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ロンドンのゲストハウス
Do. 14. Nov. 2019

NPDは禁止できるか

ネオナチ集団「国家社会主義地下組織(NSU)」による犯罪の爪痕は、広がる一方だ。NSUは過去10年間に、トルコ人やギリシャ人10人を射殺し、2件の爆弾テロを行なったほか、14件の銀行強盗によって60万ユーロ(6300万円)を強奪したことがわかっている。

しかし12月上旬になって、新たな容疑が浮上した。ザールラント州のフェルクリンゲンという町では、2006年から今年9月までの間に、トルコ人など外国人が住むアパートなどが10回にわたり放火され、20人が負傷したが、この事件もNSUの犯行である疑いが強まっているのだ。その理由は、NSUが連続殺人を自白するために作ったDVDが、フェルクリンゲンのイスラム教施設に送られてきたからである。

これまでザールラント州の警察は、なぜか極右による外国人に対するテロという見方を排除していた。DVDが送られてきたという情報を得て、慌てて極右テロという観点から捜査を始めたというが、こうした人々を犯罪捜査のプロと呼べるだろうか?「 ドイツの捜査当局は、右の目が見えない」という言葉がある。検察庁や警察が右翼に甘いことを批判する言葉だが、NSUの連続テロに対する警察の捜査の遅れは、この批判が的を射ていることをはっきりと示した。

ハンブルクなどで起きたトルコ人商店主らの射殺事件についても、警察は「トルコ人の犯罪組織による抗争」という偏見を持って捜査していたため、ネオナチのテロであることを、10年以上にわたり見抜くことができなかった。

11月29日には、重要な展開があった。かつて極右政党であるドイツ国家民主党(NPD)のテューリンゲン州支部の副代表だったラルフ・ヴォールレーベンが、NSUの連続殺人をほう助した疑いで、連邦検察庁に逮捕されたのである。捜査当局は、この男がネオナチのテロ組織をあやつる「頭脳」の役割を果たしていた疑いを強めている。

ドイツ政府は、過去にもNPDの活動禁止を連邦憲法裁判所に申請したが、捜査当局が多数の情報提供者をNPDの上層部に持っていたことがわかったため、裁判所は2003年にこの申請を却下した。ヴォールレーベンがNSUを間接的に支援していたことが立証されれば、政府のNPD禁止申請が、裁判所によって認められる公算が高まる。

メクレンブルク=フォアポンメルン州など、NPDが州議会に議席を持つ州では、同党にも国から政党交付金を支給される。外国人の排撃を求める危険な政党に、国民の税金が支払われているというのは、実に奇妙な話だ。

気になるのは、旧東ドイツの一部の市民の間に、今なおネオナチの支援者がいることだ。NSUの犯罪が発覚した後の11月25日には、ツヴィッカウのサッカー競技場で一部のファンが試合中に人種差別的な歌を歌ったほか、選手たちが更衣室で「勝利・万歳」というナチス式の掛け声を使っていた。旧東ドイツの州政府は、「外国企業は旧東ドイツへの投資に消極的だ」と嘆くが、NSUのような組織を10年以上も見過ごし、市民の間に同調者が残っている地域に、進んで投資する外国企業は、なかなか見付からないだろう。

今回の事件は、1992年にネオナチがメルンやゾーリンゲンなどで外国人ら17人を殺害した事件以来、極右グループが外国人を標的とした犯罪としては、最も凶悪な部類に属する。多くのドイツ人の間には、「一部の少数派による犯行。自分たちには無関係」と決めつけ、問題を矮小化しようとする傾向が見られる。だがドイツ社会の底流には、外国人に対する偏見が厳然として残っている。捜査当局だけではなく、ドイツ社会全体が極右問題と真剣に取り組む必要がある。

16. Dezember 2011 Nr. 898

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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