ジャパンダイジェスト

マクロン訪独 不協和音を克服できるか?

5月27日にドレスデンで演説をしたマクロン仏大統領(右)とシュタインマイヤー独大統領(左)5月27日にドレスデンで演説をしたマクロン仏大統領(右)とシュタインマイヤー独大統領(左)

5月26日、フランスのマクロン大統領が国賓としてドイツを訪問した。目的は、ウクライナ戦争などを巡ってぎくしゃくしている両国の関係を正常化することだ。コール氏、メルケル氏が首相だった時代には、独仏は欧州連合(EU)の主軸であり、EUで最も緊密な二国間関係を誇っていた。したがって、相手を国賓として招くような格式ばった外国儀礼は不要だった。フランスの大統領がドイツに国賓として招かれたのは、24年ぶりである。ドイツがあえてフランスの大統領を国賓として招かなくてはならないという事実は、いかに独仏間の不協和音が高まっているかを象徴している。両国は、今回の訪問によって、独仏関係を再スタートさせることを狙っているのだ。

「EUは、存亡を左右する曲がり角に立っている」

マクロン大統領は5月27日、ドレスデンで重要な演説を行った。力点は、ロシアのウクライナ侵攻にどう対処するかに置かれた。同氏は演説の中で、「EUは今、かつて例がなかったほど重要な局面を経験している。もしもわれわれが誤った決定を行ったら、EUは滅びるかもしれない」と警告。彼は、ウクライナでの戦争がEUに飛び火するかもしれないという危機感をあらわにした。同氏は、「われわれは欧州の防衛について真剣に考えなくてはならない。ロシアはウクライナを侵略したが、近い将来、ここ(ドイツ)にやって来る可能性はゼロではない」と指摘した。さらに、「ウクライナは自国だけではなく、欧州をも守るために戦っている。もしもウクライナがロシアに征服された場合、ドイツやフランスも危険にさらされる」と述べた。

最近マクロン大統領は、ロシアに対する危機感をあらわにすることが多い。彼は4月22日にパリのソルボンヌ大学で行った演説でも、「プーチン大統領は、歯止めが利かなくなっている。われわれはロシアに対する防衛体制を強化しなくてはならない」と訴えた。

そのためにマクロン大統領はドレスデンでの演説で、「欧州統合は、防衛努力を統合しなくては完成されない。そのためには、欧州は新しい防衛コンセプト(構想)を策定する必要がある。軍備を拡張し、経済的インフラや研究開発への投資を増やすためには、EUの予算を2倍に増やす必要がある」と主張した。この際にマクロン氏は、「私は再びEUが共同債を発行して、資金を調達するべきだと考えている。独仏がイニシアチブを取るべきだ」と訴えた。

EUは2020年のコロナ禍の際に、初めてEU共同債を発行した。ドイツ政府はEU共同債については「債務を共同化することは、万一返済できない国が現れたときに、ほかの国が債務を肩代わりすることになる。これは欧州通貨同盟の精神に反する」として長年反対してきた。しかしメルケル首相(当時)は、コロナ禍で特に甚大な経済損害を受けたイタリアやスペインを救うために、しぶしぶ共同債に同意したのだ。マクロン大統領は、現在欧州が直面している危機を克服するには、再び共同債の発行が必要だと考えている。ドイツのショルツ首相は、この提案を拒否している。

巡航ミサイル・地上軍派遣を巡り対立

独仏の不協和音は、共同債を巡る対立だけではない。フランスは英国と共に、ウクライナ軍がクリミア半島の橋などを攻撃できるように、ゼレンスキー政権に巡航ミサイルを供与している。だがショルツ首相は、ウクライナ政府が要望している巡航ミサイル「タウルス」の供与を拒否。ショルツ氏は、「タウルスの目標設定には、ウクライナでドイツ連邦軍の兵士が協力しなくてはならない。しかし私は一兵たりともウクライナに連邦軍兵士を送ることには反対だ。ロシアから交戦国と見なされる危険があるからだ」と主張している。

地上軍の派遣を巡っても、独仏の意見は食い違っている。マクロン大統領は2月27日にパリで開かれたウクライナ支援会議で、「私は、今後情勢が変わって来たときには、特定のオプションを排除するべきではないと考えている。フランスがウクライナに地上軍を送る可能性はある」と述べ、ドイツ政府を驚かせた。ショルツ首相は、地上軍の派遣については否定的だ。

ショルツ首相は、社会民主党(SPD)のハト派に属する政治家だった。それが、彼の煮え切れない態度の原点だ。彼はウクライナ戦争の初期に、同国が希望する対戦車ミサイルやレオパルド戦車などの供与を拒否した。しかし結局はウクライナや同盟国の圧力に屈して、これらの兵器をウクライナに供与した。

フランスの大統領は伝統的に、戦略的な見地に立った発言、大所高所からの構想(グランド・デザイン)を重視した発言を行う傾向がある。ドイツの首相は細部にこだわってしまい、グランド・デザインを語るのが不得意だ。マクロン大統領は、今欧州が「生きるか死ぬか」の分水嶺に立っていると主張する。同氏はウクライナ侵攻直後には、プーチン大統領に頻繁に電話をかけて、交渉のテーブルに着かせようとした。マクロン氏は、その結果匙さじを投げて、「プーチン氏は武力そして抑止力という言葉しか理解しない」という結論に至った。マクロン大統領は、フランスの核兵器を他国とシェアすることすら提案している。欧州は米国に頼らない核抑止力を持つべきだという発想である。

私は、マクロン大統領の悲観論が的を射ていると思う。欧州諸国は、米国に依存しない防衛体制の整備を着々と進めている。今後欧州諸国は、軍備に多額の予算を回さざるを得ない。徴兵制についての議論も各国で始まっている。1980年代に見た東西冷戦下の欧州へ向けて、時計の針が逆戻りしているようだ。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。神戸放送局、報道局国際部、ワシントン特派員を経て、1990年からフリージャーナリストとしてドイツ在住。主な著書に『なぜメルケルは「転向」したのか―ドイツ原子力四〇年戦争』ほか多数。
www.facebook.com/toru.kumagai.92
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