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ロンドンのゲストハウス
Di. 19. Nov. 2019

「3. 11 」と祖国日本

東日本を巨大地震と津波、そして先進工業国では最大級の原発事故が襲ってから、1年が過ぎた。約1万9000人という死者・行方不明者の数を前に、我々は言葉を失い、立ちすくむしかない。まさに日本が第2次世界大戦以来、最大の危機に襲われた年だった。心から、亡くなられた方々のご冥福をお祈りする。さらに、被災地の復興が進むことによって、故郷から離れて暮らしている何十万人もの人々が、一刻も早く住み慣れた土地に戻れるよう望む。

野田首相は、昨年12月16日に福島第1原発について、「原子炉内の温度が恒常的に100度以下になり、放出される放射性物質の量も大幅に減ったために、原子炉事故は収束したと考える」と宣言した。しかし私は、福島事故が終わったとは考えていない。福島県から避難している11万5000人の人々が、いつ故郷に戻ることができるか、目途は立っていない。放射性物質で汚染された土地の除染がいつ完了するかも不明だ。環境省の試算によると、1年間の放射線量を5ミリシーベルト未満に引き下げるには、最大2800万立方メートル、東京ドーム23杯分に相当する汚染土を除去しなくてはならない。汚染地域の面積は1777万平方キロメートル、福島県の13%にあたる。また、家屋や土地を使えなくなった市民、農業や漁業を営めなくなった人々への賠償も進んでいない。

東電によると、昨年4月と5月に太平洋に流れ込んだ高放射性廃液の量は、少なくとも770トン。故意に流された低放射性汚染水の量は、1万トンに達する。海洋汚染が長期的に魚介類にどのような影響を与えるのかについても、十分にはわかっていない。

最も心配されるのは、子どもたちの健康への影響である。放射性物質の影響は、直ちには顕在化しない。国連の放射線の影響に関する科学委員会(UNSCEAR)が昨年4月に発表した「チェルノブイリ事故の健康への影響に関する報告書」によると、チェルノブイリ原発からの放射性物質で汚染されたウクライナ、ベラルーシなどの地域では1991年から2005年までに、事故当時の年齢が18歳以下だった青少年6848人が、甲状腺ガンを発症したことが確認された。

報告書は「これらの地域では、事故後4年もしくは5年経ってから青少年の間で甲状腺ガンが急増した。子どもが甲状腺ガンにかかる頻度は通常極めて少ない。チェルノブイリ原発からの放射性ヨウ素が、甲状腺ガンの急増の原因であることは間違いない」と結論付けている。確かにチェルノブイリと福島では、放出された放射性物質の量に大きな違いがある。しかし、長期的な健康調査が必要であることは間違いない。

多くのドイツ人たちは、日本政府が深刻な原発事故に即応できる体制どころか、首相官邸に事故対応マニュアルさえ整えていなかったことに衝撃を受けている。「原子炉が制御不能となる最悪の事態には、原発から175キロ圏内で強制避難、250キロ圏内で任意避難が必要」と原子力安全委員長が首相に文書で指摘していたことも、最近になって明らかになった。米国の原子力規制委員会が、福島事故直後の部内の議論を3000ページもの議事録に残していたのに対し、日本政府の原子力災害対策本部は、議事録を全く残していなかった。なぜ政府は、肉牛に与える飼料や住宅建設に使う砂利の放射能汚染度を直ちに調べ、汚染の拡大を防げなかったのか。人々はそれぞれの持ち場では真面目に対処しているのだが、システム全体としては的確に機能せず、指揮中枢である首相官邸も泥縄的な対応しか取れなかった。政府とマスメディアに対する国民の信頼は、この1年間で大きく揺らいだ。

「ハイテク先進国ニッポン」の神話に大きなクエスチョン・マークが投げ掛けられた今、日本政府がドイツなど他国の信頼を回復するには、かなりの時間が掛かるだろう。

16 März 2012 Nr. 910

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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