドイツのエネルギー供給を監督・監視する連邦系統規制庁(BNetzA)のクラウス・ミュラー長官は、1月8日に「この冬にドイツでガスが不足して、緊急事態の宣言に追い込まれる危険は、ほぼ遠のいた」と語った。

1月3日、ドイツ北部ヴィルヘルムスハーフェンの浮体式LNG陸揚げ設備に最初のLNG船が到着した1月3日、ドイツ北部ヴィルヘルムスハーフェンの浮体式LNG陸揚げ設備に最初のLNG船が到着した

真冬に90%を超える備蓄率

ミュラー長官によると、ドイツのガス貯蔵設備の充填(じゅうてん)率は1月8日の時点で91.2%だった。1月の充填率としては、異例の高さである。しかも充填率は、昨年12月20日の87.2%以来徐々に増え始めている。

ドイツ政府は、「今年2月1日の時点で充填率が40%を割ると、危険な状態になる」と警告していた。しかしミュラー長官は、突発事態が起こらなければ、2月1日に充填率が40%を上回ることはほぼ確実と考えている。このため彼は、「この冬にガス不足が起きる可能性は薄らいだ」と発言したのである。

なぜドイツの充填率はこれほど高いのだろうか。その理由はいくつかある。一つは、異常な暖冬によって、市民のガス消費量が減ったことである。

昨年12月中旬にドイツは寒波に襲われた。第50週(12月12日~18日)の気温の中間値はマイナス5.2度だった。ところがこの週以降、気温が上昇し始め、第51週の気温の中間値は6度になった。昨年12月31日には、ドイツの一部の地域で20度という春のような気温が観測された。これは、大みそかの気温としては、1881年にドイツで気温の観測が始まって以来最も高い気温である。バイエルン州の海抜1100メートルのブラウネックでは、雪不足のためにスキー場の大半が草地となり、1月に営業を取りやめた。人工雪も溶けるほどだった。

しかもこの温暖な天候は、約2週間続いた。私が住むミュンヘンでは、暖房が全く必要なかった。地球温暖化による気候変動が原因とみられるが、最も寒さが厳しくなる12月から1月に記録的な暖冬となったことは、この国のガス消費量を減らすことに役立った。

企業・市民のガス消費量が減った

第2の理由は、企業と市民が政府の呼びかけに応えて、ガスの消費量を節約したことである。ドイツで最も多くガスを消費するのは製造業界で、ガス消費量の約37%が産業ガスとして使われている。

BNetzAによると、ドイツの産業界の昨年11月のガス消費量は、過去4年間(2018~2021年)の平均消費量に比べて、27.1%も少なかった。12月の消費量も過去4年間の平均に比べて15.4%少なかった。ガス料金が高騰したために、メーカーが熱源をほかのエネルギーに切り替えたり、生産活動を減らしたりしたせいもある。

市民も暖房の室温を低く設定したり、温水シャワーの回数を減らしたりした。BNetzAによると、昨年11月の家庭と中小企業のガス消費量は、過去4年間の平均に比べて27.3%、12月の消費量も4.4%少なかった。年金生活者のあるドイツ人夫婦は、「シャワーは3日に1回しか浴びないようにしている」と語った。

もう一つの理由は、ノルウェー、オランダ、ベルギーなどがパイプラインで着実にガスをドイツに送ってくれたことである。ロシアからのガスは昨年8月31日から止まっているが、これらの友好国から届けられたガスによって、今のところは代替されている。ドイツはチェコやスイス、オーストリアにもガスを融通しているが、暖冬でこれらの国でも消費量が減ったため、ドイツからのガス輸出量も減った。

これらの好条件が重なったため、ドイツでは真冬であるにもかかわらず、貯蔵設備の充填率が約90%という高い水準にある。このため、昨年8月には1メガワット時当たり300ユーロを超えたガスの卸売価格も、今ではロシアのウクライナ侵攻直前の水準まで下がっている(1月11日の時点で約70ユーロ)。

最大の懸念はパイプラインへのテロ

だが油断はできない。問題は2023~2024年の冬である。昨年ロシアは、1月1日~8月30日まで3138億1037万キロワット時の天然ガスを供給した。だが今年ドイツは、ロシアのガスなしに、秋には再びガス貯蔵設備をほぼ満タンにしなくてはならない。充填率が100%でも、安心はできない。現在北米を襲っているような寒波が長期間にわたり欧州に襲来した場合、タンクは約2カ月で空になるからだ。

昨年12月には、ドイツで最初の浮体式・液化天然ガス(LNG)陸揚げ設備が完成し、輸入が始まった。政府は固定式・浮体式を含めて9カ所にLNG陸揚げ設備を建設するが、全てが稼働するのは2026年になる。これらの設備が完成しても、ドイツのガス需要のほぼ3分の1しかカバーできない。

ミュラー長官が最も心配しているのは、ノルウェーからの海底パイプラインに対する破壊工作だ。昨年ノルウェーは、ドイツが輸入したガスの約33%を供給した。今年はその比率がさらに増える。昨年9月には、何者かがロシアからドイツへガスを送る海底パイプライン・ノルドストリーム1と2を爆破。犯人はまだ分かっていないが、北大西洋条約機構(NATO)は、ロシアによる破壊工作の可能性もあるとみている。NATOはノルウェーのパイプライン海域でパトロールを強化しているが、テロを完全に防ぐのは至難の業だ。

ウクライナ戦争で座標軸が変わってしまった今日の欧州では、一寸先は闇である。今後も気を緩めずに、ガスや温水の節約に努める必要がありそうだ。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。神戸放送局、報道局国際部、ワシントン特派員を経て、1990年からフリージャーナリストとしてドイツ在住。主な著書に『なぜメルケルは「転向」したのか―ドイツ原子力四〇年戦争』ほか多数。
http://www.tkumagai.de
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